小島健輔の最新論文

マネー現代
『「エコ商品」はほんとうに地球に優しいか…?日本人に知ってほしい「意外な真実」』
(2021年04月06日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

それは本当に「地球環境に優しい」のか…?

様々な企業や団体が異口同音に謳う「地球環境に優しい」は各社・各団体が標榜するベクトルも様々で、中には逆方向で打ち消しあっているものさえある。

石油化学材料を否定して自然材料を使えば伐採や乱獲で自然を破壊しかねないし、動物愛護を謳ってエコファーを使えば石油化学材料の使用が拡大してしまう。排ガスを放出する内燃機関を否定してEVなど電気動力にシフトすれば、その電気を作るため火力発電や原子力発電が増えかねない。

日本の発電量の8割は火力発電で、石炭や石油、LNG(液化天然ガス)を燃やした蒸気でタービンを回して発電するからCO2を量産してしまう。東日本大震災前は25%近くを占めていた原子力発電は14年までに全炉が停止してゼロになり、15年以降は徐々に再稼働して5%近くまで回復しているが、福島第一原発の廃炉作業は進まず原発事故の記憶は国民の脳裏から消えることはない。

言うは易し、行うは難し…

自然エネルギー発電を志向すれば水力発電や太陽光発電、風力発電や地熱発電、小規模自家用ならバイオマス発電もあるが、ダム湖を要する水力発電は地域の犠牲が大きく開発余地は限られ、シェアも10%台に低下している。水力を除いた自然エネルギー全体では6%近いが、風力発電や地熱発電は適地が限られ、発電量シェアもコンマ以下だ。

近年、急激に拡大しているのが太陽光発電だが、大規模太陽光発電は大地の熱循環を妨げ、植生と保水を損なって土砂災害を招き、自然景観を致命的に破壊する。普及とともにコストは低下しているとは言え太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーはまだ高く、急速な拡大は一般家庭など受益者に少なからぬ負担を強いることになる。

結局のところ、何かに肩入れすれば別の何かを損なうわけで、自然循環を妨害することにもなりかねない。「エネルギー不滅の法則」を持ち出すまでもなく「作用・反作用の法則」を考えても解る理屈で、自然循環に人間が介入すれば玉突きの変化が生じて想定外の結果を招いてしまう。「地球環境に優しい」って、言うは易いが実効性は極めて難しいのが現実だ。

※各電源比率は資源エネルギー庁電力統計の20年4〜12月平均。

自然の営みに割って入って地球環境に働きかける難しくも壮大な試みの前に、自らの営みをサステナブル(継続可能)で「地球環境に優しい」ものにすることが先決ではないか。

 

「本業のサステナビリティ」こそが問われる

アパレル企業のサステナブル行動はA)生産・製品化段階、B)流通・販売段階の二つのアプローチがあると思われる。

A)生産・製品化段階
 1)自然素材や無農薬のオーガニック素材を使う。
 2)自然分解する素材、あるいは再生が容易な素材や再生素材を使う。
 3)原材料段階での自然負荷を抑制し動物保護に留意する。
 4)加工段階での環境負荷を抑制し労働環境に留意する。
B)流通・販売段階
 5)無理のないオンデマンド(需給一致)な調達で売れ残りを最小化する。
 6)賞味期限が長く耐久性もある(使い捨てでない)商品開発に注力する。
 7)何シーズンも継続販売する定番性とサプライチェーンの継続性に注力する。
 8)既販品の再流通をトレースしてリユース価値を高める仕組みを築く。
 9)売れ残り品や中古品をサルベージしたりリメイクして再流通させる。

生産・製品化段階でのアプローチは様々に試みられているしわかり易いが、思い込みで自然循環を妨げぬよう「エネルギー不滅の法則」「作用・反作用の法則」に留意すべきだし、消費者が許容できるコストに抑えないと需要が広がらず、実効性も限られてしまう。

「オーガニック」と言っても化学肥料も何年も使用していないのか農薬だけの回避なのか、費用対効果のバランスも消費者の理解も難しい。ましてや産地の労働環境や人種差別まで問えば、販売面のカントリーリスクも生じて選択肢はきわめて限られてしまう

実効性という点でも消費者の理解という点でも流通・販売段階の方が格段にプレゼンスが大きく、そこでの環境負荷や分断性を放置したままの「サステナブル・キャンペーン」では免罪符的なスタンドプレイと受け取られかねない。

「使い捨て」ない商品開発へ

環境負荷を考えれば売れ残りの最小化は必須課題で、無理のない計画で作り過ぎないことに加え、実需に即応できるオンデマンドなサプライ体制が問われる。

トレンドを追って賞味期限の短い売れ残りリスクの高い商品に手を広げず、着用機会が多く何度も永く着れて洗濯耐性も高い「使い捨て」でない商品開発に注力するべきだ。

実際に廃棄を最小化するには、これらに加えて何シーズンも継続販売できる商品の定番性、サプライヤーと連携して需給ギャップを最小化するVMI製販同盟など、サプライチェーンの機動性と継続性も問われる。販売もサプライも、分断しては需給ギャップとロスが生じる。「サステナビリテイ」とは確かな繋がりの継続なのだと理解して欲しい。

新作品の市場価値を維持向上して売れ残りロスを最小化するには既販品の再流通価値を高める必要があり、高級自動車ブランドでは車体番号でトレースして自社整備した「アプルーバルカー」(メーカー保障付き中古車)で中古車相場を下支えしている。

宝飾品や高級時計ではシリアルNo.(製造番号)でトレースするのは一般的だが、アパレル製品やレザーグッズでも極小サイズのインレイ(ICタグの中身のチップとアンテナ)を生産段階で縫い込んでトレースすれば再流通管理も真贋判定も容易になる

一般消費者が真贋を読めるアプリを無償配布すれば違法コピー品流通も根絶できるかも知れない。

※VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給・補充生産を委任する取引形態。

EVシフトの現実と帰結は?

欧米諸国が脱炭素政策でEVシフトを加速し、もはや決定的な潮流となった感があるが、それは利便性を高め地球環境を改善するのだろうか。

EVシフトが進めば電気需要が逼迫して発電量の拡大が必要になるが、自然エネルギー発電シフトが進んだ欧州(総発電量の40〜80%)はともかく、20%にも届かない我が国でEVシフトが進めば火力発電か原子力発電かという苦しい選択を迫られる。それを回避して全国津々浦々に大規模太陽光発電プラントが広がれば自然循環が大きく妨げられ、植生と治水がダメージを受け却ってCO2も増え、日本の景観は決定的に破壊されてしまう。

EVシフトが進んでも急速充電スタンドの整備は追いつかず(規格も未統一で汎用性を欠く)、充電待ちによる時間ロスや渋滞も懸念される一方、燃費の改善などで減少が続いているガソリンスタンドの廃業がさらに加速してICE(内燃機関駆動車)の使用利便も損なわれるなら、国民のモビリティや経済効率も劣化する。

近距離利用の大人しいシティコミュータならともかく、導入期の電池コストの高さをカバーすべく高級EVの開発が競われ、0〜100km加速が2.5〜5秒などというスーパーカー並みのモンスターがハイウェイに溢れると煽り合戦となりかねず、交通の危険性も指摘される。

いち早くHV(ハイブリッド駆動車)、PHV(プラグイン・ハイブリッド駆動車)を開発して脱ICEをリードして来たトヨタはFCV(燃料電池駆動車)も開発する一方、純粋のEV(電気駆動車)開発には消極的で、EVシフトを加速する欧州や中国の自動車メーカーや新手のEVベンチャーに遅れを取るのではないかと危惧されている。

そのリスクは否定できないが、自然エネルギー発電が遅れて火力発電に依存し、国内保有自動車8247万台(20年末)のうちHVは1200万台近いがEV・PHV・FCVは合わせて30万台に届かないという我が国の実情を正視するなら(次世代自動車振興センターの19年集計から推計)、HV、PHV、FCV、インターシティEVとシティコミュータEVなど「多様性」の中から合理的な分担に帰結すると見るトヨタの深慮遠謀は尊敬に値する。

アパレル業界が「トヨタから学ぶべきこと」

理性的に鳥瞰するなら近年の高級高性能EVのブームは過渡的なもので、長距離利用のインターシティビークルは高性能なPHVとFCV、短距離日用利用のシティビークルはお手頃なコミュータEVに帰着するのではなかろうか。

とりわけ20年末で保有台数の40.5%(3341万台)を占める軽自動車のうち大都市圏の市街地で使用されているものの多くは、軽自動車より安価で家電感覚のシティコミュータEVに替わっていくに違いない。

トヨタはそんな近未来を見据えているのかも知れない。ならば、大手アパレルにも近未来の衣服生活を見据えたサステナ政策が問われるのではないか。

論文バックナンバーリスト