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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『アウトレットモールの明日を開くOPS』 (2018年11月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 地方や郊外では閑古鳥が鳴く商業施設も少なくない中、インバウンド需要も加わってアウトレットモールはどこも盛況だ。しかも、テナントもデベも一般の商業施設より確実に儲かる構図が成り立っている。なのに12年末の36施設から17年末で37施設とほとんど増えていない。消費者にも業界にも魅力がいっぱいなのに、どうして開発が進まないのだろうか。

停滞するアウトレットモール開発

 日本のアウトレットモールは93年3月開業のアウトレットモール・リズムに発祥し、00年7月の御殿場プレミアム・アウトレット開業で本格的な発展期を迎え、今日では三菱地所・サイモン(旧チェルシージャパン)系9施設、三井不動産系13施設を中心に37のアウトレットモールが存在するが、ラグジュアリーブランドもそろうAクラスは10に届かず、国内ブランドがそろって活気があるBクラスまで含めても20に届かない。

 10年9月にはリバーサイドモール、11年6月にはリズムが閉鎖され、18年4月には大洗リゾートアウトレットが通常型商業施設に転換するなど、小規模モールの淘汰も進んでいる。有力モールとてライバルモールとの増床合戦で後手に回れば売上げの減少は必至で、敷地の拡張余地と資金力、リーシング営業力を競う総力戦を呈している。新規に開設される以上に淘汰され閉鎖あるいは開店休業化していくモールも多く、このままではアウトレットモールは増えようがない。

 主要施設計の売上規模も05年の2106億円(12施設)から15年は6748億円(22施設)と3.2倍に伸びたが、16年は23施設で6829億円、17年も23施設で7192億円と増床効果を除けば伸びが鈍化している。

有力モールは消費者にもテナントにも魅力

 立地やテナントバラエティに劣るC〜D級モールはともかく、A〜B級モールは販売効率も通常のSCより格段に高く、ラグジュアリー系がそろう上位5施設の坪販売効率は年間400万円を超え、トップの御殿場プレミアム・アウトレットは673万円に達する。売上伸び率も通常施設より高く、14年から17年の3年間で増床を伴わない上位11施設の合計売上げは12.4%も伸びている。

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 都市圏から離れたリゾートやローカルの立地故、デベの投資もテナントの家賃負担も軽く、出店テナントの平均売上対比不動産費率は17.6%と郊外大型SCの21.2%より3.6ポイントも低く、運営人件費まで含めたトータルコストは31.6%と郊外大型SCの38.0%より6.4ポイントも低い。坪当たりの敷金は平均20.3万円と駅ビルの半額、内装費も平均38.8万円と郊外大型SC並みでファッションビルの75掛けで収まっており、初期費用の負担も軽い(以上、全てSPACメンバー出店事例平均)。アウトレットモールは出店テナントにとってもおいしいのだ。

 生活圏から離れた遠隔地にあって、わざわざ高速道路を使って出掛けていくアウトレットモールがそんなに売れるのは30〜50%、時には70%オフというお買い得価格はもちろん、ブランドショップが200以上もそろう圧倒的なバラエティの魅力に他ならない(だから増床が競われる)。大型SCは多数のテナントがそろっていてもファッションブランドはせいぜい数十に止まるし、百貨店は各店舗で偏りがあって買い回らねばならない。しかも、どちらも混雑して快適なショッピングは望めない。その点、最近のアウトレットモールは飲食サービスやアミューズメントも充実しているから、多数のブランドを非日常的リゾート気分でストレスなく1カ所で買い回れる。

 加えて、百貨店の閉店やブランドショップの撤退で買物難民があふれる地方や都心から離れた郊外ではブランドショップがそろった商業施設は他になく、最新シーズンの商品でなくても少しも困らないから、百貨店やファッションビル代わりに重宝されている。 

どうしてアウトレットモールは増えないのか

 消費者にもブランドビジネスにもおいしいアウトレットモールなのに、どうして開発が停滞しているのだろうか。意外に思われるかもしれないが、商品が足らなくてテナントがそろわないのだ。ファッション業界は慢性的な過剰供給で流通在庫があふれかえっているはずなのに、アウトレット店で売る商品が不足するとは信じ難い話だが、事実なのだから仕方がない。

 流通在庫は確かにあふれているが、ドカッと発生する時期もあれば全く発生しない時期もある。アウトレット店とてお店を構えれば年中、商品をそろえる必要があるが、計画的に処分在庫を確保できるわけもない。在庫がないまま店を開けておけば費用倒れになってしまうから、出店できる店舗数は限られてしまう。ブランドのバラエティがそろわないから、アウトレットモールの開発も限られるというのが現実なのだ。

 それでも多数のアウトレット店を布陣しているブランドもあるが、そんなアウトレット店で売られている商品の大半はアウトレット用に作られた専用品にならざるを得ない。米国系のSPAブランドの中には98%が専用品というケースもあるし、国内ブランドでも専用品比率は年々上昇しており、最新の調査では平均して3割に迫っている。

 かつては持ち越した旧シーズン商品が大半だったが、それでは足りず、近年ではオンシーズン商品も早々とアウトレット店に並べられている。プロパー店舗の鮮度を保つ意味もあるが、アウトレット店の品揃えを補強し鮮度を加えるという目的が大きいようだ。

 その一方で、アウトレット店に並べられないまま焼却処分されたり、中古衣料や工業原料として二束三文で輸出されていく流通在庫も少なくない。アウトレット店では商品が足らないのに、アウトレット店に回せない商品が大量に処分されていくというミスマッチが起きているのだ。

OPSがアウトレットモールの未来を開く

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 日本では37カ所に留まるアウトレットモールも、米国では10倍の373カ所も存在する。米国でもアウトレットモールは96年の329カ所でピークを打って減少に転じたが、リーマン・ショック以降は再び急増している。再拡大を支えたのがアウトレットストアに代わって急成長し7兆円もの市場を形成したオフプライスストア(OPS)だ。

「アウトレットストア」はブランドメーカーや小売店が自らの売れ残り品を販売するのに対し、「オフプライスストア」は他から仕入れた売れ残り品を販売する。それ故、調達ルートを広げれば豊富な品揃えが可能で、容易に店舗を増やすことができる。実際、最大手のTJX社は平均800坪のストアを4070店、2位のロス・ストアーズは同600坪のストアを1622店も展開している(18年1月期)。OPSは郊外のパワーモールやストリップモールにも出店しているが、アウトレットモールのテナント不足を補ったことは間違いない。

 わが国でもOPSが出店するようになればアウトレットモールの開発が進み、ミスマッチで大量に処分されている流通在庫も販売の機会が広がる。ブランド側の意識転換や再流通システムの整備が必要とはいえ、ミスマッチを解消する効果は大きい。11月29日に開催するSPAC月例会「オフプライス/リユース流通総研究」が転機となれば幸いだ。

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