小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『小島健輔が指摘『ZOZOはFBZもやめてオフバランスを急げ』』 (2019年04月29日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 4月25日の決算発表で財務状況の悪化が露呈し、ZOZOARIGATOの終了とPB事業の事実上の撤退、EC事業への戦力集中と中国再進出、ガバナンスの強化などが発表された。これらは中国再進出を除けば再三、私が提言してきたことで、前澤氏の決断が評価される一方、ブランド自社ECの在庫を預かるFBZ(フルフィル・バイ・ZOZO)による営業損益の悪化が懸念される。

ZOZOSUITとPB、ZOZOARIGATOが減益要因 

 ZOZOの19年3月期決算では商品取扱高は19.4%増の3231.3億円、売上高も20.3%増の1184億円と、18年3月期の27.6%増/28.8%増から急激には減速しなかったものの、営業利益は21.5%減の256.5億円、経常利益も21.4%減の257.2億円、純利益も20.7%減の159.9億円と大きく落とした。
     

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 第4四半期だけとれば、ZOZOARIGATO効果で取扱高は前年同期の14.9%増から19.8%増にわずかに加速したものの、その値引き負担で売上高は前年同期の21.2%増から4.0%増へ急減速し、PBの評価損も加わって営業利益は45%も減少している。加えて海外PB事業の撤退に伴う固定資産減損9800万円、棚資産評価損6億9100万円、事業整理損失8億2200万円、ZOZOSUIT関連部材機材に関わる固定資産減損1億3100万円、棚資産評価損1億8400万円、投資有価証券評価損1億7800万円、合計21億800万円を特別損失に計上している。
 通期の減益要因もZOZOARIGATOの値引きやPBの評価損で30.8億円、ZOZOSUIT配布やPB関連広告で42.1億円、荷造運賃の負担増で35.4億円、人件費増で19.4億円、その他16.9億円としているから、特別損失も加えてZOZOSUITとPB、ZOZOARIGATO関連で100億円近く利益を引き下げたことになる。
 ZOZOSUITとZOZOARIGATOをやめてPB事業を大幅に圧縮すれば(今期売上予算では事実上、ほぼ撤退する)出血が止まり、その分が今期の増益要因に転ずると期待されるが、新たな減益要因となりそうなのがFBZ(フルフィル・バイ・ZOZO)だ。それについては後述するが、深刻なのが財務状況の悪化だ。

急激な財務状況の悪化

 ZOZOSUITとPB、ZOZOARIGATOの失策は損益のみならず財務状況も急激に悪化させている。18年3月期から19年3月期へ総資産は707.1億円から789.6億円に増えているが、純資産は408.1億円から226.6億円へと181.5億円(44.5%)も減少し、流動資産が535.6億円から579億円に増え、その分、負債が299億円から563億円へ264億円(88.3%)も急増している。1株当たり純資産も130.95円から73.85円に急落し、決算発表翌日の株価は前日比201円安(−9.28%)の1965円で終わり、18年7月のピークからは4掛けに落ちてしまった。
 PBにかかわる商品と原材料が2.5倍の58.85億円に急増し、売掛金が20.2億円増えて現金・預金が30.1億円減り、流動資産は43.3億円増加している。流動負債では短期借入金が0から一気に220億円に増え、固定負債では事業整理損失引当金と資産除去債務が12億3700万円増えているが、PB関連の撤退損失に加えて自己株式取得の244億1200万円が大きい。その大半(230億7000万円)は18年5月23日に市場外で行われた前澤社長保有600万株の購入によるもので、中間期末の自己資本比率は期初の57.7%から24.4%に急落しているが、その後の利益蓄積などで期末には28.6%まで回復している。
 ファイナンスによる複雑な動きを別としても、営業活動によるキャッシュフローが198.82億円から148.07億円へ50.75億円(25.5%)減少し、その分、投資活動によるキャッシュフローを82.19億円から61.25億円に20.94億円(25.5%)抑制しても、財務活動によるキャッシュフローを28.44億円増加させている。稼ぎが落ちた分を投資の抑制と借り入れで補ったという構図が見え、その結果、期末の現金・預金は215.6億円と期初から30.11億円減少し、販管費対現金・預金比率は18年3月期末の42.5%から27.2%に急落しているから、資金繰りもタイトになっている。ZOZOSUITとPB、ZOZOARIGATOがいかに甚大な失策であったか理解されよう。

B2B事業起死回生のFBZが足を引っ張る?

 落ちたとはいえ、営業利益は前期で256.5億円と収益力は高く、ZOZOARIGATOを終了しPBから撤退すれば前期とは逆に増益要因となり、今期計画では320億円を見込む。

 PB事業は前期に撤退した海外だけでなく、国内事業も事実上の撤退を決めている。今期の売上計画ではPBで17億円、MPS(サイズ展開コラボPB)で10億円と、前期の目標200億円が27.63億円に終わったことを踏まえて2000億円という壮大な構想を引っ込め、『規模の拡大を追うことなく着実に行っていく』とアナウンスしているから、PB事業による出血は止まるとみてよいだろう。

 代わってリスクとなりそうなのが、ユナイテッドアローズの離脱で壁に当たったB2B事業の起死回生を図って子会社のアラタナが19年10月から始めるFBZ(フルフィル・バイ・ZOZO)だ。

 FBZはクライアントの在庫を丸々預かって「ZOZOTOWN」のみならず「自社ECサイト」「店舗」に一元的に引き当てて欠品による機会損失を最小化せんとするものだが、店舗をお試し/受け取り/在庫引き当て/宅配出荷の拠点として顧客利便と在庫効率を高め、宅配外注費を圧縮するC&C(クリック&コレクト)を最優先の戦略課題とする有力アパレルとは真っ向から対立してしまう。ZOZOARIGATOを契機とする「ZOZO離れ」とて本質的な背景は有力アパレルのC&C戦略と見るべきで、FBZを推し進めればかえって有力アパレルとの距離は開いていく。

 FBZを必要とするのは自らC&Cに向けた顧客と在庫の一元管理・運用体制を確立できない中小あるいは出遅れたアパレル事業者であり、ユナイテッドアローズのような大手を取り込むのは難しい。店舗網やTBPP網を持たないZOZOはC&Cのご利益を提供できず、取扱高対比15%という手数料を放棄してはフルフィルコストだけがのしかかってくる。FBZ導入企業に提供する「ZOZO ID」ログイン決済も「Amazon Pay」を連想させるが、手数料率など詳しいことは未発表で、クライアント自社EC支援の囲い込みサービスなのか手数料収入と顧客決済データを狙う戦略なのか見えていない。

 明確なのはFBZを拡大すると倉庫投資も運営コストもかさむ一方で宅配外注費は抑制できず、15%という手数料の無料化対象が広がるほど収益が圧迫されていくということだ。店舗網を持つアパレル事業者なら格段に低コストな店舗物流を活用するC&Cで宅配外注費を抑制できるが、ZOZOにもAmazonにもそれはできない(『小島健輔が指摘「プライム会費値上げで露呈した宅配依存というアマゾンの弱点」』を参照されたい)。

自らの強みを知りオフバランスに徹する

『棚入れする限りロボットもITも茶番 小島健輔が指摘する物流プロセスの壮大な無駄』で指摘したように、棚入れして宅配出荷する以上、ECのフルフィル倉庫運用を効率化するのは限界があり、在庫を預かって宅配出荷を代行してはコストに見合う収益は期待できない。それはAmazonとて同様で、ロボットを駆使してもプライム会費を値上げしてもAWS(Amazon Web Services)の稼ぎで補っても限界がある。ましてやWS事業を持たないZOZOが収益を確保するのは格段に難しい。

 受注してからZOZOの倉庫に移送して宅配出荷する「出荷委託型」なら出品側の在庫効率を損なわないし、「種まき」でスルー出荷できるからフルフィルコストは格段に抑制できる。受注した宅配情報をオンラインで送って出品者が出荷する「マーケットプレイス型」なら、C&C体制を確立したアパレル事業者にも受け入れられる。

 ZOZOSUITとPBを仕掛けて以来のZOZOは投資と在庫が肥大してキャッシュフローを圧迫し、ファイナンスに依存するオンバランスに流れて財務の健全性に注意信号が灯ったが、FBZに固執せず投資を抑制してフルフィルを効率化すればオフバランスに転じ、財務の健全性も回復できるのではないか。

『在庫を人質に取る』と揶揄される「フルフィル型」商法は、ZOZOは“強み”と思い込んでいてもC&Cを進める有力アパレルにとっては“迷惑”でしかない。ZOZOはかつての“強み”が“弱み”に転じたことに気付いていないのだろうか。

 ZOZOの真の“強み”は「ZOZOTOWN」開設以来の高感度イメージと使い勝手の良さ、それが築き上げてきた顧客であり、在庫を抱えるフルフィル体制ではない。顧客にとってはECフロントに好感が持てて使い勝手が良く、速く便利に送料負担なく商品が手に入れば済むことで、バックヤードのフルフィルは問うていない。それにはお試しや受け取りの利便は必須だし、送料負担のないことが望ましい。だから宅配料金が高い欧米ではC&Cが主流となって小売りチェーンとEC事業者の攻守が逆転しつつあるのだ。宅配が安く速く確実だったわが国とてヤマト運輸の料金値上げで状況は一変した。

 そんな状況の変化を先読みしていたなら、ZOZOSUITで大損失を被らずTBPP網に投資してC&Cのご利益を享受できていたのではないか。今からでも遅くはない。オフバランスでファイナンス依存を脱し、ZOZOファン顧客が喜ぶC&C体制の確立を急いでほしい。

※TBPP:Try Buy Pickup Point=中身を確認したり試着してから購入や返品ができる受け取り拠点

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