小島健輔の最新論文

商業界オンライン 小島健輔からの直言
『ファストファッションは終わった』 (2018年09月04日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 上陸からわずか4年余りで17年1月末に全53店舗を閉めて撤退した「OLDNAVY」の悪夢も醒めやらぬ中、商業施設デベはファストファッションの大型テナントが撤退するXデーに怯えている。上陸当時は一斉を風靡して店頭の行列が話題になったほどだが、今やすっかり勢いを失い、閉店や撤退が危ぶまれる状況なのだ。

人気凋落で閉店や撤退が危ぶまれる

 フォーエバー21は日本上陸1号店たる原宿店を17年10月15日に閉店したが、H&Mも08年9月13日に開店してファストファッションの震源地となった銀座店を7月16日で閉店している。

 フォーエバー21は最盛期には日本国内で25店を布石していたが、ららぽーとTOKYO-BAYやダイバーシティ東京プラザ(お台場)、郊外SCの店を次々に閉め、現在は16店舗まで減少している。H&Mは都心店から始まって地方や郊外のSCまで現在84店舗まで広がっているが、本国の決算書から推計する日本国内売上高は伸び悩んでおり(18年上半期は4店を出店しても2%減少)、坪当たりの販売効率は年々低下して今やユニクロの半分にも届かない。ZARAとて17年9〜11月期以降は既存店売上高がマイナスに転じ、18年2〜4月期は2桁減に落ち込んだと推計される。

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 H&Mは国内大手チェーンが手を出さないようなC級商業施設にも出店しているが、低家賃条件でも在庫負担が重荷となり、C級商業施設店舗はもちろん、損益分岐点の高い有力商業施設の店舗も閉店するリスクが指摘される。H&Mは不採算店整理で済むとしても、日本市場からの全面撤退がささやかれるチェーンもある。

ファストファッション失速は世界的現象

 ファストファッションが失速しているのは日本だけの現象ではない。H&Mは15年から既存店売上高がマイナスに転じて17年は推計93%まで落ち込み、営業利益率は年々落ち込んで17年は10.3%とピークの23.5%(07年)の半分以下に落ち込んでいる。一人勝ちして来たINDITEX(ZARA)さえ18年2〜4月期は売上前年比が101.5%と17年通期の108.6%から急減速しており、ECが41%も伸びて全社売上高の10%に達している(17年通期)ことを差し引けば店舗売上げは前年を割っていると推測される。

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 足を引っ張っているのは世界的なローカル回帰で、政治や経済で08年以降に急進したグローバリゼーションの反動が広がっているのと同じく、ファッションの世界でもグローバルな欧米モードが退潮して各国のローカルカジュアルが急ピッチで回復している。アバクロの復調に象徴される米国市場におけるアメカジの復活、リーバイスの業績に象徴される欧州と日本から始まって米国にも波及したジーンズの復活、アジア市場におけるトーキョーストリートと韓流カジュアルの沸騰など枚挙に暇がない。ローカルカジュアルが復調した分、欧米モードなファストファッションが退潮しているわけだ。

EC主導で店舗網は世界的に整理縮小へ

 EC比率が10%に達したINDITEXは、年内にもEC受注に店舗在庫を引き当て、店受け取りはもちろん店出荷にも踏み切ると発表。EC軸のC&C(クリック&コレクト)体制で成長を図る方針に転じたことが注目される。既に昨年10月末をピークに店舗網の整理縮小に転じており、EC比率が高い欧州では半年で92店も減少している。それはわが国も同様で、全国150店と飽和には遠い段階にもかかわらず、わずか2店とはいえ減店に転じている。

 EC軸の成長に戦略を転換して店舗網の整理縮小に転じているのはユニクロも同様で、国内EC比率はまだ6%に留まる(18年上半期、世界では約9%)とはいえ30%超を目指して出店を抑制している。直営店だけ見れば14年5月末の841店をピークにジリジリと減少しており、直近では790店まで減っている。

 米国の例を見ても、アバクロは人気凋落局面だったとはいえ、13年1月期からの5期間でEC比率が15.5%から27.9%へ12.4ポイントも上昇した一方で米国内店舗数は946店から679店へ3割近く減少している。成長を続けているルルレモンにしても、EC比率が21.8%と大台を超えた18年1月期は店舗売上高も9.5%伸びたのに、わずか2店とはいえ減店に転じたことは衝撃でさえある。EC売上げは127.4%と店舗売上げを17.9ポイントも凌駕して伸び、EC営業利益率は29.7%と店舗の14.9%に倍する高水準なのだから、EC軸で伸ばして非効率な店舗は整理していくのが必然の判断とならざるを得ない。

 これまで商業施設の中核を占めてきた有力アパレルチェーンが雪崩打つようにEC主導の成長戦略に転じ店舗網を整理縮小していく以上、ファストファッションに限らず、いつ、どこが退店してもおかしくない。商業施設デベの憂鬱は深まるばかりだ。

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