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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『百貨店の天に唾する愚行』 (2018年06月11日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 百貨店という世界は現代とは思えない化石化した矛盾に満ちているが、何故か時々の“神風”や“棚ぼた”に救われて生き延びてきた。強運というべきか悪運というべきかはともかく、取引アパレルにとっては無理難題を強いてきた“お代官様”に他ならない。以下の4例はそんな無理難題の典型だ。

1)新鮮商品・売れ筋商品だけ見せろ

 百貨店のアパレル売場はほとんど消化仕入れのコンセだから、百貨店側は売上げになる新鮮商品と売れ筋商品ばかり要求し、動きの鈍い商品や前月の売れ残り品などは後方や倉庫に引き揚げるようプレッシャーをかけてくる。ゆえにVMDが新商品のディスプレイに偏って旧サイクル商品の売り切り編集VMDが定着せず、倉庫に引き揚げられた商品がECのクーポン割引や前倒しのファミリーセールに回って百貨店の店頭売上げを食うという矛盾が広がっている。

 有力アパレルは既に百貨店を見限ってEC拡大に注力しており、百貨店のバーゲンに先駆けてECでのセールやファミリーセールを露骨に前倒している。13年来、ギョーカイを振り回した一部百貨店、駅ビルのバーゲン後倒し強行は迷惑な「茶番劇」でしかなかった。

2)定数定量の美しい陳列を保て

 それに輪をかけるのが百貨店の「定数定量」VMDマネジメントだ。各ブランドに与えた陳列フェイスを美しく?保つよう、ラックごとの陳列点数を『120cm間にジャケットなら16点、コートなら12点』などと定数制御してくる。ゆえに全色・全サイズは陳列できず、出し切れない品番もあり、接客中に顧客を待たせて後方に走ることになる。販売ピーク時間帯など、少なからぬ売り逃しが発生しているに違いない。当社主宰SPAC研究会メンバーアンケートでも、SCや駅ビルのストック在庫率は25〜30%が平均的だが、百貨店のインショップでは40%を超える。

 高級ブランドではワンサイズ陳列がフツーだから珍しくもないが(お待たせする間の「おもてなし」が売りだったりする)、手頃な?大手アパレルブランドにまで要求しては非効率極まりないし、待たされる顧客の身にもなって欲しい。生活に追われ時間消費を疎む今日の顧客が百貨店から離れるのも当然だ。

3)期末まで色・サイズを切らすな

 百貨店首脳はしばしば『期末まで色・サイズを切らしません』と発言しているが、買い取らないのに一方的に要求されてはアパレル側は期末残品率が高止まりして収益が圧迫される。サイズ展開の多い紳士シャツアパレルなど大半がコレで経営が行き詰まり、一部はSCや駅ビルの直営店あるいは受注先行のイージーオーダーD2Cに活路を求め、それが百貨店から顧客を奪う結果を招いている。

 イージーオーダーD2Cは受注先行の無在庫販売と百貨店など中間搾取の排除で革命的に収益性が高く、その分、お値打ち価格にできることに加え、スーツの納期などIoT革新で既製品の修理加工期間より短くなるに及んで爆発的に既製服を食っている。百貨店側はそんな現実をつかんでいるのだろうか。

4)タブレット接客は御法度だ

 百貨店のコンセ売場はスペースが限られ「定数定量陳列」ゆえ在庫もそろわず、消化仕入れゆえPOSシステムも不備だから、接客プロセスで在庫検索したり売場にない商品を案内するのにタブレット端末は必須だが、ECへの売上流出を恐れてタブレットの持ち込みを拒絶する百貨店がいまだ残る。百貨店によっては当該百貨店のECモールに出店しているブランドのみ許可しているケースもあるが、百貨店ごと、同じ百貨店でも部門ごとにECサイトの仕組みが異なるケースがあり(在庫預り型/お取り寄せ型/リンク型/店内在庫引き当て型など)、ブランドの自社サイトのように他店在庫まで検索して引き当て購入者プレビューまで見れるような運用は期待できない。よって、ブランド側も顧客も利便性の高い自社サイトやファッションECモールに流れてしまう。

盥(たらい)の水は自分に引き寄せようとすると向こうに逃げる

 そんなこんなで百貨店が自らの利権にしがみつくほどブランドも顧客も離反していく。天に唾する行為とはこんなことを言うのだろう。百貨店が明日を展望するなら、二宮尊徳翁が教え諭し近江商人が家言とした「盥の水」を思い起こして行いを改めるべきだ。百貨店に限らず「盥の水」は全ての商いに通ずる金言であり、ITとECの今日でも「オープンプラットフォーム戦略」として生きている。

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