小島健輔の最新論文

販売革新2008年10月号掲載
短期連載「チェーンストア衣料のVMD」
第3回(最終回)『再編集運用の体系』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 再編集には1)消化進行や新規投入に伴うカセットの統合や組み換えを主とする週度の定時編集、2)季節進行に伴うグルーピング再編や配置替えを主とする月度の定時編集、3)販売不振や在庫過多に対処する対症編集、の三種がある。週度の定時編集は曜日と時間(開店直後)を定めて通常の勤務体制に組み込むが、月度の定時編集では週度の定時編集時間帯を前倒しして開店前の早出を設定する。時間がかかる対症編集とて、定時の投入や店間移動が関わるから定時編集時間の前倒し早出で行うのが合理的だ

週度の定時編集

 消化進行や定時投入に伴う通常のローテーション業務が主体で、1)カセットの統合や組み換え、それに伴うバラ残品の差し込み、2)ディスプレイや出前(ルック/アイテム)の組み替え、3)色回しや型回し、などを手際よくこなしていく。
 消化が進行してフェイスが空いたカセットは類似したものを統合していくが、組み合わせは初期投入時に編成ツリーで指示しておきたい。売上不振カセットは解体して新たなカセットに組み直すが、本部がカセットの組み替えと新たな棚割を指示しないと混乱する。店間移動する品番/SKUは定時編集に先行して抜き上げ、移動先店舗の定時編集タイミングに間に合わせたい。
 統合したり組み換えたカセットはSKUの組み合わせが崩れるから台帳型ではなく定形心太型に組むが(棚物はハンギングに変える事が多い)、フェイスの形状と陳列階梯はモデル店舗の編集実験に基づいて本部がビジュアル指示するかマニュアルに定めておきたい。カセット再編に伴って溢れたバラ残品はルックのカセットや出前ラックに差し込んだりサイドバーなどで単品訴求するが、SKU毎に処置方法を本部指示するのは現実的に不可能だから、マニュアルに手法を定めて日常的にトレーニングしておきたい。
 ディスプレイや出前(ルック/アイテム)の組み替えは本部が統一的に指示すべきだが、色回しはともかく型回しはマニュアルに手法を定めてトレーニングするしかない。畳み陳列やハンガー陳列の色順を組み換える色回しは本部指示が可能だが(店舗に色環表が配備されていれば)、品番の陳列順を組み換えて変化を出す型回しは店舗に任せればよい。作業が押して開店しても、色回しや型回しは営業中でも暇を見てこなせよう。

月度の定時編集

 月末の販売ピークを控え、20日過ぎに次期商品群が大量投入されるのが一般的。売り減った前期商品を集約してフェイスを圧縮し、次期商品の展開フェイスを確保するとともに、前期の売れ残り品を最新の売れる切り口で再編集する。
 まず前期商品群のカセットを統合しグルーピングを再編してフェイスを空け、次期商品群の展開フェイスを確保するが、前期商品群の集約編集は後にして一時的に可動ラックなどに詰め込んでフェイスを空けるのが先。陳腐化して売場の鮮度を損なう商品は抜き上げるか、主サイズのみに絞ってフェイスを圧縮して他はストックに仕舞う。次期商品群を指定位置に配置し計画したフェイスを構築した後、前期商品でも次期商品のカセットやルックに組み込めるものは差し込んで行く。
 最後に空いたラックに前期商品を集約して新たな切り口で再編集するが、次期商品フェイスに組み込んだ後の残り在庫の中身を見極めないと編集方針は決められない。アイテム別にまとめるかカラーグループでまとめるか、あるいは定形ルックにまとめて色環配列するか、アイテム別にしても品番/色/サイズの陳列階梯をどう組むかなど、残った在庫が一番速く掃ける編集と陳列を工夫しなければならない。
 それが出来るのは品揃えの流れを組み立てて来たマーチャンダイザーやディストリビューション・ディレクターであり、彼等が指揮してモデル店舗で再編集した結果を編成表やレイアウト図、デジカメ・フォトで各店舗にネット指示する事になる。この編集判断や陳列には最新の周辺情報(売れ筋動向やスタイリング変化)と洗練されたセンス、熟練した陳列技術が不可欠で、編集指揮する人材のレヴェルで雲泥の差がついてしまう。日頃から編集・陳列の技術を研鑽するとともに、最新の情報に目を光らせておきたい。

対症編集

 販売不振や在庫過多への対症編集には高度な情況判断と編集技術が問われるから、経験を積んだ商品ディレクターや営業部長が自ら指揮する必要が在る。何が売れていて何が売れ残っているのか、どのアイテムが昇り調子でどのアイテムが下り気味なのか、どんなルックが享けていてどんなルックが終わりつつあるのか、全部を掴んでいないと判断しようがないし、在庫を見て店間移動や抜き上げ、間引き収納やフェイス圧縮、その反対のフェイス拡張やストック全出し/多重露出陳列などをテキパキと決断して指示しなければ仕事が進まない。陳列が上手いだけでは手に負えない高度な業務である事は否めないが、対症編集にも原理原則があり、それを知っていれば販売情報と在庫情報を元にある程度の判断は出来る。
 売上不振で在庫が積み上がる時は理想的な在庫バランスと現実の在庫バランスが乖離しているのだから、この乖離を圧縮すれば情況は改善出来る。一番多いのがシーズン進行のギャップ、次に多いのがテイストポジションのギャップ、そしてシーン構成のギャップやアイテム構成のギャップだが、ルック訴求とアイテム訴求のギャップなども発生する。
 最も多発するシ−ズン進行ギャップの対症編集はほぼ手順が決まっている。まずは腐った魚(露骨にシーズンずれした商品で色や素材が臭う)を抜き上げ、残さざるを得ない商品も主サイズに絞って目立たない位置に圧縮陳列(スリーブアウトやフォールデットで詰める)する。その一方で、限られた新鮮商品を目立つ位置に目一杯拡げ(フェイスアウトや姿置きを活用)、ストックを全出しして多重露出する。ルックVPやIPも新鮮商品で固め、一気に二週間ほどワープさせてしまうのだ。
 秋冬物から梅春物、春物から初夏物といった切り替え期には絶大な効果を発揮するが、カラ−/素材/アイテムの切り替えストーリー(季節感)が頭に入っていないとメリハリある編集表現は難しい。そんなの当たり前だと思われるかも知れないが、第一線のマーチャンダイザーやバイヤーでも季節展開のストーリーを知らない人が実に多い。自社の年間展開表を作って教育しておくべきであろう。
 テイストポジションのギャップは売上を大きく左右するから、客数が減少したらズレが生じていないかチェックした方がよい。オバくなったとかギャルに寄ったとか、ドロくなったとかシャープになり過ぎたとか、色んなズレがある。対症編集の手法はシ−ズン進行ギャップと同様だが、テイストポジションの場合は加えてルックVPのコーディネイト修正に神経を使いたい。フィットやレイヤード、ミックス感の表現でポジションが大きく左右されるからだ。トルソー/マネキンの仕様や着せ付けるサイズも見直し(わざとSやLを着せる)、服飾小物も組み込んで立体感あるルックを訴求したい。
 アイテム構成のギャップも基本的な対症手法は変わらないが、見かけのアイテムバランスを修正しても不足アイテムが売れ減れば元の木阿弥になってしまうから、追加投入がないと効果は限られる。ルック訴求/アイテム訴求のバランス操作は手軽に売上を浮揚出来る手法で、一般にはトルソーなどを増やしてルックVP数を増やせば(加えて着せ替え頻度も上げる)売上は確実に回復する。

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 以上3回に渡ってロジスティクスVMDの技術体系を紹介したが、文章では説明し切れない点も多く正直言ってもどかしい。ビジュアルを駆使して解説したり売場で実践して見せれば理解も深まると思われるが、そのような機会があれば幸いだ。
 再編集運用には経験と情報に裏付けられた情況判断力ときめ細かい陳列技術が不可欠で一朝一夕に確立出来るものではないが、理論と実践を繰り返し積み重ねて行けば組織の体力となって定着する。ディストリビユーションと一体に運用すれば消化力が格段に高まり、商品展開計画を実現する力が付く。衣料消費が冷え込む中、消化回転とキャッシュフローを高めるロジスティックスVMDはチェーストア運営に不可欠な技術体系と言えよう。

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