小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『「フォーエバー21」「アメリカンイーグル」「エディー・バウワー」
再進出にみるスキームの選択』
(2022年09月27日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 日本から撤退した外資アパレルの再進出発表が続いているが、一度は撤退しただけに再進出の成功は容易ではあるまい。元より日本市場での評価が低かったから撤退に至った訳で、よほどイメージを刷新するか次元を画したマーケティングで強襲しない限り成功はお没かない。ライセンシングで挫折したのなら直営で、直営で挫折したならライセンシングでという選択もあるのではないか。

 

■「アメリカンイーグル」に成算はない

 19年末に撤退した青山商事子会社イーグルリテイリング運営の「アメリカンイーグルアウトフィッターズ」は米国本社が運営を肩代わりするという観測もあったぐらいで、20年7月には早くも米国本社が運営する日本向け公式オンラインサイトが開設され、今10月には渋谷と池袋に直営店を開設して再上陸する。

 公式サイトで確認した限りでは価格も商品も撤退前と同様で新味がなく、根本的な敗因となった『「ユニクロ」より高いのに「ユニクロ」より格段に見劣りするチープな品質感』も変わっていないようだ。再進出するなら撤退に至った要因を検証して日本向けに素材や縫製をレヴェルアップするべきだと思うが、それでは価格が上がって居場所がなくなるから苦戦覚悟で強襲することになったのだと推察される。その分、家賃負担の大きい都心の大型店舗に依存せず、後述する「フォーエバー21」同様、半分前後をECで販売して採算を図ると思われる。

 そもそも外資アパレルは上から目線で本国企画を押し付けることが多く、よほどの事業規模にならない限りローカルフィットやローカル企画に踏み切ることはない。「ZARA」など98年に進出してコロナ前の最盛期には94店に達していたのにローカルフィットにもローカル企画にも踏み込まず、貧困化しモード離れする日本市場に見切りをつけた感がある。ローカルフィットに積極的だった「ギャップ」も価格設定が日本市場の値頃感と乖離して値引き販売が常態化し、「オールドネイビー」の短期間での撤退もあって何時撤退するのかと危ぶまれている。

 日本のカジュアル市場には「ユニクロ」というガリバーがいて大きな参入障壁となっており、品質感でも値頃感でも「ユニクロ」に劣る“アメカジ”の「アメリカンイーグル」が日本市場に定着するのは極めて困難だ。カジュアルインナーの「エアリ」はまだ競争力があるが、より低価格の「GU」や「3COINS」がカジュアルインナーを拡充していけば価格が通らなくなるのは時間の問題だろう。

 イーグルリテイリングによるライセンス運営から本国資本による直営へと転じても、商品も価格もMD展開も変わらないとすれば、インフルエンサーを起用してのキャンペーンも期待するほどの効果は得られないのではないか。「アメリカンイーグル」の再上陸に成算はないと思う。

 

■「フォーエバー21」はアダストリアがライセンス展開

 米国本社の連邦破産法申請に伴い19年10月末に日本国内店舗を閉鎖して撤退した「フォーエバー21」の場合はかなり状況が異なる。米国本社が運営して米国と同じ商品(サイズなどアソートはローカライズされるだろうが)を展開する「アメリカンイーグル」と異なり、ライセンス契約したアダストリア(正確にはライセンス事業を専門に行う子会社Gate Win)が独自のローカルマーケティングに基づいて商品企画・生産、MD展開・販売運営するからだ。

 「フォーエバー21」は経営破綻後の20年2月、リブランディング再生のオーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)がサイモン・プロパティ・グループ、ブルックフィールド・プロパティ・パートナーズと共同で買収後、大量廃棄のファストファッションというイメージから脱却してサステイナブルを志向し、ローカルマーケティングで米国のみならず海外でも再拡大を図っている。

ABGは19年の「バーニーズ・ニューヨーク」、20年の「フォーエバー21」と「ブルックス・ブラザーズ」、21年のPVHからの「アイゾット」、「バン・ヒューゼン」、「ジェフリー・ビーン」、「アロー」の買収を経て20年7月にニューヨーク証券取引市場に上場。21年にはさらに日本から撤退した「エディ・バウアー」、22年には「リーボック」、「テッド・ベーカー」も手中に収めている。

日本ではマスターライセンシーとなった伊藤忠商事とライセンス契約したGate Winが米国企画をベースに、独自のローカルマーケティングでデザインやパターン、素材や生産仕様まで日本市場向けにローカライズした商品を展開する。商品点数は以前の十分の一に絞り込んで2023年春夏は100余型で立ち上げ、日本オリジナル企画を8割、米国企画は2割として以降は反応を見て対応するとしているが、立ち上げの型数から見ても4000円という平均商品単価から見ても開発チームの陣容から見ても、かつてのファストなバイイングSPAとは一線を画した企画・開発になると期待される。

それで客単価が5800円ではパック率が1.45に留まるからコーディネイト設計を欠く単品構成かと疑いたくなるが、6割をECで売る流通設計ゆえのパック率で、店舗販売だけ取れば1.7とか1.8ぐらいにはなると推察される。

来年2月21日からアダストリアの自社ECサイト「.st」で先行スタートし、店舗販売は4月下旬から郊外大型SCで始めるとしており、『6割をECで売る』こと、100坪〜150坪の標準店を展開して高コストな大型旗艦店を設けないことも含め、MDも流通コストも慎重に設計されているようだ。その意味では『駅ビルも視野に入れる』はリップサービスというべきで、賃料や人件費などの運営コストを考えれば郊外ターミナルかローカルターミナルまでになるのではないか(期間限定のポップアップなら都心駅ビルでも可)。

初年度3店舗を出店してEC含めて13億円を売り、5年で15店舗、EC含めて100億円売るという計画も近年のアダストリアの力量からすれば控えめで、早期の黒字化を見込んでいると思われる。

 

■微妙なプライスポジションとブランド価値

平均商品単価4000円というプライスは「ユニクロ」より半マーク上という微妙なポジションだが、アダストリアの開発体制と生産ロット、販売消化歩留まりや販管費率から導かれる損益構造には無理がない。逆にいうなら今のアダストリアの開発体制や販売体制の延長を出ておらず、新生「フォーエバー21」というリブランディングのマジックも『6割をECで売る』という流通コスト軽減効果も見込まれていないようだ。

日本市場から脱落したモノづくり背景も無いブランドをわざわざライセンス契約してトライする意味があるのか、という疑問も浮かぶ。どうせライセンス契約するなら「ザ・ノースフェイス」や「チャンピオン」クラスのグローバル・ナショナルブランド(国毎に直販・直卸かライセンシングを選択して世界で数千億円のマーケットを獲得している)であるべきではなかったか。ならばリユースまで含めた息の長い大きな市場が期待できたのに、選択するブランドを間違ったのではないか。

商品開発体制からも『6割をECで売る』という流通からも、同社子会社のバズウィットのようなD2Cアパレルを想起させられるが、平均商品単価4000円は低すぎて、そこまで丁寧なモノづくりとはなり得ない。アダストリアの主要ボリュームブランドと同程度の価格だから、同程度の品質と味付けになるのだろう。それではSCのボリュームゾーンSPAという典型的なレッドオーシャンに、またぞろ戦力を裂くことになり、先を見た賢明なポートフォリオとも言い難い。

かつての「フォーエバー21」の低価格ファストファッションを受け継ぐなら、中韓の工場から消費地の顧客にSAL便(郵便小包)で直送するSHEIN型の越境D2Cという選択もあったかも知れない。出荷国と消費国の関係によっては増値税も関税も消費税も回避し、DX駆使の小ロット多頻度反復生産と航空便の部分利用によるタイムマシンマジックで事実上の無在庫販売を成立させるというビジネスモデルが日本資本にも可能なのか、トライする価値は十分にあると思う。

アダストリアがライセンス展開する新生「フォーエバー21」は話題性はあるものの、元々はモノづくり背景とは無縁のバイイングSPAでしかなく、日本市場で2度も死んだブランドであり、アダストリアが陥っているレッドオーシャンを脱出する突破口とは到底なり得ない。ライセンス戦略と言ってもグローバル・ナショナルブランドのようなオリジンも大きな市場性も無く、これまでの延長上の消耗戦となりかねない。戦略的には無意味の投資だと思う。

 

■「エディ・バウアー」もABGと伊藤忠商事のスキーム

 「エディ・バウアー」は21年末に日本から撤退して間がないというのに、23年春夏物からライセンシングで再上陸する。実は「エディ・バウアー」も「フォーエバー21」とほとんど同じスキームなのだ。

 「エディ・バウアー」は21年5月にABGに買収されて一旦は日本から撤収し、リブランディングの方針が定まってライセンシングで再上陸することになった。マスターライセンシーは同じく伊藤忠商事で、岐阜のアパレルメーカー水甚がメンズ/レディス/キッズウエアのサブライセンシーとなって、直営店とオフィシャルECサイト、百貨店、セレクトショッブ、スポーツ専門店への卸事業を展開する。

 アダストリアの新生「フォーエバー21」のように記者発表会で詳細が開示されたわけではないから想像の域を出ないが、往時の勢いはないとは言えオリジンの企画がある正真正銘のアウトドアブランドであり、「ザ・ノースフェイス」や「チャンピオン」などとは比較できないにしてもグローバル・ナショナルブランドの一角に位置する。90年代の最盛期には200億円を売り上げた「チャンピオン」だって15年末にゴールドウインが手放した時は50億円まで落ち込んで赤字事業に転落していたわけで、ローカライズのやり方次第で大きく育つ醍醐味がある。「チャンピオン」はヘインズブランズ(元々のブランド所有者)ジャパンの手によって往時の勢いを超えて復活しているからゴールドウインの失ったものは大きく、「ザ・ノースフェイス」一本足経営を強いられている。

 グローバル・ナショナルブランドのライセンシングという定石スキームが効く「エディ・バウアー」の方が成功確率が格段に高く、市場規模も桁違いに大きくなる可能性がある。水甚という会社は年商105億円と規模は大きくないが、08年には米国スポーツブランド「ファーストダウン」の商標権を獲得、18年には「ヘンリーコットンズ」、20年には「アーノルドパーマー」のライセンスを契約している。グローバル・ナショナルブランドをライセンス展開する事業体制が認められているわけで、「ザ・ノースフェイス」人気で化けたゴールドウインのように「ファーストダウン」や「エディ・バウアー」で大化けする可能性もある。

 アダストリアの「フォーエバー21」がマーケットの再獲得を自らのスキルに依存するのに対し、水甚は「エディ・バウアー」のライセンス契約で自らが持たないマーケットを手にすることができる。ライセンス契約において何方が賢明な判断か、考えさせられる。ゴールドウインの「チャンピオン」、三陽商会の「バーバリー」のケースも振り返り、ライランスビジネスの肝要がどこにあるのか、考える機会となれば幸いだ。

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