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商業界オンライン 小島健輔が解明
『在庫はどこに持つのが正解か』(2019年09月20日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

img_efba54f16d1dab6b5dd4548f31daa6ea866114GUのショールーミングストア

 国内ユニクロの坪当たり在庫が18年8月期末で唐突に2.4倍に膨らんだ時は驚いたが、これは在庫計上基準の変更によるもので、それにより店舗在庫の1.5倍も国内倉庫に積み上げていることが分かった。「ダム型サプライ」のユニクロならさもありなんという備蓄率だが、他の大手チェーンではどうなのか。ECも絡んで在庫はどこにどんなバランスで持つのが正解なのだろうか。

国内ユニクロの在庫急増事件

 ファーストリテイリングは18年8月期末から国内ユニクロ/ジーユーの在庫計上基準を変更したが、SPAの在庫会計としては耳を疑うものだった。

 同社決算説明会資料によれば、『従来は国内倉庫から店舗へ商品を出荷した時点で在庫としてBSに計上していたが、18年8月期末より商社との契約の一部変更に伴い、海外から国内倉庫に到着した時点でBSに計上するように変更した』と説明されているが、これでは物流過程の在庫管理を商社に依存していたと受け取れる。事実、大和ハウス工業と組んだ有明倉庫プロジェクトが混乱の果てに行き詰まった時、ユニクロの担当執行役員は『物流パートナー企業に業務を丸投げしていたため、現場の状況もサプライチェーンの全体像もつかめてなかった』と吐露している。

 アパレル生産のプロたる“匠”を海外の工場に張り付けてもの作りのプロセスを極めているユニクロが工場から店舗までの物流を外部に丸投げしていたとは信じ難いが、同社がそう言っているのだから間違いあるまい。リードタイムの長い大ロット海外生産ゆえ、店頭投入の数カ月も前に製品が到着して国内倉庫に積み上げられるケースも少なくなかったようだ。

 海外生産品物流の似たような外部依存は量販店業界では一般的だし、SPAといわれるアパレル事業者でも物流の商社依存は珍しくないが、まさかユニクロがまだ脱却できていなかったというのは驚きを持って受け取られたに違いない。

 この計上基準変更により、ユニクロで813億円、ジーユーで110億円、計923億円も期末在庫が増え、ユニクロの坪当たり在庫は81.5万円と一気に2.4倍にも膨れ上がった。旧基準では5.2回だった商品回転も2.17回に急落したが、これが補給在庫を消費地倉庫に積み上げる「ダム型サプライ」の実態値と思われる。

 同様な「ダム型サプライ」が指摘される良品計画(19年2月期)の商品回転も単体では4.95回転だが連結では2.44回に落ちるから、ソーシング系連結子会社が補給在庫を倉庫に積み上げていると推察される。良品計画でソーシング系連結子会社が担う役割をユニクロでは外部の商社が担っているのだろう。

 とまれ、基準変更によって2つのことが露見した。1つは物流の外部依存とサプライチェーンからの乖離、1つは在庫の配備バランスだ。

EC拡大で後退配備(倉庫シフト)

 戦争でも物販のロジスティクスでも前進配備か後退配備か、配備のバランスが勝敗を分ける。前進配備するほど正面戦力は充実するが状況対応の補給力や二次展開力が落ちるから、地上戦では前進配備率は3分の1ほどに抑えて後方配備を厚くするのが定石とされる。店舗小売業でも売場に商品を積み上げるほど売上げは伸びるが、在庫が偏在してロスが肥大し多店舗の販売消化に対応する補給も手薄になるから、前進配備には限界がある。

 アパレルチェーンの場合でも、スルー物流で100%前進配備(店舗在庫)というZARAのようなケースは極めて稀で、店舗在庫と倉庫(DC)在庫の比率はトレンドを追うタイプで80対20、補給する定番比率の高いタイプでも60対40ほどだったが、近年はECの拡大で倉庫在庫比率が高まっていた。『高まっていた』と記したのは、それも過去形になろうとしているからだ。

 C&C(クリック&コレクト)以前、EC受注商品は出品社やECプラットフォーマーの倉庫から出荷されていたから、商品政策がトレンド型か補給型かを問わず、EC比率が高まる分、倉庫在庫比率が高まるのが実態だった。店舗販売だけのときに店舗在庫が80/倉庫在庫が20だったチェーンのEC比率が15%になれば、倉庫在庫が35に増えて店舗在庫は65に減るというのがそのパターンで、もとより倉庫備蓄比率が高かったユニクロなど直近では倉庫在庫が60まで肥大していたのは前述した通りだ。

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C&Cで店舗の在庫も売上げ回復

 ECが増える分、在庫が後退配備になっていくと売場への商品供給が薄くなって機会ロスが広がり、店舗の売上げは落ちていく。多数のブランドに需要が拡散しているアパレルの場合、ECに顧客が流れるというより商品供給が細って売上げが落ちるので、EC向けに在庫を積んでも店舗向け在庫を減らさなければ売上げは減少しないが、売れ筋がECに抜かれると影響が及ぶ。EC比率が10%ぐらいまではECサイトのウェブルーミング効果(店舗へ誘導する広告効果)もあって売上げは減少しないが、それを超えると減少が始まるようだ。

 ECと店舗販売の狭間に立たされた小売りチェーンの結論が店舗をECの物流と顧客サービスの拠点とするC&Cで、とりわけ店在庫をEC受注に引き当てて店で渡したり店から出荷すれば店舗への在庫配分が回復して機会ロスも減り、店受け取りに訪れるEC顧客が店舗の顧客となれば売上げも増える。

 SPACメンバーの平均では、店舗だけで購入する顧客/ECだけで購入する顧客/どちらでも購入する顧客の比率は7対2対1、年間の購入金額は100対67対220だったから、ECだけで購入する顧客が受け取りに訪れて店舗でも購入するようになると、店舗の売上げは最大28.3%も増える。皮算用ではあるが、C&Cがいかに店売上げに貢献するか理解されよう。

 C&Cには低コストな店舗物流(B2B)で高コストな宅配物流(B2C)を削減する効果もあり、ウォルマートなど店受け取りが無料になるばかりかかさ張る商品は値引きまでしてくれる。C&Cは顧客にとってもメリットが大きく、送料無料や値引きに加えて受け取りが早くなり、お試しやフィッティング、お直しのサービスも受けられる。そんなC&Cに特化したお取り寄せお試し・受け取り専門ウェブルーミングサロン「ノードストロム・ローカル」が注目される所以だ。

店内在庫の持ち方で売上げも効率も変わる

 店舗と倉庫の配分もともかく、店舗内でもどこに在庫を持つかで売上げも運営効率も大きく変わる。

 店舗では売場と後方ストック、売場も島陳列と壁面陳列、「出前」と「元番地」で大きく違う。

 後方ストックにあっては販売機会がないから、できるだけ売場に出して販売チャンスを広げたい。営業中に欠品してストック室に探しに行くことがないよう、フェイシング管理が不可欠なのはもちろん、新鮮商品や売れ筋商品は「出前」を活用して売場の複数個所に多重露出すれば販売チャンスが何倍にも増える。

 売場の中でも店頭や主通路面は目に留まりやすいから販売効率が高く、壁面や奥は低くなりがちだ。アパレル店舗の経験則では島陳列は壁面陳列より倍速以上、島の「出前」は壁面の「元番地」より4倍速以上で売れる。在庫回転の低下に苦しむアパレルチェーンが壁面の二段陳列を禁止したりフェイスアウトを多用して壁面在庫を圧縮するのはそういう訳だ。

「元番地」はSKUをそろえてフェイシング管理する「台帳陳列」や「心太陳列」で、顧客がセルフピッキングする売場ストックという性格が強い。「出前」はタイムリーな編集で「元番地」から切り出す打ち出し陳列で、高頻度に切り替えるほど売上げが伸びる。「出前」の切り口はルックだったり単品だったり色組みだったり素材だったりさまざまだが、シーズン立ち上げはトレンドルックや色組み、実売ピークはパワーアイテムや定型ルック、売り切り段階では色別編集やサイズ別編集を駆使したい。

 これらVMD運用は販売動向や在庫状況に即応する現場スキルで、本部からの指示書やマニュアルに加え、現場の営業センスと編集スキルが不可欠だ。POS依存のCMIで忘れられた感があるのは残念で、復活が望まれる。

img_d3cdf280ba9ea01273c543e0883a802a1073993台帳陳列とフェィシング管理に徹する無印良品

在庫は無いに越したことはない

 在庫はあれば売上げにつながるが比例して作業量も家賃もかさみ、需要とすれ違えば値引きや残品を肥大させる。ならば無在庫で販売が成り立つのが理想で、C&Cによるお取り寄せお試し型ウェブルーミングサロン、C&Cとテザリングを組み合わせたミニマム在庫補充型ショールーミングストアはもちろん、受注が先行するC2M無在庫販売まで、さまざまなニューリテールが台頭している。それらの肝は顧客利便に加えて店舗運営とサプライの効率化にあるのは言うまでもない。

※C2M:Consumer to Manufactur

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