小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『しまむらってこのままでいいの』 (2019年01月21日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 顧客の離反が止まらないしまむらが、今度はAIを活用した顧客分析を導入するとか。自分の目で顧客を見ず数字と組織がデジタル変換したバーチャル像しか見ないから顧客が見えなくなったのに、AIまで活用すれば一段とバーチャル化して顧客の実像から遠のいてしまう。しまむらの経営陣はそんなに顧客を見たくないのだろうか。

しまむらは顧客を見ていない

 しまむらの売上げが下げ止まらないのは顧客の実像が見えず顧客と品揃えがすれ違っているからで、それは以下の3点に尽きるのではないか。

(1)顧客のお財布が見えていない

 しまむらは低価格衣料の代表のようにいわれるが、社会負担増で手取りが圧迫され、生計と生活に追われるしまむらの顧客層にとっては、必ずしもお手軽とはいえなくなっている。中途半端なPBが増えたせいもあって商品によっては低価格SPAチェーンと大差なくなり、ホームセンターなどのオフプライス品やメルカリなどのリユース品に顧客が流れている。メルカリの18年度取扱量最多ブランドに「ユニクロ」が挙がって注目されたが、「しまむら」も3桁価格でリユースに結構流れている。低所得層の価格感覚はそこまで下がっているのだ。

 しまむらもシーズン末期には値下げやオフプライス商品の投入で3桁価格が目立つようになるが、そこでようやく財布を開く顧客も少なくないと思われる。ならば、実需期からオフプライス商品を広げてもよいのではないか。品揃えの硬直化と価格の高止まり?を招きかねないSPA化より、顧客が求めるなら半ばオフプライスストア化するのも1つの選択肢ではなかろうか。

(2)顧客のウエアリングが見えていない

 しまむらの店頭に並ぶのは駅ビルやSCでメジャーになった実績商品のトレード・オフ品ばかりで、もとよりトレンド的な鮮度を期待するものではないが、それだけに顧客のウエアリングとずれてしまうリスクがある。

 近年は着やすさ、着回しやすさを求めて“ノームコア”から“ゆる抜け”とフィットが緩くオーバーサイジングになり、数年前と比べればワンサイズ以上大きくなった感があるが、しまむらは必ずしも対応できていない。新しいアイテムやコーディネイトへの対応も遅れ気味で、スポーツ/アウトドアアイテムとドームアイテムをリミックスする“アスレカジュアル”の奔流にも乗り損ねている。“ヤンキー”なTPOレス衣生活がメジャー化したともいえるものだから、しまむらの乗り遅れは痛い失策なのではないか。

(3)顧客のテロワールが見えていない

 トレンド後追いのしまむらが欧米の最新トレンド視察に大枚を投じていると自慢した時期があったが、あまりの愚かさに批判する気力も失せたと記憶している。ファストファッションが全盛だった当時はともかく、17年以降は世界的なローカル回帰が進行しており、各国のファッションマーケットがローカルに分岐し、地域やストリートでテロワールに分岐している。

 もとより近隣ローカルの顧客を対象とするしまむらはテロワールな個店対応が問われるが、個店の顧客を見ようとしないし、硬直化したCMIに徹して有能なパートさんたちの顧客を見る眼を活用しようともしていない。商圏が小さいほど顧客タイプ(ウエアリングの好み)の構成は大きく異なるから個店対応が問われるのに、しまむらは全体最適な中央集権体質を変えようとしていない。

 AIを導入しても全体最適スタンスで活用すれば混色滅彩してしまうだけで、テロワール対応力は高まらない。AI導入以前にリアルな顧客像をつかんでビジュアルに分類定義する必要があるのではないか。

顧客分類とSMIで個店対応力を高めよう

 しまむらの顧客層は、世代的にはトゥイーンズ(JS高学年〜JC)からシニアまで、職業もパート主婦やフリーターからローカルでは農林水産業まで幅広い。近隣生活圏だからアーバン感覚よりサバブ〜カントリーのデイリーなTPO中心で、モードを気負ったスタイリングは例外的とならざるを得ない。そうはいっても、当社が毎シーズン、製作している「レディス客層マップ」の32タイプ中22タイプは来店していると思われる。そんな顧客層をしまむらはビジュアルに捉えて品揃えの基準としているだろうか。

 店頭の品揃えを見る限り、そんな繊細な対応は想像がつかないが、やれば品揃えの精度は確実に上がるし、個店の客層に応じて容易に品揃えをアジャストできる。しまむら独自の「客層マップ」を作成して基準にし、商品ごとに客層対応コードを振って単品管理すれば、店ごとの客層構成が数値で捉えられ、商品企画や品揃えに反映できる。

 それには商品カセットは標準化してもカセットの選択は個店対応する仕組み(SKUフェイシング量はパターン化)が必要で、AI仕掛けのCMIだけでも可能だが、部分的にでも現場のパートさんたちを参画させるSMIで盛り上げる方が店も会社も格段に活気付く。年々、既存店売上高が萎んでいくしまむらの現状は顧客とのすれ違いもともかく、現場参画なき冷めたガバナンスも災いしていると勘ぐるのは外野の思い過ごしだろうか。

現場の人間力を生かしては

 時折のぞく「しまむら」の店頭は悲しいほど殺風景で夢がなく、店スタッフのオペレーションも楽しそうには見えない。合理的に標準化されているのかもしれないが、パートさんの創意や熱意で顧客を広げたり来店頻度を高めたりサービスを拡充してお店を活性化する雰囲気でないのが残念だ。

 とりわけもったいないのがレジカウンター周りから集合フィッティングまでの空間で、コンビニ的な発想をすれば売上げを大きく伸ばせるカテゴリーやサービスが幾つも思い当たる(フードサービスはお勧めしません)。そんなことに手を広げればパートさんの業務が複雑化して効率が落ちると考えているのかもしれないが、多少の負荷と創意を求められる方が現場は活気付くものだ。

 スーパーマーケットを脅かしているドラッグストアの“カテゴリーロビング”やドンキの現場至上主義まではともかく、これまでの標準化・単純化というチェーンストア原理順守のクールなCMIガバナンスから、個店の顧客を捉えて現場の創意と熱意で店を活性化するホットなSMIガバナンスへ変わらない限り、しまむらの顧客離れと凋落は止まらないのではないか。 

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