小島健輔の最新論文

販売革新2001年6月号掲載
短期連載第二回
『小島健輔のゼネラルマーチャンダイザー再生論』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 前回、ゼネラルマーチャンダイザーの規範は品揃えと提供方法をパッケージした個店対応であり、その実現には多様な調達方法が不可欠として、チェーンオペレーション、SCMとの矛盾、ワンストップ・ショッピングと購買局面の矛盾を提議した。今回は、個店対応とSCMの矛盾について言及してみたい。

調達方法の多様性とSCMは矛盾するか

 調達の効率を多少は犠牲にしても個店毎の顧客ニーズに応えるマーケット・インがゼネラルマーチャンダイザーの基本スタンスであり、効率を追求して有利な調達方法に絞り込むSCMとは矛盾が生じる。が、ゼネラルマーチャンダイザーとて個々の商品分野ではスペシャルテイマーチャンダイザーとの競争に晒されるから、SCMを否定する事はできない。その矛盾を解決するのが調達手法ミックスと配分技術だ。
 調達方法には1)ベンダー調達、2)メーカー直接調達、3)商社経由工場調達、4)工場直接調達の四つがあって順にコストが低くなるが、それなりにメリットとデメリットがあるからコストだけで優劣をつけるべきではない。
 ベンダーやメーカーとでは通常の仕入れ調達に加え、品揃えと補給を委嘱するVMIや消化取引、売場運営まで任せるコンセ等、小売機能をアウトソーシングする多様な取引が可能で、物流や物流加工の機能分担も期待できる。衣料分野ではベンダーのほとんどがメーカー(企画製造卸)だから、メーカーがその小売業専用にオリジナル企画した商品をロット発注すれば一種のOEM調達になるし、小売サイド企画をメーカー側で仕様開発するOEM調達もあり得る等、商品開発面でも多様な手法が使える。チームMDとて、ベンダーを窓口にSCMを委嘱するようなものではないのか。
 このようにベンダー(メーカー)調達は様々な小売機能や開発機能を活用出来る宝庫であり、小売企業の様々な戦略局面でサポートを期待できる。大型量販店や百貨店はこれらのベンダー機能を欠いては売場を構成することさえ出来ないし、商品開発も物流も成り立たない。コストだけを追ってこれらの機能を捨て去る選択は、ゼネラルマーチャンダイザーにとってはごく限られた局面でしかあり得ない。
 3)商社経由工場調達では物流を除いてベンダー機能はほとんど期待できないし、企画から生産仕様の開発まで小売サイドが負担しなければならない。現実には商社系の企画会社にまかせるケースが多いが、継続した取引で精度をブラッシュアップしてきたベンダーの仕様とは格差があるのが実情で、期待ほどのバリューが実現できず値下げロスがコストメリットを食い潰してしまうケースが目立つ。  商社と製販同盟を組んで成功しているSPAのケースでは企画と仕様開発はSPA側が分担しており、商社の企画や仕様開発には依存していない。商社機能はソーシングと物流、金融を中核としたソリューションであり、開発機能を持たない小売業が同様に開発機能を持たない商社にオリジナル開発を依存するのはリスクが大きい。
 4)工場直接調達は最もコストが低くなる反面、企画・仕様開発からソーシング、物流加工まですべて手配しなければならない。海外産地の場合は物流と決済を商社に依存するケースがほとんどだが、国内では自主手配も可能だ。やはりネックとなるのは企画・仕様開発で、工場自体が開発体制を持っているか売りの仕様が確立しているケース(セレクトショップのオリジナル開発に多い)を除いては、発注側にその体制が求められる。
 となれば、商社経由か直接かを問わず工場へのOEM調達に踏み込むには企画・仕様開発機能を社内か社外に抱えざるを得ない。実際、量販店ではIYのようにデザインスタジオを開設したり外部のデザインオフィスと契約するケースが多いし、百貨店でもPB開発が競われた時代にはそのような試みが行われた。しかし、ゼネラルマーチャンダイザーの幅広い商品ラインをメーカー並みにカバーするには千人単位の開発チームが必要で、十兆円単位のワールドワイドな売上を背景としない限り成り立たない。とは言っても消費材の大半はローカルな生活価値に立脚するものだから、ワールドワイドな調達組織に参加したからといって開発機能が充足される訳でもない。結局は競争力ある商品のラインナップが拡がらず、目立つ戦略ショップや中核商品に留まらざるを得ず、開発組織の固定費を吸収出来ないまま行き詰まってしまう。
 百貨店の例でも、短期的には外部スタッフを活用しての開発で成果を挙げても継続的な商品供給やラインナップ拡張は難しく、結局はブランドメーカーの開発力に依存する手法に回帰するケースがほとんどだ。それだけ、店頭と連動した企画・開発は体制と熟練、すなわち高い固定費を必要とするということなのだろう。
 SCMという視点に立つなら、ベンダー調達でも取引を集約すればVMIはもちろん、チームMDで生産プロセスまでコントロールさせる事も不可能ではないし、工場直接調達でもスポット調達ではSCMのしようがない。結局は調達方法の如何ではなく、取引の集約と継続性がSCMの決め手となる。
 このような実情を理解して調達手法を組み合わせるなら、SCMと調達方法の多様性が矛盾するという懸念は解消される。SCMとは取引の集約と継続を背景に成立する販売と生産の連動であり、商品分野に適した調達方法とSCMをそれぞれに組んでいくなら何ら矛盾は発生しない。WEB調達も逆オークション効果を狙うならオープン調達であってSCMとは逆行するが、継続調達のEDIが置き換えられるものはSCMに位置付けられる。WEBに限らず、オープンかクローズドかはコストと安定供給のバランスを狙う調達政策であって調達手法を特定するものではない。問題は適所適法を無視した戦略的統一であり、経営トレンドに流されてイデオロギーをトップダウンしてしまう経営体質こそが元凶なのだ。  

個店対応とSCMは矛盾するか

 実情に即した調達手法ミックスが組まれたとしても、集約と継続のSCMは棚割の標準化を前提とするから品揃えの個店対応と矛盾しかねない。それを解決するのがカセット構成と配分技術だ。個店ごとに最適の品揃えを組むプロセスと個別カセットごとに最適のSCMを組むプロセスは独立したもので、個店ごとにカセットを選択して組み合わせれば最適品揃えと最適SCMの両立が図れる。これはチェーンストア・サプライの基本と言うべきだろう。
 カセットの単位は多段階であるべきで、ショップ(業態)カセットからベンダーやブランドのカセット、企画カセット、カテゴリー編集カセットと使い分けてこそ最適な両立が可能となる。最も一般的なのが同一ベンダー、同一素材、同一生産プロセスで組む企画カセットだが、日用雑貨や服飾雑貨等では同一ベンダー、同一カテゴリーの多様な品目をパッケージしたカテゴリー編集カセットも活用される。
 企画カセットでは品目構成は統一されるがSKUバランスは店タイプごとに選択されるべきだし、カテゴリー編集カセットでは品目構成もフェイシング量も異なるパッケージが必要になる。どちらの場合でも、フェイシングの総量(ラック数)も大小何パターンかに別れる。これらを個店ごとに最適に選択して組み合わせた上で補給によって実需に対応していくのが基本だが、品目やSKUレベルでの店間移動プログラムでさらに補正するケースも見られる。
 こうしたカセット設定やサブ・システムを精密に組み合わせて物流と一致させれば個店対応とSCMは両立するのだが、チェーンになっていない百貨店はもちろんのこと、全国展開の量販店でもそこまで精密にプロセスを組んではいない。突出した業績の衣料スーパー等では当たり前に行われている事が、ゼネラルマーチャンダイザーでは行われていないことに根本的な問題がある。それらをないがしろにしたまま絞り込みMDやSCMが論じられるという歪な姿が、我が国のゼネラルマーチャンダイザーの実態なのだ。もしこれらのプロセスが緻密に実行されたなら、同じ戦略でも違った答えが出るのではないか。
 個店対応の配分・補給プロセスと店舗運営はチェーンストアの根幹に関わる問題であり、ゼネラルマーチャンダイザーがどのようなチェーンオペレーションと組織体系で動くべきかの議論を避けては通れない。短期連載の最終回である次回はこの課題で幕を引きたいと思う。 

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