小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年4月号掲載
『郊外百貨店MDの問題と革新』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

離陸しない郊外百貨店

 92年以降、9年連続して毎年100を超えるSCが開設され、大店立地法への切り替えにともなう駆け込み出店が相次いだ昨年は過去最多と並ぶ145ものSCが開設された。新設SCの平均GLAは20677平米と前年から7.9%大型化し、3万平米以上の新設SCも前年の14SCから28SCと倍増して過去最多となったが、そのほとんどがGMSアンカーのSC。百貨店アンカーのSCは3月にモザイクモール港北(阪急百貨店)、9月にイオン岡崎SC(西武百貨店/ジャスコの複核)、12月にTOKIHAワサダタウン(トキハ)と3SCがオープンしたのみ。ここ数年では96年11月に近鉄MOMO(近鉄百貨店)、98年4月に港北東急SC(東急百貨店)、99年10月にオーロラシティ(西武百貨店/ダイエーの複核)等がオープンしているが、アンカー百貨店はいずれも大巾な予算割れに苦しんでいる。
 都心巨艦店は初期投資が膨大で回収に20〜30年もかかるから、百貨店が新たな成長を求めるなら投資コストの軽い郊外に活路を見い出すしかない。が、現実には大型SCが続々と開設される中でも出店ペースは上がらず、出店しても低販売効率に喘いでいるのが実情で、日本の郊外百貨店は未だ離陸さえ出来ないでいる。その要因は、都心に較べて密度が薄く拡がりも限られる郊外商圏に適したMDやオペレーションのノウハウを確立していない事に尽きる。  

郊外百貨店に共通する欠陥

 郊外百貨店が陥りやすい欠陥はだいたい共通している。それは以下の5点であろう。
 1)過大な商勢圏を設定しての大商圏型の部門構成
 百貨店は郊外立地でも大商圏を設定する事が多いが、隣接商圏や大型SCに周辺を押さえられて拡がりを欠くのが現実だ。最初は取れたにしても周辺に大型SCが開設されれば確実に商圏は縮まるから、過大な商圏を期待しての構成はリスクが大きい。足元商圏を確実に固める部門構成をとるべきなのだが、ターミナル立地と大差ない構成バランスにしてしまうケースが大半だ。
 ターミナルではOL〜キャリア層が厚いから高感度なブランド衣料/服飾、コスメティックス等の売場面積シェアが高いのに対して、郊外では主婦層が厚いから食料品やミセスブランド衣料、普段着、子供服の売場シェアを高めるのが原則だが、これが徹底されていない。結果、売場面積と売上が大きく乖離してしまう。現実の商圏規模に適した構成を組んでいれば、もっと売上は上がるはずなのだ。
 郊外商圏で足元占拠率を決するのは食品部門だが、これが軽視されている店が少なくない。食品で負ければ他のどの部門が強くても顧客は他店に流れてしまうから、ターミナル店の倍の売場面積シェアを割いても絶対一番店たるべきだ。西武百貨店の郊外店は、この根本原則を無視していると言わざるを得ない。
 2)最低占拠率に達しない過小面積
 大商圏期待とは言えターミナル立地からは格段に商圏が小さいから、投資効率も考えてコンパクトな店舗にしがちだが、郊外には大型SCや量販店、ホームセンターやカテゴリーキラーがズラリと揃っている。商品分野ごとに比較される品揃えの豊かさは百貨店側の想像以上で、ターミナル店の構成をコンパクト化したような貧弱な品揃えではどの部門も競争に耐えない。足元商圏を確保するには商圏内で二ケタの売場占拠率が不可欠だから、2万平米前後のコンパクト店舗では採算ラインに乗せるのは困難だ。
 ソフトラインに特科したコンパクト百貨店というのは複数のデパートが核を構成するRSCでの話であって、単核型やGMSとの二核型のSCでは成立しない。足元を固めるには強力なエンターテイメント性の食品部門やレストラン街が不可欠だから、2万4千平米が下限と見なければならない。米国のSCで成功しているノードストロムの平均的な売場面積が1万7千平米前後だから、これに食品とレストラン街を加えると似たようなスケールになってしまう。
 また郊外では単店ではなくSC単位の集客競争となるから、必要とされる売場占拠率と郊外百貨店として構成出来る売場面積の差はモールで埋めることになる。すなわち、モールと百貨店が一体で企画・運営される形態が郊外では必勝パターンとならざるを得ない。百貨店の郊外戦略はGMSと同様、SC戦略として押し進められるべきだが、イオングループのようなSC戦略に目覚めた百貨店を私は知らない。
 3)ブランド依存の高すぎる価格構成
 ターミナル立地なら魅力あるブランドを集積すれば売上は読めるが、来店客の限られる郊外店では値頃な平場商財が揃ってないと売上が稼げない。お出かけ着や通勤着ではブランド商品の価格が通っても普段着では価格要求が厳しいから、割高なNBだけでは平場も構成出来ないのが現実だ。にもかかわらず、ターミナル店から格落ちしたブランドのショップやコーナーがズラリと並んでいたり、ターミナル店と大差ないNBで平場を構成している郊外百貨店がほとんどだ。これでは顧客の期待に応えられないから、売上が低迷するのは当然だ。カジュアル衣料や子供服では専門店ブランドや量販ブランドも取り込んで手頃な価格で平場を構成しないと、アップスケールな大型量販店やカテゴリーキラー専門店に顧客を奪われ、郊外百貨店の売上は限られてしまう。
 4)カバー率の低い平場構成
 郊外商圏の価格要求に平場で応えるにしても、郊外百貨店の平場構成は多様なニーズをカバーする拡がりを欠いている。婦人服でもヤングとミセス、Lサイズ、Sサイズで一つづつという程度で、ヤングカジュアル、ヤングキャリアのオンとオフ、トランタンのオンとオフ、ミセスのオンとオフ、キャリアブリッジ、特選といったといったゾーン毎に対応した多様な平場展開は見た事もない。紳士服はもっとおおざっぱで、クロージング、ファニシング、アダカジの三平場しかない郊外店がほとんどだ。せめてカジュアルをアメカジとアダカジに分けるくらいは望みたい。
 ブランドショップ群を圧縮しても各ゾーンの中核となる平場をきちんと揃えるべきで、これを欠いては郊外百貨店は成立しないと言っても過言ではない。価格構成や収益性の面からも不可欠な課題ではないか。
 最近の百貨店業界が自主MD重視の方向に動いているのは好ましいが、業態化売場の開発が「PBショップ型」や「セレクトショップ型」といった間口の狭いコンセプチュアルなものに片寄って「平場型」が軽視されている点には注意を喚起したい。「PBショップ型」や「セレクトショップ型」は顧客カバー率が低く、平場の役割を果たすものではないからだ。自主MDは顧客カバー率の高い「平場型」の拡充を核として推進すべきで、郊外百貨店はそれなくしては離陸できない。
 5)コスト削減優先で損なわれる顧客サービス
 郊外百貨店では例外なくオペレーションコストの圧縮が追求されてパート中心の省人時体制が組まれ、ディスカウンターでもないのに顧客が一方的にサービスをカットされているケースが見られる。しかし、ターミナル店に比べて固定客比率が圧倒的に高い郊外店で顧客サービスを軽視すれば、売上に影を落とす結果となりかねない。コスト削減は物流・検収といった後方体制や本部組織のスリム化によって果たされるべきであって、パート活用はよいとしても顧客サービスのカットには慎重であるべきだ。
 米国郊外のSCで卓越した顧客サービスで発展したノードストロム社の販売組織体制と他のデパートメントストアの販売人員圧縮の対比を顧みると(坪販売効率には倍の差がある)、日本の郊外百貨店の在り方がこのままで良いのか考えさせられる。ちなみに、収益性が悪化してきたノードストロム社のリストラは肥大化した地域バイヤーの削減に集中しており、販売人員の圧縮は最低限にとどめられている。

伊勢丹立川店に見る郊外百貨店の革新

 閉息状況にある郊外百貨店だが、1月24日に開店した伊勢丹立川店にはこれらの壁を破らんとする幾つかの試みが見られた。  同店は70年に開業した旧店を移転・増床して売場面積を37500㎡と約三倍に拡大したもので初年度売上は旧店(2000年3月期110億円)の三倍以上の350億円を見込んでいるが、計画通りに進めば高島屋立川店(2000年2月期337億円)を抜き去って立川ルミネ(2000年3月期363億円)と地域一番店の座を争う事になる。新宿から約25㎞の郊外ターミナルに位置する同店は純粋な郊外型とは言えないが、多くの百貨店が犯して来た過ちから一歩前進した、郊外で成功する可能性の高い百貨店として注目される。
 伊勢丹立川店では前述した5点のうち3点までが、大きく改善されている。まず、郊外百貨店としてはフルサイズの売場面積が確保され、それぞれの部門が十分なスペースで必要なバラエテイを実現している。食品が強力と言っても売場面積シェアが突出している訳ではなく、部門構成シエアはターミナル店舗と大きな差は無い。フルサイズ店舗ゆえに強い部門の集合が実現しているレアなケースと言えよう。
 婦人服ではユニットショップ平場がゾーン別にしっかりと配置されている。婦人服でも子供服でも従来の百貨店NBだけに頼らず、遥かに手頃な量販ブランドがかなりの比率で組み込まれており、百貨店としては値頃感が突出している。編集手法もアイテム編集やブランド編集と手堅く、「リ・スタイル」のようなセレクト編集は見られないが、このほうが郊外店の顧客には買いやすいし、幅広い顧客をカバーできるのではないか。
 ブランドの扱いも郊外店にも拘わらず嵩上げや水増しがなく、むしろコンパクトに押し込まれている。大くくりな統一環境売場の中で、他店ではショップで出ているブランドをコーナー運用したり、コーナーで出ているブランドをブランド編集で運用して、面積の大きさ以上にバラエテイを揃えて運用性も高めている。このような大くくりの売場構成にすれば品揃えの機動運用はもちろん、内装コストもオペレーションコストも下げられるから、販売効率の低い郊外店には最適な方法と言えよう。技術的には突出したものではないが、現実にここまでやりきったのは賞賛に値する。
 伊勢丹立川店は今日の郊外百貨店が抱える問題に現実的、かつダイナミックに対応しており、これまでの壁を超える試みが高く評価される。これが契機となって郊外百貨店におけるMDとオペレーションの技術が革新され採算性が向上すれば、SCアンカーとしての多店化にも目処が付くのではないか。 

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