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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『セブン&アイとイズミの提携に何を見るか』 (2018年04月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 セブン&アイ・ホールディングスとイズミの提携は量販店業界には衝撃だったと思うが、資本を持ち合うわけでなく協力関係を深めるだけだから、チャンスは広がってもリスクは限られる。もとより全盛期のイトーヨーカ堂から学んで「西日本のイトーヨーカ堂」と揶揄されたこともあるほど似ているイズミとは協力関係にあったから違和感はないが、今なぜ提携に踏み込むのだろうか。

 PBの「セブンプレミアム」、ロフトやアカチャンホンポなどグループ専門店のイズミ施設への導入(エクセルなど逆もある)、既に決定している福山店に加えて兵庫など西日本の飛び地店舗のイズミへの移譲(そごう神戸店と西武高槻店をH2Oリテイリングに譲渡したのだから当然有り得る)などが検討されているのだろうが、そこに鈴木敏文体制では考えられなかった経営感覚の転換を見るべきだろう。その要点は以下の2つだと思う。

失われた現場スキルの回復

 両者をグループで比較してはセブン‐イレブンまで含まれ実感から乖離しかねないから、イズミ単体とイトーヨーカ堂、それもテナントを含まない直営部門、中でも両者の明暗を分けた衣料部門にフォーカスを絞りたい。

 イズミは西日本のローカル量販店だが、売上規模こそ5.5%増の6527億円(18年2月期、以下同)とイトーヨーカ堂の1兆2136億円(18年2月期、以下同)の半分強でも、営業利益は320億円/売上対比4.9%とイトーヨーカ堂の30億7700万円/同0.25%より格段に優等生だ。直営売上げに占める衣料品比率も21.4%とイトーヨーカ堂の18.4%より3.0ポイント高く、衣料品の荒利益率も38.0%とイトーヨーカ堂の34.0%より4ポイントも高い。衣料品の既存店売上高にしても、イズミの17年2月期0.5%増、18年2月期0.6%減に対してイトーヨーカ堂は6.3%減、4.0%減と勢いの差は否めない。

 何がこの差をもたらしたのか、1980年代からの両者の関係を振り返ってみれば、今回の提携劇の真意がつかめよう。

 80年代〜90年代前半はイトーヨーカ堂衣料部門の全盛期であり、売れ行きの鈍い商品でも売場の再編集を繰り返して売り切っていく運用スキル(これぞ本物のVMDだと思う)は他社の垂涎の的だった。その運用パターンを毎週、多人数で売場に張り付いて詳細に調べ(執拗に張り付かれ追い出しを食らいました)マニュアル化したレポートは今日もなお、私の売場運用指導の基本として生きている。

 当時のイズミはイトーヨーカ堂をベンチマークして学び、90年代には「西日本のイトーヨーカ堂」と揶揄されるまでになったが、御本家のイトーヨーカ堂は92年に社長に就任した鈴木敏文氏の『売場など見なくてもよい』と言い切るPOSデータ過信経営で現場の運用体制が崩れ、あれよあれよという間に販売力が低下して収益力も失った。96年2月期には4568億円も売り上げて直営売上高の35.3%も占め、稼ぎ頭だった衣料部門も2002年8月期には赤字に転落し、今や1626億円と最盛期の3分の1強まで落ち込んでお荷物部門となっている。

 黄金期のイトーヨーカ堂衣料部門を支えた“現場の星”たちは鈴木体制下で疎まれ、韓国サムスン流通グループのEマートや国内のライバル量販店に流れたといわれるが、Eマートの店頭や後方に当時のイトーヨーカ堂流スキルが見られるように、イズミにも人材が流れたのかもしれない。

 POS信奉者の鈴木氏が去った今日、イトーヨーカ堂衣料部門の黄金期の運用スキルを受け継いだイズミとの交流を深め、かつてのスキルを復活させたいという意向がセブン&アイ側にあったとしても不思議はない。衣料部門の両社の明暗を見る限り、あり得ない話ではないと思う。

経営感覚のオープンマインド転換

 上意下達の中央集権と秘密主義が徹底していた鈴木体制が終わって風通しが良くなり、外部企業との交流や提携も広がり始めた雪解け気分が本格的なオープンマインド戦略に発展したのがイズミとの提携劇だったのではないか。

 鈴木体制下の「オムニセブン」はサイト掲載もセブン‐イレブンでの受け取りもグループ企業商品に限定するというクローズド戦略が裏目に出て離陸できず、井阪体制下で出直すことになったが、今やグループ企業商品でなくてもセブン‐イレブンで受け取れるようになり、昨年11月末からはアスクルと提携して「ロハコ」内にIYフレッシュを出店。1日2サイクルでダークストアの西日暮里店からピッキングしてアスクル側に渡し、1時間単位の指定で翌日宅配するサービスを始めている。

 オムニチャネル消費が加速する今日、コンテンツとプラットフォームは別物であり、互いのコンテンツを相手のプラットフォームに乗り入れるオープンマインド戦略が優位であることは疑う余地もない。アスクルや小田急グループ、イズミに限らず、顧客利便とコストに合ってシステム連携の障害がない限り、合理性のある提携がさらに広がっていくと見るべきだ。

 となれば、鈴木体制下のように売場でメモを取っただけで詰問され、写真でも撮ろうものなら警備員が飛んで来て追い出されたような怖い雰囲気からは一変し、『写メご自由 インスタ歓迎』などとキャンペーンする明るい雰囲気の店に変わるのかもしれない。昨春のイトーヨーカドー春日部店のお茶目な「サトーココノカドー」変身など、フレンドリーな気風への変貌が伺える。会社の気風は取引先やジャーナリストのみならず顧客にも必ず伝わる。明るくフレンドリーなオープンマインドが顧客の共感を呼ぶようなイトーヨーカ堂とセブン&アイグループの変貌に期待したい。

※POS信奉の弊害については『後ピン誤ピンに惑わされるPOSの弊害』を参照されたい。

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