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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『流通の神々はバックヤードに宿る』 (2018年03月03日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 流通企業の運営システムを見抜くコツは売場もともかくバックヤードを見ることに尽きる。売場は小奇麗に取り繕っても、バックヤードには一切お化粧しない物流プロセスが露呈しているからだ。通常は「外野」には見せてもらえないが、新設や改装時の内覧会の折には垣間見られることがあるし、ガラス張りの路面店では開店前の品出し風景をのぞき見ることができる。

量販型は「パッキン」、高級ブランドは「ハンガー」

 量販型チェーンで最も一般的なのが物流・検品・保管・品出しを全てパッキンのまま通す方式で、アパレルチェーンからグローバルなスポーツブランドまで大半がこれだ。箱つぶれや畳みじわの防止とは全く無縁の殺伐とした物流作業で、コストは安いが品質管理は粗く、人使いも荒くなる。横田増生さんの「ユニクロ潜入一年」に書かれている通りで、搬入・品出しや棚管理の労務負担もともかく、RFIDタグを使ってもPOSと在庫所在の照合は困難を極める。

 これと対極的なのが高級ブランドに多い物流・検品・保管・品出しをハンガーで通す方式で、「ZARA」はプレス仕上げ、RFIDタグ付けまで本国の自社物流センターで済ませ、一切棚入れせず自動振り分けして各店舗に直送してくる。上の写真は店内に運び込んで各ラックに陳列するところだが、カテゴリー別にセット済みなのが見て取れる。面白いのは棚もの単品や細々とした服飾雑貨がスーパーマーケットやコンビニのようなプラスティックコンテナに分類されて運び込まれていることで、「ユニクロ」や「GU」のバックヤードとは繊細さの次元が違う。店内労働の品質も違うのではないだろうか。

ZARAのTCでの処理能力が桁違いに高い理由

 店舗のバックヤードよりもっとリアルに仕組みを見抜けるのが物流センターで、いったん棚入れするDC(ディストリビューションセンター)、クロスドッキングだけで棚入れしないTC(トランスファーセンター)、小分けや陳列加工などを行うPC(プロセスセンター)に大別される。DCは「入荷⇒棚入れ⇒ピッキング⇒仕分け・出荷」という4工程で回されるが、ECのフルフィルセンターでは棚入れの前に「ささげ」工程が入ることが多い。ZOZOBASE(幕張)のレイアウトなど、「最上階の入荷&ささげ⇒中層階の保管&ピッキング⇒地上階の仕分け・出荷」という典型的なプロセスが見られる。

 B2Cの出荷工程では棚から人海戦術でピッキングする“摘み取り型”が避けられず、最新のロボットを導入しても人に置き換わるだけで処理能力が飛躍的に高まるわけではない。B2BでもTCはマイナーでストックヤードに棚入れして随時、出荷するDCが大勢を占めるが、やはり非効率な“摘み取り型”ピッキングを避けられず、ストックヤードのスペースを食い在庫の滞貨を招いてしまう。TCというとパッキンやポリ袋バンドルをクロスドッキングするイメージが強いが、ZARAのようにハンガーソーターやコンベアソーターでSKU単位に自動振り分けする“種まき型”でスルーさせれば処理能力は桁違いに高まり、ストックヤードも不要で在庫も滞貨しない。いったん棚入れする限り、物流効率は望めないから、スルーで自動仕分けできるよう発注・調達プロセスをD2Cに看板化するのが理想だ。

店頭だけで考えたり、結果数字だけで判断するべからず

 機会ロスを防ごうとすれば前進配備になって店舗に在庫が偏在し、在庫の偏在を防ごうとすれば後方配備になってDCに在庫が滞貨しがちで機会ロスも増え、EC比率を高めればその分、DC備蓄が積み上がる。物流コストや作業量を抑制しようと初期投入を積み上げたり、バンドル補充に割り切れば店舗在庫の積み上がりと偏在が避けられず機会ロスも増え、DC備蓄から短サイクルにSKU補充すれば作業量も物流コストも跳ね上がってしまう。

 機会ロスを防ぎ、在庫効率/物流効率/作業効率を上げるには、「商品計画⇒発注⇒生産⇒DC/TC⇒店舗バックヤード⇒店頭陳列運用」のプロセスを一貫して検証しリファインしていく必要がある。流通の神々はバックヤードに宿るのだ。ゆめゆめ店頭だけで考えたり、結果の数字だけで判断すべきではあるまい。

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