小島健輔の最新論文

現代ビジネスオンライン
『小島健輔が警告「アマゾン撤退でわかった、ECバブルは崩壊する」』
ITバブル崩壊を思い出せ
(2019年07月05日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

アマゾンが「冠スポンサーを降板」の意味

破竹の勢いで急成長してきたEC(電子商取引)に今年に入って急激に陰りが広がっているが、それを象徴するような事件が明らかになった。ECビジネスの覇者たるアマゾンが東京ファッションウィークの冠スポンサーを降板したのだ。

001東京ファッションウィークの一幕〔photo〕gettyimages

東京ファッションウィークの冠スポンサーは5年間(10シーズン)務めたメルセデス・ベンツ日本の後を引き継いで、17年春夏シーズンからアマゾンジャパン合同会社が担ってきたが、今春に開催された19年秋冬シーズンを最後にスポンサーを降板するという。

世界4大コレクション(NY→ロンドン→ミラノ→パリ)の終了後に開催される東京コレクションは求心力の低下が続いてスポンサーたるメリットが薄いと判断されたに違いないが、それ以上の要因と思われるのがアマゾンジャパンの収益力低下だ。

東京ファッションウィークを運営する一般社団法人 日本ファッションウィーク推進機構の収支計算書(平成30年度)の「協賛金収入」3億6400万円余から冠スポンサー料は年間3億円ほどだったと推察されるが、たったの3億円が負担になる程アマゾンジャパンの収支は逼迫しているのだろうか。

アマゾンジャパンは決算を公開しておらず本国決算から推計するしかない。その本国決算は18年通期(12月末締め)で売上が31%伸びて2329億ドル、営業利益は三倍に伸びて124.2億ドルと絶好調に見えるが、稼いでいるのはAWS(クラウドコンピューティングサービス)と北米事業であって、海外EC事業は出血を続けている。

宅配料金値上げが日本事業を直撃

売上の60.7%を占める北米EC事業が72.7億ドル、同11.0%を占めるに過ぎないAWS事業が73.0億ドルの営業利益を稼ぐ一方、同28.3%を占める海外EC事業は21.4億ドルの赤字で、アマゾンにとって海外EC事業の採算改善が急務となっていた。

アリババやジンドンに圧されてシェアが0.6%に留まっていた中国からはEC事業の撤退を決めたが、これまで日本事業は海外EC事業の2割強を占めて十分に稼いできたはずだ。『稼いできた』と過去形で言ったのは収益力が急激に落ちていると思われるからだ。

アマゾンのEC事業は物流コストに圧迫され、推計取扱高に占める「シッピングコスト」負担率は年々上昇。14年の9.5%から18年には13.3%に高騰したと推計されるが、日本事業は欧米に比べて格段に安かった宅配料金を背景に高収益を稼いできた。その好環境が18年を境に一変してしまったのだ。

17年10月にヤマト運輸が口火を切って佐川急便や日本郵政が追従し、18年秋口までに法人向け料金改定も一巡した宅配運賃値上げは一般顧客や小口法人では15%程度だったが、それまで大幅に割り引かれていた大口包括料金の値上げ幅は24〜46%と極端なものとなり、最大口のアマゾンとZOZOでは46%もの値上げになったと推計される。

それに人手不足による倉庫運営人件費の高騰も加わり、ZOZOSUITやPB、ZOZOARIGATOの敗戦処理の陰に隠れてZOZOの収益力は大きく悪化。SHOPLISTは一気に赤字転落したほどだから、アマゾンジャパンの収益も大きく圧迫されたに違いない。

02

アマゾンジャパンは宅配料金や倉庫運営人件費の負担増を出品者への手数料やプライム会費の値上げで転嫁しても逆ザヤは到底解消できず、効果が薄い出費を切り詰める必要に迫られたと推察される。そのひとつが東京ファッションウィークの冠スポンサー降板だったのではないか。

ECバブル崩壊へ…?

ECの巨人アマゾンでさえ物流費の高騰を吸収できず、出費を切り詰める羽目に追い込まれたのだとすれば、他のEC事業者の苦境は推察するに余りある。EC事業者はことごとく宅配料金値上げを顧客の負担する送料に転嫁しているが、『タダで届く』はEC顧客の求める第一条件であり、転嫁したサイトの売上伸び率はほぼ例外なく鈍化している。

もとよりECのプロフィットセンター(利益の源泉)はフロントにあって、フルフィル(物流)は逆ザヤになりかねない状況にあった。それが宅配料金値上げで一気に表面化したと見るべきで、ECプラットフォーマーはもちろん出品事業者も物流体系の抜本的見直しを迫られているが、物流倉庫設備の入れ替えも必要で短期の切り替えは難しい。このままでは急成長と高収益を謳歌して来たEC業界に急ブレーキがかかるのは避けられない。

それはEC事業者の支出の抑制に直結し、急成長に乗って際限なく肥大して来たASPや物流サービスはもちろん、アフィリエイトからバーチャル採寸やAI接客まで様々なEC関連サービスも一転して頭を打ち、ECバブル崩壊の地獄絵を見ることになる。EC関連業界は2000年前後のITバブル崩壊を思い出した方が良いかも知れない。

 

 

 

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