小島健輔の最新論文

ブログ(アパログ2018年03月16日付)
『誰も目の前しか見ていない』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ギョーカイはEC拡大に夢中で先が見えていないし、店舗は相も変わらず人海戦術に終始している。損益分岐点の高い店舗販売はECに食われて売上が落ちれば容易に赤字転落してしまうし、突破口だったはずのECも競争激化とコスト高騰で急速に収益が低下している。
 宅配料金の大幅値上げやDC運営人件費の肥大は自社EC体制を確立して在庫の物理的一元化を果たした先端企業さえ圧迫しているし、EC売上の多くをモールサイトに依存する途上の企業はクーポンの乱発に販売手数料の高騰が加わって採算が厳しくなり、在庫の分散でロスも肥大している。ECモールなど、嵩む歩率負担と在庫の分散ロスを売価に転嫁して顧客離れを招いた百貨店流通と大差ない情況に近づいており、もはやECも希望の青い海とは言えなくなって来た。その一方、ECの止め処なき拡大は店舗販売からじりじりと売上を奪って損益を悪化させ、オムニチャネルなO2O利便を店舗に求めれば販売を妨げ運営コストが嵩むという弊害も露呈して来た。

 国土が広く宅配料金が我が国の倍を超える米国では「店出荷」と「店受け取り」が小売チェーンにとってアマゾンなどEC専業者に対するアドバンテージになっているが、EC比率の高まりとともに店舗の作業量が肥大して店舗運営を妨げるようになり、ECへの売上流出もあいまって店舗を追い詰めている。
 「店出荷」によるスピード宅配と「店受け取り」値引きを武器に急拡大して来たウォルマートのECが17年第4四半期(11〜1月)に急減速したのも店舗の繁忙期とECのピークが重なったためで、「店出荷」と「店受け取り」の作業がパンクしたと推察される。それがEC比率4%台のウォルマートで発生したという事実は、同様に4%台で店頭からのピッキングが顧客の買物を妨害するとして「ダークストア」(一般客を入れないネットスーパー出荷専用店舗)の設置に踏み切らざるを得なかったイトーヨーカ堂のケースと重なって見える。
 手間のかかる「店出荷」に依存しているとは言え(我が国でもネットスーパーのほとんどが「店出荷」)、たったの4%台でピークシーズンには店舗の負荷が限界を露呈するのだから、同様に「店出荷」と「店受け取り」に依存する米国のデパートチェーンやアパレルチェーンがEC比率を20%台〜30%台にも高めた皺寄せは想像に余りある。おそらく店舗スタッフはピッキングや出荷、受け渡しの作業に追われ、フェイシング管理や陳列整理はもちろん、接客も疎かになったことは疑う余地もない。ショールーミングによるECへの売上流出に加え、店舗運営への皺寄せによる運営力・販売力の低下も売上に響いたのではないか。

 これまでもギョーカイは時々のブームに熱くなって後先が見えなくなり、大量出店の後は大量閉店を繰り返し、原価圧縮を狙った調達ロット拡大は値引きロスの肥大と在庫回転の悪化を招き、ほとんどの企業が売上は拡大しても収益性を損ない、財務体質をじりじりと毀損して来た。そして昨今は店舗販売と店舗資産がどうなるかも考えずECを闇雲に拡大し、自社EC体制が未確立な企業ではECさえもコスト倒れになりつつある。
 目の前しか見ない右往左往をこれ以上、繰り返してはいけない。5年10年という視野でマーケット・ポジションと収益構造を構想し、無用な消耗を招く振れを避け、真っ直ぐにゴールに向けて歩まねばならない。無用な中間搾取とコストを許さず、在庫と物流を極小化するD2Cなビジネスモデルで画期的な収益構造と盤石の財務体質を確立すべきではないか。
 そのためには過去から未来へと繋がる必然のシナリオを体系的に掴む必要がある。4月6日に開催する『FB再生とビジネスモデル革命ゼミ』では、90年代の生産のグローバル化と水平分業という構造変化、00年の規制緩和による出店環境と競争環境の抜本的変質、08年以降の消費のグローバル化とモバイル消費・SNSの爆発的拡大を経て、ECに追い詰められる店舗販売が無人運営あるいは無在庫のニューリテイルに変貌し、コストと在庫分散の壁に当たったECが無在庫・無流通コスト・パーソナル対応のD2Cビジネスへ変貌して行く明日を余す所無くお話ししたい。

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