小島健輔の最新論文

販売革新2010年7月号掲載
‘SCの勝ち組集中はさらに加速’
『テナント企業は出店政策とロジスティクスの常識を捨てよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 長引く消費低迷下で市場が萎縮するにつれ、商業施設間はもちろん商圏間の格差も加速度的に拡大しており、均一的なチェーン展開がますます困難になりつつある。平均的な多数の店舗を展開するより、負け組商業施設の店舗を撤収して勝ち組商業施設に店舗を集約した方が収益性は格段に高まるし、残った店舗網も勝ち組商業施設の一軍店舗と負け組商業施設の二軍店舗に再編し、露骨にデリバリーを分ける方が消化回転も格段にスムースになる。出店戦略もロジスティクス戦略も、市場萎縮という現実を直視して転換すべき時ではないか。

最新版ベストSC/ワーストSC

 4月末開催の当社SPAC月例会で08年以降に開設された主要大型SCの出店テナントによる評価をまとめたところ、審査対象42SC中、好調〜堅調SCは12に留まる一方、撤退が相次ぐような失敗SCが21ケ所にも及び、歯抜け状態になって存続が危ぶまれるSCも5ケ所に上った。
 失敗SCの大半は開業前の当社の売上予測で‘出店不適’と判断されていたものばかりで、そんな高リスクSCに敢て出店した判断が悔やまれる。事前の予測より健闘しているのは、周辺ライバルSCの開業が撤回(イオンモール野田)あるいは延期された(春日部KTインセンスモール)ラックネスに加えて「H&M」初の郊外店という大目玉で勢いを付けた「ららぽーと新三郷」だけだが、開店景気が一巡して「H&M」効果も薄れ、延期されていたライバルSCが開業すれば、予測水準に低下するリスクを否めない。「イオンモール広島祇園」「イオン土浦」は逆に現状では事前予測の期待を下回っているが、他SCはすべて事前予測通りの売上推移となっている。
 集客力評価ベスト5は1)モゾ・ワンダーシティ、2)イオン大高SC、3)イオンレイクタウン「KAZE」、4)阪急西宮ガーデンズ、5)イオンモール草津。売上評価ベスト5は1)モゾ・ワンダーシティ、2)イオン大高SC、3)イオンモール草津、4)エミフルMASAKI、5)ららぽーと磐田。利益評価ベスト5は1)イオン大高SC、2)モゾ・ワンダーシティ、3)イオンモール草津/エミフルMASAKI、5)ららぽーと磐田、となった。イオンレイクタウン「KAZE」、阪急西宮ガーデンズは集客力が必ずしも売上に繋がっておらず、ゾーニングの問題が指摘される。
 総合評価のベスト5は1)モゾ・ワンダーシティ、2)イオン大高SC、3)イオンモール草津、4)エミフルMASAKI、5)ららぽーと磐田/阪急西宮ガーデンズとなったが、合計獲得ポイントを回答社数で除した平均評価ポイントでもモゾ・ワンダーシティとイオン大高SCが突出する一方、阪急西宮ガーデンズは6位に落ちる。
 集客力評価ワースト5は1)仙台パルコ、2)ララガーデン川口、3)泉パークタウン・タピオ/ゆめタウン広島、5)モリシア/御影クラッセ/イオン仙台泉大沢SC/ロックシティ防府。売上評価ワースト5は1)仙台パルコ、2)ララガーデン川口、3)モリシア/御影クラッセ/イオン仙台泉大沢SC。利益評価ワースト5は1)仙台パルコ、2)ララガーデン川口、3)モリシア/イオン仙台泉大沢SC、5)泉パークタウン・タピオ/エアポートウォーク名古屋。加えて、店舗撤退ワースト5は1)モリシア、2)ララガーデン川口が突出し、3)仙台パルコ、4)イオンレイクタウン「MORI」/御影クラッセと続いたが、07年開業で今回の評価から外れたユニモちはら台、ララガーデン春日部、アクアウォーク大垣も撤退店舗が目立つ。
 総合評価のワースト5は1)仙台パルコ、2)ララガーデン川口、3)モリシア、4)御影クラッセ、5)イオン仙台泉大沢SCとなったが、パルコ(浦和、仙台)とララガーデン(春日部)は昨年のワースト5にも並んでいた。
 低評価SCに共通するのがテナント募集段階で謳われる過大な商圏規模と売上目標で、中には初年度実績が目標売上の8掛け7掛けという酷いケースも見られる。現在、テナント募集中のSCでも、当社の予測を2割も3割も上回る売上目標を掲げているケースが幾つか見られるし、中には当社予測を6割以上も上回る売上目標を謳っているSCさえある。これらは明らかな誇大広告であり、デベの目標を鵜呑みにして出店すれば売上不振と採算割れに苦しむのは必定だ。過大な数字を掲げてテナントを募集するデベに対しては、何らかの公的規制と罰則が必要なのではないか。  とは言え現状では騙され損というのが実情だから、テナント企業は自己防衛するしかない。当社では新規に開発されるSCや増床するSCのほとんどを開業1年前に検証して実勢商圏の規模と特性、売上と販売効率を予測しているので、溝に大金を捨てたくなかったら活用するのが賢明であろう。SPACメンバーならタイムリーに予測情報が提供されるし、一般向けにも春秋2回にまとめた公開セミナーを開催している。

店舗を集中化して一軍二軍に分けよう

 80年代までのように市場が成長していた局面では商圏間や商業施設間の格差は極端には開かず、面的出店布陣にもチェーン展開にも大きな障害はなかった。そんな過去の出店政策が近年の一途な市場縮小に直面して行き詰まり、個別店舗の採算問題の枠を超えて店舗布陣とロジスティクス運用の全面的な転換が問われている。
 90年代から続く市場縮小にリーマンショック以降の消費の冷え込みが加わって商圏間、商業施設間の格差が急激に拡大しており、勝ち組商圏/勝ち組商業施設への集中が加速している。商圏間でも商業施設間でも、集客力に加えて客層の格差も開きつつあり、均質な店舗のチェーン展開という市場成長期の論理が破綻しようとしているのだ。
 百貨店では大都市の駅上/駅前一番店に売上が集中し、中小都市の店舗や駅から離れた二番店三番店は閉店の危機に直面しているし、SCでも地域一番SCが広域から集客するのに対して二番以下のSCは商圏が縮小してCSC化を余儀無くされている。勝ち組負け組の間では集客力のみならず客質の差も拡大しており、売れる時期も売れる価格も大差があるのが実情だ。
 経済の衰退に加えて人口が減少し少子高齢化が加速する国内市場の衰退は止め難く、商圏間/商業施設間の量と質の格差は一段と開いて行かざるを得ない。そんな衰退市場では、売上が縮小して採算が悪化して行く負け組商圏/負け組商業施設の店舗を迅速に撤収し、勝ち組商圏/勝ち組商業施設に店舗を集中して大型化して行くべきだ。均質なチェーン展開を放棄し、勝ち組立地の大型店舗にロジスティクスを集中して一軍化する一方、残る負け組立地の標準店舗を二軍化して二次ロジスティクスで運用するという発想の転換が求められているのではないか。
 具体的には、商圏毎にA級立地の大型拠点一軍店舗、B級立地の標準規模二軍店舗に店舗網を再編する。一軍店舗に初期デリバリーを集中して豊富な品揃えを訴求するとともに、一定期間が過ぎた売れ残り商品は二軍店舗に移動し、新鮮商品に入れ替えて常に鮮度を保つ。二軍店舗への初期デリバリーは定番商品を除いて店頭フェイスを埋める最低限に留め、一軍店舗からの移動品を2〜3割り引き程度のマークダウンで販売する。継続補給する定番商品は移動の対象とせず、デザイン物やシーズン物を定期移動し、QR品の投入は強制回転効果を帳消しにしてしまうから可能な限り抑制する。
 一軍店舗は常に新鮮で豊富な品揃えが実現してプロパー販売を伸ばせるし(早く買わないと商品がなくなる)、二軍店舗は立地のニーズに合った実需対応と値頃価格で販売を伸ばせる。一軍店舗は強制的に商品が回転するし、二軍店舗はディスカウント価格で商品が回転する。
 ポイントとなるのが店間移動の効率化、二軍店舗の在庫編集と陳列方式だ。商圏毎に移動する店舗の組み合わせを定めて一軍店舗から二軍店舗に直接移動し、新規投入サイクルに合わせて移動を定時ルーチン化すれば作業量も物流費もミニマムに抑えられる。二軍店舗は一軍店舗と内外装を合わせるが什器レイアウトは単品量販型に変え、島什器を大型化する一方で壁面什器をフェイスアウト専用にするなどして陳列量を圧縮し、品番別ではなくルック別/カラー別/サイズ別などに再編集して色やサイズが欠けた状態でも消化回転が進むように陳列する。
 二軍店舗に加えて最終処分のアウトレット店舗(アウトレットモールに布陣)を配すれば、在庫消化は万全だ。衣料品に限らず、ロジスティクスを一次、二次、三次と三段に構えて在庫を強制回転させる仕組みを確立すれば、商圏間/商業施設間の格差拡大という現実に対応した効率的なチェーン展開が可能になる。一律な店舗展開と一元的なロジスティクスという市場成長期のチェーン展開の常識を捨てる時が来たのではないか。

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