小島健輔の最新論文

販売革新2008年7月号掲載
『SC大異変にかく対応せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 景気後退による消費冷却やガソリン価格の高騰に都市計画法改正前の駆け込み乱開発が加わり、SCの販売情況は急速に冷え込んでいる。既存SCの不振に加えて新規開設SCの失敗率も急上昇しており、開業景気も山が小さくなって短期化している。いったいSCに何が起こっているのだろうか。

不振SCが急増

 昨春以降に開業した大型商業施設の販売成績を出店したテナント企業のアンケート回答(販売予算の達成率)によって総括したが、あまりの不振率に声も出なかった。31SC中、好調なのはイオンモール羽生、イオン各務原SC、イオン鹿児島SCだけで、まずまずの評価まで加えてもたったの6ケ所に留まる一方、散々という評価のSCがなんと20ケ所にも昇った。これでは打率2割強で、何千万円もかけて出店しても不振店舗を増やすだけというのが実情だ。06年までの新規開業SCでは高評価SCも3割程度あり、低評価SCもほぼ 4割に留まっていたのと較べれば、急激な情況悪化と言わざるを得ない。
 この31SCに06年秋冬開業の14SCを加えた45SC中、テナント評価のベスト5は1)ラゾーナ川崎、2)イオンモール羽生、3)イオン大日SC、4)イオン各務原SC、5)ららぽーと横浜で、イオン鹿児島SC、ロックシティ防府、イオン富士南SCも評価が高かった。ワースト5は1)イオン大垣SC、2)ユニモちはら台、3)イオン盛岡南SC、4)浦和パルコ、5)ララガーデン春日部で、アクアウォーク大垣、イオン石巻SC、イオン高松SC、イオン高の原SC、ノースポートモールも低評価が目立った。この45SC中、好調〜まずまずの評価はわずか10ケ所、散々という評価が24ケ所にも昇り、成功率は2割強に留まった。
 加えて、昨年同時期のアンケートでも回答された19SC中、7割近い13SCが今回の評価を落としている事が特筆される。評価が上昇したのは隣接地に神戸三田プレミアムアウトレットが開業して客数が急増したイオンモール神戸北ほか4ケ所だけで、イオンモール高崎、ららぽーと横浜、イオンモール名取エアリ、静岡パルコは大きく評価を落とし、アリオ八尾、イオンモール鶴見リーファ、イオン八幡東はマイナス評価に転落している。開店景気の一巡に加え、ライバルSCの開業や消費冷却も響いたと推察される。

商圏不足と企画ミス、ライバルSC開業の三重苦

 新規開設SCの不振要因は、1)十分な商圏を確保出来ない案件を無理に開業させた、2)商圏/立地の特性と合致しないSCを思い込みで開発した、の二点に尽きる。後者はSC開発で陥り易い罠で昨今に限った事ではないが、前者は07年以降に特有の現象と言えよう。本来なら開発を思い止まるべき案件を都市計画法改正前の駆け込みで見切り発車したと思われるケースが目立つからだ。  イオン高松SCやイオン高の原SC、アクアウォーク大垣などは競合関係が厳しく予算達成が困難な事は十分予見されたSCで、それでも開発を強行した事が危惧された結果を招いた。サンストリート浜北は競合関係に加え、エンターテイメント施設に片寄って物販テナントのバラエティを欠いた事が不振に輪を掛けた。ゆめタウン広島は競合関係に加えて6本の河川がアクセスを阻み、本店と位置付けた全力投球によっても現実は変えられなかった。ロックシティ守谷とユニモちはら台は過小な商圏に過大な構成を組んだ無理が指摘される。
 ノースポートモールは大型商業施設が競い合う郊外ターミナル立地に狙い不明な雑居ビル、ララガーデン春日部は寂れたダウンタウン立地にライフスタイルセンターというミスマッチが指摘され、立地や商圏の特性と懸け離れた構成が不振を招いたと思われる。浦和パルコはあまりに全方位を向いた構成と雑居ビル的に交錯したテナント配置が不振を招いたのではないか。
 開業から一周したSCの売上急落は一般的には開店景気の一巡が要因だが、07年に限ってはライバルSCの新設に因るケースも目立った。06年11月開業のららぽーと柏の葉は07年3月に隣駅に開業した流山おおたかの森SCにより、07年3月開業の静岡パルコは07年10月に200mの至近距離に開業した静岡109により売上が減少したと推察される。イオンモール伊丹テラスとつかしん、イオン高の原SCと奈良ファミリー、イオン高松SC、ララガーデン春日部、サンストリート浜北など、直接的なダメージが予測されるライバル施設の開業が迫るSCは枚挙に暇が無い。
 この十年間で八百近いSCが開発されて全国に2848(07年末)ものSCが犇めいているのだから、よほどのローカルでない限り、新たなSCの開発は既存SCの商圏を侵食してしまう。この間にSC面積は6割強も増え平均販売効率は7掛けまで落ち込んだが、情況は一段と悪化しつつある。
 都市計画法改正に伴う駆け込みで40前後の大型商業施設が開業する今年は無理に開発した物件も多く、新規開業SCの不振率はさらに高まると思われる。それらの開業による周辺SCの売上減少も避けられず、SCの混迷はさらに深まって行かざるを得ない。  今秋から来年開業/増床する大型SC18ケ所の商圏と競合関係を検証して売上と販売効率を予測してみたが、太鼓判を押せるのはイオンモールの筑紫野、草津、春日部、増床案件の旧ワンダーシティと橿原アルル、他社案件ではゆめタウン出雲の計6SCだけで、他12SCはお勧めし難い。新設SCに限れば成功期待SCはほぼ4つに一つという確率で、これから開業するSCの成功率も低いのが実態だ。

テナント企業はどうすべきか

 国家財政破綻にともなう増税や社会負担増、諸物価高騰と世界的な景気後退という四面楚歌の中で消費冷却は長期化せざるを得ず、店舗網拡大という情勢ではない。むしろ、逸早く不振店舗を整理し、売上拡大より収益確保を優先すべきだ。そんな中で売上予算達成の疑わしいSCにまで出店するのは自殺行為に他ならず、徹底した精査選択が求められる。新規開設SCの成功率が二割そこそこなら、その二割のSCだけを選択して出店すれば良いのだ。
 成功するSCと失敗するSCの判別は極めて容易で、ほとんどの場合、デベロッパーがテナント募集パンフレットで公表する構成計画を元に商圏データと競合関係から開業後の売上は正確に計算出来る。周辺にライバルSCの計画がある場合は、それらの開業後の売上も算出する。当社はほとんどの新設大型SCについて開業12ヶ月前を目安にSC全体の売上とテナントの平均販売効率を予測し、会員企業に情報を提供している。最近の予測精度は誤差5%以内だから、出店判断には十分と思われる。06年秋以降に開業した45SC中、予測を外したのはわずか1SCのみで、44SCについては開業後の販売成績と当社の事前予測はほぼ一致していた。何千万円も溝に金を捨てたくなかったら、当社の予測を活用していただきたい。
 新設SCより既存SCの増床案件の方が優良案件が多く、数字も正確に読めるから安全性が高い(増床案件についても売上予測情報を提供している)。増床にともなって定期借家契約明けの既存テナントも大幅に入れ替えるケースが増えているから、新設SCより増床案件を優先して出店すべきと思われる。
 定期借家契約明けでデベロッパーに追い出されるにせよ自らの判断で撤退するにせよ、不振店舗は引き摺らず早期に整理した方がよい。商品や店舗要員を好調店に集中した方が収益性は格段に高まるからだ。販売員不足や人件費の高騰、在庫回転や消化率を考えれば、当然の選択であろう。情勢は日に日に悪化しているのだから。

SCデベロッパーはどうすべきか

 テナント企業の出店意欲が急冷しSC選択が慎重になる中、SCデベロッパーはどうしたら良いのだろうか。まずは勝てないSCの開発を思い止まるべきだ。実勢商圏の不足や競合の激しさで開発しても売上が見込めないSCはリーシングにも困窮し、開業しても苦労するだけだ。失敗という結果が明らかになれば、今後の新設SCのリーシングにも災いする。まずまず行けるSCでも、将来のライバルSC新設リスクが明らかな場合は慎重な検討が必要だ。回収が求められる商業投資なのだから、大垣のような相討ち死にや奈良のような自爆は回避しなければならない。  開発を進めるのなら、立地や商圏特性を真摯に検証し、アイデアや空論に振り回される事なく、適確な構成を組まなければならない。実勢商圏を慎重に見極め、過大過小な構成、過度にエンターテイメント性を強調した構成や過度にアップスケールな構成、過度にコンセプチュアルな構成は避けるべきだ。立地や商圏の特性、競合関係を無視してアミューズメントセンターやライフスタイルセンターを謳った失敗例は枚挙に暇が無い。「観覧車の立ったSCとライフスタイルセンターは危ない」というのが最近の実感だ。  新設SCの開発で大きなリスクを踏むより既存SCの増床で確実に売上を拡大する方が利口な選択と思われる。郊外SCの多くは増床余地が大きく、増床による商圏拡張が読めるケースが多い。名古屋の旧ワンダーシティ、イオンモール橿原アルル、イオン浜松市野SCなど、大規模増床による成功が確実視される案件だ。

<06年秋以降開設大型商業施設のテナント企業による評価ランキング>

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