小島健輔の最新論文

販売革新2009年4月号掲載
『低コストSCと二軍級チェーンの時代が来た』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

 昨年秋はイオンレイクタウンや西宮ガーデンズといった巨大RSCが華やかに開業する一方、9月20日のピエリ守山(大和システム/店舗面積55,000平米)、10月31日のイーアスつくば(大和ハウス工業/同84,766平米)、11月21日のフォレオ大津一里山(大和ハウス工業/同41,463平米)、11月28日のモラージュ菖蒲(双日商業開発/同90,000平米)など比較的軽装備な中〜大型SCの開業も続いた。景気が急速に暗転する中、重装備で高コストなメジャー級RSCが過ぎ去った好景気時代の最後の徒花を咲かす一方、軽装備で低コストな‘B級’SCとその担い手たる二軍級ローカルチェーンが恐慌時代の新たな主役として船出していく。そんな時代の転換点を見る思いがした。

モールの救世主に躍り出た二軍級チェーン

 これら比較的軽装備なSCを重装備のメジャー級RSCと比較して‘B級’と称するのは失礼とは思うが、テナント企業の一般的認識を代弁するには遠からぬ表現かも知れない。事実、三井不動産やイオンモールなどのメジャー級RSCに揃うような一軍級テナントはそれらのSCでは少数派で、GAPやZARAのような外資SPAはまったく見当たらず、名の知れぬ二軍級ローカルチェーンがモールの大半を占めている。立地/スケール/建築仕様ともメジャー級RSCに近いイーアスつくばやモラージュ菖蒲では一軍級チェーンも多数見られるが、ローカル感の強いピエリ守山やフォレオ大津一里山では二軍級ローカルチェーンが大半で、中には催事業者や空き区画が目立つSCも見られる。
 とは言え、景気の暗転で一軍級チェーンの出店意欲が急冷却する中、イオンモール草津のようなメジャー級RSCでも一軍級だけではテナントが揃わず、二軍級ローカルチェーンや催事業者まで動員してようやく埋めているのが実情で、メジャーなRSCでも空き区画を催事業者で埋める事が珍しくなくなった。SCのリーシング環境はまさしく底冷えしており、二軍級ローカルチェーンがモールの救世主として注目されている。
 二軍級チェーンの多くは地方都市(本社が郡部や町村部のケースも見られる)を起点にローカルチェーンとして力を付け、一軍級チェーンの出店意欲冷却を埋めるように全国展開に移りつつある。二軍級ローカルチェーンは1)地元専門店や販売代行から発展、2)産地のメーカーや問屋、OEM業者から発展、の2群に大別されるが、前者では品揃え型が多いのに対し後者ではほとんどがSPA型だ。それはアパレルに限らず、アイウェアやジュエリー&アクセサリー、インテリア関連にも共通して言える。前者がローカルチェーンから展開地域を徐々に拡げつつあるのに対し、後者は全国展開への移行が速い。利幅の厚いSPA業態は収益性が高く投資余力がある事、ストアのブランディングも確立し易い事が要因であろう。
 二軍級と言っても多店化とともにコンセプトを確立して一軍級チェーンに進化する可能性もあり、いつまでも二軍に甘んじている訳ではない。かつて山口から発したファーストリテイリングは世界的SPA企業に発展したし、水戸から発したポイントや磐城から発したハニーズ、つくばから発したライトオンも上場企業に発展した。近年でも岡山発のクロスカンパニーや神戸発のイング、横浜発のカーム、福井発のアイジーエー、前橋発のスタジオクリップなどは一軍メジャーに発展したし、直近では前橋発のハートマーケットや水戸発のメイプルファーム(有限会社アスクウォーク)、福岡発のエルエイトレーディング、静岡発のナオインターナショナル、高松発のNDCジャパン、越前発のエクスインターナショナルなども注目される。
 SCデベロッパーにしてみれば一軍級チェーンの出店意欲冷却は大変な痛手で、二軍級チェーンの中から一軍級に進化する企業が出て来る事を祈るばかりであろう。一軍級の穴埋めでメジャー級RSCへの出店チャンスが拡がる中、進化の加速は必定で、ハートマーケットのように一軍に加わる企業が続出する事になりそうだ。

再評価される低コストSC

 重装備なメジャー級RSCに出店して来た一軍級チェーンとて売上の低迷で家賃負担が重く、軽装備なB級SCを再評価せざるを得なくなっている。重装備なメジャー級RSCでは家賃に上乗せされる共益費や共同販促費、駐車場協力金などの負担も重く、なんだかんだで坪月3万円台半ば、人気テナントでも2万円台後半を覚悟しなければならないが、軽装備なB級SCではなんだかんだを一括しても2万円強、人気テナントなら2万円をかなり下回る負担で済むからだ。
 B級SCの実質家賃負担はクローズドモールでメジャー級RSCの6〜7掛け、オープンモール型なら5掛け未満で済む。百坪を超える大型店なら家賃負担はさらに低くなりロードサイド店の水準に近似して行くから、一定以上の販売効率を確保出来るならコストメリットは極めて大きい。
 好況期ではメジャー級RSCとB級SCの販売効率に顕著な格差があったが、不況が深まって商圏が萎縮する中、広域商圏を狙う前者に較べれば後者の落ち込みは軽く、販売効率格差も縮まって来た。元より家賃負担に格段の差があるから、販売効率格差が縮まって来るとB級SCの収益性が注目される事になる。大型SCの開発規制強化に不況の深刻化が加わって重装備の大型SC開発は昨年の半分以下に急減するから、出店機会の確保という面でもB級SCは無視出来なくなって来た。
 イーアスつくばのように有利な立地とスケールを得れば重装備なメジャー級RSCと大差ない販売効率が期待出来るから(当社の開業前予測では初年度320億円とデベ目標の300億円を上回る)、メジャー級RSCより高収益が得られる。大型SCでも商圏に恵まれないピエリ守山はデベの売上目標がどんどん切り下げられ空き区画が目立つなど物件の選択には注意を擁するが、B級SCの中には拾い物が含まれているのも事実なのだ。
 B級SCと一言で言っても足元商圏に特化したSM核のNSCからイーアスつくばのようなRSC級まで様々で、実勢商圏も数万人から30万人近いRSC級まで巾がある。立地や構成、競合関係で売上水準も月坪5〜6万円級から15万円超級まで格差があるから、個々に検証して慎重に選択したい(当社ではA級からB級まで商業面積3万平米以上のSCはすべて開業1年前に検証して売上と販売効率を予測している)。なお、ライフスタイルセンターと称するメジャーデベによる小型SCは販売効率に較べて家賃水準が高く、B級SC的コストメリットが期待出来ないケースもあるから要注意だ。
 生産も雇用も消費も縮小スパイラルに陥ってデフレが加速する中、テナント企業もデベロッパーもコスト圧縮が不可避で、メジャーデベとて重装備なA級仕様にこだわっていてはリーシング難を免れない。軽装備B級SCの開発はメジャーデベにとっても急務のはずだ。

大型業態の開発が不可欠

 メジャー級RSCに較べて販売効率の低いB級SCでは家賃負担が軽くても運営人件費負担が重くなりがちだから、収益を確保するにはレイバーコントロールで運営人件費を流動費化し易い百坪超の大型店が望ましい。既存業態を複合したりホームウェアやアンダーウェア、生活雑貨やHBCなどを取り込んで大型業態を開発し、運営コストを抑制して収益体質を確立すべきであろう。
 ライフスタイル志向でカテゴリーを広げると低頻度アイテムが肥大しがちだから、コンビニエンスに徹して高頻度アイテムを集積し、在庫回転の悪化を回避しなければならない。また、調達チャネルが分散すると原価率の上昇を招くから、特定分野の広範なカテゴリーをカバーする業者への集約が不可欠だ。大型業態の開発には思い込みを避け、ライフスタイル提案と運営・調達両面の効率を両立するパワーコンセプトを見い出す必要がある。その意味でも新興ローカルチェーンの業態開発からは目が離せない。

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