小島健輔の最新論文

販売革新2012年10月号掲載
『米国アパレルチェーンの最新動向』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 米国アパレルチェーンの最新動向を11年度決算と直近四半期決算から総括してみた。米国アパレルチェーンは日本に先んじてリーマンショック後の低迷を抜け出して増収増益基調にある。成長コンセプトはアスレチック&アウトドア、成長カテゴリーはランジェリー&HBAであり、前者ではルルレモン・アスレティカ、後者ではリミテッド・ブランズの好調が突出している。

米国アパレル専門店チェーンの動向

 11年度の米国アパレル専門店トップ25社の合計売上は617.4億ドル(約4兆9300億円)と前年から5.6%増加して全米アパレル専門店売上の36%強を占め、合計期末店舗数は116店増と飽和状態ながら24,044店に達した。売上/店舗数とも、日本のアパレル専門店トップ25社合計の約2.5倍のスケールだ。
 ギャップが145.5億ドルと突出し、米国内だけでも99.4億ドル(約7930億円)と全米アパレル専門店合計の約5.9%を占めるが、日本の「ユニクロ」は国内で6000億円強を売り上げてアパレル専門店市場の7.0%を占めている。リミテッド・ブランズが103.6億ドルで続くが、同社はランジェリーの「ビクトリアズ・シークレット」とHBAの「バス&ボディワークス」主体でアパレルからは07年までに撤退している。実質第二位はアバークロンビー&フィッチだが41.6億ドルとギャップの3掛けに満たず、アメリカンイーグル・アウトフイッターが31.6億ドルで続き、上位4社までSPA企業が占める。フォーエバー21は決算非公開だが、米調査会社によれば12年1月期で33.9億ドルと第四位に位置する。
 外資系アパレルチェーンでは00年に進出したH&Mが15.3億ドルで14位に位置するのが上限で、89年に進出したZARAはわずか46店に留まって店舗数も減少に転じている。日本でもギャップジャパンが推定860億円で14位に食い込むのが上限で、推定230〜250億円のザラジャパン、本国決算から238億円と推計されるH&Mジャパンがベスト50に食い込むに留まり、主要外資チェーンを合計してもシェアは3%に満たない。米国でも日本でもアパレルビジネスはローカルなもののようだ。
 トップ25社平均既存店売上前年比は101.1と前年から0.7ポイント低下したが、同期間(11年2月〜12年1月)の日本の株式上場14社平均97.4に較べれば一回り高い。ヨガ&アスレティックウエアのルルレモン・アスレティカが120.0%と突出し、過去5期間で売上は10億ドルと7倍近くに拡大。営業利益率は前期比3.4ポイント上昇して28.7%と25社中で群を抜き、直営店(247.3平米)の平均年商は533.2万ドル(約4億2550万円)、月坪効率は5932ドル(47.3万円)に達している。急拡大するこのマーケットを狙ってVFコーポレーションは07年7月にチコスから買収したヨガ&アスリートカジュアルの「ルーシー」を拡大しており、直営店は57店に達している。ギャップ社も08年9月に買収したウィメンズ・アクティブウェア通販の「アスリータ」の店舗展開を10年から始めて今四月末段階で11店を布石しており、13年度中に50店に拡大する計画だ。
 既存店伸び率が次いで高かったのがリミテッド・ブランズの110.0%、メンズウエアハウスの109.1%で、ジョスAバンクも107.6%と高かった。ランジェリーやメンズ・クロージングの好調は米国が日本より一歩先んじており、日本におけるそれらの回復を3.11の反動と見るのは無理が在りそうだ。どちらもリーマンショック以降の買い控えからの回復と見るべきであろう。
 各社とも既存店より伸び率が高かったのがオンライン売上で、ギャップは20.0%伸びて15.6億ドルに達し、全社売上に占めるシェアは10.7%と前期から1.8ポイント上昇。営業利益率も22.0%と店舗事業の8.4%より格段に高い。アバークロンビー&フィッチも36.5%伸びて5.5億ドルに達し、全社売上に対するシェアも13.3%と1.6ポイント上昇した。ルルレモン・アスレティカは85.3%も伸びて1億ドルを超え、全社売上に占めるシェアも2.5ポイント上昇して10.6%に達している。
 12年度に入って第一四半期の平均既存店売上も102.1とプラスを継続。アメリカンイーグル・アウトフィッターズが117.0と急伸し、ルルレモン・アスレティカも116.0と好調を継続。ミセスSPAのチコス・ファス(109.6)、リミテッド・ブランズ(107.0)も好調を継続、ギャップも104.0と浮上したが、アバークロンビー&フィッチは95.0と再失速している。

最注目は「ジョー・フレッシュ」とJCペニーの革命

 非上場で決算数値は公表されていないが、北米市場で急成長が注目されるのがカナダ発のファストファッションSPA「ジョー・フレッシュ」だ。同ブランドはカナダ最大のSMチェーン、ロブロウ社が「クラブモナコ」の創設者、ジョー・ミムラン氏をクリエイティブ・ディレクターに起用して開発した衣料品PBで、06年に「ロブロウ」の生鮮売場の隣りに40店舗のインショップを布石。当初のレディスウェア&メンズウェアに07年にはスリープウェア/ランジェリー/キッズウェアを加え、08年にはスイムウェア/シューズ/バッグ/サングラスなどを加えて「ロブロウ」内インショップは300店に拡大。09年にはコスメティックスを加え、10年には初の独立店舗を出店。11年10月にはニューヨーク州とニュージャージー州の郊外SCに出店して米国進出を果たし、同年11月にはマンハッタンの5番街16丁目に約910平米、翌12年3月には5番街43丁目に約1300平米の旗艦店を出店。現在は「ロブロウ」内330のインショップと独立店舗20店(カナダ12店/米国8店)を展開している。売上は公表されていないが、創業2年目の07年度で4億カナダドル(約323億円)、今期は10億カナダドル(約807億円)に到達すると見られる。
 「ジョー・フレッシュ」のコンセプトは1)お手頃ペーシック、2)チープ&シック、3)プレッピーな清潔感と遊び心、4)モードトレンドを程よくミックス、5)フルーツやベジタブルを思わせるクリーンカラーで、カナダにおけるメインターゲットは中流のミッシー層だが、20〜30代の男女からも支持されている。価格はスカート29ドル、ジーンズ19ドル、Tシャツ10〜12ドル、Vネックセーター19ドルと「ユニクロ」や「H&M」より低く、「フォーエバー21」に近い。品質は「H&M」クラスで「ユニクロ」には劣るが、フレンチモダンな若々しいデザインやクリーンなカラーが人気を得て予想外の急成長を遂げ、既にカナダではナンバー2のアパレルブランド(キッズではナンバー1)となっている。
 一方で業界の注目を集めているのがアップルストアの立役者、ロン・ジョンソンを高額報酬(全米ファッション業界首位の年俸5328万ドル)でCEOに招聘して革命的な再建を急ピッチで進めるPDSのJCペニーで、その改革の骨子は以下の4点他と伝えられている。
 1)特売体質からローコストEDLPへ
 年間590回もセールイベントを打って膨大な販促費を垂れ流し、全商品の72%を50%以上値引きして売っていた特売体質をリセットし、売価を40%低いフェア&スクエア価格に改めて価格信頼感を取り戻し、セールを月一回に限定して販促費を抑制する。
 2)アップル方式のITテク導入による提供方法革新
 O2OやARのテクノロジーを売場に導入してVMDを革新し顧客とのコミュニケーションを緊密にするとともに、全店にWiFiとRFIDタグを導入してモバイルチェックアウトとセルフチェックアウトを実現し、13年中に現金決済とレジスターを全廃する。
 3)カテゴリーゾーニングからメインストリート・ゾーニングへ
 これまで多数のブランドが混在したターゲット/カテゴリー別の平場的構成を廃し、有力ブランド/SPAを軸としたテーマ別/ブランド別のメインストリート(モール感覚)ゾーニングに切り替える。その形態は2000sf級の「STORE IN STORE」、500sf級の「SHOPS」、300sf級の「BOUTIQUES」で、「STORE IN STORE」は「セフォラ」や「マーサスチュアート」「ジョー・フレッシュ」、「SHOPS」は独占ブランドの「MNG by MANGO」や「リズ・クレイボーン」などが相当する。
 4)オリジナルブランドを75%まで高める
 これまでのメーカー系独占ブランドに加え、SPA的な垂直統合体制でオリジナルブランドを開発し、差別化とバリュー競争力を実現する。  この他、5)組織階梯を簡略化して機動性を高めコストを圧縮する、6)販売員の給与体系を歩合制から固定給制に変える、も伝えられている。総じて複雑化した組織と業務、顧客アプローチと提供方法を明快に簡略化し、コールズに匹敵する営業経費率(現31%→21%)にシェィプアップしてバリュー訴求力を高めるというもので、スティーブ・ジョブズの「Simple is best」の理念が通底している。
 昨年11月から着手した改革は組織や顧客の混乱を招いて2〜4月期の売上は20%も減少、5〜7月期も売上が22.6%減少して1億8300万ドルの営業赤字を計上するなど、荒療治の成果は未だ上がっていないが、かつてウォルマートが特売政策からEDLPに切り替えた際も7ヶ月間、売上が激減したというから、わずか2四半期で成果を期待するのは酷と言うものだろう。改革の成否は未だ見えないものの、最新のテクノロジーとアップル流のサプライヤーマネジメントを駆使してシンプル革命を断行するロン・ジョンソンの錬金術に全米のリテイラーが注目している。
 そんな大革命中のJCペニーがメインストリート・ゾーニングの目玉のひとつとして挙げたのが「ジョー・フレッシュ」で、売場面積は93〜186平米と小型だが13年4月までに700店舗近くに導入され、JCペニーのショッピングサイトでも販売される。これにより、「ジョー・フレッシュ」は「H&M」を大きく上回る拠点数を米国に布石する事になり、全米小売業が注目するパワーSPAに躍り出たのだ。

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