小島健輔の最新論文

WWD 小島健輔リポート
『目指すはメタバース・エンタメ・プロダクションか』
(2023年02月24日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

ƒvƒŠƒ“ƒg

 昨年6月8日に東証グロースに上場したANYCOLORに続き、3月27日に「ホロライブ」のカバーが東証グロースに上場する。VTuberプロダクションの両雄が出揃うことになるが、事業機会を広げて高収益体質を固めるANYCOLORに対して3D技術でメタバース・エンタメ・プロダクションを目指すカバーと、両者の方向性は大きく異なる。NFTやアバターアパレルなどメタバースの事業化を占う意味でも、両者の事業展開に注目したい。

※VTuber(Virtual YouTuber)・・・・2D/3DのアバターキャラクターをモーションキャプチャーやMMDで動かして演じるユーチューバー

 

■ホロライブのVTuberは世界を席巻

 「カバー」って言われてもピンとこない人も多いかも知れないが、世界のVTuberランキング(チャンネル登録者数)のベスト10を独占してベスト20位中16人を占める「ホロライブ」をマネジメントしてるVTuberプロダクションだと言えば分かるのではないか。ベスト10にはホロライブジャパンから宝鐘マリン(229万人)や兎田ペコラ(217万人)、星街すいせい(193万人)など6人、ホロライブEnglishから2人(1位のがうる・ぐらは427万人)、ホロライブ・インドネシアから1人、VTuber Group ch.としても5位に位置してベスト10を独占している。

 その勢いを実感させるのがスパチャ(スーパーチャットというYouTube上の投げ銭)累計額の世界ランキングで、潤羽ルシア(引退)の4億4050万円を筆頭に桐生ココ(引退)の3億9621万円、兎田ペコラの3億4388万円、宝鐘マリンの3億0350万円までが3億円を超え、7位の葛葉(にじさんじ)を除いてベスト10を独占し、ベスト20中15人を占めている(23年2月17日段階)。せいぜい2〜3年の活動期間としては突出した金額だ。

 ちなみににじさんじ(ANYCOLOR)のVTuberは、チャンネル登録者数ランキングで11位に壱百満天原サロメ、16位に葛葉、スパチャランキングで7位に葛葉、13位に不破湊、16位に叶が入るのみで、ホロライブとは大差がある。もうひとつ、両者の特徴を際立たせているのが男女の違いで、ホロライブのランクインVTuberが全て女性(カバーの男性VTuber「ホロスターズ」はランクインの勢いは無い)であるのに対し、にじさんじのランクインVTuberは全て男性だ。

 ファン層も大きく異なっており、女性アイドル路線のカバーは男性が9割近く(年齢層も幅広い)、男性女性だけでなく性不詳や人外、動物まで揃う芸人路線のANYCOLORは若い女性(64%)や学生が多い。後述するマネジメント体制の違いもあって、カバーは管理育成型のアイドルプロダクション、ANYCOLORは放任実力主義の芸人事務所(極めて吉本興業的)と言われる。

※VTuber(YTuberも)の各種ランキングはhttps://playboard.co/で誰でもリアルタイムで見ることが出来る

 

■収益性ではANYCOLORが優る

 カバーの売上高は22年3月期で前期比138.7%増の136億6300万円、営業利益は同13.5%増の18億5500万円(売上対比13.5%)、当期純利益は同1.9%増の12億4400万円(同9.1%)と、売上の伸びの割に営業利益や純利益は伸びていない。ライブ/イベントやマーチャンダイジング(商品販売)の急拡大に伴う仕込み費用や販売手数料による原価率の上昇、24年3月期(23年4月にスタジオ、6月に本社)に予定する移転に伴う設備の減損損失(2億1148万円)が利益を圧迫した。

  23年3月期見込みも売上高が32.1%増の180億5600万円、営業利益が16.9%増の21億6900万円、当期純利益が14.7%増の14億2700万円と、売上の伸びの割に利益は伸びず、営業利益率は12.0%と前期の13.5%、純利益率も7.9%と前期の9.1%から低下する。商品販売の急拡大に伴う物流費(6倍増)や陣容拡大に伴う人件費(57.6%増)に加え、営業外では上場関連費用を想定している。

  対するANYCOLORは22年4月期の売上高が前期比85.5%増の141億4600万円、営業利益が同188.6%増の41億9100万円、当期純利益が同198.1%増の27億9300万円と売上、利益ともに急拡大しており、数字だけ見ればカバーより格段に勢いがある。営業利益率は29.6%、純利益率も19.7%とカバーより格段に高い。

 23年4月期見通しも22年12月15日に上方修正して売上高が58.9%増の225億円、営業利益が83.7%増の77億円、純利益が89.8%増の53億円と躍進は止まらない。営業利益率は34.2%、純利益率も23.6%とさらに上昇してラグジュアリービジネスの領域に入っている。

 ちなみに両社ともVTuberへの報酬や配信に伴うプラットフォームの手数料、スタジオ稼働やイベントに伴う外注費、グッズの製造原価などが原価計上されており、粗利益率は40%前後と意外に低い。販管費は社員の人件費や管理系の業務委託費、地代家賃や物流費、広告宣伝費などで、カバーの22年3月期は25.0%、ANYCOLORの22年4月期は12.7%と極めて低い。

 

■収益領域の多様化進展度と設備投資負担

 両者の業績格差をもたらしているのが収益領域の多様化進展と研究開発・設備投資の違いだ。

カバーの配信/コンテンツ売上比率が21年3月期の46.0%から22年3月期は38.4%、23年3月期3Qでも35.9%と依然、高いのに対して、ANYCOLORのライブ/ストリーミング(配信/コンテンツとほぼ同様)売上比率は20年4月期の35.6%が21年4月期は31.4%、22年4月期は21.1%、23年4月期上半期は20.9%と低下し、直近では15ポイントも差がある。一方でマーチャンダイジング売上比率はカバーが21年3月期32.3%→22年3月期35.4%→23年3月期3Q 41.1%に対し、ANYCOLORのコマース(マーチャンダイジングとほぼ同様)売上比率は20年4月期43.7%→21年4月期43.9%→22年4月期46.9%→23年4月期上半期53.2%と過半を超え、カバーより12ポイントほど高い。カバーのライセンス/タイアップ売上比率が21年3月期7.5%→22年3月期10.1%→23年3月期3Q 13.3%に対し、ANYCOLORのプロモーション(ライセンス/タイアップに近似)売上比率は20年4月期7.6%→21年4月期13.6%→22年4月期16.0%→23年4月期上半期15.1%とやや先行している。

※ANYCOLORの20年4月期、21年4月期、22年4月期は国内比率、23年4月期上半期はNIJISANJI ENを含む比率

後述するが、配信/コンテンツ売上はVTuber演者(中の人)の人気や個人的事情、YouTubeなどプラットフォームの運営方針(突然、収益化停止を喰らったり手数料率が改定されたり)で左右されるリスクが高く、演者の事情やプラットフォームに振り回されない商品売上やライセンス/プロモーション売上にシフトしていく必要がある。

とは言え、ライセンス/プロモーション売上はデザイン管理チームなどを揃える必要があるし、商品売上は急拡大の過程で在庫に加えてECシステム投資やFC(フルフィルセンター、出荷倉庫)投資が嵩む。ANYCOLORはその過程を通り抜けて高収益体質に転じているが、カバーはその関門の真っ只中にある。

加えて、メタバースのエンタメ・プロダクションを目指すカバーは研究投資や設備投資が重く、AKB48劇場どころかブロードウェイミュージカル・スケールのモーションキャプチャー・ライブも可能な巨大スタジオ投資(4914平米、総投資27億5000万円、港区に23年4月完成)を進めており、減価償却負担が当分続く。投資の回収サイクルに入ったANYCOLORと投資負担が続くカバーという収益力の格差は否めない。

 

■VTuberプロダクションの抱えるリスク

 VTuberプロダクションはリアルのタレントプロダクションと違ってデジタル化した演者を物理的制約を超えて動かせるし、キャラクターグッズやアパレルなど商品の販売、ライセンス供与やタイアップ・プロモーションの収益も期待できるが、ソースたるVTuber演者の体調・心調やスキャンダルというリスクは付きまとう。

2D/3Dのキャラクターや名称、モーションキャプチャーや配信のアプリケーションはプロダクション側が所有してタレントに利用許諾し、収益の一定料率を支払う契約がデフォルトだが、タレントに問題が起きて契約解除や引退に至っても、演者を入れ替えてキャラクターを継続した事例は聞かない。キャラクターと演者は配信を積み上げて一心一体のタレントとしてファンを捉えており、演者の引退はキャラクターの引退に繋がる。ホロライブの潤羽ルシアや桐生ココなどスパチャだけで年間億以上の稼ぎだったから、プロダクション側の損失は想像に難くない。

実際、カバーでは不倫や交際の発覚、契約違反、誹謗中傷や体調不良などでホロライブ5人、ホロスターズ3人が消えており、台中ファンの対立からホロライブ中国の6人全員が引退するという悲劇もあった。直近で71人に過ぎないカバーVTuberの陣容を考えれば無視し難いリスクと言えよう。放任型のにじさんじでは短期の脱退も多く、18年から今日まで37人を数える。直近で169人の陣容とは言え、37人はその22%近い。

もうひとつのリスクがYouTube(親会社はGoogle)など配信プラットフォームの運営方針や課金方針で、敏感なコンプライアンスに抵触して収益化停止を喰らったり、課金基準が変更されたりのリスクは否めない。YouTubeではAIクローラが配信コンテンツを審査しており、第三者コンテンツが写って著作権侵害が疑われたり、肌色や吐息がアダルトコンテンツに抵触して警告や収益化停止を喰らうことがある。実際、ホロライブのVTuber達もセンシティブな囁きや吐息を含むASMR配信が抵触して収益化停止を喰らったことがある。

アイドル型のVTuberがファンの気を引くには多少センシティブな配信も必要で(宝鐘マリンが分かり易い)、リスクは常時存在するから、YouTubeに偏らずTikTokなど他の動画投稿サイトに分散するしかない。

※ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)・・・直訳すれば自立感覚絶頂反応。聴覚や視覚への刺激によってゾワゾワと感じる心地よい感覚

 

■タレントマネジメントと3Dスキル

  オーディションで選抜する少数精鋭のカバーはVTuber毎にマネージャーが付き、ボイスやダンスをトレーニングし、オリジナル楽曲を提供して確実に離陸させるというアイドルプロダクション方式。対してANYCOLORは放任実力主義で自然淘汰に任すといえば極端だが、人気が出てくれば相応にサポートが付くようだ。

VTuber一人当たり売上もカバーが22年3月期の20,093万円から23年3月期見込みは25,430万円と26.6%伸びる一方、ANYCOLORも22年4月期の8,786万円から23年4月期見込みは13,314万円と51.5%伸びても、まだカバーの半分強と格差は大きい。カバーはマネージャーやエンジニアチームの手厚いサポートで早期の離陸が期待できるがコスト負担は重く、収益性ではANYCOLORの優位は動かない。

VTuberのライブアクションについてはカバーの技術的・設備的アドバンテージが際立つ。スマホの2Dアプリから出発したANYCOLORの初期は電子紙芝居感覚を出ず、フル装備のモーションキャプチャーを避けた軽装備が早期の収益化には貢献したが、多人数が踊るライブステージなどでは3Dゲームアプリから出発したカバーに1日以上の長がある。

リズミカルな場ミリ・フォーメーション、動きにマッチしたライティングやカメラワーク、髪の毛やスカートなど揺れものの破綻のない動きなど、フル装備のモーションキャプチャースタジオと熟練技術が相乗してリアル以上に楽しめるエンタメに仕上がっている。演者が動かすモーションキャプチャーだから流石にMMDのような超絶技巧ダンスは無理だが、その分、演者の人柄が現れてファンサ(ファンサービス)になっている。

4月に稼働する巨大モーションキャプチャースタジオはメタバースを前提としたものと思われるが、スペクタクルなミュージカルショーに加え、ホロライブやホロスターズのキャラクターと遊べるサロン感覚やゲーム感覚の様々なメタワールドが登場することになるのだろう。宝鐘マリンの海賊船とか白銀ノエルのカラオケサロンとか不思議の国の兎田ぺこらとか、ネット・エンタメの楽しみが広がると期待される。

論文バックナンバーリスト