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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『東京ミッドタウン日比谷に見る商業施設開発の曲がり角』 (2018年04月10日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

 3月29日に開業した「東京ミッドタウン日比谷」はシネコンや話題のフードエンターテイメントが充実して来店客が殺到しているが、商業施設関係者にとっては考えさせられる物件だ。

 延べ床面積18万9000㎡の大半がオフィスで、商業エリアはB1〜7Fの1万8000㎡と1割ほど。その中身も4〜5Fはシネマコンプレックス(TOHOシネマズ)、6〜7Fはレストランとビジネス交流拠点、B1は飲食サービス中心のフードアーケード、2〜3Fの半分はレストラン街、オフィスへのEVロビーや車寄せで賃貸面積が限られる1FもLEXUSのショールームが大面積を占めるなど物販店舗は限られる。

 2Fの「TATRAS&STRADA EST」、3Fの「HIBIYA CENTRAL MARKET」は200坪超の大型店舗だが、前者は在庫も薄いインポーター(ヤギ子会社のストラダエスト)のショールーム的展開、後者は有隣堂が手掛ける南貴之ディレクションの昭和レトロ趣味空間で、店舗で採算を採る意思は見えない。もちろん、投資と家賃に見合う商売に真剣に取り組む店が大半だろうが、目立つ大型店は家賃に見合う採算を考えていないのか、はたまた特別待遇の低家賃で出店しているのかといぶかられる。

 そんな大盤振る舞いができるのも、オフィスで採算を採って商業エリアは客寄せのエンタメと利便サービスに割り切ったからだろう。2500億円もの総事業費を投じて商業エリアの初年度売上目標がわずか130億円なのだから、その割り切りようが分かるというものだ。そんなポートフォリオが成り立つのも、都心ではオフィス家賃の上昇が続き、商業家賃は上層階になるとオフィス家賃に逆転されかねない情況があるからだ。

商業家賃をオフィス家賃が逆転する

 日比谷の家賃相場は知らないが、銀座の一等地の路面店なら月坪30万円以上と聞く。ところが商業家賃は販売効率に比例するから、フロアが上がるにつれ、加速度的に家賃相場が落ちていく。昇降動線が効率的に配置された大型施設でも7階ぐらいで歩留まりはオフィス家賃と逆転しかねないから、フロア面積の小さい施設では4階でも苦しい。同じ家賃が取れても、オフィス家賃は管理費程度の経費で済むが、商業家賃は運営経費や販促費がかさんで歩留まりが悪いからだ。

 ならば大型施設では6階ぐらいまで、フロアの小さい施設では3〜4階ぐらいまでに商業エリアを抑え、その上はオフィスやホテルに貸した方が投資利回りは高くなる。商業エリアの中も地下は食物販やフードエンタメ、近隣利便なコンビニやドラッグストア、バラエティコスメ、上層階はレストランやエンターテイメント、美容サービスなどで埋める方が手堅い。となれば、これまで商業エリアの主役だったアパレルや服飾雑貨など買い回り型物販店のスペースは格段に小さくなる。

 超一等地に構える「GINZA SIX」さえファッション関連等、物販中心の商業エリアは5階まで。6階は蔦屋書店とレストラン街(レストラン街は13階にもある)で、7階から上はオフィスエリアだ。それでもオフィスエリアの3万8000㎡に対して商業エリアは4万7000㎡もあって55%を占めるが、商業立地から外れる「東京ミッドタウン日比谷」では10%にも満たない。そんなポートフォリオを計算するなら、下町や郊外のターミナルや駅裏で5階や6階まで商業エリアで使うなど採算性に無理がある。

バーチカルコンプレックスは建築設計が要

 下層階は商業エリア、上層階はオフィスやホテルという複合施設(バーチカルコンプレックス)は建築設計が難しく、かつてはオフィスやホテルへのEVロビーが商業エリアの導線を妨げたり、高層階を支える柱が太過ぎたり柱ピッチが狭くて売場に使いづらかったりしたものだ。梅田の「ブリーゼブリーゼ」など売場が柱に囲まれた感さえあったが、「GINZA SIX」や「東京ミッドタウン日比谷」など直近のバーチカルコンプレックスは上層階オフィスエリアへの昇降導線と商業エリアを巧妙に仕分けて両立させている。

 商業エリアは無理なくリーシングできる階までで抑え、上層階のオフィスやホテルを大きくとって容積率を有効に活用すれば、家賃を最大化して投資利回りを確実に稼げる。都心のバーチカルコンプレックスではそんなポートフォリオが常識となった感があるが、首都圏でも駅裏立地、地方都市の繁華街立地などでは百貨店など古い商業ビルを無理やり商業施設として再生せんとしてリーシングが成り立たず、空床が頻発して再投資が焦げ付く事例が多々見られる。

 商業ビルは中央にES昇降導線が通っていて上層階をオフィスやホテルとして使いにくく別途のEV昇降導線も通せず、耐震問題や防災対策など既存遡及に引っかかって抜本的な改装改築が難しい。容積率規制が緩和される方向に転じた昨今では、バーチカルコンプレックスとして再建築した方が採算を採りやすいケースも増えている。

郊外SCは都市鉱山かもしれない

 ダウンタウン/ターミナル立地なら容積率を使い残すなど考えにくいが、郊外SCの大半は容積率のかなりの部分を使い残している。商業施設に限定した投資で手っ取り早く回収せんとするスタンスだったのだろうが、商業賃貸の採算が厳しくなる一方でホテルやマンション、医療施設や介護施設など多様なニーズが高まる今日では、バーチカルコンプレックスで容積率を目一杯使い切って採算を組む方が現実的だ。4月7日に三越伊勢丹グループが開業した「ミーツ国分寺」とて、国分寺駅北口を再開発した36階建てバーチカルコンプレックス(上層部は住友不動産の分譲マンション)「ココブンジウエスト」ビルの1〜4Fをサブリースする商業施設で、総床面積5万7318㎡に対する店舗面積は9000㎡に過ぎない。

 郊外SCでも立地に応じて多様な構成が可能なのに、SCデベロッパーの多くは商業施設としての使い方しか視野になく、無理な採算計画でリーシングに苦闘している。非商業エリアで採算が採れれば商業エリアの家賃水準を抑制できてリーシングも格段に容易になり、魅力的なテナントがそろってコンプレックス総体の魅力も高まる。商業デベとしての定期借地発想では限界があるが、不動産デベの視点に転ずれば郊外SCの多くは使い残しの容積率がおいしい「都市鉱山」かも知れない。

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