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商業界オンライン 小島健輔が問う
『しまむらとワークマンの格差』(2020年01月28日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 しまむらとワークマンの業績は真冬の氷雨と真夏の晴天ぐらいかけ離れているが、指摘したいのはそこではない。両者が直近で発表したEC戦略に見るリテラシーはそれ以上にかけ離れている。経営陣のリテラシーがどれほど業績を左右するか、改めて両者を比較してみたい。

消費増税で一段と開いた両者の明暗

 18年9月の「ワークマンプラス」1号店の開店(ららぽーと立川立飛)までは「しまむら」と似たような郊外生活道路立地に点在して目立たなかったワークマンも「ワークマンプラス」の爆発的ヒットで急成長に転じ、今やポスト「ユニクロ」の本命と目されるまで化け上がっている。その一方、しまむらは商品政策が顧客とすれ違い続けて客離れが加速し、業績の下方修正を繰り返す惨状に追い込まれている。

 直近本決算(ワークマン19年3月期/しまむら同2月期)の業績も、ワークマンが売上げを16.7%、営業利益を27.6%、経常利益を24.5%も伸ばしたのに対し、しまむらは売上げを3.4%、営業利益を40.7%、経常利益を40.2%も落とし、売上対比の営業利益率はしまむらの4.66%に対してワークマンは20.2%(チェーン全店売上高に対しても14.5%)と大差が開いた。

 ワークマンが今中間期(4〜9月)決算を上方修正し、チェーン全店売上高32.2%増、営業利益55.1%増と加速したのに対し、しまむらは今期業績予想を二度も下方修正し、第3四半期累計(2月21日〜11月20日)は前年同期より売上高を3.8%、営業利益を8.1%落としている。ワークマンの中間期末進捗率はチェーン全店売上高で53.5%、営業総収入で57.1%、営業利益で57.6%と順調だから、本決算の着地までさらなる上方修正が予想される。

 既存店売上高もしまむらが客離れで前年を割り続け、消費増税ものみ込まず顧客の離反が加速し、9〜11月の4.7%減から12月は9.0%減、客数も9〜11月の4.4%減から12月は6.2%減と状況が深刻化しているのに対し、消費増税を内税でのみ込んだワークマンの既存店売上高は10〜12月が25.7%増、とりわけ12月は28.7%増、客数も10〜12月が19.6%増、12月も21.4%増と絶好調で、消費増税以降、両者の明暗は一段と開いている。

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 数値のわずかな改善に固執して顧客を見切ったしまむらの経営感覚は庶民相手の商売としては致命的だが、出遅れたECの迷走もリテラシーを疑わせる。

ECとC&Cでもリテラシーに大差

 ECへの対応も両者は対極的だ。どちらもECには出遅れており、しまむらはEC売上げ10億円、全売上高に占めるEC比率は0.2%、ワークマンもEC売上げ20億円、EC比率2%程度と推察されるが(いずれも今期)、中身は全く違う。

 唐突なEC進出発表から採算性に無理があるZOZOTOWN出店(荒利益率31.8%のしまむらが手数料率35%のZOZOに出店??)、そして1年足らずでの退店と迷走としかいえないしまむらのECに対し、ワークマンは自社オンラインストアと楽天の二本立てで着実に基礎を固め、3月16日から自社オンラインサイトを全面刷新して一本化し、店舗本位のC&Cを実現しようとしている。しまむらが客注アプリの「しまコレ」を店受け取り型ECに発展させ、専用DCから店舗に配送する自社ECを9月に立ち上げるのに対し、ワークマンは店舗在庫をEC受注に引き当てて店渡しするC&Cに踏み切るべく2月末で楽天から撤収する。

 それを「ワークマンが楽天を撤退」と見出し、楽天の一律送料無料化による送料負担を嫌っての撤退かのように報道する感覚には違和感がある。ワークマンの自社オンラインストアで送料無料となるのは税込み1万円以上からで、楽天が3月18日から税込み3980円以上を一律無料化することで自社オンラインストアと送料が異なってしまうのを避けたのは間違いないが、ワークマンのECは顧客の利便を図り店舗販売を支援するものであってEC単独の拡販と収益を狙うものではない。

 店舗本位のC&Cを実現すべく自社オンラインストアにECを一本化することが目的であり、楽天の一律送料無料化とたまたま時期が重なったと受け取るべきだ。『いずれ宅配するECはやめ、店受け取りに一本化したいと思っている』というワークマン土屋専務の発言もそれを裏付けている。EC注文品の店受け取り比率が7割に迫るワークマンにとっては現実的な選択なのではないか。

 しまむらの店受け取り型ECは店舗在庫を引き当てることができず、低コスト物流を確立した全国十カ所のDCからのルート便体制とは別に専用DCから店舗へ配送するという不合理な仕組みで、早々に破綻するのは目に見えている。鳴り物入りでスタートしたユニクロの有明自動倉庫も同様なEC専用物流体制で、店渡しといっても店在庫を引き当てできず有明から各店に配送しているからC&Cのメリットは限られる。

 ワークマンが自社オンラインサイトを刷新して3月16日から実現する店渡しシステムは、ECサイトで店舗在庫を検索して取り置き店舗で決済して受け取る仕組みだから、発注から最短3時間で受け取ることができる。これまでもワークマンではEC注文品の店受け取りが可能だったが、群馬県の専用DCから全国の店舗に発送する体制だったから受け取りに数日を要していた。

 ワークマンはほとんどの店舗がFCだから(今中間期末で93.8%)、ECが加盟店の売上げを圧迫することがないよう、地域顧客のEC注文に加盟店の在庫を引き当てることが必須だった。企業FCを頑なに拒絶する姿勢と合わせ、コンビニの冷徹で一方的なFCとは比較すべくもないテリトリー保証の手厚さを感じさせる。

OMOリテラシーを問う

 C&C(クリック&コレクト)は端的にはECで注文して店舗で受け取る仕組みを言うが、EC専業者に対する店舗小売業者のアドバンテージを最大化するOMO(Online Merges with Offline)戦略としては、以下のように拡大して考えるべきだ。

1)ウェブ&ショールーミング

 ECサイトやSNSの情報で店舗に誘導するウェブルーミング、ECサイトの情報を店舗で活用するショールーミング、両面のO2Oで店舗販売を活性化する。ウェブルーミングでは店舗在庫の検索と取り置きや発注、ショールーミングではECサイトの商品情報へ飛ばすQRコード(アプリを使えばバーコードでも可)が要となる。

2)顧客利便の最大化と物流コストの圧縮、在庫の効率化

 EC専業者では高くて遅い全国区宅配業者を使うにせよ速くて安いローカル宅配業者を使うにせよ個口のピッキングと配送が不可避で物流コストの抑制も在庫の効率化にも限界があるが、多店舗展開する小売業者にとっては一括配送の店舗物流を使って物流コストを圧縮し、店舗在庫を引き当てて在庫効率を高めることが容易にできる。

 EC受注に店在庫を引き当て店で渡せば最速で顧客に渡せるし(近辺への当日受け取り店出荷も可)、EC比率が高まっても店舗在庫が圧迫されて売上げが落ちることもない。過去5年間で有力アパレルのEC比率は10ポイント前後も高まり、その分がDC在庫に積まれて店舗在庫は10ポイントも薄くなった。それが店舗の販売機会を損なって売上げの足を引っ張ったことは疑う余地もないが、EC受注に店舗在庫を引き当てればそんな弊害もなくなる。

3)店舗の顧客拡大と売上増

 店受け取りやお試しでEC顧客が来店すれば店舗でも購入するようになり、店舗売上げを少なからず押し上げる。SPACメンバーの平均では店舗だけで購入する顧客/ECだけで購入する顧客/どちらでも購入する顧客の比率は7対2対1、年間の購入金額は100対67対220だったから(国内ユニクロのデータも大差ない)、ECだけで購入する顧客が受け取りに訪れて店舗でも購入するようになると店舗の売上げは最大28.3%も増える計算になる。

4)エリアマーケティングとテザリング

 店舗をC&C拠点とするOMOを進めるにはマーケティングと物流の概念も根底から変えなければならない。EC受注に最適位置の店舗在庫を引き当て(店受け取りでは顧客が選択する)、地域のEC顧客を店受け取りで店舗顧客に取り込んでいくには、エリア単位のマーケティングと物流体制が不可欠だ。

 ECと店舗の顧客データを一元化してエリアごとにECと店舗の売上げバランスを最適化し、時間単位でエリア内の在庫を運用する体制が求められる。店舗網の布陣もイメージ発信と量販の旗艦店(高家賃大型店)、受け取りとお試し利便のサテライト店舗群、エリア各店舗への補給基地となる大型母店(低家賃大型店)を意図して配置するようになる。店出荷とテザリング(店舗間補給)を連携する地域ルート便体制が不可欠なのは言うまでもない。

腐れども“宝の山”のしまむら

 現在のしまむらは顧客も見えずOMOのリテラシーも欠く経営陣の下で業績を悪化させるばかりだが、腐ったとはいえ“宝の山”であることに変わりはない。

 大衆の生活圏に密着した平均1008平米の2161店舗(1月20日の国内店舗)は主婦やJK、JCの生活動線上に位置し、店頭のレジ周辺スペースにもフィッティングスペースにもゆとりがあり、優秀なパート従業員にも恵まれた稀有なラストワンマイル拠点と評価される。しまむらにとってはコストセンターでも、アマゾンや楽天、Zホールディングス(ヤフー)などECプラットフォーマーにとっては受け取りやお試しのC&C拠点として垂ぜんの的に違いない。

 しまむらの経営陣がOMOのリテラシーに目覚めて2161店舗をC&Cのオープンプラットフォームに変身させれば、来店客数が激増して売上げは2〜3割以上伸び、利益は倍増するに違いないが、かたくなに目をつむり続ければいずれ巨大ECプラットフォーマーにのみ込まれることになる。Zホールディングス(ヤフー)がZOZOをのみ込むのに4007億円(発行済株式の50.1%)を要したが、しまむらをのみ込むには1478億円(同、1月24日終値)しか要しない。

 大衆ファッションストアとしての立て直しも1)トレンド品は短サイクル調達売り切り、定番品はVMI、期末はオフプライスストア化と割り切り、2)プチプラのコスメやジュエリーを大きく拡充し、3)フィッティング環境を快適化し、しゃれたカフェサービスなどを加えて近隣の主婦やJKが楽しく集えるネイバーサロンに変貌させれば短期に成果が出せるはずで、安い買物になるだろう。

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