小島健輔の最新論文

ファション販売2009年9月号掲載
『ファッション業界のこれから』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

ファッション業界のこれまで

  『ファッション販売』が創刊から400号を重ねる間にファッション業界は様変わりしてしまいました。70年代までは全盛だった仕入れ型専門店は商店街とともに見る影もなく衰退し、80年代の主役となったブランドショップも90年代にはSPAに取って替わられ、今日では「ユニクロ」から外資SPAまで様々な仕掛けのSPAやセレクトSPAが駅ビルやSCで市場を争う時代になり、割高なブランドが並ぶ百貨店は閑古鳥が鳴いています。加えてブロードバンド社会の到来でネット/ケータイを通じた販売も急伸し、店舗とネット/ケータイ、ファッション誌を連動する販売促進が当たり前になりました。
 消費者の加速度的な感性進化によってファッションはクリエイターが高みから下げ渡すものから消費者が自在に着回すものとなり、商品企画のリーダーシップもかつてのデザイナーからMDやバイヤーに、そして今日ではカリスマ販売員や読者モデル、ギャルプロデューサーへと移り、業界の玄人から消費者代表にバトンタッチされてしまいました。
 消費者が主役になるにつれ衣料品の価格はどんどん手頃になり、最近の不況に劇安外資SPAの上陸も加わって低価格化は一段と急進しています。価格の低下とともに衣料品市場は急ピッチで縮小して行き、91年の19.88兆円から年々縮小して08年には13兆円を割り込んだものと推計されます。実にこの17年間で衣料品市場は3分の2以下まで収縮。リーマンショック以降の急激な消費冷却を考えれば、今年は6掛け水準まで冷え込むのではないでしょうか。
 衣料品市場縮小の一方で住居関連や美容関連(とりわけドラッグ/サプリメント)、通信関連(主に携帯通信料)は大きく拡大しましたから、家計消費支出に占めるファッション関連支出比率(ファッション係数)は急ピッチで低下。60年代には10%を超えていたファッション係数が93年には7%を割り、01年には5%を割り込み、08年度は4%を割り込んでしまいました。
 このようにファッション業界のこれまでは低価格化と市場縮小、業界から消費者へのリーダーシップ移行の歴史と総括されます。

ファッション業界のこれから

 これまでの流れは続くのでしょうか、あるいは異なった方向へと動くのでしょうか。答えは「これまでの流れが加速する」が大勢ですが、ごく部分的には反動も出て来るかも知れません。
 消費者の着こなし進化は加速こそすれ退化は考えられませんから、もはやクリエイターが追い付く事は不可能です。トレンドの発信地はランウェイからストリートへとどんどん移行し、カリスマ販売員や読者モデルが企画するのが当たり前になり、デザイナーは消費者代表のアイデアを商品化する技術者になっていくでしょう。突出した一部のクリエイターは発信を強めるかもしれませんが、限られたフアンの支持を集めるに留まり、コストの嵩むランウェイよりネットに発表の場を移して行くでしょう。恐らく、世界のコレクションシーンは数年で崩壊してしまうのではないでしょうか。
 消費者進化が加速すれば衣料品の価格はさらに低下せざるを得ません。生産地は中国からベトナムやミャンマー、インドやパキスタンに移行して一段と劇安価格が当たり前になり、「ユニクロ」はもちろん外資劇安SPAを下回る劇安チェーンが雨後の筍のように増殖していくに違い在りません。コンサバな品質感を求める世代は年々減少し、30代以下の品質に甘い(安くて可愛いければよい)世代が主勢になっていくでしょう。それとともに劇安ブランドを集めるファストコンセプトの低家賃SC/ファッションビルが台頭し、家賃の高い(価格の高いテナントが並ぶ)ファッションビルや百貨店は急速に淘汰されて行くでしょう。
 法外な価格のブランドが並ぶ百貨店からはさらに顧客が離反し、それを引き止めるべく駅ビル並み歩率でお手頃ブランド/セレクトショップを導入したり、カード顧客優待をエスカレート(恐らく20%)するのが定石になってしまうでしょう。その分、収益が圧迫されますから、本格的なリストラに踏み切るか破綻するかの選択を迫られる事になります。恐らく数年のうちに百貨店は200店舗を切り(現在は約270店舗)、やがては140店舗ぐらいになってしまうでしょう。
 コストが高く開発射程の長い自社開発型のブランドビジネスは百貨店の衰退とともにマイナー勢力になって行き、様々なビジネスモデルのSPAが市場を席巻するに違いありません。低価格と品質の両立を追う「ユニクロ」のような自社開発型のSPAは例外で、むしろ手軽なODMやメーカー別注で鮮度を売るバイイング型のSPAやセレクトSPAが主勢になっていくと思われます。
 価格の低下は市場の縮小に繋がりますから、これからも衣料品市場は縮小し、ファッション係数の低下も止まる事はないでしょう。生産の海外移転は止まらず、染色・整理などのキーデバイス企業が破綻・撤退して国内産地は消滅していくしかありません。TOKYOストリートを売物に世界に進出するブランドビジネスも増えて行くでしょうが、業界総体の衰退が止まる事はないでしょう。

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