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WWD 小島健輔リポート
『「ライトオン」は「バックル」の何を学ぶべきだったのか』
(2023年04月25日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 日米には「しまむら」と「コールズ(Kohl’s)」、「青山」「AOKI」と「テイラード・ブランズ」(20年8月にチャプター11を申請)など似たようなチェーンが幾つもあるが、ジーンズカジュアルの「バックル(Buckle)」と「ライトオン」など親戚かと思うほど似ている。最近は「しまむら」の業績回復と「コールズ」の経営体制混乱で明暗が逆転しているが、「バックル」と「ライトオン」の明暗は一段と拡大している。日米で似たようなマーケットに位置しながら、この両者の明暗はどうしてこれほど開いてしまったのだろうか。

 

■全米アパレルチェーン利益率No.1の「バックル」

  「バックル」と言っても日本のアパレル関係者はほとんど知らないだろうが、全米で最も利益率が高いアパレルチェーンだ。直近、23年1月期は42州に441店舗を展開して13億4519万ドル(130円換算で約1750億円)を売り上げ、内17.1%の2億3040万ドルをFC在庫と店舗在庫を引き当ててオンラインで売っている。

営業利益は売上対比24.4%の3億2813万ドル(約427億円)、純利益は同18.9%の2億5463万ドル(約331億円)と、利益率は全米アパレルチェーンNo.1だ。コロナ明けのリベンジ消費もあって43.6%増と売上が猛烈に伸びた(店舗は1店しか増えていない)22年1月期では営業利益率は25.9%、純利益率も19.7%と過去最高に達しており、絶頂期だった00年1月期のアバクロンビー&フィッチの営業利益率23.2%、純利益率14.4%をも凌駕する。絶好調の「ルルレモン」でも23年1月期の営業利益率は16.4%(前期は21.3%)、純利益率は10.5%(前期は15.6%)だったから、「バックル」の高収益は突出している。

 

■セレクト過半でも高粗利・高回転の秘訣

粗利益率は59.4%※(前期は59.8%)もあるから開発型のSPAかと思われるかもしれないが、ブランド商品の仕入れが前期で57%を占めるセレクト型のジーンズカジュアルチェーンだ。機動的な店間移動(店舗間直送)や値引き処分の店舗限定など(全店一斉値引きを行わない)きめ細かい在庫運用によるロスの抑制もともかく、サプライヤーと組んだ1ダースを超えるジョイント型のPBが貢献している。前期で売上の15.9%を占める最も売上規模が大きいPBはAxis Denim社とのジョイントで、他には10%を超える取り組みはない。

VMDは店内を男女で左右に分けてテイスト別のコーナーを組み、それぞれ仕入れのトップス(売り切り主体)とPBの台帳陳列(補給が前提)で構成しており、サプライの仕掛けと売り方が透けて見える。PBの開発リードタイムは3〜6ヶ月としているが、60%近い粗利益率の歩留まりと4.80回という在庫回転から見て、PBと言っても全ロット一括調達ではなく、しまむら型の分納かワークマン型のVMIに近いサプライマネジメントが機能していると思われる。

コロナ下の停滞期でも42日、停滞を脱して再加速した22年は30日と短縮した支払サイト(買掛債務回転日数)の速さも柔軟なサプライを可能にしていると推察される。前期から19日も延ばして99.52日と100日に迫る「ライトオン」とはサプライの柔軟性が違うのは当然だろう。

米国は何でも一括買取というイメージに捉われがちだが、分納もあればキャンセルもあり、小売側で在庫が残れば「プロモーション」(値引き賛助金)を求められることもある。本部集中仕入れが建前の大手デパートでも消化仕入れのインショップも少なからず(化粧品と靴はほとんどがラックジョバー)、契約書でがっちり固めても我が国と極端に取引の実態が異なるわけではない。

※粗利益率と賃料・・・米国のチェーンでは原価に商品コストだけでなく賃料も計上するケースが多く(ギャップ社も同様)、SEC-10Kレポートに記載される賃料を差し引いて(粗利益には逆に加えて)計算しないと掴めない。本文記載の粗利益率は計算し直したもの。

 

■カントリーシフトでブルーオーシャンを獲得

「バックル」のテイストはワーク&ウエスタンをベースにサンタフェ風のエスニックなどをミックスするカントリースピリッツ溢れるもので、メトロポリスのサバブで人気のY2K風セレブデニムやライフスタイル感覚のライトデニムとは異質のカントリーマーケットに立脚している。価格はジーンズで42.00$、48.00$、49.95$を底値に52.95$、56.95$、64.95$、69.95$で構成する専門店価格で「GAP」の定価と大差ないが、正価販売率が高く加工に凝った商品も多いことから、ややアパーなポジションと受け止められているだろう。

メトロポリスのメジャーマーケットがアスレジャーのスウェットとサバブライフスタイルのライトデニムに流れる中、それを追ってレッドオーシャンに巻き込まれることを避け、強みとしてきたワーク&ウエスタンなジーニングに特化し、家賃の高いメトロポリスの店舗を集約整理して主力をカントリーのモールやタウンセンターにシフトしたことがブルーオーシャンを開き、高収益を加速したのではなかろうか。

この分野の最右翼が「アメリカン・スピリット」をコンセプトにウェスタンブーツ(売上の49%!)とカーボーイハット、ワークデニムを揃える「BOOT BARN」で、22年3月期で41州に990平米の大型店を441店展開して14億8826万ドル(約1935億円)も売り上げている。こちらも営業利益率17.4%、純利益率12.9%と高収益だ。

メトロポリスではテスラやプリウスが主流でもカントリーでは大排気量のピックアップトラックが未だ主流で、米国市場はアパレルのみならずメトロポリスとカントリーの分断が際立っている。

 

■衰退が止まらない「ライトオン」

 「バックル」がセレブデニム終焉後のジーンズ市場退潮期にも成長を続け、アスレジャーとコロナ禍の15〜20年も乗り切って最高売上も最高益も平均店舗売上も更新したのに対し(ボトム売上比率だけは39.3%とピークから7.1ポイント低下した)、我が国の「ライトオン」はリーマンショック以降、衰退が止まらず、22年8月期でも売上が482.3億円とコロナ前の65%に留まってピークだった07年(1066.8億円)の45%まで落ち込み、純損益は4期連続の赤字に陥っている。 

店舗数はまだ394店とピークだった15年の516店舗の76%に踏みとどまっているが、平均店舗売上は1億2240万円とピークだった03年の2億6800万円の46%まで落ち込み、売り上げに占めるボトム比率も34.0%とピークだった02年の39.1%から5.1ポイント落としている。売上のピークから店舗数のピークまで8年もズレており、売上減少を店舗増で補おうとして店舗網の集約撤退が遅れたことも傷を深めたと思われる。それは22年3月期末の純資産が150億3600万円と、ピークだった07年から203億1600万円も減少していることからも推察される。

 

■「バックル」に学ぶ選択

「ライトオン」の22年8月期の粗利益率は49.3%と「バックル」より10.1ポイントも低いが、絶好調だった06年8月期でも47.6%に留まっており(ピークは21年8月期の50.7%)、幾度もSPA化?に挑戦しながらも、在庫が積み上がって値引きで粗利益率が落ち込むという挫折を繰り返して来た。

『PBは一括買取で開発調達するもの』という固定観念にとらわれ(いわゆる業界の「ユニクロ病」)、分納やVMIなどサプライヤーと柔軟に取り組む発想を欠いていたのは残念と言うしかないが、素材からの国内生産体制も辛うじて残していたのに、長年続いた好業績に慢心してリスク分担に消極的だったジーンズ業界の体質も禍したと思われる。

リーマンショック後でもまだ十分な占拠率があり(ジーンズ業界は「ライトオン」とスライドして萎縮した)、当時はまだ財務的な余裕もあって速い支払いも可能だったから、「ライトオン」に揺るぎなき戦略意志があれば、「バックル」のようなジョイントPB戦略で一定規模に踏みとどまり、高収益体質に転ずることも出来たのではなかろうか。

アスレジャーが席巻してスウェットアイテムがデニムを圧迫するようになった15〜16年は「ライトオン」も「チャンピオン」と取り組んで復調したかように見えたが17年以降は再び下降し、コロナ禍の20年はお籠もり生活のワンマイルルックにも対応できず売上が急落。コロナが明け始めた22年春以降はようやく下げ止まって回復の兆しも見られるが、収益回復の目処は立っていない。

コロナがようやく明けてY2Kなセレブデニムやメトロサバブ感覚のライトデニムに追い風が吹く中も、ローカル感覚の「ライトオン」はそんな波に乗れず、かと言って「バックル」のようなカントリーシフトも敵わず、財務状況も悪化して詰んだ印象を否めない。

未だカントリースピリットが生きていて、メジャーなメトロポリスマーケットに遜色ないカントリーマーケットが存在する米国と異なり、メトロポリス型とその型落ち普及板のようなローカルマーケットしか存在しない我が国ではカントリーシフトという選択は不可能だ。ならば「バックル」に学ぶべきは柔軟なジョイントPB戦略に他なるまい。「しまむら」の復活や「ワークマン」の成功に見るサプライヤーとの協業はむしろ日本的で、米国よりも行い易いのではないか。

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