小島健輔の最新論文

販売革新2008年3月号掲載
『GMS衣料部門はモール専門店にかく対抗せよ』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 SC開設ラッシュが続いてSC面積はこの10年間で1.6倍になったが、SC総売上は未だ00年の水準を回復していない。この間に4万6千店も増えたモール専門店が売上に寄与する一方、アンカーたるGMSの売上が減り続けているからだ。事実、97年からの10年間でGMSの既存店売上は31.7%も減少している。その元凶たるのが衣料部門であり、同期間に47.5%も減少している。モール専門店の半分程度と言われるGMS衣料部門の低販売効率の要因は何なのか、どうすればモール専門店に伍する魅力を実現できるのか。様々な視点からモール専門店と比較検証してみた。

バラエティ拡充で花咲いたモール文明

 90年代までは大手アパレル系やジーニング系の大型ファミリーストア、旧世代ナショナルチェーンが主流でバラエティも限られていたが、今世紀に入って年を追う毎にモール向けテナント業態が急増し、ラゾーナ川崎の287店、ららぽーと横浜の284店、モレラ岐阜の240店、イオンモール羽生の205店など200店舗を超える大型モールを埋め切れるほどバラエティが揃って来た。大手アパレルのモール業態、ターミナル専門店の郊外バージョンに加えてローカル専門店のモール進出も拡がり、GAPやバナナリパブリック、ZARAなどの外資業態のモール出店も急加速している。
 アメカジ系、トラッド系からモード系まで揃ったファミリー業態、アメカジ系、ストリートカジュアル系からサーフ系まで出揃ったカップル業態のバラエティに加え、最近ではティーンズから09系、OL系、ミッシー系のレディス業態、お兄系やサロン系からコンテンポラリー系までのメンズ業態も一通り出揃い、ナチュラル系、ポップ系からストリート系までキッズ業態/ママ子業態も充実して来た。加えてシャツやパンツ、Tシャツ、レッグウェアなどのシングルライナー、ナチュラル系からグラマラス系までのランジェリー業態、アクセサリーやジュエリー、アイウエア、靴、バッグの業態も出揃い、スポーツ/アウトドア業態はもちろん、衣料から生活雑貨やHBAまでカテゴリーをクロスするライフスタイル業態も急速に台頭している。ミセス/アダルト向け衣料など幾つかの分野はまだ手薄だが、今後数年で急速に充実して行くものと期待される。
 もはや200店はおろか300店でも埋め切れるほどテナント業態が溢れており、モールショッピングは90年代とは比較にならないほど楽しいものとなっている。しかも、大半の業態が手頃なロワーモデレート価格(裾値はアパーポピュラー)で魅力的な商品を提供しており、お出かけ感覚の商品もアパーモデレートまでで揃う。ひと頃目立ったお高いターミナル業態/ブランドのそのまんま出店は影を潜め、バリュー感溢れるお手頃価格がモールの常識として定着した感がある。加えて、衣料業態の多くは月度〜週度の高頻度企画・投入を行うSPA業態であり、鮮度訴求でも群を抜いている。
 最近のイオンモールなどでは出入りが容易で安全に配慮した無料パーキング、手厚い身障者サポートはもちろん、幼児やペットの一時預かりなど、ターミナルの商業施設とは比較にならないほど顧客サービスも充実しており、快適で楽しいモール文明が開花している。バラエティの充実と価格の格差もあってターミナルからの消費移動が加速するのは当然なのだ。
 モールショッピングの加速度的な進化に較べ、GMS衣料部門の有り様は十年一日と言わざるを得ない。内装やディスプレイを刷新しても品揃えの本質は替わらず、バラエティでもバリューでもショッピングの楽しさでも、モールとはどんどん格差が開いているのが実情だ。

GMS衣料部門は何故モール専門店に勝てないのか

 GMS衣料部門がモールに勝てない理由は、1)バラエティが格段に劣る、2)バリューが格段に劣る、3)鮮度が格段に劣る、4)楽しさが格段に劣る、の4点に尽きる。
 モールに較べて「バラエティが格段に劣る」という指摘は誰でも解る。モールのバラエティが着々と拡充して行く一方でGMS衣料部門は自己都合でバラエティを絞って来たのだから、格差が開くのは当然だ。消化率の良い商品、値入れの良い商品に絞るという行革ゲーム、テイストを主張し調達手法を絞るPBゲームを繰り返し、顧客の求めるバラエティはないがしろにされて来た。これでは顧客を一方的に切り捨てて来たも同然で、販売効率が低下していったのは当然の帰結だった。モールを歩いている人たちの写真を撮ってマップ化してみれば、どれほど多くの顧客を切り捨てて来たか解るのではないか。
 行革ゲームの果てに澄ました百貨店志向で顧客と乖離したイトーヨーカ堂、米国トレンドに流されて顧客無視のPBショップ化に走ったイオンスタイルストアに較べれば、顧客を見据えてバラエティを大切にしているサテイは輝くように魅力的だ。それでもモール専門店のバラエティには遠く及ばない。
 メーカーどころか商社も抜いての直開発・直輸入にも挑戦し価格を抑えているGMSにすれば「バリューが格段に劣る」という指摘は不本意かも知れないが、価格が安くても魅力が薄ければバリュー感は無い。季節感と鮮度、品質感とライフスタイル感があって手頃価格だからこそのバリュー感であり、そのいずれを欠いてもバリュー感は損なわれる。
 低価格を優先すれば射程距離が長くロットも大きくなって企画・投入頻度が低下し、季節感や鮮度は損なわれてしまう。物在りきの開発姿勢では単品志向になり、コーディネイト性やライフスタイル感も弱くなりがちだ。価格と品質だけでバリュー感を問うても顧客は納得しない。引き付けた多頻度企画・投入で季節感や鮮度、ライフスタイルを訴求するモールのお手頃SPAと比較すれば、独りよがりなバリュー訴求と指摘されてもやむを得まい。
 「鮮度が格段に劣る」という指摘は、大ロット長射程、低投入頻度による回転の遅さと鮮度の低さに加え、在庫再編集運用の稚拙さがもたらすものだ。ドーンと投入してそのまま展開しマークダウンで消化しようとする単細胞的手法では、同じ物が長く陳列されて陳腐化しマークダウンされていく流れが顧客に見え見えで、誰しもマークダウンを待ちたくなる。マークダウンが日常化すれば価格不信が定着し、買い控えが習慣になってしまう。モールの有力SPAのように週度に新鮮商品が投入され再編集されて鮮度が維持され、タイムリーな店間移動で滞貨が避けられればマークダウンは限定されるはずだ。生鮮・日配の食品部門では確立されている鮮度維持の売場在庫運用が何故、衣料部門には欠けているのか理解に苦しむ。
 「楽しさが格段に劣る」という指摘はモールショッピング総体との比較で酷かも知れないが、商品を整然と並べてセルフで売るに徹したGMS衣料部門はどんなに小奇麗にしても楽しくはない。食品部門のように試食イベントのスタッフが「旨いよ!」と声を掛け、そこかしらから「安いよ!」と声が飛び交う賑わいとは縁遠く、どこかクールでさえある。百貨店のように小奇麗な売場?を目指せば返ってクールさが強調され、食品売場のような顧客と店が交歓する賑わいからはどんどん遠ざかってしまう。GMS主脳が憧れる百貨店的にかっこいい売場、あるいは米国PDS的に整然と演出された売場は顧客にとって楽しくないのだ。そんな当たり前の事がどうして解らないのだろうか。

GMS衣料部門は食品部門に学べ

 以上4点の指摘に真摯に対応するなら、GMS衣料部門の浮上は十分に可能だと私は思う。GMS3部門中、唯一競争力がある食品部門はSSMとして業態を確立しており、バラエティでもバリューでも鮮度でも賑わいでもモール専門店に伍する魅力がある。事実、販売効率だって負けてはいない。もしGMS衣料部門が食品部門と同じ目線で顧客に対応するなら、バラエティでもバリューでも鮮度でも賑わいでもモール専門店に伍する魅力を手にする事が出来るのではないか。
 まずバラエティだが、食品部門なら生鮮三品から日配食品、冷凍食品からグローサリー、HBCまで揃えるべき品種品目は明白で、中身のブランドやアイテム数はともかく、消化率やPB政策で品種品目をカットするなど考え難い。なのに衣料部門では揃えるべき世代やテイスト、アイテムが恣意的に絞り込まれ、一方的にカットされている。デザインレヴェルならともかく、基本の品種品目に相当する段階での恣意的絞り込みは食品部門では絶対に有り得ない。消化率が低いとか利益率が低いとかで味噌や醤油がカットされてよいはずはない。衣料部門の恣意的絞り込みは顧客無視はもちろん、フォーマットとしての基本責任も放棄した自滅行為と言うべきだ。
 GMS衣料部門はきちんと顧客分析をして客層タイプ別の必要展開量を統計的に算出し、テイスト/アイテム構成を食品部門の品種品目構成のように建築的に設計すべきではないか。さすれば、いままで恣意的に捨てていた多くの顧客が返って来、販売成績は急回復するはずだ。
 バリューの決定打は食品も衣料も鮮度に尽きる。ならば射程を極限まで引き付けて企画・投入を細分化し、極論すれば食品のように週配・日配に徹すればよい。さすれば展開期間も週間・日間となって鮮度は極限まで強調される。衣料品ではそこまでは難しいが、モールのカジュアルSPAでは6週射程の週度MDで年間18回転を実現している企業もあるから、相当の改善が可能と思われる。薄く高頻度に投入する分、調達コストは当然上昇するが、鮮度と回転の飛躍的向上による消化率の向上が粗利益率の大幅な上昇をもたらし、コストアップを軽く吸収するはずだ。
 薄く高頻度に投入しても実際の消化は必ずしもそのペースで進まない。それを強制的に計画通りの回転消化に近付ける在庫再編集運用・陳列技術、店間移動消化技術が無ければ、在庫がどんどん滞貨して回転は急減速してしまう。現実の在庫を店間移動も駆使してあるべき在庫編成に再編集し、消化を促進するという当然の小売技術を軽視しては在庫は回転しない。もしGMS衣料部門がこのような在庫再編集運用・陳列技術、店間移動消化技術を真摯に確立するなら、情況は一変するのではないか。
 ショッピングの楽しさは第一義的には商品の鮮度とバラエティ、売場スタッフとの交流がもたらすものであり、陳列やディスプレイはそれを補完するに過ぎない。食品売場のような試食試演の掛け合いがあれば衣料売場も賑わうはずで、実際にブルーミングデールのコスメ売場ではお試しを呼び掛ける派遣店員と応ずる顧客で華やかに賑わっている。GMS衣料売場でも、売場スタッフが提案ルックを着用して通路を闊歩したり、食品部門並みに「奥さん、これ着てみない!きっと似合うわ!」などと試着を呼び掛けたり、新入荷商品やマークダウン商品をTVショップのように「Mサイズはあと一枚!」などと声高に説明したりすれば賑わいに繋がるのではないか。
 それをやるには十分な人員配置が不可欠で、ガランとした人気のない売場では賑わいも楽しさも求めようがない。前述したようにバラエティを拡充して多頻度投入による鮮度訴求を徹底するなら衣料部門の販売効率は食品並み!!に上昇し(いくら何でもそこまでは無理でしょうが)、売場スタッフも格段に増強配置できる。現状の人気のないクールなGMS衣料部門とは隔世の感があるが、モールの核店舗として食品部門並みの鮮度と賑わいを期待してもよいはずだ。GMS主脳には逆転の発想で改革に臨んで欲しい。

論文バックナンバーリスト