小島健輔の最新論文

マネー現代
『アパレルの「売れ残り」、じつは「大量廃棄」されてなかった… その意外な真実!
基本は「持ち越し」と「転売」そして…』
(2020年08月06日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 需要に倍する供給が常態化して過半が売れ残るアパレル製品だが、売れ残り品の多くが廃棄されているという認識は実は間違っている。売れ残り品が廃棄されるのはサスティナブルではないという批判が先行し、実態が正しく認識されていないのではないか。アパレル製品が売れ残ってから最終的に廃棄されるまで、実はこんな過程を辿っているのだ。 

■売れ残り品の大半は持ち越される

 19年は28億4600万点が供給されたがセールを繰り返しても13億7300万点しか売れず、14億7300万点が売れ残ったと推計される。とは言え、売れ残った商品が即、廃棄処分されるわけではない。廃棄すると全額が損失になってしまうから、なるべく損失が少なくて済む処分方法が選択されるのは当然だ。

 もっとも損失が少なくて済むのが売れ残り在庫の先送りで、来シーズンまで持ち越して販売すれば今シーズン末に値引き販売するより高く売れる可能性があり、今期の値引き損失も抑制できる。 

コロナ禍の緊急事態宣言で4〜5月に大半の店舗が休業し、ほぼ2ヶ月分の在庫が行き場を失ったアパレル業界では昨年同期より平均12%も在庫が積み上がったが、各社の対応はまちまちだった。TSIホールディングスのように大半の在庫を期中に処分した会社もあれば、ファーストリテイリングや良品計画のように、ほとんど次期に持ち越した会社もある。トレンド性の高い商品は持ち越しても価値が落ちるだけだから早々に値引きして売り切るしかないが、ベーシックな商品は来シーズンでも値段が通るから持ち越す方が有利なのだ。

 

■持ち越しは一般的な業界慣習

売れ残り品を来シーズンに持ち越すのは今回のコロナ危機のような緊急事態に限らず、アパレル業界では毎シーズン、一般的に行われている。シーズン中に値引きして売り切るトレンド商品では持ち越すのはわずかだが、ベーシックな商品は10%以上も持ち越すことが多く、紳士既製服では30%以上を持ち越すのが常態化している。

その程度の持ち越しでは過半が売れ残るという数字とはかみ合わないが、そこにアパレル業界のマジックがある。残りはアパレル企業が引き取ることなく商社やOEM業者が抱え、来シーズンの新作品としてアパレルに納品されるのだ。同じブランドに納品するとは限らず、似たような別のブランドから売り出されることも少なくない。アパレルの商品企画・開発の多くは商社やOEM業者が担っているのが実態だから、そういうことも珍しくないのだ。

 

■次は放出するか廃棄するか

売れ残り品はまずは持ち越されるが、来シーズンも売れ残ればデッドストック(死蔵在庫)になってしまう。そうなると換金が難しく、倉庫代がかかるだけになるから、二次流通業者(バッタ屋)に放出するか廃棄処分するかという二択になる。

トレンド性が強い商品は持ち越すまでもなく二次流通業者に放出されることもあり、ベーシックな商品でも資金繰りが逼迫すれば換金するしかなくなるから、コロナ禍では大量にオンシーズン商品が放出されたが、通常は持ち越して売れ残った商品が放出されることが多い。知名度のあるブランド商品は、今シーズン品を来シーズンまで持ち越して販売する約束で二次流通業者が買い取ることもある。

二次流通業者の引き取り相場はシーズン初期➡︎シーズン末期➡︎翌シーズン末と半値半値と切り下がるから、換金するなら早い方が良いが、自社で値引き販売する方が格段に高く処分できるから、ついつい引きずってしまうようだ。

 

■儲かってるアパレルしか廃棄処分できない

翌シーズンも売れ残った場合、二次流通業者に放出するのが一般的だが、ブランドイメージに拘る高級ブランドやデザイナーブランドは焼却など廃棄処分を選択することもある。廃棄処分では全損になってしまうから、よほど儲かっているアパレルでないと踏み切れない。

近年のアパレル業界は過剰供給で収益力が落ちているから、廃棄処分を選択できるアパレルは極めて限られる。「売れ残りイコール廃棄」というイメージはアパレル業界が儲かっていた往時の残像なのだ。アパレル業界が苦境に沈む今時、廃棄処分されるのは売れ残り品のせいぜい1%までだろう。

ブランドイメージは守りたいが少しでも換金したいというのなら、ブランドの襟ネームやタグを切り取ったり付け替えて放出するという方法もある。取るだけならともかく付け替えるとなると一点、百円以上かかるから、中高級ブランドしか採算に合わないし、ブランド表示が無くなると販売価格も落ちるから引き取り値も相応に安くなる。

 

■最後はゴミとして廃棄される

 持ち越しても何年も売れ残り、二次流通業者も引き取らないほど価値が落ちてしまえば、産業廃棄物として廃棄するしか無くなってしまう。こうなると廃棄の費用も負担しなければならないから、そこまで持ち越す「新古衣料」は極めて限られる。おそらく、売れ残り品の数%止まりだろう。

 環境省の調査によると我が国では毎年100万トンの衣類(下着や靴下も含む)が廃棄される一方、19年の輸出統計では26万トンの中古衣料(仕分けられて中古衣料として販売できないものはウエスや繊維原料になる)がマレーシアなどアジア諸国に輸出されたが、そのほとんどは消費者のタンス在庫から出たもので、「新古品」のアパレル製品は最大でも2万トン(6600万点)止まりだと推計される。

 売れ残り品といってもアパレル業者にとっては「現金」と変わらない資産であり、出来るだけ高く換金したいのは当然だ。持ち越して販売したり二次流通業者に放出したりしてとことん換金した挙句、どうにも行き場がなくなった商品が廃棄されるのだと認識してほしい。

 

■ゾンビといたちごっこのサスティナビリティ

 アパレル業界にとって、長年の過剰供給で積み上がった流通在庫も問題だが、消費者のタンスには「中古衣料」が桁違いに積み上がっている。「新古衣料」がオフプライスストアやディスカウントストアに大幅割引で並び、「中古衣料」がフリマサイトや中古衣料店に激安価格で溢れる中、割高な「新品」の販売消化はますます難しくなる。

アパレル業界は自ら作り出したゾンビに追い詰められているわけで、「新品」の過剰供給が是正されても直ぐには衣料品の廃棄が減るわけではない。サスティナビリティは「新品」だけでなくタンス在庫のリサイクルまで、時間をかけて解消していくべき難しい課題なのだ。

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