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ブログ(アパログ2018年07月30日付)
『デュアル渋谷に再生しよう』
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 ECの利便に嵌ってダウンタウンに買い物に出かける機会は随分と減ったが、とりわけ渋谷に出かける回数はめっきり減ってしまった。時折、用事があって自由が丘にでかけることがあるが、明治神宮前から副都心線に乗って渋谷はパスしてしまう。乗り換えに手間取ることと魅力的な百貨店を欠くことが渋谷のウィークポイントになっているようだ。
 渋谷の凋落が顕著になったのは13年3月16日に東急東横線の渋谷駅が地下に潜って副都心線と相互直通運転するようになってからで、新宿や池袋、横浜に人が流れて渋谷は乗換駅と化した感がある。実際、JRの首都圏駅で長年、乗降客数3位を保っていたのが13年に東京、横浜に抜かれて5位に転落。16年には副都心化して通勤客数が急増する品川に抜かれて6位に転落してしまった。 
 元より台地に囲まれたすり鉢の底に位置する渋谷は坂の街で、坂を這い上るように商業地や歓楽街が開けていた。それがすり鉢底の渋谷駅上と明治通り沿いに集中するように再開発が進み、東横線・副都心線の駅が地下深く潜った事もあり、坂を上る人の流れがめっきり減ってしまった。JR埼京線の駅は恵比寿寄りに離れ、東急の開発も恵比寿(代官山)方向に偏っているから、再開発が進めば駅上と駅前、恵比寿寄りの明治通り沿い谷筋に高層ビルが集中し、道玄坂や公園通りなど坂の上はますます寂れてしまうだろう。
 渋谷パルコが19年に再開業すれば公園通りの人通りも回復すると期待したいが、人通りの減少に耐え切れず閉店が続いているし、井の頭通り入り口の西武百貨店も幾度も閉店の噂が出ては消える頼りなさで勢いがない。加えて渋谷の将来に影を落としているのが客層の変質だ。
 かつては城南のみならず広域から若者を集めていた渋谷も、再開発でオフィスビル街に変質すれば街の性格も変わってしまう。「ビットバレー」と言われるように元よりサイバーエージェントなどIT系ベンチャーが集まり、グーグル日本法人も「渋谷ストリーム」に帰って来てIT関係オフィスの集積が進んでいるが、IT従業者の多くはファッション好きではない。「ユニクロ」や「無印」で済ませてしまう人も多いと聞く。多少は偏見かも知れないが、オフィス街化すれば『若者ファッションを軸とした表も裏もある坂の街』はもう戻ってこないだろう。
 19年に建て替えられて再開業する渋谷パルコはファッションカルチャーの再現をコンセプトにしていると伝え聞くが、オフィス街化する渋谷の現実とは乖離が大きい。頑張って欲しいと思う反面、JRや東急電鉄の進める「IT軸オフィスの街」という絶対的な流れに逆らえるとも思えない。
 ならば、恵比寿寄りの「南渋谷」と坂を登る「北渋谷」は別の文明の街として「デュアル渋谷」と割り切れば良い。新宿とて西口と東口、近年は南口も別の街だし、欧州の古い街は新市街と旧市街で別の文化圏を形成している。『平日の昼は新市街のオフィスで働き、夜と週末は旧市街に遊ぶ』というのも新たな街のあり方かも知れない。

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