小島健輔の最新論文

ファッション販売2018年9月号掲載
『アパレル販売員の不足をどう解決するか』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

 コンビニやファストフード店では日本人スタッフが消えて留学生など外国人アルバイトばかりになって来たが、まさかファッション店の販売スタッフまで外国人ばかりになる日が来るのだろうか。

■アパレル販売員人手不足の背景
 少子高齢化による若年労働人口の減少と景気の回復で17年の有効求人倍率は1.50倍と高度成長期だった73年以来の水準に達し各分野で人手不足が深刻化しているが、中でも「商品販売職」の有効求人倍率は18年1〜3月には2.60倍に達した。4〜8倍というIT・通信や建築・土木など技術系ほどではないが、広範な若年労働者を対象とする職種としては逼迫が目立つ。
 アパレルの販売職に絞れば、駅ビル・ファッションビルこそ逼迫感はさほど強くないが、地方や郊外のSC、とりわけ公共交通機関がなく車通勤が必要なSCでは販売員不足が深刻化している。僻地のアウトレットモールなど、住居を用意して都市部から販売員を駆り集めないと店を維持出来ないのが現実だ。
 三大都市圏のアパレル販売パート&バイト募集の平均時給は14年頃からジリジリ上昇して1000円の大台に乗ったとは言え、飲食サービスほど高騰しているわけではない。大都市圏では不人気というほどではないし勤務時間など条件が合えば採用は可能だが、生産性の低さが足を引っ張って給与水準が低位に留まりキャリアアップも限られ、在職期間が短くスキルが高まり難いことが足かせとなっている。

■試着販売用商品の購入負担はもう限界
 それに輪をかけているのがアパレル販売に特有の“試着販売”に必要な自社商品の購入負担で、ほぼ9割のアパレル企業が売場での自社商品の着用を義務付け、ほとんどの企業が社員割引で購入させている。
 その割引率は商品の価格帯にスライドしており、低価格のSPAチェーンが20〜30%に留まるのに対し、高額ブランドでは60〜80%にも達する。当社が主宰するSPAC研究会で6月に実施したアンケートではオリジナル商品が平均48%引き、仕入れ商品が平均34.6%引きだった。オリジナルとセレクトが混在するセレクトチェーンでは、オリジナル品の50〜60%引きに対し仕入れ品は30〜40%引きと原価率を反映している。チャネル別では百貨店主力ブランドが平均42.5%引きと最も割引率が高く、駅ビル/ファッションビル主力ブランドが平均32.5%引き、単価の低い郊外SC主力ブランドは全社30%引きだった。アパレル求人サイトの「GIRLSWOMAN」が16年に行ったアパレル販売員経験者アンケートでも大差ない結果だったから、SPACメンバーの状況は業界の平均的な姿と思われる。
 顧客が知ったら目を剥きそうな割引率だが、毎月2セットの新商品を購入すれば、低価格SPAチェーンでもほぼ2〜3万円×80〜70%=1万6000円〜2万1000円、高額ブランドは割引率が高くても商品価格も高いから6〜10万円×40〜30%=2万4000円〜3万円にもなってしまう。低価格カジュアルチェーンで260〜300万円、高価格ブランドでも360万円程度というアパレル販売員の年収水準を考えれば、毎月の手取りから10〜15%も差し引かれる社販購入は重すぎる負担ではないか。
 国内アパレル企業は社販購入でもラグジュアリーなど外資ブランドのほとんどは制服支給か試着服貸与で販売員の自己負担はないから(あったら8割引でも負担に耐えない高額になる!)、イメージと給与水準の高さもあって販売員志望者は外資ブランドに集中してしまう。給与が低く社販購入の負担があっても来てくれる販売員は数も質も限定されるのはやむを得ない。洋服好きのブランドフアンが生活を切り詰めても販売員を担ってくれるという幻想を捨て、支給か貸与に切り替えるべきだろう。

■アパレル販売員を評価するスキルは何か
 業界ではロールプレイングコンテストが花盛りだが、販売員の役割を誤解させる弊害を否めない。接客の会話やアクションは販売プロセスの一部に過ぎないし、「販売」とて以下の5業務の一角に過ぎないからだ。
1)品出し・補充・陳列整理・在庫管理から再編集・陳列演出まで付加価値マテハン業務(これが本当のVMDです)。
2)顧客のニーズを適確に掴んで商品を推奨し購買決定までサポートする接客業務(「おもてなし」は販売の本質ではありません)。
3)顧客の体型や着こなしと商品のパターンや物性を摺り合わせるフィッティング〜修理採寸業務(知識とスキルが不可欠です)。
4)商品やスタイリングをSNS投稿し、タブレットで商品を紹介したり在庫検索して接客するオムニチャネル販売業務(デジタルスキルが不可欠です)。
5)精算と包装のクロージング業務(セルフ化/自動化も可能だが人の『ありがとうございます』が不可欠だ)。
 店長ともなれば、これに6)レイバーコントロールと勤怠・意欲管理というマネジメント業務も加わる。これらのスキルをそれぞれに評価すべきで、ばっくり「接客」と捉えられては堪らない。愛想良く接客するのは苦手でも、フィッティングやVMD、SNS投稿やタブレット接客の達人もいるはずだ。
 販売員の生産性を高め待遇を改善するには、店舗運営のシステム改革に加え、低付加価値業務を自動化したり切り捨てて高付加価値業務に集約し、1)〜6)業務それぞれにきちんと評価すべきではないか。ウェブルーミングとショールーミングを駆使してECと店舗一体のオムニチャネル販売が競われる中、販売員のSNS投稿による売上を個人カウントして報酬に反映しているアパレル企業がほぼ皆無なのも問題だし、ロールプレイングコンテストよりタブレット接客コンテストの方が急がれる。
 
■日本人販売員がいなくなる?
 少子高齢化が急進し若年労働者のデジタル志向やオフィスワーク志向が強まる中、一日中立ちっ放しでコミュニケーション力やファッション感度が問われ、ましてや容姿まで求められる割に低報酬なアパレル販売員の供給不足は加速こそすれ緩和されることはあり得ない。留学生など外国人バイトスタッフが急増するファストフーズやコンビニまでは行かないにしても、バックヤードは外国人アルバイトに依存せざるを得なくなるだろう(現在でもDCを支えるのは外国人労働者だ)。
 むしろ多様なスキルが必要なフロントヤードで積極的に「高度外国人材」を活用すべきかも知れない。外国人顧客比率の高い店はもちろん、アートな陳列スキルが求められるショールームストアなどでは欧米アートスクール出の「高度外国人材」がスキルの幼稚な日本人の若者を駆逐しても不思議はない。
 それより、販売員に向く日本人の裾野を拡げる方が現実的ではないか。店舗とECの一元化が進めば店舗販売も半ばデジタル化されてAIエントリーやチャット接客が広がり、声かけに躊躇するシャイな性格の人材やブランドイメージに合わない年齢や容姿の人材も販売を担えるようになる。ファッションが好きで若くて容姿端麗で社交的な性格で・・・・などタレントを採用する訳でもないのに無茶な条件を並べては裾野が限られる。外国人労働力に目を向けるより日本人労働力の間口を拡げるのが先決だと思う。

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