小島健輔の最新論文

ファッション販売2002年10月号
『大手セレクトvs.新興包囲勢力の戦局』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

大手セレクト店の勢いに翳り
 手の込んだ後加工/付加加工物や“外し”“崩し”のリミックスが人気を呼んでセレクトショップブームは頂点に達した感があるが、上げ潮に乗るユナイテッドアローズを除けば四月以降、大手セレクトショップの既存店売上には前年割れが目立つ。その要因はブームに押し上げられて多店化した大手セレクト自身の内的変化、アパレル系やマイナー系の新手の台頭による競争激化、両面からの顧客離れと推察される。
 大手セレクト自身の内的変化としては、1)多店化とオリジナル比率の高まりによる品揃えの定形化/安心化、2)ピーク時期でのオリジナル比率の高まりと売れ筋単品面揃えへの片寄り、が挙げられる。
 多店化とともにオリジナル商品を中核とした品揃えが確立してセレクトならではの尖った片寄りが薄れ、顧客としては安心感が持てる反面、意表を突くような新鮮さは期待しにくくなって来た。尖った片寄りを売り物にする新手のマイナーセレクト店やユーズドミックス店と比べると、どうしても安心感で選ぶ店に位置付けられてしまう。加えて、売上の水準が積み上がってくると、ピーク時の実績を超えるためにオリジナルの仕込みが増えてくる。鮮度やキャラのあるセレクト商品はシーズンピークまでにあらかた売り切れてしまうから、ピークはオリジナル商品主体の面揃えに陥ってしまう。そんな大手セレクト店を見ていると、なんだか昔のナショナルチェーンみたいに見えて来る。
 多店化したセレクト系SPAの泣き所とは言え、これでは追われる側に転落せざるを得ない。レトロスポーツ系のユーズドやスポーツブランドとのコラボレート企画、裏原ブランドの取り込み等で新鮮味を訴求する大手セレクトも見られるが、ピーク期の品揃えを刷新するにはほど遠いのが実情だ。

大手セレクトを包囲する四方の敵
 競争激化と言う面では、新手のマイナーセレクト店以上にメーカー系のリミックスキャラクターSPAやトレンディ編集SPAの急増が堪えているようだ。大手セレクト店の既存店売上前年比が四月以降、スルスルと低下していく一方、リミックスキャラクターSPAの「ロペ・ピクニック」、トレンディ編集SPAの「アクアガール」といったメーカー系の勢いは突出している。メーカー系ならではの開発力を活かしたピーク期の高鮮度お手頃商品投入の成果は絶大で、大手セレクト店の一角は明らかに食われている。加えて、セレクトのオリジナルに負けない濃い味商品を格段にお手頃価格で提供するキャラクターMDのジュニアチェーンSPAも大手セレクト店の足下を脅かしている。
 安心ポジションに陥った大手セレクト店を脅かす者は彼等に留まらない。もっとおたくにこだわる若者は裏原の市や中目黒に流れ、外し崩しの妙を追う編集志向の人々はユーズドミックスSPAや古着屋に流れていく。SPAのオリジナル臭を嫌うインポート好みの人々は、代官山や白金等の原点的なセレクトショップ、あるいは路面や百貨店のブランドショップに流れていく。エレガンス系のインポートファンは「リステア」等の神戸エレガンス系のセレクトSPAやインポートセレクト店に流れて当然だろう。
 イーマ等の東京系大手セレクトの集積が目立つ大阪のマーケットでも、東京勢が築いた牙城をユーズド系からエレガンス系まで四方八方から、地元系やローカル系がジリジリと切り崩し始めている。東京圏、大阪圏、それぞれに大手セレクトの寡占は崩れ始めており、ローカル都市への波及も時間の問題と考えられる。  大手セレクトがカバー出来る顧客層は今となってはメジャーな安心志向の人々が中核で、今春までのような売上の集中が続くとは考え難い。栄華の頂点にあるかに見える大手セレクト店だが、実は四方を取り囲まれて戦略の転換を迫られているのが実情なのだ。

包囲勢力の急伸で成長鈍化へ
 ビームス、ユナイテッドアローズ、シップスの専門店系セレクト御三家、ベイクルーズ、トゥモローランドのアパレル系セレクト大手、ジュン系の「アダムエロペ」までをメジャー勢力と見るなら、その市場規模は約1,277億円(前比119.3%)。これに対して、メーカー系のリミックスキャラクターSPAやトレンディ編集SPAの市場規模はまだ三百億円程度と推定される。これにエレガンス系セレクトやユーズドミックス系セレクト、マイナーなセレクトショップ、テイストが重なるキャラクターMDのジュニアチェーンまで含めても、一千億円の大台にはとても届かない。
 何処までをセレクト系マーケットを見るかは難しいが、大手セレクトの占拠率は少なく見ても約半分、見方によっては六割にも達する。分散化傾向を強める今のマーケット状況下でこの寡占状態が継続すると見るのは無理が在るから、大手セレクトの売上は頭打ちに転ずる公算が高い。
 包囲勢力の既存店売上を見ると「ロペ・ピクニック」や「アクアガール」等は絶好調の伸びを示しているし、その他も大手セレクトの水準を上回るものが多い。決算売上を見ても五割増とか倍増というブランドがあるし、今の既存店伸び率から見て決算売上を加速させるブランドも出てくるに違いない。
 大手セレクト合計の最新の伸び率は二割近いが格差が拡がりつつあり、包囲勢力の勢いを考えると来期は合計して二桁成長ギリギリの攻防になると思われる。既存店の前年割れから出店ストップに追い込まれる企業も出てくるのではないか。

大手セレクトの反撃戦略は
 大手セレクトとて守勢に立たされたままでいるはずもないが、メジャー化してしまったゆえの弱味を解消し、新手の包囲下でポジションをより強固なものにするには、以下の対策を早急に実行する必要がある。
 1)安心の壁を破る尖りMD
 老舗の安心感こそが顧客離れの癌であり、意表をつく新鮮な取り組みが急がれる。既にビームスなどが手掛けている裏原ブランドやその源脈たるカリスマとのコラボレーション、グラフィックデザイナーやプロダクトデザイナー、アーキテクト、ミュージシャン等、メジャーだから出来る様々なクリエイターの取り込みが期待されるのは言うまでもない。それが顧客層も商品ラインナップも広げていけば、さらなる成長が可能となろう。多少の勇み足が在庫の山を創る事があっても、そんな訳あり商品は先でヴィンテージになる。儲かってるのだから先行投資と割り切れば良いのだ。
 2)ピーク期品揃えもセレクト味を保つ
 大手セレクトと言えども海外ブランドについては展示会発注か代理店頼みの枠を出ておらず、期中の追加生産コントロールには至っていない。だから、ピーク期にはオリジナルばかりが目立つことになる。相手ブランドの体制や方針もあるだろうが、これはというブランドについては素材とラインを確保して追加生産を仕掛けてもよいし、同じ物を追いたくなければ、別注をかけてピーク直前に新手のセレクト商品を投入する手もある。
 ブランドの格は落ちるが、直近まで引きつけてソンチェやカルマート等で期中企画を調達する方が遥かに簡単だ。トレンド追いの新興セレクトなら誰でもやっている手法であり、大手セレクトも部分的に取り入れるメリットはあるのではないか。
 3)オリジナルのクリエイティブ化
 デザイナーとのコラボレーションをオリジナル開発の中核に据えるのも、欧州では一般的な手法だ。バイヤー別注の枠を遥かに超えた、セレクト商品に遜色ないオリジナルが開発出来るし、期中フォローの裁量も広がるはずだ。だからといって原価率がそれほど上昇する訳でもないから是非、真剣に取り組んで欲しい。
 手工業的な創造性に富んだ商品を求めるアールヌーボーの本質を考えれば、80年代で終わったとまで言われたクリエイターの役割復活は決定的な潮流であり、バイヤー別注的なオリジナルの弱味を解消するためにも本格的に取り組むべきだ。個人的には、これが最大の決定打になると思う。
 4 )店を増やさずライフスタイル提案で大型化
 個店毎の顧客に応える品揃えはせいぜい2ダースまでの芸当だから、セレクトショップの魅力を維持したければそこで打ち止めるしかない。売上を増やしたければ、多業態展開するかライフスタイル展開でカテゴリーを拡張して大型化する選択となる。前述したような様々な分野のクリエイターやブランドとのコラボレーションを拡げていけば、必然的にカテゴリーが拡がってライフスタイル提案が進む。この両方を組み合わせて仲間やライバルまで引き込み、それぞれの街に合った個性的なミニ商業ゾーンを形成していけば、可能性はさらに拡がるはずだ。
 5)顧客をリードする現場の感性と柔軟で単純な組織
 様々な手法で売上規模を拡大しても、組織を多層化、分権化して肥大化させては顧客との距離が開いてしまうし、現場の機動性も損なわれてしまう。大手セレクトの一部ではそのような退化現象が実際に起きているし、現場と経営層、ラインとスタッフのギャップも生じている。これでは、ストリートの顧客と対話して“外し”“崩し”を誘うセレクトショップのライブな魅力は損なわれてしまう。
 多業態化、大型化が組織の複雑化を招いて現場の感性と活力を損なわぬよう、シンプルな村組織を逸脱してはならない。それには技術と感性を持った考える兵士の厚みが不可欠だ。経営陣は彼らを育てる事に注力し、IT武装でサポートして現場の状況判断を委ねるべきだ。間違ってもマニュアルに頼って現場を無脳化したり、スタッフ層を肥大させて多重の指揮系統を生じさせてはならない。それが出来ないなら、事業部組織の分社を選択せざるを得ないだろう。

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 メジャーが強みを発揮してさらなる発展を遂げるか平凡なチェーン専門店に堕落してしまうかは、ひとえに経営者の才覚にかかっている。新手の包囲勢力にしても、新たなメジャーに伸し上がるか一時の勢いに終わってしまうかは経営者の才覚が決してしまう。セレクトビジネスを取り巻く状況は、それほど指揮官の力量が問われる重大な転換局面に在るという事なのだ。


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