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『店舗回帰で変貌!OMOが帰着する「ローカルロジスティクス」とは』
(2024年06月20日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 小売業界でオムニチャネルだOMOだと喧伝されて久しいが、コロナが明けて人々が店舗に回帰した到達点は在庫が顧客に近づくローカルロジスティクスになりそうだ。店舗か通販(EC)かという繰り返されて来たチャネル論争の本質は、売り手と顧客を繋ぐロジスティクスの利便性と効率性に帰着するのではないか。

 

■店舗回帰で変貌するOMO

 08年以降のスマホの普及でモバイルショッパー化が急進してECとOMO※が相乗的に拡大し、コロナ禍のお篭り期間でECは爆発的に拡大したが、コロナが明けて消費の店舗回帰が進むに連れ、ECの伸び悩みが顕著になる一方でOMOの性格もウェブルーミング※方向に変貌し、物流の逼迫と高コスト化も相まってロジスティクスも店舗と顧客に近づくローカルシフトに転じている。

 経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」に拠れば、コロナ禍の2年間で衣類・服飾雑貨のEC売上は27.1%伸びて2兆4280億円、小売流通総額に占めるEC比率も13.9%から21.2%に急上昇したが、コロナが収まって消費が店舗へ回帰する中、22年は5.0%しか伸びずEC比率も0.4ポイントの微上昇にとどまった。行動規制が解除された23年5月以降は店舗回帰が急進し、アパレル各社のEC売上も前年を割るケースが目立ってきたから、23年の衣類・服飾雑貨のEC売上は微増にとどまり、EC比率は22年の21.6%から横ばいか多少低下したと推察される(8月末に開示される)。

 株式公開主要アパレルチェーンの各決算期におけるEC売上とEC比率の推移を見ても、20年、21年と急伸した後の22年、23年は伸びが鈍化しており(ユナイテッドアローズは20年のみ急伸して21年は失速)、EC売上は多少伸びてもEC比率は横ばいか低下に転じている。それはグローバル展開のアパレルチェーンも同様だ。20年のECの急伸は国内チェーンより劇的で(店舗の休業期間が日本より長く休業比率も高かった)、INDITEXやルルレモンは22年以降もEC比率は伸び止まってもEC売上は伸び続けているが、そこにはロジスティクスの変容がある。

 「EC売上」はオンラインで受注した売上を指すが、FC※出荷の宅配とは限らない。アマゾンのマーケットプレイスや百貨店のお取り寄せなど、サプライヤーの倉庫から顧客に直送するドロップシッピングもあるし、店舗回帰とともに広がった店舗在庫引き当ての店渡し(BOPIS※というウェブルーミング)や店からのローカル宅配※出荷もあるからだ。

 コロナ直前の19年に決断したINDITEXはコロナ禍を経てFCを廃して店舗在庫引き当ての店渡しと店出荷に転換し、店舗網の効率化集約再編(非効率店を閉めて高効率大型店に集約。中国本土は3分の1に、香港と日本は半分に減店)も奏功して平均店舗売上が67%、平米当たり売上も42%伸びて在庫効率も大きく改善されるという画期的な成果を挙げている。ユニクロも遅ればせながら21年10月から店在庫引き当ての店渡し(「オーダー&ピック」)が可能になり、今や最短でオンライン発注から1時間で店舗で受け取れ、オンライン売上の半分近くが店舗受け取りになったというから、顧客利便に加えて宅配費用の圧縮効果も大きい。

 コロナ明けの店舗回帰、FC出荷の宅配から店舗在庫引き当てのBOPISや店出荷へのシフトに伴い、アパレルチェーンのロジステイクスもOMO戦略も大きく転換しつつある。

 

※OMO(Online Merges with Offline)・・・ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)に

よる店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略。

※ウェブルーミング(Webrooming)とショールーミング(Showrooming)・・・・ネットで店舗や商品を選んで取り置いたりしてから店舗に行くのがウェブルーミング。店舗で商品を見てネットで情報を調べたりECで購入するのがショールーミング。両方を行き来するショッピング行動をO2O(Online to Offline)と呼ぶ。

※FC(Fulfillment Center)・・・通販の出荷用DC(Distribution Center 棚入れ保管してピッキング出荷する保管型物流倉庫)。

※BOPIS・・・Buy Online Pick-up In Storeの略称で、ECで発注して店舗で受け取るショッピングスタイル。Curbside pickup(駐車場受け取り)もその一種。

※ローカル宅配・・・ハブ&スポークの載せ替えを要しリージョナル間夜間物流でオーバーナイトするからコスパもタイパも悪い全国区展開の宅配便業者を使わず、店舗やローカルデポからタイパもコスパも格段に高いローカルの直行宅配事業者を使う。

 

■顧客に近づくローカルロジスティクス

鮮度管理が問われる食品のロジスティクスがリージョナルそしてローカルと顧客に近づいて行ったのに対し、賞味期限も消費期限もアバウトなアパレルはセントラルロジスティクスから動くことはなかったが、コロナ下で急拡大したECのロジスティクスが店舗回帰で店受け取りや店出荷にシフトする中、リージョナルそしてローカルなロジスティクスへ抜本的な転換が迫っている。

 シーズン性もトレンド性もあるアパレルの賞味期限は短いとされるが、トレンド商品でも8週、定番商品では12週以上で、在庫回転もトレンド商品(生鮮・日配に相当)で6〜8回転、定番商品(加工食品に相当)では2〜4回転と生鮮食品に比べると極めてスローだ。販売不振商品の随時なピッキング(店間移動や売価変更)はあっても、食品の賞味期限管理のようなルーチン業務は存在しないから、鮮度管理には鈍感な業界というのが現実だ。 

安くても品質が安定した今日ではアパレルの消費期限も3年以上(子供服は3年未満)と長く、リユース市場も消費期限内の高年式品(フリマアプリや「2nd Street」などの地買地売C2B2Cで流通)と消費期限を大きく超えた低年式品(倉庫マイニングの輸入中古衣料でヴィンテージという価値観もある)に分かれている。リユース市場の主役は高年式品(プランドとシーズン、コンディションで値付けし易い)で9割を占め、輸入中古衣料の低年式品は9%程度にとどまる。

そんなのんびりした時間軸だから顧客に近づく在庫の前進配備は例外で、セントラルロジスティクスが長らくアパレルチェーンのデフォルトとなっていたが、国内で四桁展開(24年2月期末で2185店)するしまむらは全国10リージョナルTC※から自社ルート便で配送・店間移動(TCだから補給在庫はなく店舗在庫が全て)するロジスティクス体制を敷いている。EC比率はまだ1.14%にとどまるが、店受け取りが9割に達する。ようやく4桁に乗った(24年5月末で1018店)ワークマンは全国2セントラルDC体制から27年10月の「岡山流通センター」稼働でようやく3セントラルDC体制に移行する予定で、リージョナルロジスティクスには遠い。買い取りフランチャイズ前提で直営店のような在庫の店間移動運用を想定していないからだが、シーズン性やトレンド性のあるカジュアルに手を広げていけば店間移動体制がないといずれ行き詰まる。

24年問題が物流改革を迫る中、ハブ&スポーク体制(載せ替えとリージョナル間夜間移送が必須)の全国区宅配業者を使っていては物流コストの大幅な上昇もお届けの遅延も避けようがなく、リージョナルロジスティクスによる在庫の前進配備が喫緊の課題となっているが、それを理解しているアパレル経営者は極めて限られる。ナショナルチェーンでも店舗展開が数百店に留まって(しかも、多くは複数業態に分かれる)ローカルマーケティングやロジスティクスを前提とした店舗布陣をしていないことが要因と思われるが、EC比率が3割4割に高まってセントラルDCから全国区宅配業者で宅配していては、宅配外注費負担で販管費が嵩み、在庫のDC待機で在庫効率が停滞してしまう。

INDITEXのようにEC注文に店舗在庫を引き当て店渡しとローカル店舗出荷に徹すれば、注文から即時に店渡し可能で在庫がDCに待機することもなく、店受け取りの来店客による売上の積み上げも期待できる。実際に店舗在庫を引き当てたり店出荷するには在庫のリアルタイム一元管理はもちろん、余剰の在庫を抱える母店(家賃の安い路面の大型店が好ましい)がローカル出荷を担い、回転在庫のみの子店群にテザリング※するローカルロジスティクス体制が必要で、英国のアルゴスや日本のヨドバシ、ABCマートなどに見られるが、アパレルでは一部の紳士服チェーンを除けば聞いたこともない。

 

※DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とPC(Process Center)・・・・入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC。PCは食品小売業において生鮮品や惣菜の仕入れと加工、包装、出荷を一括する地域拠点。

※テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、修理加工の集約やC&Cの店出荷と連携される。

 

■OMOも店舗軸へ一変

 もう一つの変化がOMOのウェブルーミングシフトだ。コロナ下では営業規制や客数減で店舗売上が激減し、ECで売上を作る必要に迫られたから、ECサイトのスタッフスタイリングやSNS投稿はECで売り易い売れ筋単品軸の分かり易いスタイルに偏っていた。しかし、コロナが明けて店舗に顧客が回帰するようになると、斬新なスタイリングで店舗に誘導(ウェブルーミング)する必要に迫られた。

 ECで売れるアパレルはパターンやフィットが推察できる既知アイテムが大半で、パターンもフイットも見えない新機軸アイテムはサイズリコメンドアプリを使ってもフィッティングが難しく、リスクを冒してチャレンジする顧客は限られる。通常は店舗で新機軸品を体験した上でECで類似商品を購入することになるが、コロナで店舗から足が遠のいていた期間が6シーズンと長く、トレンドも一巡りしてしまったため、新機軸商品のパターンやフィットはもちろん、今風の新鮮なスタイリングを体験してもらう必要に迫られたのだ。

 いち早く斬新なスタイリング提案で店舗への誘導に転じたのがパルグループやアダストリアのブランドで、ECサイトのスタッフスタイリングのみならず、ウィゴーのようにショート動画投稿サイト(TikTokやYouTube)のリズミカルなアクションで今時のスタイリングを見せるのがアパレル業界のトレンドになっている。店舗回帰する顧客をECサイトやSNSから自店に誘導し、すっかり入れ替わったパターンやフィットを体験してもらうことが店舗の売上はもちろん、その後のEC売上にもつながっていく。

 コロナ下のECシフトから一転しての店舗回帰は、OMOの店舗方向シフトのみならずロジスティクスのローカルシフトを促し、アパレルチェーンの運営体制をセントラル集中から店舗と顧客に近づくローカル分散へと変えていく。OMOのプラットフォームが定着しインフレと労働力逼迫が経営を圧迫する中では、それが顧客に応え運営効率を高めていく選択ではないか。

 

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