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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『SPA流通が押しつぶした巨大展示会』 (2018年11月28日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 わが国ファッション業界最大のファッション展示会「JFW–IFF MAGIC JAPAN」が来春の開催を断念することになった。SPAがファッション流通の主流を占める中、ブランドとバイヤーをマッチングする大型展示会は欧米でもわが国でも衰退が止まらず、卸流通の存続が危ぶまれている。

「JFW–IFF MAGIC JAPAN」開催中止の経緯

 繊研新聞社とUBMジャパンは11月15日、2019年3月に予定していたファッション展示会(主催:UBMジャパン)の開催を中止すると発表した。『業界構造の変化もあり出展者および関係各位の期待に十分に応えることができず、総合的に判断して中止を決断した』と説明している。

 2000年1月からスタートした繊研新聞社主催の「IFF」が前身だが近年は出展者数も来場者数も減少し、2017年4月展からは米国のUBMと提携して「IFF MAGIC JAPAN」と改称。「MAGIC」の姉妹展として開催してきたが今年9月26日~28日、東京ビッグサイトで開催された直近の第4回「IFF Magic Japan」の出展者数は458社と初回の700社から大幅に減少し、次回展の出展者数回復も見込めず中止に至ったと思われる。 

 国際的な展示会運営会社のサポートを得ても衰退を止められなかったのはファッション流通の様変わりが要因で、ブランドメーカーやクリエイターとバイヤーをマッチングするという業界の大型展示会は「IFF MAGIC」に限らず何処も運営が苦しいようだ。

 その様変わりとは「卸流通」から「SPA流通」への一変に他ならない。

SPAが卸流通を押しつぶした

 ファッション流通は70年代までは展示会やサンプル営業による卸流通が主流で、ブランドメーカーが直営店を展開したり、小売店がオリジナル商品を開発するのは例外的だった。それが80年代に入ってのDCブランドブームによる直営店やFC店の拡大、百貨店での委託取引の広がり(転換点は84年だった/当時は消化ではなく委託)を契機にSPA流通が広がり始め、卸流通は侵食され始めた。

 卸流通の衰退を決定的にしたのが90年代に入ってのグローバル水平分業の広がりとともに加速したデフレと国内生産の空洞化で、小売チェーンとアパレルメーカーの両サイドからSPA化が急進。織物・衣服・身の回り品卸売販売額は92年以降、急ピッチで減少して00年には91年比で57掛けまで落ち込んだ。

 さらに追い討ちをかけたのが00年の規制緩和で、定期借家契約の導入で出店の初期投資が軽減され(替わりに営業権を失い、ランニングコストが上昇)、大店立地法の施行で多数のテナントを集積したモール型SCなど大型商業施設の開発が加速。路面店舗に比べて家賃負担が重く定期借家契約でさらにかさんだ商業施設テナント店が大勢となって値入れの拡大が不可避の課題となる中、受託製造業者によるOEM/ODMが一般化して商品開発スキルが危うい小売チェーンでも容易にオリジナル商品が開発できるようになり、「だれでもSPA時代」が到来して卸流通は壊滅的打撃を受けた。

 ファッションブランドの卸流通を支えてきたセレクトショップも多店化とともに駅ビルやモールのテナント店舗が主流となる中、ジリジリとオリジナル比率が高まってSPA化し、リーマンショック以降は値段の張るセレクト商材は一段と取り扱いが細り、卸流通を支える小売チェーンとはいえなくなった。

 織物・衣服・身の回り品卸売販売額は00年代に入って一段と衰退し、09〜10年にはパニック的に減少。17年には91年の2掛けにまで落ち込んで卸流通は破綻に瀕している。

ECが巨大展示会に引導を渡した

 卸流通が歯止めなく細っていく中、卸流通に依存してきたファッションブランドはECでの直販に活路を求め、「ZOZOTOWN」などモールサイトにも出店して売上げを確保するとともに、ポップアップストアを巡回して顧客を開拓するというD2Cビジネスを模索している。セレクトショップもECに活路を求め、地方ではEC売上げの方が多いショップも珍しくなくなり、「ファーフェッチ」など越境ECの一般化とともに欧米では大半が越境EC売上げというショップも増えている。

 そんなECシフトは卸流通にも波及し、ファッションブランドとセレクトショップなどのバイヤーをマッチングするB2Bサイトも欧米はもちろん、わが国でも広がり、出展コストが高く年に2回しか開催されない巨大展示会は割に合わない“お祭りイベント”でしかなくなった。SPA流通が卸流通を追い詰めた揚げ句、ECが巨大展示会に引導を渡したのだ。

SPA流通の弊害

 SPA流通が卸流通を駆逐した結果、ファッション流通が効率化されたかというと極めて疑問だ。むしろ、需給調整が効かなくなって過剰供給が慢性化し、流通ロスと残品が限界を超えて肥大し、そのコストが価格に上乗せされてお値打ち感を損ない、ますます売れなくなるという負のスパイラルに陥っている。

 卸流通は基本的に受注生産だから、発注から納品までのタイムラグがあるものの需給調整が効く。それに対してSPA流通は一方的発注による見込み生産だから需給調整が働かず、過剰供給に陥りやすい。複数のSPA企業が類似した商品を大量に発注しても市場に投入されるまで重複が分からず、分かると逆に発注が競われるという病的体質もあり、“売れ筋”ほど過剰供給の罠にはまりやすい。

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 SPA流通がファッション流通を効率化しなかったことは「W/R比率」の推移を見れば明らかだ。「W/R比率」とは業界のW(卸売上高)をR(小売売上高)で除した係数で、数値が小さいほど業界内の売り買いが重複せず効率化した流通とされる。90年の2.54から急ピッチで低下して17年は0.67と四半世紀でほぼ4分の1まで低下しているから、わが国ファッション業界のSPA化がいかに急速に進んだか理解されよう。にもかかわらず、この間の総供給量対比総消費量(消化率)は96.5%から48.0%まで急落し、バーゲンやファミリーセールを繰り返しても売れ残り在庫が溢れる惨状が慢性化しているから、『SPA流通はファッション流通を効率化しなかった』と結論するしかない。

大型展示会に代わるもの

 SPA流通にはもう1つの弊害がある。調達コストを抑制し販売消化を容易にしようとすれば商品企画が無難で大味になりがちで、商社OEMに依存すれば同質化にも陥りやすい。セレクトショップの売場に行けば、大味なSPA商品とこだわりのセレクト商品は素人目にも容易に見分けられる。大味なSPA商品だけでは品揃えのバラエティや色彩を欠き、スタイリング提案のリミックスも効かなくなる。

 卸流通のセレクト商品は魅力的な品揃えやスタイリング提案に不可欠で、これ以上細ってはファッション消費を一段と陰らせかねない。大型展示会が行き詰っても、それに代わるマッチングの場が必要だ。マーチャンダイジングや売場づくり、VMDや接客販売の手法を擦り合わせ、店舗販売やECでのバッティングを避けるきめ細かな調整をネゴするには対面での商談が不可欠だから、ネットのマッチングサイトには限界がある。フォーカスを絞った出展コストの軽いコンパクトサイズの合同展示会が競われるべきだろう。

 

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