小島健輔の最新論文

ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
『ユニクロを凌駕!ZARAとアダストリアに見るアパレル勝ち組の構図』
(2024年05月27日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 グローバルSPAのトップを走るINDITEX(「ZARA」が主力)と国内SPAで絶好調のアダストリア、両者に共通するアパレル勝ち組の戦略構図は興味深いものがある。チェーンストア衣料品とは次元が違うのかも知れないが、知っておけば過ちが防げるのではないか。

 

■増収増益で独走体制を固めたINDITEX

 INDITEXと言ってもピンと来ない方もいるかも知れないが、「ZARA」を主力業態として世界95カ国・地域に5692店舗を展開する世界最大かつ最高収益のスペイン拠点のグローバルSPA企業だ(ファーストリテイリングは25カ国・地域に3591店舗/24年2月末)。24年1月期決算は売上高が10.4%増(現地通貨ベースでは14.1%増)の359億4700万ユーロ(5兆4618億円※)、営業利益(EBIT)が23.4%増の68億900万ユーロ(1兆346億円)、営業利益率は2.0ポイント上昇して18.9%、当期純利益は30.3%増の53億9500万ユーロ(8197億円)、純利益率は2.3ポイント上昇して15.0%と、事業規模も収益力もグローバルSPA断トツ首位で独走体制を固めている。

23年8月期のファーストリテイリングは売上高が20.2%増の2兆7666億円、営業利益が28.2%増の3811億円、営業利益率は0.9ポイント上昇して13.8%、当期純利益は10.7%増の3152億円、純利益率は1.0ポイント低下しても11.4%とコロナ前を大きく超えて再拡大に転じているが、売上高の差は多少縮まってもINDITEXの半分強(50.7%)と格差が大きく、営業利益は3倍近い開き(36.8%)がある。

23年11月期のH&Mの売上高は5.6%増の2360億3500万SEK(3兆1256億円)、営業利益は102.8%増の145億3700万SEK(1925億円)、営業利益率は3.0ポイント回復しても6.2%、当期純利益は145%増の87億2300万SEK(1155億円)、純利益率は2.1ポイント回復しても3.7%と、ようやくコロナから回復した病み上がりで、売上高はコロナ前を超えても収益力は戻っていない。売上高こそINDITEXの6掛け弱(57.2%)だが営業利益は5分の1にも届かず(18.6%)、格差は年々開いてINDITEXの背中は遠くなっている。

INDITEXの粗利益率は0.8ポイント上昇して57.8%と、H&Mの51.2%、ファーストリテイリングの50.9%との格差はさらに開いた。販管費率も38.8%と1.1ポイント低下して、単品セルフ販売のファーストリテイリングの38.1%と大差なく、45.9%と運営コストのかさむH&Mを突き放している。INDITEXの営業利益率は2.0ポイント上昇して18.9%と13年1月期の19.5%に迫り、6.2%に回復したH&M、0.9%上昇して13.8%となったファーストリテイリングを大きく引き離している。

※為替レートは23年平均で統一し、ユーロは151.94円、SEKは13.242円で計算

 

■INDITEXの2つの強さと3つの改革

この圧倒的格差の背景はいくつも挙げられるが、元々からの2つの強みにコロナ前後に断行された3つの改革が貢献したと思われる。

1)タイパと完成度を両立する商品開発とコンビナート生産体制

 アパレルメーカー発祥のINDITEXは自社デザインチーム企画、自社開発素材を基軸に自社染色整理〜自社マーキングCAD・裁断CAM〜外注縫製〜自社プレス仕上げ〜自社物流加工の産地コンビナートを確立しており、テーラードアイテムやドレスアイテムはスペインを拠点にポルトガルやモロッコまでのミルクラン圏で週サイクル生産されている。低価格のカジュアル単品はトルコや南アジアで外注縫製されるが、完成品は全てスペイン国内の自社TC※(DC に非ず)で検品・仕上げ・物流加工(防犯ICタグ付け)され即日、仕分けて出荷されるから、ライバル SPAより仕上がり完成度が高くリードタイムも格段に短い。企画から店頭までのリードタイムが短いから鮮度が高く、プレス仕上げにハンガー物流も加わって見栄えも良いから(単品や小物はオリコン物流)、価格が通って消化歩留りも高くなる。

 

2)各店発注ストックレス集中TCロジスティクスがもたらすロスの抑制

 INDITEXは本部主導の在庫配分ではなく各店舗の部門担当マネージャーのオンライン数入れ競争入札で毎週の投入数量が決まり(カントリーマネージャーがスーパーバイジングする)、どこで生産された商品も全てスペインの集中TCに集められて自動仕分けされ、世界中の各店舗に航空便(近隣欧州圏はトラック便)で直送される。ユニクロやH&Mのように生産地の出荷基地や各国DCに補給在庫を積むことは一切なく、店舗在庫が全てと割り切られている。短時間の競争入札で売り切れるようH&Mやユニクロより桁違いに少ない生産ロットに抑えており、1色または2色と限定されるデザインアイテムは1〜2万点、4色程度展開されるベーシックアイテムでも10万点に届かないと推察される(生地の調達ロットから推計)。

発注した各店舗の部門マネージャーが販売消化責任を負ってインセンティブ(固定給7割+成果報酬)を競う報酬制度になっているが、週2サイクルで次々に投入されると売れ残りのバラ残が店舗の後方ストックに溜まりがちで、接客やルック提案のVMD、小幅な売価変更でバラ残品の消化が競われている。H&Mやユニクロのような大ロット調達の売り減らしだと値引きと残品のロスは14%前後生じるが、小ロットの蒔き切りだとロスは半分以下に収まる。「しまむら」の直近決算で6.5%だから、INDITEXも似たような水準と推察される。

 

 これら元々からの強みに加え、コロナ直前に決められてコロナ下で実行された店舗軸のFCレスOMO戦略、中国の不買運動やロシアのウクライナ侵攻にともなう地政学的リスクを契機に加速された店舗網の集約再編、コロナ下からコロナ明けの混乱を契機に決断されたサプライチェーンの欧州回帰、の3つの改革が挙げられる。

3)店舗在庫引き当てのFCレス・ローカルOMO

 INDITEXのECも当初は各国のFCから出荷する体制だったが、各店舗の部門マネージャーが数入れして消化責任を負う在庫運用やストックレス集中TCロジスティクスと噛み合わず、コロナ直前の19年にFCを廃して店舗在庫を引き当てるローカルOMO体制への転換を決断。コロナ規制下で店舗軸のBOPIS(店受け取り)や店出荷のローカル宅配へ急ピッチで切り替わり、コロナ明けとともに店舗売上が急増(売上の25.3%を占めるオンライン受注も店在庫引き当てで各店舗に帰属)して在庫効率が格段に高まり、宅配外注費負担も軽減されて販管費率も低下し、収益力が一段と高まった。

 

4)店舗網の集約再編による効率化

 総店舗数はコロナ前20年1月期末の7469店から5692店へ実に1777店、23.8%も絞られた。最も減店数が多いのは331店の「ZARA」だが、減店率では100%減(89店がゼロになった)の「ウテルケ(UTERQUE)」、35.2%(238店)減の「オイショ(OYSHO)」、31.2%(186店)減の「ザラホーム(ZARA HOME)」が目立つ。地域別に見ると、20年1月期末から最も減店したのが中国本土で570店から192店に66.3%も減少、香港も30店から15店に半減している。ついで大きく減店したのは日本で145店から75店にほぼ半減しているが、よほど採算が厳しかったのだろう。

 総店舗面積も20年1月期末から10.4%減ったが、平均店舗面積は801平方メートルと17.6%、「ZARA」に限れば1386平方メートルと13.4%拡大している。平均店舗売上高も631万5535ユーロ(9億5958万円)と66.8%、「ZARA」に限れば1172万8951ユーロ(17億8210万円)と64.2%も激増し、販売効率も平米あたり7888ユーロ(395.5万円/坪)と41.8%、「ZARA」に限れば8462ユーロ(424.3万円/坪)と44.7%も上昇している。

 この間のユーロに対する円安進行(24.5%)を割り引いても、「ZARA」に対する「ユニクロ(国内)」の販売効率は15%のリードから88%に落ち込んだから、販売効率でも大きく引き離されたことになる。店舗網の集約に店在庫引き当てのEC売上も加わり、店舗販売の効率化が飛躍的に進んだ。

 

5)サプライチェーンの欧州回帰と単価上昇

 コロナ前からの生産コスト上昇にコロナ明けの物流とサプライチェーンの混乱が加わり、販売市場としてのすれ違いも目立ってきたアジア圏に見切りを付け、タイパに優れ販売市場としても回復著しい欧州圏(地中海圏)にサプライチェーンを回帰させたことも、売上と収益を押し上げた。カジュアルSPAや低価格越境EC(SHEINやTemu)と競合して付加価値が通りにくいアジア生産の低価格カジュアルを圧縮し、付加価値が通って単価が稼げるテーラードアイテムやドレスアイテムをミルクラン圏をモロッコに広げて拡充し、カジュアルアイテムも付加加工で差別化できるトルコなど西アジアにシフトしたと推察される(生産地比率は開示されないが店頭の品質表示タグを総覧すれば分かる)。

 結果として販売単価が高まって売上を押し上げ、タイパも物流効率も人時生産性も向上し、全ての効率を押し上げる結果となった。

※1.ミルクラン圏…裁断パーツ・副資材を供給して完成品を回収するルート便が1日で回れる範囲で、スペイン、ポルトガルに加えてジブラルタル海峡をフェリーで渡るモロッコも含まれる

※2.DC(Distribution Center)とTC(Transfer Center)とFC(Fulfillment Center)…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDCに対し、棚入れせず自動仕分けして送り出す通過型の物流施設がTCで、FCは通販の出荷用DC

 

■サプライチェーン変革で化けたアダストリア

 INDITEXと同列に比較するのは憚られるが、国内カジュアルチェーンでユニクロを追い上げる勢いを見せているのがアダストリアで、思い切ったサプライチェーン変革を契機とした付加価値政策で着々と売上を伸ばして来た。

 アダストリアの24年2月期は売上高が2755億9600万円(13.6%増)と2期連続の二桁増で、コロナ前のピークだった18年2月期を23.7%上回り、コロナからの回復局面を超えて再成長期に入ったことを見せつけた。営業利益も180億1500万円(56.4%増)と10年2月期の169億1000万円を超え、当期純利益も135億1300万円(79.2%増)と17年2月期の115億7500万円を超え、どちらも過去最高を更新した。営業利益率こそポイント時代06年2月期の20.3%には遠いが、開発型SPA体制に転じて以降の16年2月期(8.0%)、17年2月期(7.3%)に続く6.6%を確保したことで収益性の目処も付いた。

粗利益率は55.3%と0.6ポイント上向いても仕入れ型SPA体制期の60%台には遠く、在庫回転も4.78回と10回を超えていた仕入れ型SPA体制期とは比較すべくもないが、ポイント時代の繁栄をもたらした仕入れ型SPA体制は国内産地や韓国でのファスト生産が支えたもので、リーマンショックを経てそのサプライ背景が崩れ去った今となっては後戻りするのは不可能だ。ギャル系など国内や韓国のファスト生産背景に依存したカジュアルチェーンの多くが破綻したり衰退した事実は決断が正しかったことを裏付ける。

2010年に「チェンジ宣言」してファストな仕入れ型SPAから開発型SPAに転じて以降、紆余曲折はあったが、13年6月に企画生産会社のナチュラルナインを子会社化したことを契機に素材からの商品開発力が身に付き、アスレジャー革命を経て合繊の機能と肌触りも武器にする多様な開発力を確立して今日の成功をもたらした。サプライ背景の崩壊を見抜いて過去の成功体験を捨て、将来を開く新たなサプライ体制にシフトした先見性、慣れないサプライ体制に挫けず成功するまでやり抜いた遂行力を評価すべきだろう。

 素材開発とデザイン性で付加価値を高め目立たぬよう着々と単価を上げる政策が先行していたゆえ、22年に始まった円安インフレに押し上げられる目立った値上げを回避でき、年々の単価上昇が平準化して値上げ幅ほど客数が減らず既存店売上の上昇につながった。

INDITEXのようなFCレスのローカルOMOシフト、店舗網の集約大型化による運営効率の飛躍的向上、ひいては自社工場による染色整理やマーキングCAD・裁断CAM、プレス仕上げによるミルクラン生産といったブランドメーカー型商品開発・生産は先々の課題だが、グローバルSPAの先頭グループに躍り出るには必然のステップではないか。

そんなサプライチェーン戦略と比べれば、ワークマンやGMS衣料品の商品開発はサプライヤー依存のバイヤーMDを出るものとは言えず、次元の違いは否めない。自社開発に踏み込むならブランドメーカー並みの次元に至るべきだが、しまむらのようにサプライヤーの開発力活用に徹して小売の効率的オペレーションを極めるという選択もある。どっちつかずの中途半端では競争に埋没して成長力も収益力も失っていくしかないだろう。

論文バックナンバーリスト