小島健輔の最新論文

販売革新2009年8月号掲載
特集GMSの衣料品改革
『企業最適の縮小スパイラルを脱出せよ!』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 量販店の衣料部門は93年以降、延々と縮小スパイラルを続けているが、それは生産の海外シフトと消費の冷え込みによる価格競争の激化(デフレ)や家計支出分野の多様化に加え、効率優先の絞り込み政策や時流対応の業態戦略という自身の企業最適行動が顧客を切り捨てた事が大きな要因と思われる。量販店衣料部門の17年間は茹で蛙的自殺行為の繰り返しに過ぎなかったのではないか。

量販店衣料衰退の17年間

 日本チェーンストア協会(一部にカテゴリーキラーも含まれるが大半はGMSとSM)の統計によれば、量販店衣料部門の売上は92年の3兆9300億円から年々減少し、08年には1兆5400億円と4掛け以下まで縮小してしまった。既存店売上は売場面積の拡大にも拘わらず17年間に渡って前年を割り続け、販売効率は3分の1程度まで低下したと推計される。
 90年代に入っての衣料品生産の急激な中国シフトとバブル崩壊に伴う消費不況を背景に衣料品の単価はジリジリと低下し、「しまむら」や「ユニクロ」など低価格業態が台頭して量販店衣料部門は受け身の価格競争に巻き込まれ、販売効率はジリジリと低下していった。販売効率の低下とともに在庫が圧縮されてテイストやデザインのバラエティが削られ、それがまた顧客離れを招いて販売効率がさらに低下するという悪循環に陥り、コスト圧縮のため売場要員も加速度的に削減されていった。こうして90年代初期まではお客で賑わった量販店の衣料売場は、お客も売場要員も疎らな閑古鳥が鳴く空間となっていったのだ。
 この間、顧客ニーズに対応する専門店型インショップ政策やNBショップの導入など多様化も試みられたが、販売効率の低下とともに平場は在庫圧縮を繰り返して顧客の期待を損ない、衣料品部門総体の集客力はジリジリと低下していった。衣料部門の衰退に輪をかけたのが、その時々の時流に左右された企業論理の業態戦略と効率化政策であった。

企業論理で紆余曲折したイオン

 イオンは01年6月開店の秋田五城目SC店を皮切りに、長引くデフレ局面に対応するエブリデイ・ロープライス訴求ローコスト集中レジ方式のスーパーセンター型店舗戦略を押し進めていたが、景気が上向いた06年3月開店のナゴヤドーム前SC店から一転して戦略PBショップ群を中核としたアップスケールなPDS感覚のイオンスタイルストアに180度方向転換。接客を重視したインショップによるPB拡販を狙ったものの、キャラも価格訴求力も鮮度も欠くPBショップは販売効率が低位に留まって運営コストに合わず、翌年以降は複数PBショップを合体して運営コストを抑制する方向に修正している。
 肥大したPBショップ群に圧されて品揃えの平場は大幅に圧縮され、顧客の選択巾が制約された事は否めない。PBショップの絞られたMDに加えて類似したPBショップ間の重複も指摘されるから、イオンスタイルストアによるアップスケール化はかなりの顧客を切り捨てる事になったと推察される。
 金融恐慌が実体消費に波及した今春以降はこの間のアップスケール戦略を“反省”して低価格戦略に転換したものの、PDS感覚のアップスケールな店舗環境やショップ運営体制まで抜本転換してスーパーセンター型店舗に回帰する訳でもなく、“反省”も中途半端な印象を否めない。しかも“反省”したのは価格政策だけのようで、コスト抑制のため一段と品揃えを絞ると明言しているから、企業論理による顧客切り捨ては返って加速するのではないか。
 このようにイオンは資本力を背景に企業論理の時流対応を紆余曲折して来たため、消費者にしてみれば「ジャスコ」は一体どんなストアなのか見えなくなっていったのではないか。極端な変化がなかったSM部門はともかく、価格政策から品揃え、レジを含めたレイアウトまで二転三転した衣料品部門のイメージは混乱し、日常消費の枠組みから外してしまう顧客も少なからずあったと推察される。

“業革”と百貨店志向で自滅したIY

 イトーヨーカ堂の衣料部門はかつては高効率な稼ぎ頭であったが、鈴木敏文氏が社長に就任した92年以降、“業革”が本格化して売れ筋への集中という美名下で品揃えが絞り込まれるようになり、在庫圧縮と売上減少の縮小スパイラルに陥って釣瓶落としのように売上が減少して行った。それとともに平場が圧縮されて消化のNBショップが肥大して行き、かつてのバラエティと賑わいは見る影もなく失われてしまった。
 POSデータを過信した売れ筋への絞り込みは明日の売れ筋予備軍もカットしてしまい、ロングテールなバラエティを支持していた多様な顧客の切り捨てにも繋がった。かつては普段着の婦人達で繁昌していたイトーヨーカ堂の衣料品売場から品揃えの切り捨てとともに潮が退くように顧客が消えて行き、似たような‘売れ筋’が並ぶ閑散とした売場になってしまったのだ。
 さらに景気が上向いた06年春以降、伊勢丹出身の藤巻幸夫氏を取締役衣料事業部長に招いての百貨店志向は下駄履き感覚のイトーヨーカ堂顧客と懸け離れた気取った商品と高価格が顧客の総スカンを食い、好景気にもかかわらず売上は一段と低迷。07年8月末には藤巻氏が不振の責任を負って衣料事業部長を退任したものの、百貨店感覚の小奇麗でコンパクトな品揃えは一朝一夕には解消されず、失われた顧客は未だ還ってこないでいる。これは経営陣の顧客を見ない思い込みによる過ちであり、イトーヨーカ堂衣料部門は修復し難いダメージを負ってしまった。

企業最適の論理が自滅を招いた

 イオンの紆余曲折の業態戦略にせよイトーヨーカ堂の百貨店志向にせよ、顧客の現実を見ない企業論理の戦略が結果として顧客の離反を招いてしまった。イオンの品番を絞り込んでロットを積む低価格PB戦略もイトーヨーカ堂の売れ筋への絞り込みも調達コストや消化率を見た企業最適の論理であり、顧客の品揃え要望を切り捨てて売上減少を招くリスクは明らかであった。それでも企業最適な戦略を強行してしまったは現場感覚や顧客最適な視点が欠けていたからではないか。
 巨大企業となって顧客最適な視点を欠くようになったのは残念な事だが、それが企業の自然淘汰を招いてマーケットが求める新手企業が台頭して行くのなら、それも仕方ない事なのかも知れない。『小売の輪』は今も活きているのだから。

顧客最適こそ唯一の突破口だ

 量販店衣料部門が長期凋落トレンドを脱却する突破口は顧客最適への回帰以外にはない。企業最適な一方的論理を捨て、顧客最適な視点に立って緻密な売場構成とロングテールで鮮度のある品揃えを実現すれば、顧客は必ず還って来る。顧客が還って来れば販売効率は回復し、消化率も改善される。売上は顧客支持そのものであり、総べてを癒すのだ。この改革を実行するには、以下の5点が要となる。
 1)顧客ニーズ別の売場構成(区分可動な平場ミックス)に組み換え、それぞれに最適な調達手法と提供方法を組み立て、半期毎に販売実績などを考慮して各売場の適正規模を機動的に修正する。
 2)調達は鮮度と消化回転を最優先して頻度を高めてロットを抑制する一方、値入れとロスを圧縮して競争力ある価格を実現する。薄利多回転が必定だから、調達原価率は50%を切ってはいけない。売れ筋は欠品すべきものであり、深追いは不要だ。小商圏の量販店で同じ服を着た顧客が氾濫する必要などあるはずもない。薄利で消化回転を高めて価格不振を一掃し、プロパー買いの購買慣習を復活させなければエブリデイ・ロープライスは実現出来ない。
 3)開発期間の長い量販メーカーより開発がクィックで鮮度の高い中小のODM業者(企画提案型OEM業者)を活用し、回転鮮度の高いバイイングSPA型の売場を目指す。開発期間の長い大ロットの低価格PBは必要最小限に絞り、目玉商財は流通在庫放出品を当てればよい(山程溢れている!)。
 4)売れ筋に集中しないロングテールかつローカルな品揃えで地域顧客のニーズにきめ細かく対応し、明日の売れ筋に繋がる健全な不振商品の発生を恐れない。薄利多回転の売場では不振商品の処分も容易で、タイムリーなマークダウンは程よい賑わいを加える。
 5)バイイングSPAよりさらに回転鮮度の高い消化仕入れ方式の催事売場をコアに設け、食品催事のように業者の販売員が声高にお試しを誘う週単位のイベント販売で集客力を高めたい。

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 これらは総べて量販店で唯一、顧客の支持を得ている食品売場の成功原則に学ぶものであり、ロングテールかつローカルな品揃え、鮮度と回転の短サイクル調達を志向するものだ。これらを実行すれば食品売場並みの活況が衣料品売場に戻って来るのではないか。

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