小島健輔の最新論文

オリジナル提言 2005年2月(第204回SPAC“ビッグコンベンション”レポートより)
『真のRSCエイジへの提言』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

中長期的視点でSCビジネスを再構築せよ

 90年代以降のSC開発ブームを新設SC総テナント数を基準に振り返ると、第二次改正大店法施行を契機とした92〜93年のハコ型CSC乱造による第一期、大店立地法施行直前〜経過措置期間の99〜00年の駆け込み開設による第二期(ハコ型からモール型への交代期でもあった)、そして物件供給/資金調達/大店立地法対応/テナント供給の四拍子が揃った04年以降の大型モール開設による第三期、という3回のピークが見られる。
 過去2回のブームではピークは2年間に限られ、開設ラッシュの反動で行政が何らかのアクションを起こして冷却期間に転じている。今回もそうとは限らないが、冷却への予兆がないわけではない。商工会連合会等の小売業者団体の請願活動や環境保護団体の反発ももちろんだが、今回は郊外SCの失敗ケース急増とターミナルSCの条件改善/開発急増から、テナント企業の出店意欲が郊外SCからターミナルSCに移って冷却に転じるというシナリオが濃厚だ。それだけ郊外SCが乱造され、テナント募集時に唱った集客が果たせないケースが続出しているからだ。
 もちろん、優良な専業デベロッパーによる成功事例も多々見られるが、経験の浅い後発デベロッパーによる無謀な開発や量販店本体による核店舗本位の開発で多くのテナント企業が被害を被っている。その最たるものがモール型CSCであり、その実体はかつてのGMS核ハコ型CSCと何ら変わりない。例え5万平米超級のスケールでもその立地と商勢圏はCSCの域を出ず、集客も売上もテナントの期待に応えられるものではない。
 このようなテナントに利益をもたらさないSCを見抜く事はもちろんだが、専業デベロッパーによる優良物件の開発継続とSCエイジの健全な発展を期するなら、SCデベロッパーは開設SCの営業成績をきちんと公開すべきである。SC総体/核店舗/テナント分野別の月度/四半期/年度の売上を公開せずして、テナント企業はどうしてSCの良否を判別できると謂うのだろうか。
 テナント企業の出店/退店統計を顧みると、出店ブームの5年後から6年後にかけて必ず退店ラッシュが訪れている。バブル期の後も第一期の後も第二期の後も同様で、退店ラッシュのピークでは退店率は百%を大きく超えている(SPACメンバー統計によれば、店舗の十年生存率は三割に過ぎない)。
 バブル期後と第一期後の退店ラッシュでナショナルチェーンの大半は出店体力を消耗し切ったが、今始まりつつある第二期後の退店ラッシュでは、初期の郊外モールを埋めたアパレルSPA企業の中から体力を消耗する企業が出てくるだろう。では、今やピークを迎えようとしている第三期後の退店ラッシュでは誰が体力を消耗する事になるのか。そう考えれば、テナント企業はもっと出店に慎重になるだろうし、デベロッパーは優良テナントの利益確保にもっと留意するようになるだろう。
 SC開発がひとつのピークを迎えようとしている今こそ、デベロッパーもテナント企業も、もっと中長期的視点でSCビジネスを再構築する必要があるのではないか。
本物RSC開発への三つの課題
 RSCを謳いながら実体はモール型のGMS核CSCであったり、RSC規模にもかかわらず商勢圏が拡がらないケースが多々見られるが、そのような疑似RSCが開発される主要因は以下の3点だと考えられる。逆に言えば、この3点を解決すれば本格的RSCを開発できるという事だ。

1)立地選定の誤り
 足元の人口密度に目を奪われて商圏の拡がりやアクセス難易度を軽視したり(地図を見れば一目瞭然なのだが)、物件の道路付けや敷地面積の無理を承知で目一杯の大型施設を開発したり、既存SC/計画SCの商勢圏に割り込むような侵略型開発を断行すれば、様々な軋轢が生じて広域商勢圏の確立が妨げられる。開発地域の地場イメージが劣悪な場合も、予想外に集客に響く。このひとつでも引っ掛かれば、RSCは成り立たない。これまでの大型SC開発立地の大半は本来のRSC立地ではなかった。将来を俯瞰した「SCのマーケットポジション図」で示したあるべき立地を精査し、本物のRSCを開発してもらいたい。

2)建築レイアウト/施設構成の誤り
 立地選定を誤らなくても敷地内の建築レイアウト/施設構成を誤れば、来店車の出入りに渋滞を来したり(出るのに1時間かかったという苦情もある)、納品車/来店車/歩行者が交錯したり、モールのフロアや位置によって客数に大差が出たりしてしまう。駐車場誘導システムや誘導員による対応ソフトの適否も含め、物理的にRSCの来店車量と物流量をスムースに捌け、来店客が安全快適に回遊できなければ話にならない。この当然すぎる事が出来ていないSCが大半なのだ。海外の著名アーキテクトに依存しても、これらの諸問題は解決しない。デベロッパー各社は真摯に失敗経験や他SCの成功事例に学び、改善を積み重ねていただきたい。

3)広域集客力ある百貨店核の欠如
 GMSをどう大型化しても、部分的にブランド商財を導入しても、都市百貨店のような広域集客力には遠く及ばない。ローコスト投資/ローコスト運営/大衆商財ばかりの名前だけの百貨店もそれは同様だ。そんな魅力のない核に頼っていてはRSCの広域商圏は確保できない。RSCには何が何でも本物の百貨店が必要なのだ。
 キラ星のようなブランド群/タイムリーに営業催事を繰り出す平場/エンターテイメント食品/文化催事/華やかな内外装とディスプレイ/キメ細やかな販売サービスなどの基本的要件を欠いては、百貨店という集客マシンは作動しない。百貨店の抜本改革を待っていてはチャンスを失うから、フル装備フルサービスの百貨店が採算に乗る出店条件をデベロッパーが用意するしか打開策はない。核GMSの坪家賃はモールテナントの3分の1(後方含む)と言われるが、それ以上の条件を提示しても魅力的な百貨店を誘致するメリットがあるはずだ。

サバブ・カルチャーに花咲く新業態開発を急げ

 99〜00年の第二期出店ブーム当時は都市風キレイ目面の大手アパレル系ファミリーSPAがモールの主役だったが、04年以降の第三期出店ブームでは彼等は勢いを失い、新手のカジュアル業態やローカルチェーン、生活雑貨を複合したライフスタイル業態、成熟した世代を狙った業態などが台頭している。その要因として、大手アパレル系ファミリーSPAが各駅停車してインパクトが薄れた事、よりフォーカスを絞った新手業態が多数台頭してモールテナントのバラエティが揃った事が挙げられるが、郊外モールでのショッピングが多世代に定着して独自のライフスタイル・カルチャーが開花してきた事にも注目すべきである。
 初期の都心コンプレックスが消えて郊外ならではのカジュアル&LOHASなライフスタイルがサバブ・カルチャーに発展し、それがニッチフォーカスなカジュアル業態や成熟世代業態、ライフスタイル業態などの開花をもたらしたと見るべきではないか。米国のライフスタイルセンターで台頭している業態との類似性が次第に強まっているのも、その証左のひとつと言えよう。
 と見るなら、都心型ブランド/業態の焼き直しを嬉々としてモールに導入するトレンドは既に終わり、サバブ・カルチャーから芽生えたオリジナルな業態がモールの主役を占めるべき時が来た事になる。にもかかわらずの大手アパレル/ナショナルチェーンの新業態開発意欲の低迷は残念と言うしかない。今、成熟に向かうサバブ・カルチャーに花咲く新業態を続々投入出来なければ、郊外RSC時代の成長チャンスを手放す羽目になる。

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