小島健輔の最新論文

販売革新2016年5月号掲載
『三越銀座店「JAPAN DutyFree GINZA」VS.銀座東急プラザ「ロッテ免税店」』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 1月27日に三越銀座店8Fに開業した「JAPAN DutyFree GINZA」(以下JDFと略す)に続き3月31日には銀座東急プラザ8〜9Fに「ロッテ免税店」が開業し、インバウンド消費の主役は市中免税店(TaxFree)から空港型免税店(DutyFree)へ移行するのかと注目されているが、この両者の実力をどう見るべきだろうか。

価格の比較

 TaxFreeが消費税だけの免税なのに対しDutyFreeは関税や酒税・たばこ税まで免税になるから酒やたばこはもちろん、関税が高率な皮革製品や化粧品・香水(成分によるが)は市中より20〜25%程度安く買える。その仕組みは両者とも同じだからブランド商品の価格は変らないが、4630億円を売り上げるロッテは調達力を活かした別注アイテムやセット商品、クーポンキャンペーンなどで価格を訴求出来る。
 ロッテで3万円以上買えば2000円、10万円以上買えば6000円の商品券をくれるし、何かを買ったレシートを見せてVIPシルバーカードメンバーになれば5年間、商品によって最大5%の割引も受けられるし(4月末までのキャンペーン)、50万円以上買ってゴールドカードメンバーになれば商品によって10〜15%の割引が受けられる。JDFでもMIカード割引(4月6日からポイント制に変わったがJDFでは3000円以上からその場で5%オフしてくれる)や三越伊勢丹の株主優待カード割引(3000円以上で10%)という手があり、どちらも免税+αのお得ショッピングが楽しめる。

商品構成の比較

 三越銀座店8Fに開業した「JAPAN DutyFree GINZA」はワンフロア3300平米の売場に酒・たばこ、化粧品・香水、9つブランドブティックから日本の工芸品やデザイン工業製品まで揃え、3月9日には7ブランドを揃えるウォッチブティック「TimeVallee」を加え、初年度100億円、次年度130億円を計画している。銀座東急プラザ8〜9Fに開業した「ロッテ免税店」は2フロア4400平米に酒・たばこ・チョコレート、化粧品・香水、アイウェア、ブランドブティックに加えて家電製品やカメラ、化粧品や美容雑貨などTaxFreeの日本製品コーナーを併設しているのが特色で、初年度150億円を計画している。
 ファッション系では、JDFが7つのブランドブティックのうち「グッチ」「サンローラン」「ボッテガ・ヴェネタ」「バレンシアガ」と4ブランドがケリング傘下で5ブランドがアパレルも展開するのに対し、ロッテは10のブランドブティックのうち「グッチ」こそ重なるが「COACH」や「MGM」、「サムソナイト」「トリーバーチ」など雑貨中心で「サマンサタバサ」まで揃う。宝飾系ではJDFの「ティファニー」「ブシュロン」に対し、ロッテは対応するブランドを欠いている。
 ウォッチでは、JDFが「カルティエ」「ピアジェ」「ヴァシュロン・コンスタンタン」「ジャカー・ルクルト」などハイクラスの7ブランドを揃えるのに対し、ロッテは「フランク・ミューラー」「ブランパン」や「ジャガー・ルクルト」などハイクラス、「パネライ」や「ティソ」などコンテンポラリーから手頃な「スウォッチ」、日本ブランドの「カシオ」「セイコー」「シチズン」まで多様な22ブランドを揃える。
 化粧品・香水では、両者とも「エスティ・ローダー」「ロレアル・パリ」「ランコム」「クリニーク」「SK-2」「資生堂」など基幹ブランドが揃っているが、JDFが「ブルガリ」「クロエ」「マーク・ジェイコブス」「セルジュ・ルタンス」とファッションブランドを訴求するのに対し、ロッテは「トム・フォード」を打ち出す一方で手頃なブランドも揃え、韓国コスメの「アイオペ」(アモーレ・パシフィック)や「スム」(ステファニー)も並べている。
 総じてJDFは日本人感覚のファッション性が通底しており、ロッテは中国人などの好みに即した現実的な品揃えを意識している。それは日本製品の訴求にも現れており、JDFが洗練されたデザイン工業製品や手の込んだ工芸品を美術館的空間にゆったり展示するのに対し、ロッテは電気釜やデジカメ、美容雑貨など実用品を平場っぽい売場に気負わず棚陳列している。

売場環境や利便性の比較

 売場環境も両者は対照的だ。JDFが高コストなブティック仕様のブランドショップを並べ、平場の什器や照明も洗練された高級仕様なのに較べ、ロッテのブランドショップは軽装のインショップ仕様で、平場も広々と豪華に見えても化粧品売場など照明が安手で演色性が怪しく、明らかにグレードが違う。JDFのレセプションカウンターは売場から区分された空間で落ち着けるが、ロッテは8Fのインフォメーションと9Fのツアーデスクに別れ、どちらもEVホールの通路に直面して忙しなく、カスタマーラウンジのスペースもJDFとは格差がある。
 パスポートと30日以内の出発航空券を所持していれば外国人も日本人も利用出来るが、JDFではそれをレセプションで提示してショッピングカードを発行、ロッテは購入時にパスポートと航空券を提示、という手順の相違がある。出国手続き後の受け取りカウンターで出発の一時間前までに受け取るのは同じだが、JDFが購入のリミットを出発の前日まで、羽田発の早朝便(0時〜5時59分)は前々日までとするのに対し、ロッテは13時までの購入なら当日21時以降の羽田出発便(成田は22時)、21時までの購入なら翌朝5時以降の羽田出発便(成田は8時30分)に間に合う。1980年来というロッテの空港型(保税)免税店運営の熟練度は一日の長があり、物流手順はもちろん中国人客の好みや購買行動にも精通しているのが強みだ。
 アジア系旅行代理店とのネットワークを開発途上のJDFは‘おもてなし’に拘って個人旅行の富裕層を狙い、長年かけて旅行代理店とのネットワークを確立したロッテは利便に徹して団体旅行の中間層を狙っている、という印象を受けたが、果たしてどちらが優位に立つのだろうか。JDFは売上予算に届いていないし、ロッテも閑散としている時が多い。
 14年段階では初訪日比率が55.8%、団体比率が61.1%だった中国人観光客も15年度春期では団体旅行が急減して個人旅行が53.4%と凌駕するに至り、リピーターでは買い物より地方にも広がる観光へのシフトが目立つ。高額な医療ツアーなど欧米旅行経験もある富裕層の訪日も急増しており、もはや買い物主体の訪日観光は過去のものとなりつつある。中国人の旅行スタイルが未成熟だった10〜13年に中間層主体の訪韓中国人を捉えて成功したロッテの商法がこれからの日本で通用するか疑問で、個人旅行の富裕層に狙いを絞ったJDFにも勝算はあるのではないか。

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