小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『業界の「因習」を超えて
フェイシング量と補給体制を見極めよ』
(2023年05月26日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 長年、小売業に関わって「永遠の課題」だと思うのがフェイシング量(SKU毎の陳列数量)で、商圏の需要に対して過小あるいは過大に思えることが少なくない。何処に誰がどれぐらい補給在庫を持ってどれほどの頻度で補充するか、在庫ロスと物流コストの見合い、損益だけでなくキャッシュフローも関わるから奥は深いが、必ずしも合理的にコントロールできているようには見えない。 

 

◾️フェイシング管理とロス率

 「フェイシング量」とはSKU毎の陳列数量を言うもので、最大在庫と補充まで欠品させない最低在庫の幅で見る。店頭の必須定時業務たる「フェイシング管理」は最低在庫を割り込まないよう棚入れ補充するもので、迷い子商品を元のフェイスに戻し、型・色・サイズの配列順とFO/SO/FDの陳列形状をビジュアル指定あるいはマニュアルに基づいて整える。

結構、手間のかかるマテハン業務だから、会社として業務手順とスキルを整備し、日々改善していく必要がある。定時業務化されシフトに組み込まれているか、補給品はバンドル化されアドレス指定されているか、労働負荷を軽減するカート、作業を指示・確認するデバイスとアプリは配備されているか、などがポイントだと思う。

 本来は欠品や接客途上での補充(品探し)を回避するためのルーティン業務だが、陳列の見栄えを優先するブランドアパレルや百貨店ではフェイシング量を各一に抑え、しかも主たる色・サイズしか陳列しないルール(いわゆる「定数定量陳列」)が多数派だ。よほどの高額品ならともかくNBクラスでは販売数量に対して過小在庫になり、接客中の品探しが頻発してしまう。限られた販売員が接客の度にサイズ探しや色探しに後方へ何分も消えるという愚行は幾度指摘しても改まらないが、執拗に値札を隠す因習と共通する業界の特殊性なのだろう。

食料品では「フェイシング管理」と同時に「賞味・消費期限管理」が励行される。「賞味期限」まで三分の一を切ったグロサリー食品は陳列から下げ(商慣行で返品できる)、弁当・惣菜や日配食品、生鮮食品など「消費期限」が迫る商品は値引きで消化を促進したり「先入れ先出し」を励行するが、「消費期限」が切れて仕舞えば陳列から下げて廃棄したりフードバンクなどに寄付することになる。

「先入れ先出し」とは物流センターなどで「同一品は先に入荷したものから出荷する」ルールを言うが、食品スーパーやコンビニでは「同一商品は先入荷品を陳列の前側(通路側)に、後入荷品を後側に」という陳列ルールとして使われている。「先入れ先出し」を励行するには先入荷品を棚の前側に移してから後入荷品を棚の後ろ側に入れるという作業が必要で、手間も人時量も嵩む。それを回避するには傾斜棚を使って後方から重力で補充するのが理想だが、後方スペースが売場を圧迫するという欠点が大き過ぎ、缶飲料など一部に留まっている。大手コンビニなどではスライド方式の棚にして、引き出して後入荷品を後ろ側に入れるよう工夫して人時量を抑えている。

「先入れ先出し」は廃棄ロスを抑制する方法として定着しているが、顧客の多くもそれを知っており、「消費期限」が長い後入荷品を後ろ側からピッキングする顧客も少なくない。

環境省・農林水産省はすぐ食べる商品は「てまえどり」(手前取り)を呼びかけているが、消費者庁によれば家庭の食品ロス(食べ残しは除く)も3.7%と無視し難く、青果(3.6%)や日配(4.2%)では小売側の食品ロス(日本スーパーマーケット協会の22年年次統計調査)と大差ないから悩ましい選択になる。ちなみに食品スーパーで最もロス率が高いのは惣菜(10.1%)、次いで水産(8.4%)、畜産(6.5%)で、「賞味期限」対応の一般食品(加工食品)は三分の一ルールもあって1.8%と極めて低い。

アパレル業界と比べれば、来シーズンに持ち越せる定番品(「賞味期限」は最大3年)は「一般食品」に相当し、来シーズンに持ち越せないトレンド品やスポット品(「消費期限」はワンシーズン)は惣菜や日配食品に相当するが、アパレルのロス率は食品の何倍にもなる。1〜2週で在庫が回る食品業界(食品スーパーの在庫回転は年間30回前後)とは比較にならないが、陳列棚を実見しての「賞味・消費期限管理」を日々励行している業界と机上のPOSデータに依存している業界の違いかも知れない。

ちなみに「賞味・消費期限管理」のルーティンは補充頻度と同期する「フェイシング管理」と並行されるから、最も高頻度な弁当や惣菜で一日2〜3回(運送労働力逼迫の24年問題対策で一回減った)、生鮮や日配で1日一回、一般食品で2日に一回ぐらいときめ細かく、週に2〜3回の「フェイシング管理」で済ませるアパレル業界とは真剣さが違う。

 

※SKU(Stock Keeping Unit)・・・在庫の最小管理単位で、衣料品なら品番の色・サイズ。

※FO/SO/FD(Face-out/Sleeve-out/Folded)・・・陳列形状を指すもので、Face-outは正面見せ陳列、Sleeve-outは肩見せ陳列、Foldedは畳み見せ陳列。

※賞味期限と消費期限・・・賞味期限は「品質が保たれて美味しく食べられる期限」、消費期限は「安全に食べられる期限」。

 

◼️補給在庫の配置と補給頻度

 売場のフェイシング量は少ないほど在庫回転が速くなるが、欠品を起こさないよう補給頻度を高める必要があり、その分、フェイシング管理のマテハン人時量も物流費も嵩む。加えて、補給在庫をどこかに積む必要があるから、補給在庫も合わせた在庫回転を図らねばならない。

 補給在庫の積み方にはA)多段ダム方式とB)VMI方式があるが、アパレルチェーンで一般的に見られるのはA)多段ダム方式だ。

 定番の継続商品が多い「ユニクロ」や「無印良品」は同一商品を低コストに大量生産するから生産着手から全量完成まで期間を要し、生産地の倉庫に積み上げて消費地倉庫(倉庫費用が桁違いに高い)への出荷時期を待つ。販売時期が近づくと消費地倉庫へコンテナで移送し、初期投入分はスルーで仕分けて店舗に出荷するが、補給分は消費地倉庫にストック(棚入れ)する。これがA)多段ダム方式で、「ユニクロ」は消費地倉庫60%/店舗40%(18年8月期、非開示だが在庫計上方法の変更で露呈)、「無印良品」は消費地倉庫67%/店舗33%(20年8月期、以降は変則・非開示)だったが、FC出荷のECが拡大して倉庫在庫比率が高まった分、店舗在庫比率はさらに低下したと推察される。

 実際には生産地倉庫の在庫も加わるから、シーズン初期は生産地倉庫40%/消費地倉庫36%/店舗24%ぐらいのバランスから始まって、実需期では生産地倉庫2割弱/消費地倉庫4割強/店舗4割ぐらいのバランスに移行していくのだろうが、生産地倉庫や消費地倉庫に過去の滞留在庫が溜まってくると店舗在庫が圧迫される。ちなみに、100%子会社が商社機能を担う良品計画では連結決算で生産地倉庫の在庫もBSに計上されるが、製販同盟を組む商社が生産地在庫を抱える国内ユニクロ事業では国内倉庫在庫と店舗在庫しかBSに計上されないから、「ユニクロ」は分納型の擬似VMI方式と見ることも出来よう。

 生産ロットを抑えて(H&Mより一桁小さい)何処にも補給在庫を抱えず(スペイン本社物流施設は巨大なTC)、ECさえもFC出荷から店舗在庫引き当てのBOPIS&店出荷に転換したインディテックスは店舗在庫がほとんど全てだが、ファストファッションなのに生産ロットが大きく「縦売り」志向の強いH&Mは各国の消費地倉庫に60%の補給在庫を積んで店舗には40%しか配分しておらず、消費地倉庫と店舗の二段ダム方式と位置付けられる。

 ベンダーが補給在庫を分担するB)VMI方式はワークマンが有名だが、実はダム方式との折衷型だ。ワークマンは数週先までアルゴリズムで売上予測してベンダーと在庫情報をオンライン共有しているが、店舗(FC店が95〜96%と大半を占める)への商品供給は80%強がワークマンのDC、20%弱がベンダーのDCからで、ワークマンDCから供給される商品もベンダーや商社のDCから供給されたものだから、実態は製販同盟型の多段ダム方式と言うべきだろう。

 しまむらはインディテックス同様、TCで仕分けて店舗に送るだけで何処にも補給在庫を抱えず、店舗在庫もアパレルはキャンペーン企画やサイズ展開のボトムを除けばフェイシング量もほぼ各1(中核サイズは各2)で、自社運営のルート便で毎日、店間移動して最速消化を図っている。業績に貢献しているジョイントPBにしても、しまむらは補給在庫を積むDCを持たないから、取り組んだベンダーが倉庫に抱えてしまむらのTCに補給するVMI方式だと推察される。

 全米一の高収益を誇る(営業利益率22年1月期25.9%、23年1月期24.4%)ジーンズカジュアルチェーンのバックルも多数のベンダーをジョイントPBで競わせているが、ネブラスカ州カーニーの集中DCに納品させて各店舗に配分しており、ワークマンに近い製販同盟型の多段ダム方式VMIだと推察される。ジョイントPBは各コーナーでフェイシング量の薄いセレクト商材と組み合わせて棚割り陳列されており、集中DCからのEOS(自動補給)に加えてエリア内店舗間で直接移動し、きめ細かく消化を図っている(本部DB.マターではなく22名の地区マネージャー、76名のエリアマネージャーが機能している)。運送は主にFedExを使っているが、物流費以上にロスを抑制できているとアナウンスしている。

 補給頻度は高いほど欠品を回避しフェイシング量を抑制できるが、運送費に加えてDCや店舗のマテハン作業量も肥大する。とは言えEOSや客注を初期投入のように週2回など定時にまとめるのは欠品を招き顧客利便も損なうから、週末を除く毎日出荷を崩すべきではない。DCではトータルピッキングしての自動仕分けや出荷形状の工夫、店舗ではフェイシング管理との同期やアドレス指定でマテハン作業量を抑制すべきだろう。

 

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。同一商品を継続補給する「台帳型サプライ」が一般的だが、アクセサリーやベルトなど服飾雑貨では類似アイテムをリレー供給する「トコロテン型サプライ」も多い。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず自動仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、ECの出荷倉庫FC(フルフィルセンター)はDCの一種

※DB.(Distributor)・・・一般には在庫を所有して配送する卸業者(所有しない卸御者はBroker)を意味するが、チェーンストア運営では調達した在庫を多数の店舗に最適配分・補給・移動する在庫運用責任者を指す 

 

◼️商圏規模・販売量とフェイシング量のギャップ

 補給頻度にもよるが、フェイシング量は販売量にスライドする。客数の限られる小商圏店舗ではコンビニのようにミニマムなフェイシング量を組むが、ターミナルのような客数の多い大商圏店舗では相応のフェイシング量を積まないと欠品が頻発してしまう。中規模商圏であっても、まとめ買いを訴求するディスカウント店や会員制ホールセール店ではボリューム訴求も含め、フェイシング量を積み上げることが多い。

 問題は商圏が限られ販売量が見込めないのに習慣的あるいは「縦売り」志向で大量陳列訴求するケースで、客数の少ない店舗では販売消化とのギャップで在庫が滞貨する一方、客数の多い店舗に補給在庫が回らず欠品を招くことになる。それを回避すべく、初期投入では同一品番のSKUフェイシング量組み合わせパッケージを店舗タイプ別に設定し、パッケージを自動仕分けして各店舗に送るのが一般的で、後はEOSで自動補給し、DCの補給在庫が切れたら消化不振店からの自動振替で補給する。

 フェイシング量は客数や販売量にスライドして合理的に設定されると思われがちだが、心理学的?理由で客数に逆行するケースも多々見られる。客数が限られる生活圏店舗でもまとめ買いを訴求するならフェイシング量を積み上げるし、客数の多いターミナル店舗でも洗練された陳列を優先するならフェイシング量をミニマム(各一どころか色・サイズも絞る)に抑える。

 前者は期間限定販売が大半で、期間が終了すれば通常のフェイシング量に戻され、残りは大商圏店舗に集約して消化されることが多く(ベンダーに戻されるケースもある)、催事型のマテハンと物流が必要になる。後者ではフェイシング量が販売量に追い付かないから営業時間中に補充が頻発し、後方まで取りに行く補充作業で販売が阻害され(ストッカーに持って来させるのが合理的)、お客様も少なからず待たされる。前者は催事対応で済むが(EDLPかH&Lかという売価政策の課題はある)後者は常時対応を強いられるから弊害が大きく、長年の「因習」では済まされない。

 DXだAIだとデジタルシフトが急進するアパレル業界だが、未だ不合理な「因習」や感性依存の「思い込み」が横行する暗黒大陸という一面も残る。「フェイシング量」という販売消化とロジスティクスを繋ぐテクノロジーを考察すれば、今まで見えなかった仕組みや打開策も見えてくるのではないか。

 

※EDLPかH&L・・・EDLP(Every Day Low Price/常時低価格)かH&L(High & Low/特売依存)という売価政策の選択

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