小島健輔の最新論文

オリジナル提言2009年12月
『2010年の経営課題』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 リーマンショックから一巡しても単価ダウンは止まらず売上不振も2周目に入っていますが、苦戦を不況のせいばかりには出来ません。デジタル世代の退化萎縮する等身大消費スタイルがすっかり定着し、レイヤード化の急進やファストファッションのメジャー化で衣服が使い捨て消費材に変質した事も大きな要因と思われます。加えて見過ごせないのは、衣料供給の96.3%を占める輸入品単価が購入単価以上に下落している事です。急速な単価ダウンは調達コスト低下が招く必然であり、ごく自然な帰結と見るしかありません。中国からベトナムやタイ、バングラデシュなどさらなる低コスト生産圏へのシフト、感性と価格のグローバル平準化という必然を考えても、衣料品の価格はまだまだ下がると覚悟すべきでしょう。
 さらなる単価ダウンが避けられない2010年、ファッションビジネスはどう活路を開くべきでしょうか。単価ダウンが売上減少に直結するまま、コストを切り詰め在庫を圧縮し不振店舗を閉鎖して縮小均衡を続ける訳にはいきません。顧客を限定するクラスターマーケティング(「誰に何を」という手法)を脱し、広範な新規顧客を取り込むゴールデンアローマーケティング(突出したコンセプトやアイテムで広範な顧客を串刺す)に転換するとともに、調達のコストとスピードを一新して売上と収益を飛躍的に伸ばすべきではありませんか。
 調達コスト圧縮は低コスト生産地への移転、調達スピード加速はODMによって容易に実現出来ます。供給業界の体制は急速に低コスト/高スピードに動いており、誰もがその波に乗ろうと思えば乗れる情況なのです。逸早く安い速い調達背景に乗り換えた者が市場をリードする、決断と行動のスピードが問われる局面と言えましょう。但し、‘安い’‘速い’に‘味が濃い’が加わらないと値崩れに巻き込まれ、顧客も離れてしまいます。メーカーの味を活かしたODMか、自ら生産ラインに入って味を決める自社開発か、どちらかに徹しないとマーケットは受け入れません。中途半端な商社OEM依存からは一刻も早く脱却すべきなのです。
 店舗展開においても、衰退チャネルから成長チャネルへのドメイン移動に加え、店舗網の集約拠点化が急がれます。顧客離れが急進する百貨店や商圏縮小が著しい負け組SCに留まっていては売上も収益も回復が望めませんから、駅ビルや勝ち組SCへ店舗をシフトし、コストが低く急成長するネット販売に注力するのは当然の戦略です。平均的な店舗を多数展開しては販売水位の低下が大量の不採算店を生んで収益低下に直結してしまいますが、強力かつ相対コストの低い拠点大型店、とりわけ好立地の路面店に集約すれば、圧倒的な販売力で売上も消化回転もブランディングも高まリ、全体収益が大きく改善されます。店舗展開の再編集約と並行して各店配分〜店間移動の精度とロジックを一新しVMDとの連動を仕組めば、回転消化も飛躍的に高まるでしょう。
 2010年はデフレが続く中で縮小均衡を脱しリベンジに転ずる年としなければなりません。『服を変え、常識を変え、世界を変える』と燃える柳井さんではありませんが、『商品を変え、店舗を変え、現状を変える』決意が不可欠だと思います。

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