小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『日本でオフプライスストアが離陸しない理由と2つの突破口』
(2024年09月12日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 わが国のアパレル流通は慢性的過剰供給ゆえオフプライスストアの成長が期待されたが、「アンドブリッジ」(ワールド)と「ラックラック」(ゲオホールディングス)の登場から5年を経ても期待ほど店舗が広がらず、コロナを経てもオフプライスストアの成長が続く米国とは様相を異にしている。いったい何が日本のオフプライスストアの離陸を妨げているのだろうか。

 

伸び悩むわが国のオフプライスストア

 

 わが国のオフプライスストアは2019年4月25日開業の「ラックラック」1号店(コーナン港北インター)、同年9月14日開業の「アンドブリッジ」1号店(にしおおみやファッションモール)で幕を開けたが、両者の最新状況はどうなっているのだろうか。

 ワールドとゴードン・ブラザーズ・ジャパンが合弁で設立した株式会社アンドブリッジが展開する「アンドブリッジ」は、20年3月の2号店(ニトリモール相模原)開業時には「3年後30店体制」を構想していたが、23年3月開業のセプンパークアリオ柏店以降は出店がなく、現段階で8店舗にとどまる。対してゲオホールディングス子会社のゲオクリアが展開する「ラックラック」は出店に積極的で、24年も7月にイオンモール座間、9月にセブンパークアリオ柏、セブンパーク天美(大阪府松原市)に出店して21店に到達し、中期的には100店舗を目指しているが、「24年までに50店舗」という21年段階の構想からは大きく出遅れている。

 他にも在庫処分業者のショーイチが「カラーズ」を国内21店、海外6店(マレーシア、カンボジア、ベトナム)展開しているが、商品供給中心の小型店でオフプライスストアというスケールには遠い。

売上規模が大きいのが関東圏に52店舗(平均560平方メートル)を展開するオフプライス衣料スーパーの「タカハシ」で、23年8月期で108億円に達している。「タカハシ」に近似した岡山の「イトウゴフク」も中国・四国・近畿に55店舗を展開して83億(23年8月期)を売り上げているから、「オフプライス衣料スーパー」というビジネスモデルが成立しているようだ。

 「タカハシ」や「イトウゴフク」を除けば採算を確立して成長が見えているとは言い難いが、何が日本のオフプライスストアの離陸を妨げているのだろうか。

 

 ちなみに、米国の大手オフプライスストアは24年1月期も25年1月期上半期(24年2〜7月)も好調で、24年1月期の大手3社(TJX、ロスストアーズ、バーリントンストアーズ)合計売上高は843億2100万ドル(12兆2270億円)とコロナ前19年1月期から39.1%も伸び、19年1月期から6.9%減少した大手百貨店4社(メイシーズ、コールズ、ノードストロム、ディラーズ)合計売上高629億900万ドルを34%も凌駕している。

 オフプライスストアは収益性も秀逸で、24年1月期の営業利益率はTJXが10.7%※、ロスストアーズが11.3%、バーリントンストアーズが5.6%と、いずれも前期から利益率が高まった。百貨店はメイシーズが10億ドルの減損・再構築費用を計上して前期の7.1%から1.6%に落ち込み(減損・再構築費用を除けば5.8%)、ノードストロムもカナダ撤退費用を計上して前期の3.0%から1.7%に低下し(撤退費用を除けば3.6%)、前期の1.4%から回復したコールズも4.1%と22年1月期の8.6%には遠い。地方百貨店チェーンのディラードだけは、しまむらより低い販売効率をローコスト運営でカバーし、減益ながら13.2%(前期は16.7%)の営業利益率を計上している。

 

※米国小売業の営業利益率は企業によって営業外の損益を含む場合があり、10-Kファイルの損益計算書から仕分けて日本式の「営業利益率」に換算したが、メイシーズは減損・再構築費用、ノードストロムはカナダ撤退費用を営業費用に計上して「Operating Income」と表示しているので、そのままの数字とした

 

 

不安定な商品調達がネックとなって採算が苦しい

 

 インフレに手取り収入が追いつかずトレーディングダウン(消費の格下げ)が進行する中、オフプライスストアには追い風が吹いているはずだが、米国では好調でもわが国では勢いがない。その根本的理由は質・量共に不安定な調達にある。

 オフプライスストアでは適品在庫がそろったときの瞬間風速は凄いが、適品が売り切れて仕舞えば潮が引くように客足が途絶え、通年で見れば類似立地の一次(新品)流通店より販売効率が低くなる。アウトレットストアも同様だが、類似立地一次流通店の平均1.5倍の販売効率を稼げているのは、欠品しないよう専用企画品を供給しているからだ。以前は1〜2割に限られていたのが近年は3〜4割が珍しくなくなり、中には大半が専用企画品というアウトレットストアもある。

適品が途絶えて売上が低迷する期間も運営費用(人件費、光熱費、賃料、減価償却費)はほぼ固定的にかかるから、アウトレットストアのように計画的に適品を供給しない限り、オフプライスストアも通年での採算は望めない。当然のことで幾度も指摘してきたが、セレンディピティー(予期せぬ幸運)を期待して非効率な運営を続け、採算が取れず伸び悩んでいるのが実態ではないか。

我が国のアパレル供給はリードタイムの長い海外生産が98%強を占めて需給ギャップが大きく、小売業界とサプライヤー業界を合わせると供給数量の3分の1近くが売れ残って持ち越される過剰供給が常態化しているのに、オフプライスストアへの供給が不安定なのはどうしてなのか。

 

質・量共に限られる二次流通放出品

 

20年に環境省が日本総合研究所に委託して調査した業界アンケートによれば、アパレル業界(小売とメーカー)の数量ベースの期末売れ残り率は平均13.61%だったが、そのうち持ち越して販売するのが6.25%、アウトレットで販売したのが3.16%、卸・商社などサプライヤーに返品したのが3.59%で、在庫処分業者に売却したのは0.08%にとどまった。コロナに直撃された20年の衣料品小売販売額は繊研新聞の調査によれば8兆3450億円と大きく落ち込んだが、その0.08%は66.76億円でしかない。在庫処分業者に売られた額はせいぜい小売価格の15%、オフプライスストアでの販売額を正価の50%と見れば33.4億円にしかならない。

この調査ではサプライヤーの抱える未引き取り在庫はカウントされていないが、持ち越されても大半は翌期に納入されるから、ここから二次流通に放出される比率は限られる。サプライヤーに返品された3.59%の全てが在庫処分業者に流れると見ても、二次流通に流れるのは合計して数量ベースで3.67%。オフプライスストアの販売額で1530億円ほどでしかない。

加えて、その中身にも問題がある。衣料品、とりわけアパレルの賞味期限(物理的な期限ではなく感性的な期限)はせいぜい3シーズン(市場投入から3年以内の「高年式品」)で、それを超えるとトレンドとの乖離が大きくなってまともな値段が付かなくなるが、そのギリギリまで販売努力してから放出されることが多い。その段階ではトレンドと乖離して魅力を失い、色やサイズが欠けては買い叩かれるし、オフプライスストアの店頭でも価格訴求品(割引率でなく均一価格訴求)にしかならない。

米国のオフプライスストアでは未納入で色・サイズがそろった前シーズン品(キャンセル品?)や計画調達の今シーズン品もそろうのに対し、供給の絶対数量が限られ中身も賞味期限切れか寸前の商品が大半となれば、わが国のオフプライスストアが魅力を欠いて売り上げが伸び悩むのも致し方あるまい。

放出品の「中身」にはブランドの「格」もある。最上級の欧米ラグジュアリーブランドやファクトリーブランドは国内での調達は困難で、ブランドの撤退や代理店の交代や破綻などセレンディピティーがない限りは二次流通に放出されることはない。ライセンスブランドも含め、稀にはあっても通年の供給など到底、期待できない。次ランクのグローバルNB(ナショナルブランド)※は各国で流通体制が違ったりライセンシーの変更があったりして意外と供給があるが、メンズやユニセックス中心でウィメンズが弱く、品ぞろえが豊富な直営アウトレットストアや輸入古着店とも競合する。

グローバルNBはもちろん百貨店ブランドや専門店ブランドも自社アウトレットストアへの供給が優先だから、二次流通に放出されるのは余程の事情がある商品か賞味期限切れが迫る商品になってしまう。SCブランドはサプライヤーからの未引き取り品放出もあって供給量も潤沢だが量販イメージが強く、一次流通も値引き販売が日常だからオフプライス訴求のインパクトが弱い。シーズンアイテムの価格訴求はともかく、「ブランド商品の割引販売」というオフプライスストア本来の魅力を発揮する商材ではないが、そこに別の事業機会を見出すこともできるのではないか。

 

※グローバル展開のナショナルブランドとして「ザ・ノース・フェイス」や「ヴァンズ」「ポロ」「リーバイス」などがある。国によって直販だったりライセンスだったりと流通が異なる場合が多く、二次流通への放出も多い。「低年式品」のデッドストックもビンテージ品として人気がある。

 

成長への2つの突破口

 

 「ブランド商品の割引販売」というオフプライスストア本来の魅力はわが国の場合、ブランド商材の供給が質・量ともに限られて直営アウトレットストア(こちらがオフプライス購入の主役になっている)に太刀打ちできず、通年の採算も難しいが、その壁を越える方法が2つ考えられる。

 1つは米国の大手オフプライスストア同様、ブランドメーカーと組んでオンシーズン品を計画調達する「米国型オフプライスストア」、もう1つは現状でも高年式品の供給が潤沢なSCブランドや量販商材に割り切る「オフプライス衣料スーパー」という別の事業モデルだ。

 

(1)米国型オフプライスストア

 

米国オフプライスストアの大手はブランドメーカーと組んでオンシーズン商品を計画調達しているが、数百億ドル(TJXは542億1700万ドル、ロスストアーズは203億7700万ドル、いずれも24年1月期)という莫大な販売力を背景として過剰在庫(行き場のないキャンセル品や見込み生産品)を引き取ってくれるからオンシーズン品の計画調達を請け負うわけで、年商が100億ドルに届かないバーリントンストアーズ(24年1月期で97億2700万ドル)は流通在庫の調達が大半だ。100億ドルというと日本円で1兆4500億円だから(わが国の市場規模でも2000億円程度は必要?)、「アンドブリッジ」や「ラックラック」が到底望めるはずもなく、「ラックラック」が100店舗に到達しても部分的なトライアルにとどまるだろう。

 米国で大手オフプライスストアの計画調達に応えているのはライセンスブランドを手がけるメーカー(アパレル、アンダーウエア、バッグ・靴)が多いが、ブランドホルダー(ライセンサー)がそれを容認あるいは黙認しない限り実現は難しい。米国ならABG(オーセンティックブランドグループ)、日本なら伊藤忠商事あたりがバックに付かない限り、名の知れたブランドの計画調達品をそろえるのは困難と思われる。ならば、彼らが動くとき、わが国のオフプライスストアも本格的に離陸するのかも知れない。

 

(2)オフプライス衣料スーパー

 

 わが国のオフプライスストアで供給と採算が安定して多店化が進んでいるのが「タカハシ」や「イトウゴフク」だが、どちらもしまむらや田原屋(「パシオス」)、アージュ(「パレット」)など衣料スーパーや量販店衣料部門に商品供給する量販衣料サプライヤーの需給ギャップ放出品で成り立っている。

しまむらなど衣料スーパーはほとんどが当用仕入れだから補給在庫はサプライヤーが負担しており、需給ギャップによる過剰生産品の放出が不安定ながら通年で期待できる。量販店衣料部門もSPAを志向しているのは一部であり、大半は衣料スーパーに近似した仕入れ調達だから、サプライヤーから同様な放出が期待できる。

しまむら(6350億9100万円)、田原屋(412億9200万円)、アージュ(135億9700万円)、三喜(657億3900万円)の衣料スーパー4社合計売上7557億1900万円(24年2月期)にチェーンストア衣料品売上高7365億4500万円(24年3月までの1年間、チェーンストア協会)を加えると1兆4922億6400万円と1兆5000億円に迫るが、前述した二次流通放出率3.67%を適用して50%オフ販売と仮定すれば274億円になる。

現実の放出率はもっと少し高いだろうし、SC(ショッピングセンター)ブランドへ供給するODM/OEMサプライヤーや商社が放出する未引取り在庫などを加えれば600億円を超えるだろうから、100億円を超えたばかりの「タカハシ」や80億円を超えたばかりの「イトウゴフク」はまだ伸ばす余地がある。それでも商品供給は不安定だから、定番的商品はサプライヤーと組んで計画調達しないと棚が空くこともあると思われる。

「ラックラック」は立地によってNB(百貨店ブランドや専門店ブランドも含む)とSCブランドのバランスを変えており、郊外店舗では後者の比重が高くなるが、「ブランド品のオフプライス訴求」という軸足は動かない。生活圏立地の「タカハシ」のように量販ブランドを低価格訴求するわけではないから、多店化には限界がある。ブランド品の安定した適品調達という点では、消費者が持ち込む高年式リユース品が潤沢に手に入る「セカンドストリート」の方が格段に優位で収益性も成長性も検証済みだから、「ラックラック」に振り向ける投資は限られよう。

「米国型オフプライスストア」より「オフプライス衣料スーパー」の方が商品調達面でも出店立地面でも多店化が容易だが、アウトレットストアでの割引購入慣習が定着しているわが国では、米国のように百貨店に取って代わるほどの拡大は望めない。インバウンドが押し上げて1兆円(物販だけだと8000億円強?)に迫るアウトレットモールのようには拡大できず、大手商社が戦略的に仕掛けない限り、せいぜい1000億円か1200億円ほどが市場規模の上限になるのではなかろうか。

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