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WWD 小島健輔リポート
『ショールーミング型店舗「アマゾンスタイル」の離陸は難しい』
(2022年04月01日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

アマゾンがショールーミング型ファッションストア「アマゾンスタイル(Amazon Style)」を今年後半に立ち上げると発表したが、離陸さえ難しいと思われる。なぜならアパレルのショールーミングストアは試着サンプルの運用とBOPIS利便に無理があり、先行した実験店はいずれも挫折しているからだ。

 

■「アマゾンスタイル」の概要

 米アマゾンは同社初のショールーミング型ファッションストア「アマゾンスタイル」を今年後半、ロサンゼルスのグレンデールガレリアの向かいにあるライフスタイルモール「アメリカーナアットブランド」にオープンする。ノードストロムやJクルー、H&Mなどと並ぶ30000平方フィート(845坪)の大型店はウィメンズ、メンズのアパレルやシューズ、アクセサリーを揃えるが、ロボットピッキングを行うバックヤードを合わせると40000平方フィートを超えると推察される。

店内にはアマゾンのAIアルゴリズムが選択した数百ブランドの数千アイテムがサンプルのみ展示されており(ゆえに同サイズ通常店舗の倍以上の選択肢を提供できる)、顧客は気に入ったアイテムを見つけるとスマートフォンのAmazonショッピングアプリでタグのQRコードをスキャンし、色・サイズのバリエーションやレビューなどの情報を閲覧できる。画面の「試着する」をタップして試着を予約すればアイテムが用意され次第、プッシュ通知で試着室番号が表示される。試着しないで購入する場合は、「購入する」をタップするとピックアップカウンターにアイテムが運ばれる。

試着室には、指定したアイテムだけでなく顧客のアクティビティに基づいてAIがピックアップしたアイテムも用意される。顧客は好きなだけ試着し、壁のタッチスクリーンで商品を評価したり、他のアイテムをリクエストすることも出来る。バックヤードには同社フルフィルメントセンターのロボットピッキングシステムが応用されており、リクエストした商品が試着室に届くのに要する時間はわずか数分だ。試着品のピッキングはオートマチックでも商品の受け渡しや試着後の検品と棚戻し、精算は店員の作業が必要で、この人件費で先行実験組は音を上げた。「アマゾンスタイル」では棚戻しも自動化されていると推察されるが、その他の作業は人手に頼るしかない。

「アマゾンスタイル」でのアクティビティはオンラインストアのレコメンドにも反映され、販売価格もオンラインストアと変わらない。オンラインストアで気に入ったアイテムを「アマゾンスタイル」に送り、試着して気に入らなければ置いて帰ることもできるのは取り置き試着型BOPISと同様だ。

 

■ZARAもGUも挫折したショールーミングストア

 アパレルのショールーミングストアは「ZARA」(サンプル陳列のみ)や「GU」(全サイズ・カラー陳列)も試みたが期間限定の実験で終わり、多店化には至っていない。その敗因は試着用サンプルのピッキングと試着室へのセッティング、試着後の検品(再プレスが必要になる場合もある)とストックヤードへの戻しという運用に手間取る割にショールーミングによる売上が伸びず、在庫を抱える通常店舗に販売効率も収益性も及ばなかったゆえと推察される。通常の店舗でもストアアプリがあればタグの二次元コードからECに飛べるし、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)が出来る小売チェーンも多くなった今日、サンプル試着型ショールーミングストアの存在意義は失われたのではないか。

売場の商品タグに添付された二次元コードをスマホでスキャンしてECサイトに飛び、商品情報や価格を比較して購買を決定するというショールーミングは、家電など販売価格を比較するNB(National Brand)商品では一般化して久しいが、販売価格が統一されたアパレルやコスメでは価格を比較する意味がない。商品情報(さ・さ・げ情報)やレビュー(購入者評価)を確認するという目的なら事前探索のウェブルーミングの方が確実で、BOPISに直結する利便性も大きい。

 ウェブルーミングはショールーミングとは真逆で、ECサイトやSNSで事前に商品や店舗を比較検討した上で、ECサイトから商品を取り置いた店舗に出向いて実見したり試着して購入を決める。BOPISと直結するアクションで購買利便が高いが、取り置き依頼商品を手早く用意するには店舗在庫の引き当てが要で(最短30分後から受け取れる)、店舗在庫を持たないショールーミングストアにはハードルが高い。フルフィルセンター(EC出荷倉庫)から商品を店舗に届けては時間もかかるしコストも高くつくからだ。

 ショールーミングのスマホ操作を面倒に思う人も少なくない。実際のところ、店ごとのショッピングアプリをダウンロードしておいて立ち上げ、売場の商品タグを逐一、スマホでスキャンしてECサイトの商品情報を閲覧するだろうか。絞り込んだ一点、二点ならともかく、売場内を物色する段階ではタグを見ただけで同様なさ・さ・げ情報を得られる方が便利だ。タグを隠す慣習をやめられないアパレル業界に改革を求めるのは困難だが、ECのさ・さ・げ情報程度なら名刺サイズの二つ折り吊りタグに印刷すれば済むのではないか。

 

■“売らない小売”は幻想だった

  サンプル試着型のショールーミングストアが広がらない中、RaaS(Retail as a Service)型のショールーミングストアも挫折が伝えられた。“売らない小売”として注目された米国の「B8TA」が今年2月18日、全店を閉鎖したのだ。

「B8TA」は15年にサンフランシスコ近郊のパロアルトに一号店を開設し、最盛期には米国内に23店、ドバイに1店を展開していた。日本でもサンフランシスコのベンチャーキャピタルとの合弁でジャパン社を設立し、丸井や三菱地所、カインズや凸版印刷が出資。20年8月に新宿マルイ本館と有楽町電気ビルに出店し、21年11月には渋谷に3号店を開設している。B8TA Japanは上陸直後の20年9月には早くも米B8TA Inc.との資本関係を解消してライセンス契約に切り替え、21年12月末には日本国内事業の商標権と運営ソフトウエアのライセンスを米B8TA Inc.から取得して独立しているからRaaS型の“売らない店”には限界が見えていたのだろう。

RaaS型の“売らない店”とは、固定の出品料を取って商品を陳列し売場スタッフが商品説明やECサイトへの誘導を行うとともに、来店客の購買行動を画像解析してマーケティング情報も提供するという付加価値型の売場サブリースビジネスだ。来店客は展示商品を見たりスタッフの説明を聞いて、商品に添付された二次元コードをスマホでスキャンしてECサイトのさ・さ・げ情報などを閲覧し、気に入ればその場でも後でもECサイトに注文するもので、店頭での販売を主としない“売らない店”と注目された。

“売らない店”と言っても出品者から在庫を預かって店頭でも販売するOMO型もあり、西武百貨店が21年9月に開設した「チューズベースSHIBUYA」は在庫を預かってECでも店舗でも販売しBOPIS対応もしているが、同年10月に大丸松坂屋百貨店が大丸東京店4階に開設したショールーミングストア「明日見世(ASUMISE)」、高島屋が今年4月下旬に新宿店に開設するショールーミングストア、商社の双日が今年夏にも国内一号店を開設するニューヨーク発の体験型ショールーミングストア「ショーフィールズ」などはいずれもRaaS型で、BOPIS利便は期待できない。

RaaS型ショールーミングストアもサンプル試着型ショールーミングストアと同様、BOPIS対応が難しい以上、店舗在庫引き当てで迅速にBOPIS対応するOMO店舗に対抗する術がない。BOPISが一般化すれば存在価値を失っていくのは必然で、実店舗販路を持たないか、あっても極めて限られる立ち上げ期のD2Cブランドに向けたリテールサービスと割り切るべきだろう。

 

■OMO型ショールーミングストアの優位

 BOPIS対応が難しい“売らない”ショールーミングストアの存在価値が疑われる一方、店舗販売から進化した在庫を抱えて“売る”0M0型ショールーミングストアは最強のビジネスモデルになりそうだ。

 ECだけでは試着もBOPISも叶わないし、“売らない”ショールーミングストアでは迅速なBOPIS対応は難しい。在庫を抱えるのはECの出荷倉庫も小売店舗も同様で、OMOメリットを最大化するには早くも19年6月にZARAが決断したように、各国のEC出荷倉庫を廃して店舗在庫に集中し、店舗在庫引き当てのローカルOMOとBOPISで顧客利便と在庫効率を最大化するのが正解だ。

 世はECモール事業者が栄華を極めているが、OMO化する店舗小売事業者との顧客利便競争で多段階に分散する在庫配置が求められる今後(※アマゾンは19年段階で全米に3階層6タイプ計571拠点の物流施設を布陣)、高コスト化と顧客利便の相剋に苦しむのは必然で、ローカルOMO体制を確立した店舗小売チェーン事業者の優位は疑う余地もない。オンワードHDの「オンワード・クローゼットストア」(現2店舗)やアダストリアの「ドットエスティストア」(現3店舗)にせよ、デジタル・ギミックが先行して購買利便が今ひとつだったり、多ブランド展開の売場運用や在庫運用が未確立であっても、ローカルOMO体制を確立すればECモール事業者に対して圧倒的優位に立てる。

 

■「アマゾンスタイル」は未知数の実験店舗

 そんな答えがもう出ている中、RaaS型ショールーミングストアもサンプル試着型ショールーミングストアも将来性があるとは到底思えない。ウェルズファーゴによると21年のアパレルとフットウエアの合計売上は450億ドルに達して2年連続で全米最大のファッション小売業者となったアマゾンだが、アパレルのOMOについては明確なビジョンが見えていないのではないか。

アマゾンは戦略的意図が訝られて来た「アマゾンブックス」「アマゾン4スター」「ポップアップストア」の米英68店舗を閉店し、グルメスーパーの「ホールフーズマーケット」(米英加に500店超)、レジレスコンビニの「アマゾンゴー」(24店舗)、レジレス食品スーパーの「アマゾンフレッシュ」(26店舗)の食料雑貨フォーマットに集中すると発表しているから、「アマゾンスタイル」も見込みがないと判断すればあっさりと切り捨ててしまうに違いない。どれほど資金力やスキルがあっても顧客利便で遅れを取っては離陸も難しい。そんな結果が出るのに時間はかからないだろう。

※アマゾンの物流拠点配置については月間ロジスティック・ビジネス21年6月号を参照されたい。

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