小島健輔の最新論文

ファッション販売2019年05月号掲載
特集 ECの勝ち組
『アパレルECの最新戦略と出店モールの選択』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング 代表取締役

FA5月

 

 

 少子高齢化に伴う国民総労働力化で女性の社会進出と核家族の崩壊が加速する中、時間消費と持ち帰り物流を強いられる店舗購入からECへのシフトは止め難い潮流となり、売る側にとっても初期投資も運営コストも嵩み在庫の多店舗分散でロスが避けられない店舗販売は非効率を否めず、ECシフトとオムニコマースなC&C(クリック&コレクト)が最重要な経営課題となっている。
 もはや店舗かECか逡巡する段階はとっくに過ぎ、店舗とECを如何に連携して顧客利便に応え経営効率を高めるかが、競合する店舗小売業に対しても強力なEC事業者に対しても決定的なアドバンテージとなる。そんな状況下、様々な段階にある小売業者が如何に自社ECを構築しECモールを選択するか、最新の状況と経験則をまとめてみた。
     
■止まらぬEC比率上昇と店舗網圧縮

 経済産業省は17年の衣料・服飾雑貨EC売上は前年から7.6%伸びて1兆6454億円、EC比率は0.61ポイント上昇して11.54%に達したと試算しているが、アパレル業界の企業別EC売上を集計してもEC比率は前年から1.9ポイント上昇の10.6%と大きなズレはない。カタログ通販やTVショッピングも含む通信販売全体の「衣料品」「身の回り品」売上は前年から4.9%伸びて2兆4538億円に達し小売総額の17.2%を占めるから、ECはまだまだ伸びる余地がある。
 日本と異なって店出荷や店受け取りが過半を占める米国や英国ではEC受注を店舗とECのどちらに計上するかでEC比率統計に大差が生じるが、18年で米国では20%、英国では過半を超えたとみられる。EC比率が20%を超える米国アパレルチェーンはもちろん、EC比率がようやく二桁に乗ったZARAやECに立ち遅れたH&Mまで、欧米のアパレルチェーンはすでに分水嶺は超えたと腹をくくって店舗網の圧縮を急いでおり、EC比率の高い地域ほど撤退が加速している。それはEC比率が10%に迫る国内ユニクロ(米国では15%、中華圏では20%に達している)とて同様で、直営店はピークの840店から783店(19年1月末)まで減少している。
 18年の国内EC比率がどこまで上昇したか経済産業省の4月末の発表を待たねばならないが、当社で企業別のEC売上を集計(衣料・服飾雑貨EC売上1億円以上の145社)し店頭売上の減少を3.5%と見積もった限りでは13.3%前後になったと推計される。経営効率から見て店舗網圧縮に踏み切る分水嶺はEC比率10%ラインだから、業界平均で13.3%という水準は雪崩的退店ラッシュが起きてもおかしくない。その規模は大手アパレルのリストラが重なった15〜16年を上回るのではないか。
     
■収益力の格差が店舗リストラを加速する

 販売手数料率が固定で売上にスライドする変動費となるECモールでは売上規模の拡大がコスト率の圧縮につながらないが(それは商業施設のテナント店とて同様だ)、固定費率の高い自社運営ECなら規模の拡大が加速度的なコスト率の圧縮を可能にする。日米アパレルチェーンの実例を見る限り、概ね自社EC売上が20億円で30%、100億円で25%を切るから、40%前後というテナント出店チェーンの運営コストと比べれば収益力の格差は圧倒的だ。百貨店取引主体のアパレルなど50%前後にも達するから、自社ECが100億円を越えれば百貨店販路からの段階的撤収を目論んでもおかしくない。加えて、多店舗運営では在庫の分散によるロスが避けられないから収益力の格差は一段と開く。ならばEC売上の拡大とともに店舗網を圧縮していくのは必然と言うしかない。
 もとより定期借家契約のテナント店舗は資産価値がなく、営業赤字に陥れば退店するしかないが、契約期間中の退店では減価償却や現状復帰の費用に加えペナルティまで請求される。店舗からECへと消費が移動していけば店舗の効率はジリジリと落ちていくから、EC拡大で稼ぐ収益で店舗リストラを計画的に進めるのがオムニコマースの定石だ。ならばEC、とりわけ加速度的な採算向上が望める自社運営ECの拡大に総力を集中すべきだろう。

 

■EC構築のフロントとフルフィル

 ECにはフロントとフルフィルの両面がある。フロントは商品ページを作成するテンプレートと注文を受け付けるカートからなり、自社ECでは汎用性のASPパッケージに多少のカスタマイズを施すかフルスクラッチでオリジナルなフロントを創るという選択になる。
 前者ではランニングコストが発生し、後者ではシステム構築のイニシャルコストが発生する。フルスクラッチだと些細なプログラム修正にも少なからぬ費用がかかるが、最も手こずるのが管理会計軸の在庫管理システムにECの受注を引き当てる連携で法外な費用がかかることがある。バッチ連携など割り切り方もあるが、近年はできるだけASPパッケージで構築してコストを抑え機動的な改修を図るのが主流となっているようだ。
 フルフィルは棚入れ・ピッキング・出荷からなるが、アマゾンやヨドバシのように独自の宅配体制を備えない限り出荷以降は宅配業者への委託で、夕刻締め切りのデイサイクルになる。宅配料金は人手不足もあって高騰しているが、ボリュームディスカウントによる料金差が大きく、ECモールに委託する方が安くなる場合もある。規模が限られるうちはフルフィルを自社運営しても規模が大きくなれば専門業者に委託するケースが多く、繁閑の格差が大きいと出荷が遅滞したりコストが肥大する。
 自社運営ECの場合、欧米アパレルチェーンのように店受け取りの比率を高めて宅配料金負担を軽減する手があるが、EC在庫を引き当てるより店在庫を引き当てる方がコスト削減効果が大きい。ワークマンではEC注文品の店受け取り比率が66%に達したのを契機に店在庫引き当てに切り替えている。

 

■自社ECは千差万別

 ECにもリアル店舗同様、独立店舗とテナント店舗があって、運営方法やコストはリアル店舗以上に大差がある。
 独立店舗(自社EC)と言っても、運営サポート業者やシステム業者に任せっきりのケースからエンジニアチームを抱えて痒いところまで内製するケースまで千差万別だから、内部を覗いて見なければ実態は解らない。エンジニアチームを抱えてフロントを内製しているのは数百億円を売り上げているごく一部の企業で、大半は日常のコーディング業務に止まってシステムの改修は外注している。
 フルフィルも自社倉庫で自社運用しているケース、自社倉庫の運用を外部に委託しているケース、外部業者の倉庫に丸ごと委託しているケースと様々で、売上規模の変化やコスト負担から委託業者を切り替えるケースも多い。在庫効率を高めるべく店舗向け在庫とEC向け在庫をデータ的にも物理的にも一元化するのが定石だが、倉庫は一本化してもピッキングラインは分けるケースが多い。店舗向け初期投入は棚入れせずパッキンやバンドルをトランスファーしてスルーしたり、店舗向け補給はバンドルやSKUを種蒔きするのに対し、個人注文のECは摘み取りが主流とならざるを得ないからだ。ユニクロの有明自動倉庫が店舗向けとEC向けを一元化しようとして四苦八苦し、結局はECに特化して自動化したのはそんな事情による。

 

■ECモール店のパターン

 テナント店舗の方が独立店舗よりパターン分けし易いとは言え、モールの構成や企業背景、業務分担などで様々に分かれる。大半は「出店」だがアマゾンやショップリストは「出品」で単品の価格競争になりやすく、ブランドの顔や品揃えを表現できない。どのモールもテンプレートの構造は似たようなもので編集設定によって「出店」にも「出品」にもなるから、ブランドの顔と品揃えをどう見せるかはモール側の政策が左右する。テナントが自在な顔と品揃えを表現できるのは場所貸し型の総合モールだけなのかもしれない。
 モールの構成では楽天やヤフーなど様々な業種が混在する「総合モール」、ゾゾタウンやマガシークなどファッションに特化した「ファッションモール」に分かれる。手数料負担は前者の方が軽いが出店する側の業務負担が重く自店までの誘導に販促費用を要し、ファッションイメージが低く客層も多様で分散してしまう。後者はファッションイメージが高く客層も一定の幅に収まり集客もモール側が注力してくれるが、フロントからフルフィルまでお任せで手数料負担が嵩む。
 企業背景では駅ビルやファッションビル、SCや百貨店などモルタルデベが運営するデベロッパー系モール、通信キャリア系モール、一時に比べれば下火になったファッション雑誌系モールやカタログ通販系モールが挙げられる。デベロッパー系ではマルイウェブチャンネルやアイルミネ、&モール、シブヤ109ネットショップ、通信キャリア系ではNTTドコモ(マガシーク/アウトレットピーク/dファッション)やKDDI(Wawma)、ファッション雑誌系では集英社フラッグシップ、カタログ通販系ではニッセンのブランデリが挙げられる。いずれも本業ではないから専業系に比べれば消長があるが、三井不動産の&モールはSCとECをオムニコマースに繋ぐ新機軸が注目される。

 業務分担では、出店場所を提供するだけの「場所貸し型」から在庫を預かってフロントからフルフィルまでECの全てを代行する「フルフィル型」まで4タイプに分かれる。

1)場所貸し型

 自社ECを商店街に出店するようなもので、ECフロント構築(モールのテンプレートも選択できる)から出荷までほぼ自己責任だから手間はかかる。売上課金は数%ないしは名目無料だが、楽天やヤフーなど総合モールでは数千数万もの出店者が犇めく中を自社ページに誘導する様々なプロモーションが必要だ。売上を伸ばすには自助努力の積み重ねが不可欠で、内部の人件費や外注費用まで加えれば必ずしも低コストに収まらないが、カード情報を除けば顧客情報も手に入る。

2)マーケットプレイス型

 ECフロントのシステムと受注、決済はモール側で、在庫管理・出荷は「宅配伝票データ」を得てテナント側が行う。モール側の“ささげ”や在庫管理・出荷、宅配運賃の負担が無い分、手数料率は「フルフィル型」より10ポイント以上軽くなる。テナント側はそれらを自ら負担するから総コストはさほど低くはならないが、自社ECの“ささげ”や在庫管理・出荷の体制が整った事業者なら低コストに回せるし、何より在庫を分散しないで済む。顧客情報は「宅配伝票データ」に留まり、属性情報までは入って来ない。

3)受注・宅配委託型

 マーケットプレイス型とフルフィル型の中間で、モールが受注した商品をテナントの倉庫からモールの倉庫に移送してモールが宅配出荷する。百貨店などデベロッパー系やオフプライス系に多い。移送のタイムラグは生じるが、テナントの倉庫に在庫を置いたまま複数のモールサイトの注文に引き当てられるメリットは大きい。属性情報はもちろん、宅配伝票データも入って来ない。

4)フルフィル型

 在庫を預けてECフロントから在庫管理・出荷まで総てモール側にお任せする。人気のファッションECモールは売上は取れるが手数料率も25〜40%と百貨店並みに嵩み、複数モールに展開すると在庫の分散が避けられない。『在庫を預ける』と言っても売上手数料課金だから消化仕入れみたいなものでモールと言うより百貨店に近く、顧客データもまったく入って来ない。集客力・販売力を除けばデメリットが大きく、自社EC体制を確立して進化するテナントはいずれ離脱することになる。

 

■ECモールの選択

 ECモールの選択は自社ECも含めたEC総体とオムニコマースのステップで考えるべきで、基本は以下の4段階と思われる。

1)集客最優先の離陸段階

 ECの初期段階では集客を最優先して売上を拡大するのが必須だから、ランニングコストには目を瞑って集客力のある複数の有力モールに出店して顧客を取り込み経験を蓄積する。その一方で手軽なASPパッケージで良いから自社ECを立ち上げ、フロントの編集運用や在庫管理・ピッキング・出荷のスキルを磨く。この段階でのECモール選択はひとえに集客力に尽きるから、フルフィル型やマーケットプレイス型の人気モールに注力する。

2)顧客化と効率の追求

 EC総体の売上が一定線に達して水準は低くても損益が安定したら、次は顧客化の推進と効率の改善に移る。店舗の顔が作れて会員化で顧客情報が直接入り在庫も預けない場所貸し型を最重点に、在庫を預けるフルフィル型から預けないマーケットプレイス型や受注・宅配委託型に比重を移していく。さすれば顧客化が進み、ランニングコストも在庫効率も改善されていく。会員化した顧客が増える分、自社ECのフロントとフルフィルの仕組みを改善しキャパを広げる。

3)EC顧客とEC在庫の一元化

 顧客情報もフルフィルも直接管理する実質自社EC(場所貸し型を含む)の売上が拡大してEC売上の過半に迫るようになったら、自社ECと場所貸し型の顧客データベース、フルフィルと在庫データベースを統一してキャパを拡大し、フルフィル型やマーケットプレイス型からは順次、撤退していく。フロントのシステムを再構築しフルフィルの体制も組み替えるが、次の段階を見据えないと短期で再構築が必要になる。

4)店舗とECの一元化

 ECの顧客情報とフルフィルの統一が完了してフルフィル型やマーケットプレイス型からの撤退が進み、自社EC体制の確立で収益性も在庫効率も高まれば、次は店舗と自社ECの顧客情報とフルフィルを統一する。顧客データベースとポイント運用を統一し、DCを一本化してフルフィルをデータ的・物理的に一元化する。フルフィル型の人気モールは割り切って別運用するか受注・宅配委託型に切り替え、撤退の時期を探る。

 

■オムニコマースなC&Cと店舗網再編

 店舗とECを一元化しても即、オムニコマースに移行できるわけではない。オムニコマースの前提はW&S(ウェブルーミング&ショールーミング)な双方向誘導であり、自社ECサイトの商品情報/店舗在庫情報やSNSから店舗へ誘導し、店舗の商品タグ(QRコードが速い)から自社ECサイトへ誘導して購買利便を図る。W&Sの仕組みを整え、店舗物流とEC物流の組み合わせとコスト効率、EC商品の店受け取りやお試し、EC受注の店在庫引き当てや店出荷など店舗の運用負荷とコストを検証しておけば、スムースにC&C体制に移行できる。
 C&Cは店舗網を持たないEC専業者に対する店舗小売業者の決定的アドバンテージであり、この段階まで至れば“自社運用”ECに集約してフルフィル型や受注・宅配委託型は実質的アウトレットに割り切る。“自社運用”と断ったのは、W&SとECフロント、物理的なフルフィルを連携してC&Cを実現するには外部委託では限界があるからだ。ECフロントを起動的に改修・運用するには自社にエンジニアチームを抱え、店舗物流とEC物流を組み合わせて顧客利便とコストの折り合いを図るにはフルフィルも自社管理(運営は外部委託可)する必要がある。
 オムニコマース体制が確立されれば店舗の役割は根本から変わり、EC一体での損益評価と地域布陣に再構築する必要がある。
 EC比率が10%に達した段階から非効率な店舗を計画的に撤収していくのが定石だが、オムニコマース体制では地域ごとに店舗とEC、店舗も在庫を抱える旗艦店とミニマム在庫でテザリング補給する衛星店舗、サンプルだけのショールーミングストアを組み合わせ、最小在庫・最小経費で最大売上を図る布陣に再構築していく。在庫を抱える在来型の店舗は大幅に削減されるのが必然で、欧米有力チェーンは好不調に関わらず店舗網の圧縮を加速している。

 

■店は生き残るが・・・・

 オムニコマースが競われ、IT進化と人手不足がレジレス店舗やAI運営店舗などニューリテールを加速していく近未来、在庫を抱えてマテハンや販売に多数の人員を要する在来型の店は急速に減っていくだろう。それは少子高齢化と父母分業型核家族の崩壊という百年続いた社会構造の終焉であり、百年続いた店舗販売の時代も終わらざるを得ないのかもしれない。私の近著『店は生き残れるか ポストECのニューリテールを探る』をご一読いただけば、避けがたい社会構造と流通の変化、ニューリテールの方向と対応がつかめると思う。

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