小島健輔の最新論文

ファッション販売2002年12月号
『SPAの基本に立つセレクト的VMD表現とその限界』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

VMDもセレクトショップ風が流行りだが

 陰りが見えたとは言え、セレクトショップブームは周辺への波及が大きく、ブランドショップやSPAまでがセレクト風のリミックスVMDを追っている。シャープにフォーカスしたルックを服飾雑貨まで総動員して崩し外しに誘うルック回転陳列の妙はセレクトショップならではのものだが、ブランドショップやSPAでもフォーカスを絞って面の異なる商品を加えれば、部分的にはそれなりにシャープなコントラストを表現出来る。
 VMDのテクニックとしては大いに学ぶべきものだと思うが、やりすぎるとブランドやストアの本質的なMD構造やサプライプロセスを逸脱しかねない。MDの適確な表現とサプライを一貫する効率性というSPAの本質を考えれば踏み外せない一線はあるはずだし、セレクトショップにとっても継続補給するフェイスの表現はSPAに近いはずだ。
 そこで、セレクトショップとSPAのVMD手法を原点に立ち返って検証し、その上でテクニカルな交流を追求してみる事とした。

VMDの本質と意図的逸脱

 VMDは1)コンセプトを体現する環境表現(スタッフオペレーションのリズム等も含まれる)、2)提案するスタイリングやMD構造を適確に表現して購買行動を誘導する陳列表現(レイアウトやVP誘導も含む提供方法)、3)フェイス配列をサプライ手法と一致させて効率的な運用と補給を図る棚割り表現、の三面から構成される。2)と3)は表裏一体が原則で、SPAではその一致性が運営効率と売場のインパクトを大きく左右する。1)については2)3)の構造を皮膜するのが本質だが、環境コンセプトから入って2)3)を埋め込んでいく手法、意図的にイメージの異なる皮膜を表現する手法も存在する。
 前世紀末のSPAにおいてはこの三面のコンポジションが工業的なアルゴリズムや統制された韻律美の域に達する事が志向され、そのインパクトが多くの顧客を捉えたが、今世紀に入ってはその販売工場のような合理性が疎まれ、手工業的な崩し外しを意図して加える動きも見られる。その一方で、極めて手工業的なはずの裏原のショップが工業的な演出や皮膜を逆説的に取り入れているのも興味深い(回転寿司感覚の演出やバウハウス的モジュール建築など)。店舗建築における逆説的皮膜表現は「LOUIS VITTON」「PLADA」「HELMES」から「BUSY WORK SHOP」まで大なり小なり通底する潮流となっており、もはやVMDの領域を越えたストアのメディア化戦略に位置付けられてる。
 このようにVMDにおいては1)〜3)の統合を志向する本流と意図的な崩し外しを加味する傍流があり、それはストアのメディア化戦略にまで及んでいる。マーケットが自社にミーハーな軽さを求めているのか不動の重みを求めているのか、同じ時代環境でも企業によって対応は当然に異なるから、自社のポジションを冷静に見極めた適確な判断が求められる。

セレクトショップのVMDと商業的戦闘力

 濃い味ブランドからのセレクトだけでフォーカスを絞って構成する原点的なセレクトショップなら、リミックスのストーリーを組んだルック回転陳列のロングハンガー、意図的なリミックスを加えてコントラストを付けたワードローブ陳列のウォール、あるいはそこからフォーカスしたルック訴求(当然、崩し外し付き)の2ウェイやシングルハンガー、アクセントやコントラストのコアとなる単品のテーブル演出、それらに附随するルック訴求のトルソー類、環境演出のファニチャーぐらいでシンプルに構成される。この構成パターンは多くのセレクト系SPAにも共通しており、ベーステイストの異なる2ブロック〜3ブロックからストアが構成され、ブロック間のリミックスをフォーカスするストアも見られる。
 一切のオリジナルを否定してコレクションブランドからのセレクト編集に徹する原点的なセレクトショップは国内では見られないが、コベントガーデンの「コ・サムイ」等では、デリケートなリミックスを組んだ幾つかのルック回転陳列ロングハンガーだけでほぼ構成されている。その配列はすべての定形手法を排したアートなレベルであり、配色やシルエット、素材感や面感等のデリケートなコントラストを意図して組まれている。そんなレベルから見れば、国内セレクトショップの多くはセレクト的手法を活用した品揃え店や擬似SPAの域を出るものではない。手法は定型化されているから簡単に読めるし、VMDのみなら真似は容易だ(商品とサプライは別)。
 国内でセレクトショップとされる店の大半は別注品やオリジナルを大量に加えたセレクト的SPA、あるいはオリジナルMDブランドのリミックスだから、VMD手法もセレクトショップ的手法とSPA的手法のミックスとならざるを得ない。もっとはっきり言えば、シーズンのピークでは単品品揃え店の手法も前に出てくる。
 シーズン初期はセレクト商品を中核としたフォーカスの効いたスタイリング提案が前に出、外し崩しを効かせた2ウェイや小組みのシングルハンガー、それらのルックを表現するトルソー類が主役となる。が、シーズンピークになるとセレクト商品が売れ抜け、補給の効くオリジナル商品や売れ筋追いの別注商品がフェイスの主役になってくる。その頃には主フェイスは売れ筋アイテムを核とした定形コーディネイトで埋め尽くされ、それと組み合わせる単品集積の棚陳列とで『シャープな品揃え店』のような姿になってしまう。この段階は売りのピークであり、外し崩しのスタイル提案より在庫の補給が前に出るから、VMDもSPAや単品集積品揃え店に近くなってしまうのだ。
 これを避けるにはピークの追いかけをかなり早めに打ち切り、新鮮なセレクト商品を核としたスタイリング提案を前倒して訴求するしかない。ところが海外ブランドからのセレクトはデリバリーのコントロールが難しく、ロット買い切りでデリバリー指定でもしない限り、前倒し投入は困難だ。だからセレクトだけの店は立ち上がりに出遅れ、ロットを押さえ切れる大手セレクトチェーンがリードする事になる。それもかなりの交渉とバイイングパワーが必要だから、強い戦略的意志を持って押し切らないと実現しない。それでも向こうのデリバリー計画に無い端境期商品は手に入らないから、国内ブランドやクリエイターとのコラボレーションを連打して埋める事になる。この夏商戦など、典型的な事例が見られたではないか。
 インポートセレクトの原点的なスタイルは理論上は存在するがシーズンを通しての戦闘力はひ弱に過ぎ、日本市場での商業的存続は難しい。商業的に成功するモデルはバイイングパワーと開発力を兼ね備えたセレクト系SPAか、これらのシーズンMDフローを複数の開発手法で独自に組めるリミックスMDブランドという事になる。 

SPAのVMDとセレクト的テクニック活用

 一方でSPAの究極は企画・開発から生産、ロジスティックス、店頭展開を一貫する工業的効率の追求であり、プロダクトアウトに片寄ってお手頃なブランドビジネスに変質してしまうケースがほとんどだ。これを回避するにはIT装備に加えて個店対応のサブシステム、顧客の嗜好変化を先読みするマーケットインの企画・開発が求められるが、やればやるほど工業的効率からは遠離ってしまう。効率至上のビジネスモデルもないではないが実態はラシアン・ルーレットであり、外せば業績の急落が避けられない。現実にはマーケットインのサブシステムという保険を掛けて、工業的効率を適度に押しとどめるしかない。セレクト的なVMDテクニックの活用も、時流に対するひとつの保険として位置付けられるべきであろう。
 SPAのVMDは前述した三面のコンポジションが基本だが、中でも大切なのが提案するMD構造の表現(フェイス配列)とサプライ手法の一致である。ただし、これも徹底すれば売場が棚割りの集合体になって販売工場と化してしまう。継続補給する主力商品はサプライと合致した棚割りを重視しながらも、スポット商品やスタイリング提案は棚割りの呪縛に囚われないVMDで変化や多様性、外し崩しを表現しても良いはずだ。
 SPAのMDは開発プロセスから素材軸を基本としたセットアップや定形コーディネイト、単品展開から構成されるが、それぞれ軸となる継続補給部分と変化やバラエティを訴求するスポット展開部分が明確に分かれる。
 セットアップでは基軸素材がクロスしていくシナリオが基本に組まれ、サイズ補給やデザイン 、後加工で期中対応していく。この部分は定形トコロテン型のフェイスが継承されるが、そこに差し込むコントラストアイテム(主に柄物のボトムやドレス)、アクセントアイテム(主に柄物やカラー物のインナー)はスポット展開してコーディネイトの目を替え、基軸商品の消化を促進する役割を果たす。言い換えればそれなりの崩し外しを誘うアイテムであり、セレクトショップ的なテクニックが活用出来る。具体的には、もっとハンドクラフト的なアイテム、柄や素材でリミックスを効かせたアイテムを加えるべきだし、バッグやベルトまで動員したルック提案を2ウェイやトルソーでフォーカルアップしても良いだろう。セットアップとは生産背景を替えて面の差を出したり、セレクト仕入れによって異質な面を加えるという手もある。
 主にボトムが軸となる定形コーディネイトでは素材を絞ってサイズを補給し、デザインや後加工で期中対応するが、これと組むアウターやインナーはスポット展開が計画的に組まれるケースが多い。その中にごく少量でよいから非計画的なスポット商品を差し込み、外し崩しを誘うのが効果的だ。当然ながら面に差がなければコントラストが効かないから、これも手工業的な後加工商品やセレクト商品、あるいは凝った柄物のインナーになる。定形コーディネイトのフェイスの中にピンポイントで差し込むのが効果的で、必ずしもフォーカルアップの什器を設定する必要は無いだろう。
 単品展開のインナー等は元々スポットの性格が強いから、何かを加えると言うより、元々の企画の中にコントラストを仕込むのがポイントだ。無地と柄、単色と配色、異素材使い等でコントラストを付け、色回し、柄回し等の変化をつけた棚陳列を訴求すれば良い。
 これらは各MDにおける部分的なテクニックに過ぎないから、ストア全体でリミックスを表現する仕掛けを忘れてはならない。SPAでは多数のマネキンやトルソーを使って似たようなルックを羅列する手法が流行ったが、これはスタイリングの平板さを自ら主張しているようなもの。最低限、小物やアクセントアイテムで外し崩しの多様さを表現すべきだし、「ユナイテッドアローズ」のレディスが店頭でやっているようなダイジェスト編集ラックの提案も効果的だ。一見は平板に見えるSPAがここまで多様なスタイリングを楽しめる事を訴求出来れば、顧客の反応は一変するはずだ。 

皮膜としてのVMDの限界

 VMDは如何にコンポジットしようがセレクト的なテクニックを活用しようが、やはり皮膜としての限界がある。商品そのものの仕様や面が差別化するに至らなければ一品の選択に破れてしまうからだ。商社がAMS化し誰もがOEM調達を活用出来るようになった今日だからこそ、そこで差をつける事が逆に難しくなっている。そんな中、良品計画が衣料品の企画開発をアパレルメーカーとしてのヨウジヤマモトに全面依託するというニュースが飛び込んで来た。
 それは考え得る最良の結論であり、オリジナルの限界に突き当たっているセレクトショップの首脳達も震撼したに違いない。凋落の止まらないファーストリテイリングとて、多田裕氏(元イッセイミヤケ・インターナショナル社長)に企画の全権を委譲してクリエイティブなインターナショナル・ベーシックに徹するなら起死回生も現実となりかねない(それにはターミナル型とローカル型の業態分割が前提となるが)。そんな競争環境に一変すれば、OEM調達をベースに郊外大型SCで成功を享受しているSPA群はその存在意義が問われる事になる。
 80年代でその役割を終えたとさえ言われるクリエイターだが、消費者が自ら外し崩しを楽しむセレクト時代が来て創造性が通底するニューベーシックが希求されるに至り、新たな役割が求められるようになった。そんな時代の転換点にあっては、セレクト的なVMDテクニックだけで顧客を繋ぎ止めるのは難しい。独自の面を持った真にクリエイティブなベーシックの開発こそ現状を打破する決定打であり、それを皮膜するセレクト的VMDテクニック活用なら大賛成だ。

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