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『夢と希望より最低限のエッセンシャル』(2021年01月19日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

そごう・西武の年頭メッセージ広告『百貨店が売っていたのは、希望でした』が一部で共感を呼び、『こんな時だからこそ、夢を売る』というアパレルもあるが、売上という結果で評価されたのは『エッセンシャル(生活必需)』なユニクロや無印、ワークマンやしまむら、西松屋チェーンだった。夢や希望より現実の生活維持が求められるご時世は“夜明け前”より暗いのかも知れない。
太平洋戦争敗戦後、焦土から夢と希望に溢れんばかりの復興期が続いたが(「東京ブギウギ」や「青い山脈」が耳に残ります)、東日本大震災後の復興は外から夢と希望と援助を受けても当事者の生活の再建には遠く、ましてや日本全国どころか世界が被ったコロナ禍では外からの夢と希望も期待できず(ワクチン開発ぐらいでしょうか)、行動が抑圧され生計と生命が脅かされる日々がいつ終わるのかも見えません。
終わりが見えるどころか感染が広がり続け次々と感染力の強い変異種も現れ、ミスマッチな医療崩壊で死ななくていい人まで死んでいき、営業活動も再び規制されて経済も再失速し、雇用も崩れて生計が成り立たなくなる人が溢れ、これから良くなる“夜明け前”や“復興”じゃなく“どん底”あるいはより悪くなる“転落”局面と感じる人も多くなって来たのではないでしょうか。
ひとえに行政の無知・無能・保身が招いたこととは言え、ネットに煽られて現代金権ポピュリズム民主主義の安っぽいメカニズムが露呈したのは米国の方がはるかに酷かった。ネットが情報を支配する今日、自分で確かめもせず情報の波に乗る軽率な習慣がどれほど危険か、トランプ政権とコロナ禍という人類共通の悪夢を人類は第二次世界大戦とともに忘れるべきではない。
そんな“希望”のない世相ゆえ、『百貨店が売っていたのは、希望でした』という希望を失った百貨店事業者の切ない独白が似たような境遇の多くの方々の共感を得たのかも知れません。私の受け止め方を皮肉と取るのではなく、これほど“希望”のない世相では“切ない敗者共感”を訴えるキャンペーン手法も有効だと取るべきでしょう。
それはともかく、生計と生命の維持が脅かされる事態の終わりが見えない以上、夢や希望どころではない人々が少なからず、それも日々確実に増えています。夢や希望やお洒落や贅沢より、まず餓えを癒し寒さをしのぐ寝ぐらのある最低限のエッセンシャルな生活を守らねばなりません。そんなセフティーネットこそ、企業に求められる真摯なサスティナビリティだと思います。今時、高邁なサスティナブルキャンペーンに冗費を割く余裕があるのなら、まずは販売労働者など非正規雇用の切り捨てを控えるべきではありませんか。
2015国連サミットSDGsの17の目標も1)貧困をなくそう、2)飢餓をゼロに、3)全ての人に健康と福祉を、4)質の高い教育をみんなに、5)ジェンダー平等を実現しょう、6)安全な水とトイレを世界中に、までがこの順にエッセンシャルな目標であり、7)エネルギーをみんなに そしてクリーンに、ばかりが強調される企業広告などを見ると今時、ポピュリズムな特権感覚に怒りさえ覚えます(脱化石燃料・原子力依存でしかない)。企業にそんな余裕があるのなら、まずは自社の雇用する人々と顧客、取引する下請け企業など目の前の事情が掴める人々に1)2)から順に微力でも尽くすべきではありませんか。夢よりも希望よりも高邁な大義よりも、今は最低限のエッセンシャルな生活を支える時なのです。

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