小島健輔の最新論文

ファッション販売2001年9月号掲載
『アベイルはポストSPAの星となれるか』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

急成長が注目される「アベイル」

 低価格SPAブームが一巡して「ユニクロ」人気が冷める一方、SPAの絞り込みMDとは正反対のバラエティと鮮度で注目されているのが「アベイル」だ。SPAの同質化MDに食傷したマーケットを捉えてポストSPAの星となれるか否か、その実力を検証してみた。  「アベイル」は低価格とバラエティで近隣市場のニーズを独占しているファッションCVS「しまむら」の百%子会社「アベイル」が、97年10月からスタートしたカジュアルファッションのデスティネーションストア。三百坪級のワンフロアにレディスカジュアル、メンズカジュアル、シューズ&バック、インナー&ソックス/ストッキング、キッズカジュアルをバラエティ豊かに揃え、高鮮度カジュアルを「ユニクロ」級から量販専門店級のお手頃価格で提供している。
 「しまむら」が近隣圏(8千〜一万世帯)のミセス層を中心にアパレルやインナーから寝具までコモディティなソフトライン・アイテムを細かく揃えているのに対し、「アベイル」はコミュニティ商圏(二万五千世帯以上)のヤング〜ヤングミセス層にトレンディなカジュアルファッションのバラエティを提供している。 出店立地は「しまむら」同様、郊外生活圏のロードサイドだが、「しまむら」が幹線生活道から一本入った近隣立地であるのに対し、「アベイル」は幹線生活道に面したコミュニティ立地。この六月で既に32店に達しているが、主力のフリースタンディングに加えて「しまむら」とのペア店舗が8店、ホームセンター系やSM系のコンビニエンスモール店舗も4店含まれている。
 売上は2000年2月期が前期比2.59倍の39億7千万円、2001年2月期が同1.78倍の70億5千万円と急成長しており、2002年2月期も同1.77倍の125億円を見込んでいる。収益面でも前期までの営業赤字から2001年2月期には7千万円の営業黒字に転じており、2002年2月期では売上対比3%の営業利益を確保する見通しだ。
 2002年2月末52店舗、2004年2月末100店舗を計画しており、その時点では営業利益率も8%に達して巡航軌道に載るはずで、最終的には全国五百店舗を構想している。  

提供方法が新たなショッピングスタイルを創る

 「アベイル」のレイアウト/什器システムはギャップ社の「オールドネイビー」をベースにしたもので、幅120センチ×高さ240センチのシステムラックを壁面に並べ、島面では同ラックの背合わせ三連/二連を240センチ高と180センチ高、交互に横配列して両サイドからメンズとレディスのカジュアル衣料を陳列(島面でも240センチ高のラックを使っているのは様々なテイストの商品を視覚的に区分するため)。店頭では150センチ高ラックの二連背合わせを縦(婦人靴のみ45°)配列して靴を陳列。メンズとレディスを分けるように同二連背合わせと二連ワゴンを交互に縦配列して服飾雑貨、メンズのアンダーウェアやソックス、キッズカジュアルを陳列。レディス側では雑貨とカジュアル衣料の間にインナー&ソックス/ストッキングが陳列されている。
 靴や服飾雑貨、アンダーウェア、ソックス、ストッキング、NBジーンズ等は品種品目が台帳型に棚割りされ、カジュアル衣料はテイスト別にフェイスアウトを多用したコーディネイト陳列がされていて、ほぼセルフサービスが成り立っている。レディス側の前に集中レジと修理ミシンがカウンター型にパッケージされ、西大宮店ではインナー&ソックス/ストッキング売場を挟んだ向かいにレジ・カウンターを向いて集中フィッテングが配されている。
 レジ・カウンターと集中フィッティングの配置関係はどの「アベイル」でも大差ないが、レジ・カウンターからの距離や視認性に問題があるし、大型ミラー壁等によるフィッティング=変身演出といったコスプレ的エンターテイメント性を欠き、はっきり言って芸がない。「アベイル」のコンセプトなら、このパッケージにこそ突出した仕掛けが必要なはずだ。
 「オールドネイビー」のようなクラブ・ミユージックやダンシング・セールスクラークといった派手なノリはないものの、磨き上げた御影石の床と統一されたダークネイビーのシステムラック群、4メーター級の天井高と温白(多分3000K)のFHTペンダント照明の作り出す店舗空間は十分にゴージャスで、下手に手抜いたPタイル張り床と白色蛍光灯照明の百貨店より遥かに洗練されている。
 品揃えのバラエティと鮮度、ゴージャスな店舗空間、スーパーマーケット型のレイアウトとテイスト別のコーディネイト陳列、集中レジと集中フィッティングのセルフサービスがパッケージされた「アベイル」の提供方法は、都市感覚のヤングやヤングミセスに郊外での新しいショッピングスタイルを喚起するに十分な魅力がある。惜しむらくは営業時間が朝十時から夜八時までと限られる事とエンターテイメント性を欠く事で、顧客層の有職比率の高さとライフスタイル、トレンド感度を考えれば、せめて十時までは営業すべきだし、集中フィッティングにおけるカリスマ・フィッターと大型ミラー空間による変身演出ぐらいは欲しいものだ。

品揃えのバラエティと鮮度が魅力

 提供方法もともかく「アベイル」の最大の魅力は品揃えのバラエティと鮮度で、カジュアルのバラエティは大型SCに引けを取らないほど。実際に調査してみると、レディスではベーシックなアメカジ系からサーフ系、スケーター系、ヒップホップ系、アメリカンポップ系、フェミニンストリート系、セクシーロック系、ポップパンク系、マウジータイプからセシルマクビータイプまで揃ったセクシー系、神戸タイプからセクシータイプまで揃ったコンサバエレガンス系と、まるで109からラフォーレまで今時のファッションビルを網羅したようなバラエティに圧倒される。それはメンズとて同様で、ベーシックなジーンズカジュアルはもちろん、ビンテージ系やスポーツ系のアメカジ、スラッシャー系やヤンキー系のヒップホップ、クールストリート系、ロック系、ストリートモード系、ナチュラルモード系まで、カジュアルなら何でも在りのバラエティだ(詳しくはMD編成表を参照)。
 当社が毎シーズン作成している客層別スタイリングマップと照合してみても、レディスではヤングからトランスキャリアの16タイプ中、クリエイティブ系とソフトモード系、エレガンスモード系、トラッド系を除いた12タイプをカバーしていたし、メンズではヤングからヤングアダルトまでの10タイプ中、トラッド系とユーロセレクト系、モード系を除いた7タイプをカバーしていた。
 インベントリーデータを見ても、6月20日時点の「アベイル」の展開型数はカジュアルウェアだけで7,200、インナーや雑貨まで加えた総計では8,600にも達する。SKU数では同31,550、38,950にもなるが、在庫点数はカジュアルウェアで21,000、総計で33,700に過ぎない。カジュアルウェアでSKUあたり0.66、総計でも0.86と、各1在庫にも届かない。
 「しまむら」同様にSKUあたり各1投入、補充無しを徹底していることに加え、月中に新規商品が投入され月初在庫商品が売り切れていくため、インベントリーデータでは1を割り込んでしまうのだ。実際、SKUあたり2点以上、投入したのは6月20日在庫全38,950SKU中1,160SKUと2%に過ぎず、カジュアルウェアでは定番ジーンズ等約1%だけと言う。後方にも一切、バックストックは無く、早朝にナイトデポに搬入された当日品出し商品しか存在しない。

鮮度とバラエティに徹した調達

 鮮度を重視するため、調達手法も引き付けたバイイングに徹している。発注から四週前後で納品されるメーカー企画の見分け仕入れが約55%、週サイクルの現物集荷が約30%と大半を占め、手頃価格にしたいベーシック商品や要確保商品のメーカー別注は15%と抑制されている。そのメーカー別注でも、リードタイムは三か月が限度という。もちろん「しまむら」同様、完全買取で値引きも歩積みも一切無く、某量販店のような未引き取りも許さないというフェアな仕入れ姿勢に徹している。
 バイヤーはトータル・コーディネイトを重視してアイテムで分けず、レディスのアメカジ系とエレガンスカジュアル系、メンズのアメカジ系とフレンチカジュアル系、靴&服飾雑貨、インナー&ソックス、キッズの七人で分担。月火が持ち込み企画の商談日、水木金が展示会や現物調達のメーカー廻りという週単位のスケジュールで動いている。仕入先は全部門計180社ほどで毎年、20社ほど入れ替わるが、バラエティを確保するため、絞り込む訳にはいかないようだ。
 各1投入、補充無しが原則と言ってもNBジーンズやインナー、ソックス、ストッキング等は例外。NBジーンズでは週単位に補充発注を行っているし、インナーの一部やソックス、ストッキング等はオンラインVMIで自動的に補充されている。
 靴だけはカジュアルウェアのようにリードタイムを短縮出来ず、補充分まで発注して確保せざるを得ない状況で、鮮度とバラエテイのメカニズムがうまく回っていない。キッズもメーカーの期中企画がほとんど期待できず、メンズやレディスのメーカーに別注している状況で、やはりメカニズムが回っていないようだ。

販売効率と在庫回転の課題

 鮮度優先の調達に徹していることもあってプロパー消化率は70%前後と、低販売効率な郊外商圏にあっては例外的に高いが、年間坪効率は平均すれば118万円程度と知れている。とは言っても、郊外大型SCのファッション系大型テナントでこの水準を上回っているのは一部の人気SPAだけで、月坪十万円未満の販売効率に甘んじているテナントが大半だから、「アベイル」の販売効率は決して低いものではない。既存店の一店当たり売上もわずかだが伸びており、前々期の3億4600万円から前期は3億4800万円(100.6%)、今期は3億5150万円ペース(101%)と安定している。
 商品回転は年5回転だが、NBジーンズとスポーツシューズを除けば6回転、レディスカジュアルだけだと7回転している。売上シェアと在庫シェア等から推計したカテゴリー別の商品回転を見ると、高効率なのがレディスのエレガンスカジュアルで9.3回転、メンズのフレンチカジュアルも6.0回転。低効率なのが靴・小物で3.5回転、メンズのアメカジも3.8回転に留まる。インナー・ソックスも5.9回転と、このカテゴリーとしては異常に低回転だ。キッズは売場シェアが3%と扱いが小さいにしても、4.8回転は低すぎる。
 メンズとレディスの売場シェアがほとんど同じなのに在高はメンズがレディスの1.46倍、売上シェアは逆にメンズがレディスの九掛けというアンバランスを是正してメンズを圧縮、レディスを拡大すれば、販売効率も在庫回転も一気に改善出来る。百貨店におけるメンズ売場がレディス売場の4掛けから三分の一という今日、「アベイル」のメンズカジュアルが過大であることは間違いない。
 キッズは売場面積シェア10%程度まで大幅拡張するか撤廃するか、トゥイーンズ売場に大変身するかの選択になるが、「アベイル」の高感度な客層とキッズカジュアルの調達背景の限界を考えればトゥイーンズ売場を選択することになろう。インナー/ソックスや服飾雑貨の低回転は技術的なものだから、その気で改善すれば8回転以上するようになるはずだ。
 問題は靴、特にスポーツシューズだが、現状ではバッタ調達を組み合わせでもしない限り改善は難しい。NBでは高鮮度商法が成り立たないから、SPA型のOEM調達に踏み込むか、NBを捨ててカジュアルメーカーの高鮮度商品に絞り込むか(レディス中心になるが)、決断するしかないだろう。

コーディネイト・ミックスの運用が課題

 肝心のレディス、メンズのカジュアルウェアに関しても、鮮度とバラエティを活かすコーディネイト分類になっているか疑わしい。極めて多様なテイストの商品が揃っているだけに、その分類とコーディネイトは最新のウェアリング傾向と在庫状況を反映して毎週のように組み換えられなければならないが、「アベイル」の現状はほど遠い。
 商品の発注時に4ケタのテイストコードを設定してタグに印字しておき、毎月、バイヤーが陳列実験をしてデジカメで撮影。店長会議でテイスト分類の組み換えとディスプレイを指示しているが、トレンド変化の速さと店舗数の拡大に追い付けず、テイスト分類やコーディネイトがかなり混乱している。これでは売り物の鮮度とバラエティを表現し切れないし、選びにくい事このうえない。
 これだけのバラエティを活かして毎週のようにインパクトあるテイスト分類とコーディネイト・ミックスを組んでいくのは一流セレクトショップの第一級コーディネーターでも至難の技で、バイヤーが立案して各店のパート&バイトにやらせていこうという「アベイル」の体制には無理がある。多店化とともにプロパー消化率も低下傾向にあるが、その要因がここにあるとしたら致命的なネックとなりかねない。
 「しまむら」式の属性分析を活用しても、鮮度が命のカジュアルでは属性要素を毎月のように修正していかなければ役に立たないし、その結果をテイスト分類とコーディネイト・ミックスに組んでいく高感度な専門スタッフを欠いては「アベイル」の魅力は表現しようがない。鮮度とバラエティ、その新鮮なコーディネイト・ミックスは「アベイル」の命だけに、多店化の障害とならないよう万全の対策が急がれる。

収益性は改善できるか

 決算発表と周辺データから2001年2月期、2002年2月期、そして百店到達時点の損益構造を推計してみた。2001年2月期決算では値入れ率42%、マークダウン・ロス12.4%で粗利益率34.8%(平均マークダウン率40%としてプロパー消化率72.5%と推定)。営業経費率31.3%+会員カード値引き3.4%で営業利益率0.1%という結果であった。それが2002年2月期では、値入れ率は44%にアップするがマークダウン・ロスが16.1%に肥大し、粗利益率は35%を確保(推定プロパー消化率65.2%)。多店化効果で営業経費率が28.6%に圧縮され+会員カード値引き3.4%で、営業利益率3%と見込まれている。百店到達時でも低価格実現を優先して値入れ率を45%に押さえ、マークダウン・ロス18.2%で粗利益率35%を確保(推定プロパー消化率61.5%)。営業経費率23.6%+会員カード値引き3.4%で営業利益率8%を確保出来るという計画だが、果たして可能だろうか。
 「アベイル」の物流や店舗運営等の基本的オペレーションは「しまむら」と同じだから、多店化とともに営業経費率は「しまむら」のそれに近付いていく。が、実際の必要商圏は3〜4万世帯と初期の計画より大きくなっており、その分だけ家賃負担が重くなるし、コーディネイト・ミックス運用のコストも加わるから、「しまむら」の営業経費率22.1%+3.5%+会員カード値引き3.4%、計29%を下回るのは難しい。それでいて営業利益率8%を実現するには粗利益率は37%必要で、マークダウン・ロスが同じなら値入れ率は46.7%確保しなければならない。
 超百店級のカジュアルチェーンの値入れ率はメーカー企画品仕入れでも50%を超えるから、「ユニクロ」級からそのワンライン上ぐらいまでに価格を押さえて生鮮カジュアルを別注調達するとして、46.7%という値入れ率は無理の無い水準と考えられる。この値入れを確保したからといって、鮮度やバラエティが損なわれるリスクはまず無いと見てよいだろう。

「アベイル」はSCに出店出来るか

 コーディネイト・ミックス運用に課題が残るものの「アベイル」の鮮度とバラエティは突出したもので、SPAの同質化したMDにうんざりしているデベロッパーとしては是非とも出店して欲しいはず。「アベイル」にしてもこれほどの鮮度とバラエティを活かすには商圏規模が必要で、コストさえ折り合えばSC進出は十分に考えられる。
 が、現実には大型SCの不動産費負担は重く、利幅の厚いSPAばかりが顔を揃えることになる。そればかりか、利幅の厚いSPAを低家賃で優遇し、利幅の薄い品揃え店には高い家賃を押し付けるのが一般的傾向だから、ますますSPAばかりが並ぶことになる。これではバラエティも鮮度も期待できないから、SCの客層は片寄ってしまう。
 「アベイル」にしても粗利益率は35%と薄いから、不動産費負担力は売上歩合一本でせいぜい8%まで。SC出店が成り立つかどうか、ギリギリのところだろう。生鮮カジュアルのバラエティを満載した300坪級スーパーストアの集客力と販売力をデベロッパーがどこまで評価するかだが、導入すれば画期的な効果を発揮するに違いない。

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