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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『大塚家具はショールーム時代に乗り遅れた』 (2018年08月17日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 親子げんかの果てに委任状争奪戦で娘が創業者の父親を追い出した、あの大塚家具が経営に行き詰り、身売り先を探しているという。株価も400円を割り込み、2015年3月の高値に比べれば一時は7分の1まで落ち込んだ。この結末は叩き上げ創業会長だった父親がエリートかぐや姫より正しかったということか、どちらであっても行き詰まったと見るべきか。果たして買い手は見つかるのだろうか。

「久美子流改革」は無策だった

 行き詰まるに至った業績の推移を振り返れば、13年12月期までは低収益(営業利益率1.5%)ながら売上高は前期から微増で営業は破綻していなかったが、親子げんかが表面化した14年12月期は社内の混乱もあって前期比98.7%と売上げが減少に転じ、わずかとはいえ営業赤字に転落。創業会長の大塚勝久氏を追い出した15年12月期はなりふり構わぬ営業強化で前期比104.5%と売上高を回復させ、売上対比0.8%とわずかながら黒字に戻したのもつかの間、翌16年12月期以降はつるべ落としに売上高が落ち込んで大幅赤字に転落。17年12月期は411億円、18年1〜6月中間期は前年同期比12%減、18年12月期予想も376億円と売上げが底割れし、営業利益率も−12.5%、−13.6%と損失が拡大して資金繰りに窮するに至った。img_9b437588e7847fe80fd970dde3f643a7411606

 スキャンダルで顧客が離れたという面はあったにしても、売上高を回復させることも出血を止めることもできなかったのだから、久美子流は無為無策だったと指摘されてもやむを得まい。実際、打った手といえば、会員制(来店して登録するだけ)からオープン制に変えたこと、高級路線から中級路線に変えてセールを乱発したことぐらいで、フロンティアマネジメント(著名コンサルティングファーム)で辣腕を振るった経営のプロとは思えない。

 中級路線といっても中低価格ラインを広げただけで高級品も残し、誰を狙っているのか曖昧になってイケアやニトリとの競争に巻き込まれただけで、調達背景から再構築してオフプライス戦略(※1)を採るわけでも、ニトリのように生産背景から組み上げてSPA戦略を採るわけでもない、戦略的展望を欠く場当たりとしかいえないものだった。

(※1)世界中のブランド家具の流通在庫を集めて現品をディスカウント販売する倉庫型ストアで、ショールーミングストアの対極にあるビジネスモデル。

「勝久流」なら持ち直したか

 では、創業者の勝久氏なら立て直せたかというと、それも怪しい。『家具・インテリアのショールーム』をうたいながらECには消極的で、久美子氏が09年に立ち上げた稚拙なオンラインストアを14年に閉めたのは勝久氏だ。その後、16年に久美子氏がリニューアル再開して家具やカーテンまで2400品目に拡げたが、17年12月期で2億3400万円(EC比率0.57%)に留まる。

 そのオンラインストアをのぞいてみても、“ショールーム”とうたいながらも店舗在庫の検索どころかEC在庫の表示もなく、今どきのウェブルーミング仕掛けオンラインストアとは比べるべくもないから、久美子氏とてECに通じていたとは言えないが、時代に取り残された責任は勝久氏にあると見るべきだ。匠大塚にしても、あれほどこだわった会員制販売を採っていないし、いまだオンラインストアは存在しない。勝久氏に確固たる信念や展望があったとも思えないのだ。

 イケアさえECに乗り遅れて苦闘する今日、オンラインストアとSNSを連動して店舗へ送客するウェブルーミング、店舗在庫の枠を超えて品揃えを広げEC在庫を引き当てるショールーミング、DC物流とテザリングや店出荷を駆使して顧客利便と在庫効率を追求する未来型ショールーミングストアを勝久氏が仕掛けられたとは到底思えないし、恐らくは構想さえしていなかったに違いない。“ショールーム”をうたいながらショールームストア時代に乗り遅れた、いや乗る気もなかったというのが勝久氏の経営感覚だったのではないか。

 ショールーミングストアの対極の可能性たる家具・インテリアの倉庫型オフプライスストアにしても、ニトリやイケアを超えるハイクラスSPA(※2)にしても、勝久氏が構想していたとは思えない。

 海外ブランドで差別化する従来の大塚家具のままであっても、ブランドの独占と高差益を確保するにはアパレルブランドのようなローカルフィット別注やロット調達が不可欠で、物流コストや倉庫コストを削減するにはイケアのようなフラットパック設計による三国間ノックダウンやライセンス生産にも、とうに踏み切っておくべきだった。それに取り組んだ形跡は知る限り見られないから、勝久氏は高級路線を続ける展望も欠いていたのではないか。親子のどちらが経営しても、結局は行き詰まったと見るべきだろう。

(※2)家具インテリアの「アップル」や「バーバリー」があってもよいでしょう。

火中の栗は誰も拾わない

 ここまで時代に取り残された大塚家具を立て直せるのはオムニチャネルなショールーミングストアの自前ロジスティクス体制を確立したヨドバシカメラしかないという世評は正しいが、ヨドバシにとって大塚家具を抱え込むメリットがあるかとなると話は別だ。

 大塚家具の店舗は自前ではなく賃貸で、17年12月期で94億円も賃貸料を支払って売上対比不動産費率は23.1%にも肥大している。仕入れ型の大型小売業の不動産費率は一桁に収まらないと利益が残らないし、SPA型でも20%を超えれば苦しい。大塚家具の荒利益率や在庫回転はロードサイド紳士服チェーンに近いが、彼らはSPAだし、定期借地と自己建築店舗を組み合わせた出店で不動産費負担はテナント店より多少なりとも軽い。近々にEC受注比率を20%、30%と伸ばせる状況なら急激な改善も望めるが、稚拙なEC体制で1%に満たない現状では手の打ちようもない。

 会員制の手厚い接客で高客単価を稼いできた販売体制にしても、会員制を崩して客単価が落ち込み売上対比人件費率が20%を超えた今となっては費用の掛かる人員整理が避けられない。在庫も検索できないオンラインストアの現状ではタブレット接客による売上げの拡大や客単価の向上も望めない。

 膨大なシステム投資やリストラ費用を負担すれば再建は不可能ではないが、それでは新規に事業を立ち上げる方が安上がりになってしまう。ヨドバシにとっては買収を検討する企業リストの末尾にも入らないはずで、再建を担う可能性は皆無と思われる。せめて店舗が自社物件だったら、小売業はともかく投資ファンドや不動産業が触手を伸ばすだろうが、それも難しいのが現実だ。親子げんかの果ては救いのない破綻なのかもしれない。

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