小島健輔の最新論文

ファッション販売2004年4月号
『あなたも出来るブランディング』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ブランディングの本質は顧客満足だ

ブランディングというとラグジュアリーブランドの大仕掛けなグローバル戦略などが想起され、一般の小売店やアパレルメーカーには手の届かない世界だと諦めている、あるいはアドバタイジングとプレス・コミュニケーションを中核としたイメージ戦略と誤解している経営者が大半ではないだろうか。これらは派手に目立つがブランディングを支援する一手法に過ぎず、ブランディングの本質はもっと身近なところにある。
 ブランディングとは顧客満足の積み上げによる『ブランド価値』の育成であり、品揃えのフォーカスとミックス、商品の品質と面、店舗環境と陳列・演出、接客とフィッティング、ラッピング、アフターサービスなど、当たり前の努力の積み重ねが実現するものだ。しかも、顧客満足は相対的かつ極めて情緒的なものだから、より 深く顧客の心情に届く満足を提供する者が台頭すれば、他者のブランド価値は相対的に低下してしまう。
 顧客満足は如何に顧客を独占するポジションを選択し、顧客の心に響くアプローチを追求するかで勝負は決まる。競争者の溢れるポジションで同質的な商品を同質的な提供方法で売っていては、永遠にブランディングは成り立たない。
 今日のファッション市場では、顧客は二つのスタンスから店を選択している。ひとつは『ブランド』としての価値を認めて選択するスタンス、ひとつは特定商品のバリューを比較して選択するスタンスだ。前者のスタンスを認知されれば『すべての商売はブランドビジネス』であり、プレミアムな価格と独占利益を享受する事ができる。後者のスタンスでの選択に晒されれば同質化と価格競争に陥り、顧客化と価値実現のチャンスが損なわれる。
 もはやブランディングは価値実現の必須条件であり、すべての店がその実現を問われている。貴方の店も『ブランド』に変貌すべく、身近なブランディング手法を実践すべきなのだ。  

ストアをブランディングする七つの心得

 専門店もブランドショップも、顧客に対してストアをブランディングする事から全てが始る。アドバタイジングやプレス・コミュニケーションは誇れる店があってこそ成り立つものであり、まず誇れる店にブランディングするのが先決だ。そのためには、以下の七つの心得を徹っして欲しい。
 1)前倒し展開と早期打ち切りに徹す
 初期は鮮度のあった商品も引っ張り過ぎれば賞味期限切れになるし、過剰に供給されれば価値は急落しまう。価値は需給関係と賞味期間で決まるものだから、常にタイト目な供給を心掛け、他店より早く打ち出して早く打ち切ることを徹底すべきだ。そうすればブロパー消化率が高まり、価格信頼感も高まる。
 ピークを追って在庫を積み、バーゲン処理をあてにし、次期商品の立ち上げが遅れるようでは、確実にライバルより営業ポジションが低下する。これでは鮮度も価格信頼感も落ちるから、逆ブランディングになってしまう。
 消費不振と言われる中も統計的には購入の前倒しが確実に進んでおり、消費者は鮮度と賞味期間、妥協の少ない選択を優先して先物買い姿勢を強めている。前倒し展開と早期打ち切りは、ブランディングの絶対要件と肝に命ずるべきだ。
 2)品揃えのポジションと編成を崩さない
 トレンドに流されてポジションが定まらず品揃えも流動的では、顧客化は進みようもない。誰の為に何を提供する店なのかをはっきりさせ、品揃えのポジションと編成を確固たるものにしないと、ブランディングのきっかけも掴めない。顧客のライフスタイルに密着した季節のワードローブ編成、季節毎に微修正していく定番の蓄積があってこそ、顧客化とブランディングが進むのだ。
 ラグジュアリーブランドでも、皮革系ファクトリーブランドの売上が安定しているのに対し、プレタポルテ系コレクションブランドはシーズン毎に売上の上下が激しい。ポジションの安定と定番の蓄積が如何に重要か、如実に現している。
 3)『面』と品質を崩さない
 顧客にはトレンドに左右されない固有の好みがあり、それを象徴するのが商品の『面』と品質感だ。同じ顧客でもシーンによって多少異なるが、一定の枠を逸脱すると他人の店に見えてくる。
 トレンドやコストを追って安易にソーシング(調達先/調達手法)を変えると『面』と品質がずれ、顧客が離れる事がある。『面』と品質は店が顧客に約束した憲法のようなもので、顧客化によるブランディングを狙うなら変更は慎重であるべきだ(ポジション変更と顧客の入れ替えを意図して決行する選択は否定しない)。
 ※『面』とは商品の総合的な仕上がり感で、素材や後加工、裏始末やパターン等による表面感や量感、物性感等が総合された印象。キレイ目〜汚な目、カッチリ目〜ユル目、ゴツ目〜くたり目、もっさり目〜シャープ目など様々だが、シーンによって適不適がある。
 4)VMDと店舗空間の個性を確立せよ
 VMDには様々な手法がありトレンドもあるが、その店固有の提供方法を表現する手法として位置付けられ、顧客が共感する店舗空間と連動しているか否かが問われる。トレンドに流され他社の手法や店舗空間を安易に真似しては個性を損ない、顧客に約束したポジションと提供方法が崩れかねない。商品と同様、店のポジションとキャラクターに適したオリジナルなものであるべきだ。
 技術的な追求は不可欠だが、VMD手法と店舗空間が一体となって形成するアトモスフェアーが顧客に支持され、適確な購買誘導を果たせば、ブランディングの大きな武器となる。
 5)アドバタイジングの格調を守れ
 どんなに格調高い店舗空間やVMDも、安手なPOPや格下げ札を前にしては一瞬にして色あせる。安手なチラシやDM、イメージの合わないファッション誌への露出もイメージダウンを招く。アドバタイジングはインストア・ツールからメディアまで一貫したデザイン戦略が不可欠で、それが店舗環境やVMD、パッケージやラッピングと連動してこそ、ブランディングが成り立つというものだ。
 グローバルなブランディング成功組と国内ローカルなブランディング志向組の格差は、この点においては極端なものがある。技術もセンスも隔世の感を否めない。無理をしてでもデザインオフィスは一流を使い、大枚を叩くべきなのだ。
 6)接客のクオリティと好感度を高めよ
 洗練されたVMDで顧客の購買プロセスを適確に誘導し、その上でパーソナルな対応を提供するのが接客であり、VMDの不手際を接客で代替していてはパーソナルな接客まで手が回らない。まずVMDがあっての接客と心得ないと、ブランディングに繋がる接客のクオリティは追求できない。
 接客においては店からの提案を伝えることも大切だが、個客のパーソナリティと着用場面を理解してコーディネイトをアドバイスし、商品と個客の体型が最適にマッチするようフィッティングすることの方がはるかに重要だ。『自分のライフスタイルや感性を理解してもらった』という満足感あってこその好感であり、顧客化の基本とわきまえて欲しい。
 接客プロセスの適確さと丁寧さは当然で、販売スタッフのパーソナリティや接客空間の快適さ、ラッピングのクオリティも好感度を左右する。露骨なマニュアルトークと一方的な押し付け、貧弱な接客空間、安っぽいラッピングでは、顧客満足もブランディングも望める訳がない。
 7)ブランデイングの志を伝道せよ
 いかにテクニックを追求しても、伝えるべき志を欠いてはブランディングは成り立たない。すべては経営者の志と実現への情熱が創り出すイリュージョンであり、それが従業員に伝道され、彼等がまた顧客に伝道していく。志こそすべての原点であり、実現への熱情とテクニックが臨界点を超える時、店はブランドに化ける。
 まず熱き志を持ち、組織の情熱とテクニックを臨界点まで高めていけ。それが出来ないと言うのなら、ブランディングの夢など見るべきではない。  

今日から始めるブランディング

 以上、『ブランディングへの七つの心得』を提言したが、これらは大仕掛けなブランドビジネスとは一線を画した、個店でも可能な身近なアプローチに限定したものだ。
 ブランドビジネスでは、この他にマーチャンダイジング&ソーシング戦略、露出統制出店戦略、流通管理戦略、品質管理とアフターサービス体制、メディア・コミュニケーション戦略など、組織的にも費用的にも大掛かりなブランディング戦略が加わるが、本質は上記の『七つの心得』を大きく出るものではない。
 『七つの心得』は、貴方の店でも今日から実行できるものだ。やる志と情熱さえあれば、やがては伝道の臨界点に達するのも夢ではない。
 ※ブランディングの具体的な技術論については、筆者の新著『ブランディングへの解る見えるマーチャンダイジング』(商業界刊)に詳しいので是非、御一読下さい。

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