小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『SPAは脱「売り減らし」の協業型へ リテールテクノロジーを探究せよ』
(2023年06月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 「ユニクロ」や「ZARA」の成功でアパレル流通はSPA一辺倒になった感があるが、SPAの命名者たる「GAP」は壁に当たって久しく、ファストファッションSPAの「H&M」も効率低下が著しい。国内でも「ユニクロ」型SPAを志向して挫折するケースが後を絶たない一方、「ワークマン」など全く異質の協業型SPAの成功例が目立っている。サプライチェーンの分断やコストインフレなどジャスト・イン・ケースへの対応が求められる今日、SPAの本命は協業型に転じたのではないか。

 

■中抜きSPAはアパレル流通を効率化したか

 流通には問屋など中間業社が需給調整を担う「間接流通」、小売業者が中間流通を排して生産者から直接調達したりメーカーが消費者に直販する(D2C)「直接流通」があり、後者の比率が高まるほど流通は効率化されると言われるが、本当にそうだろうか。衣料品のW/R比率(卸販売額÷小売販売額)の下降と最終消化率の悪化を見れば首を傾げたくもなる。

 商業動態統計の長期推移を見れば、衣料品(「繊維品・衣服・身の回り品」)のW/R比率は90年の2.54が10年には0.93と1.00を割り込み、コロナ前19年には0.61まで落ち込んで直接流通の急伸を裏付けたが、この間に衣料品(外衣+下着類)の供給数量(輸入数量+国内生産数量−輸出数量)は2倍強に急増した一方で購入数量(総務省家計調査)は19.0%しか伸びず、最終消化率は96.5%から56.1%に落ち込んだ計算になる。

サンプル数が8076(二人以上世帯)と限られる家計調査のデータを全世帯(約6000万)に広げて推計するのはいささか乱暴で誤差を否めないが、それでも環境省のアンケートなどから推計される業界(川下+川中)の製品売れ残り率(返品+処分+持ち越し)は3割前後に達するから、異常な過剰供給が衣料品の流通効率を悪化させたことは間違いない。

コロナ禍の20年は供給数量が10.7%減少したが、21年以降は輸入数量が回復して22年の供給数量は19年比90.4%まで戻しており、19年比8掛け弱にとどまる小売販売額とのギャップはむしろ拡大している。サステナ意識の浸透はあっても、衣料品の過剰供給は全く解消されていないのが現実だ。

SPA化という直接流通の急伸は中間流通の差益もコストもリスクも抱え込んだだけで流通は効率化せず、供給数量の急増が需給ギャップを拡大しただけだ。SPAブームの火付け役だった成功頭の「ユニクロ」とて在庫回転は2.56回、交叉比率も125.4(22年8月期の国内ユニクロ事業、ロイヤルティ収入を除く)にとどまるから、それほど効率的な流通とは思えない。

販売と生産を需給ギャップなくジャスト・イン・タイムに繋ぐのが理想の流通だろうが、日々販売する小売の都合と一括生産する工場の都合は噛み合わず、販売でも物流でも生産でも想定外の事態は頻発するからジャスト・イン・ケースの対応力が必定だ。ならば、誰かが何処かにバッファー在庫を抱えて需給調整する必要がある。

 

■SPAのサプライ方式は3パターン

 ODM調達のバイイングSPAから自社工場生産のファクトリーSPAまで開発・調達体制で分類されることの多いSPAだが、サプライとロジスティクスから分類すればA)多段ダム・サプライ型、B)直流サプライ型、C) VMIサプライ型が基本パターンだと思う。

 

A)段ダム・サプライ型

大量生産した在庫を生産地倉庫→消費地倉庫→店舗と適時移動して売り減らしていくプッシュ型の古典的なサプライで「ユニクロ」はその典型だが、生産地倉庫の在庫は協業する商社やサプライヤーが管理・負担することが多い。ファストファッションの「H&M」は消費地倉庫→店舗の2段ダム型だが、その分、消費地倉庫に積む比率が高く(60%と言われる)、在庫回転は2.60回(22年11月期)とファストには程遠い。

大量生産した在庫を多段ダムに積んで売り減らしていく以上、在庫回転はスロー(2〜3回)で、生産効率を重視する縦売り型の定番マーチャンダイジングに向いている。

 

B)直流サプライ型

小ロット生産した在庫を倉庫に積むことなく店舗に直送するサプライで、生産地または中継地で高速仕分けするTC※を必要とする。私の知る限り本格的な集中仕分け体制はインディテックスぐらいなものだが、生産地で仕分けして倉庫を経由せず店舗に直送する方法はハニーズなど多くのチェーンで見られる。

インディテックスは欧州・北アフリカ生産品も中東・アジア生産品も全てスペイン本社の巨大TCに集めて物流加工・仕分けしてスルーで世界の各店舗に直送し、EC向けも含めて何処にも在庫を積む倉庫を持たない。ハニーズはミャンマーなど生産地で物流加工※して店別にまとめたパッキンを国内陸揚げ倉庫で仕分けて各店舗に直送しているが、全体の3分の1程度を占める補給在庫とEC在庫はSKU別パッキンでいわきDCに送られる。

小ロット(1店あたりSKU在庫にして1〜3点)生産した在庫を店舗に直送して売り切っていくから、在庫運用スキル(再編集や店間移動)が伴う限り在庫回転はダム型より格段に速く、消化回転を重視する横売り型のファストなマーチャンダイジングに向いている。

 

  1. C) VMIサプライ型

多段ダム・サプライの一部をサプライヤーが分担する協業方式。オンライン情報共有してもAIで売上予測しても、生産効率との兼ね合いで多頻度な補充生産は困難だから、サプライヤーは補給用のバッファー在庫を抱える必要がある。

小売側の在庫回転は多段ダム・サプライより格段に速いが、サプライヤーのバッファー在庫も合わせた在庫回転は補充生産をサプライヤーが担うだけ多少は効率的という程度かも知れない。それでも需給調整による在庫ロスの抑制で粗利益の歩留まりは高く、小売もサプライヤーも相応の収益が得られる。

縦売り型の定番マーチャンダイジングに向いているのは多段ダム・サプライ型と同様だが、仕入型小売チェーンのジョイントPBでも似たような協業が行われている。 

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いずれの方式を選択するにせよ、小売側の求めるジャスト・イン・タイムのQRと生産側の効率の論理にはギャップがあり、キャパの確保や作業効率、前工程の準備でラインが止まることも考慮すれば多頻度なQRには限界がある。その分、誰かが何処かでバッファー在庫を負担する必要があることは変わりない。

直流サプライ型では途中にバッファー在庫が存在しない分、店舗(後方)に在庫が滞留しがちだから、生産ロットを抑制するとともに再編集消化と店間移動の仕組みを確立する必要がある。それでも溢れるようならアウトレットやオフプライスストアに流すのだろうか。

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず自動仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC。FC(Fulfillment Center)はECなど通販の出荷DC。

※物流加工・・・タグ付けの他、「色・サイズSKU数量組み合わせ」などのバンドル化が行われる

※VMI(Vendor Managed Inventory)・・・あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態で、在庫情報のオンライン連携が前提となる。

 

■店舗運営とロジスティクスの連携

 どのようなサプライ方式にせよ、店舗運営とロジスティクスの連携が販管費水準と粗利益の歩留まりを左右して収益力を決める。

 不動産費(賃料と減価償却費)を除く店舗運営コストの大半は人件費だから、接客以外のマテハン人時量とレジ精算人時量を最小化するようICタグやセルフレジが活用され、時間帯毎の売上や客数、作業量を想定して最適なレイバースケジューリングが組まれる。昨今は便利なグループウエアやスケジューリングアプリが定着し、シフトを組む手間も軽減されている。

 マテハン人時量、とりわけ大半を占める「品出し」と「フェイシング管理」は物流加工次第で大きく圧縮出来る。品番毎SKU毎の数量を店タイプ別に何処でどう組んでバンドル化して店別に仕分けるか、店舗に入荷しての検品を自動化あるいは不要(個口検品)にし、バンドル毎に陳列位置(什器番地)をどう指定するか、迷い子商品を如何に簡単に探し出すか(店在庫引き当てのBOPISや店出荷では不可欠)等が要で、作業工程を仔細に検証して物流段階と店舗段階を連携するカイゼンを積み重ねる必要がある。

 店タイプ別「色・サイズSKU数量組み合わせ」バンドル組みは典型的な物流加工で人件費の安い生産地の工場か出荷倉庫で行われることが多いが、高速自動ソーターで桁違いの効率化が可能なこと、店舗段階の検品レスへの精度確保を考えれば、SKU単位のパッキンで国内TCに移送して自動仕分けした方が効率的かも知れない。陳列位置指定は店舗レイアウトの標準化と元番地管理が前提で、「フェイシング管理」する元番地と随時訴求する「出前」のVMD運用ルールが確立している必要がある。

 もっと仔細に検証していけば、後方ストックの棚入れルールとアドレス管理、品出し時のカート活用(カゴでの搬入は辛くて非効率)、ビニール袋剥きの簡略化や物流段階加工など、マテハン効率をカイゼンする工夫はいくらでもある。アパレル業界では店内マテハンとロジスティクスに真剣に取り組む経営者は稀で、スーパーマーケット業界とは雲泥の格差があるが、販管費率を目に見えて左右するキーポイントであることを忘れてはなるまい。

 

■在庫配備と店間移動の高精度化

 在庫の持ち方は「前進配備」と「後方配備」、「分散配備」と「集中配備」の相反する考え方がある。需要へ機動的に対応するには店舗への前進・分散配備が好ましいが、在庫の管理と物流効率を優先するとDCへの後方・集中配備になる。

 アマゾンは食品や日用日が即日届く顧客利便を追って多数のデポを前進・分散配備しているが、ファッションに特化したZOZOはカテゴリー別のFC分散はあっても千葉周辺(つくば市を含む)FCへの後方・集中配備を崩していない(出品者DCからの補給利便を優先していると思われる)。インディテックスやしまむらは調達在庫の全てをTCで仕分けて店舗に前進・分散配置しているが、ユニクロや無印、H&Mは6〜7割をDCに後方・集中配置している。前述した直流サプライ型と多段ダム・サプライ型の違いだが、ファストな変化対応品と継続する定番品の違いでもある。

 EC比率が高まればFCに在庫が偏って店舗在庫の奥行きが薄くなり、UI・UX※と顧客利便からOMOが問われるようになると事情は複雑になる。直流サプライ型のインディテックスはFCを廃して店在庫引き当てのBOPISと店渡しに転換し、多段ダム・サプライ型のユニクロも遅ればせながら店舗在庫引き当てのBOPISと店渡しを取り入れた(主流はFC出荷のまま)。OMOに2024年問題など物流の逼迫と宅配料金の高騰が加われば、店舗への前進・分散配置が進むと思われる。ならば、店間移動の比重も高まらざるを得ない。

 店舗に全ての在庫を直送する直流サプライ型では補給を担うDCが存在しないから、店間移動が必須のスキルとなる。実際、店舗在庫がSKU各1〜3程度と薄いしまむらは同エリア店舗からの店間移動で欠品を補っており、全国10エリア毎にTCを起点とする自社ルート便が毎夜巡回して各店舗のナイトデポに納品し、店間移動品を回収してTCに持ち帰り、自動振り分けして翌日のルート便で店舗に届けている。このルート便体制はオープンOMOの凄いプラットフォームになるはずだが、しまむらは未だ戦略的に動こうとはしていない。実に勿体ない話だ。

 直流サプライ型のインディテックスは多くのSPAが採る本部DB.※主導の配分ではなく、各店舗の担当マネージャーによる数入れ発注で配分しているから、その功績評価(基本給70%+成果報酬30%とマネージャー採用に謳っている)もあって期中の店間移動は行っていないと思われる。元より一部の量販単品を除けば各店舗にSKU各1〜2程度しか行き渡らない小ロット生産に徹しているから、発注量と販売消化に乖離が生じても大きな滞貨は発生せず、小幅な売価変更で売り切れることが多いようだが、各店舗で消化し切れない滞貨が生じた時はカントリーマネージャー権限で期末に店間移動していると推察される。

 米国で最も高収益なカジュアルチェーンのバックルでは、ジョイントPBは本部DC在庫とサプライヤーDC在庫の2段ダムで協業サプライを行う一方、販売不振時あるいは補給が切れた売り切り段階では本部指示による一斉値引きを行わず、エリアマネージャー権限で店間移動して定価販売消化を進め、値引きする店舗を限定してマークダウンロスを抑制している。

 このように補給と店間移動には各社が築き上げて来た様々な仕組みとスキルが存在し、欠品と値引きのロスを抑制して高収益を実現している。教科書的なビジネスモデルや小売都合のQRで事業が成り立つ訳がなく、サプライの協業や店舗運営とロジスティクスの連携、在庫の配備や店間移動と売価変更のスキルなど、様々なリテールテクノロジーが独自のビジネスモデルを築いていることを理解するべきだ。

 

※UI(User Interface)・UX(User Experience)・・・顧客接点・顧客体験

※DB.(Distributor)・・・一般には在庫を所有して配送する卸業者(所有しない卸御者はBroker)を意味するが、チェーンストア運営では調達した在庫を多数の店舗に最適配分・補給・移動する在庫運用責任者を指す

 

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