小島健輔の最新論文

販売革新2013年6月号掲載
特集「成功するリニューアルのポイント」
『商業施設リニューアルの鉄則』
(株)小島ファッションマーケティング代表取締役 小島健輔

リニューアルのサイクル

 商業施設の開発には行政規制や景気の変動による波があり、開発ラッシュで競合が厳しくなるサイクルと開発が途絶えて既存施設が潤うサイクルがある。近年では90年代と06〜08年が競合激化サイクル、01〜05年と09年以降が競合緩和サイクルで、大型投資を伴うリニューアルや増床は売上の伸びが見込める競合緩和サイクルに行われる事が多いが、資本力のあるデベの施設では競合激化サイクルでも対抗して増床やリニューアルを行うケースが見られる。00年に導入された定期借家契約が定着して新規施設ではほぼ100%適用されるようになった今日では、郊外施設では5年または6年、ターミナル施設では3年または4年の定借満了毎にリニューアルを行うサイクルが定着しつつある。
 また開業から年月の経った施設では耐震化工事や空調機器更新を機会に増床や「加圧防排煙システム」※導入を伴うリニューアルを行うケースも見られる。商圏が拡大している場合で容積率に余裕があれば増床や建て替えを決断する事になるが、定期借家契約への切り替えが完了していないと費用も時間もかかってリニューアルを徹底出来ないリスクが指摘される。
 長期間、大きなリニューアルをしていない場合はともかく、定借満了サイクルでリニューアルを繰り返す場合、テナント業界の業態開発サイクルが追いつかなる。駅ビルやファッションビルはテナント業界の業態開発サイクルも速いが、郊外SCでは定借満了サイクルにテナント業界の業態開発が追いつかず、外資SPAへの依存が加速している。
※「加圧防排煙システム」・・・・強力な空調システムによって火災時の排煙を制御するもので、昇降区画を除いて防炎垂れ壁の設置が不要になり、安全性が高まるとともにレイアウトの自在性が格段に高まる。

リニューアルの方向性

 リニューアルの方向性は商圏の状況や競合環境で大きく異なるが、以下の四点が要と思われる。
1)商圏の成熟と世代構成変化を見る
 一般に郊外商圏は開発期サバブ→成熟期サバブ→初期アーバン→再開発期アーバンと時間をかけて成熟して行くが、生活圏SCは開発期の後半から成熟期の初期、広域型SCは成熟期から初期アーバンにかけて開発される事が多く、どちらもアーバン再開発期に入って開発されるケースがある。開発規制の緩和が進んだ90年代に多くのSCが開発されたが当時はまだ中規模な箱形のコミュニティSCが主流で、大規模なモール型RSCが主流となった90年代末期以降、以前に開発された中規模SCは商圏の縮小と成熟に直面して業績が低迷するケースが少なからず見られる。大半のSCは開業から10年以上が経過しており、20年、30年と経過したSCも少なくない。
 開業当時は主体であったニューファミリーも10年経てば夫婦が40代になって子供も若者に成長し、20年も経てば夫婦は壮年となって子供達も独立していく。30年が過ぎれば夫婦は老年となり、一戸建て住宅地も次第にマンションやアパートに建ち替わってアーバン化し始め、新たな若者やニューファミリーが流入して世代が交代して行く。加えて、全国的な少子高齢化と晩婚非婚化で「夫婦+子供」の典型的な核家族は加速度的に減少しており、もはや全家庭の27.8%を占めるに過ぎない。替わって単身世帯が32.4%(9.2%が高齢者)、夫婦のみ世帯が19.8%(10.4%が高齢者)を占める。「郊外SC=ニューファミリー」というのは、もはや過去の幻想なのだ。
 商圏の成熟と世代交代に伴う所得水準と世帯流動性の変化にも注意が必要だ。可処分所得は商圏の成熟とともに上昇して行くが、アーバン化して共同住宅が増加し世代交代が進むようになると再び低下して行く。加えて、実際の消費余力は世帯流動性に大きく左右される。単身世帯比率や共同住宅世帯比率が高い再開発期アーバンでは世帯流動性が強く名目所得より消費余力が低くなるが、ローカル都市がサバブに取り込まれたようなメトロポリス周辺では持ち家世帯比率が高く世帯流動性が弱いから名目所得より消費余力は高くなる。商圏の成熟段階と世帯定着性を見極めれば、世代構成や価格ポジションが明確に決められる。
 大都市ターミナルや学園都市では若年世代が入れ替わって行くだけで世代構成が成熟しないケースも稀に見られるが、定着したファミリー層は経年成熟して行くので、二重の視点が必要になる。
2)女軸か男軸か成熟か新興か
 女性や男性が偏って多い、あるいは特定の世代で極端な偏りが見られる商圏がある他、乗り入れる公共交通路線や地域生活圏によって女性文化と男性文化、成熟商圏と新興商圏、高所得圏と低所得圏に割れるケースが多々見られる。工業地域では男性に偏り、産業がなく出稼ぎが多い地方都市では女性に偏る場合があるが、大都市圏では札幌の特定アーバンエリアなど単身女性が集中する地域も稀に見られる。また、乗り入れ路線によって極端に成熟度や所得帯が異なるケースは関西でも関東でも多々見られるから注意が必要だ。
 そんな場合、競合関係から『女性軸二世代成熟商圏』などとリニューアルの方向を明確に設定して優位なポジションを確立する事も可能だ。つくばエクスプレスと東武野田線がクロスするサブ・ターミナル立地を活かして「女性軸成熟路線」を志向し、「男性軸新興商圏」に偏った隣り駅のららぽーと柏の葉と差別化したおおたかの森SCの事例はその典型だと思う。立地にもよるが、商圏を選択出来るケースもあるのだ。
 円形商圏では解らない世代構成や男女比、所得帯などの地域的特徴を乗り入れ路線やアクセス道路から掴んで明確な方向性を出せば、不幸な勘違いも避けられる。港北東急SCが百貨店核の成熟商圏路線に行き詰まって大衆狙いの新興商圏路線に転向するに至ったのも、横浜市営地下鉄線に立地しながら近接する田園都市線の商圏と混同した事が遠因だった。同様なケースは阪急・阪神・JRが並走する阪神間商圏でも見られるが、東京から進出したデベロッパーが見誤るケースは後を絶たない。
3)商圏の拡大か足元占拠率の向上か
 実際のリニューアルで一番、課題となるのが商圏の拡大か足元占拠率の向上かの選択であろう。商圏の圧倒的一番店なら迷い無く商圏拡大路線に走れば良いが、ライバルSCに圧倒されたり新たなSCの開業で商圏が萎縮気味といったケースでは無理な商圏拡大に走らず足元占拠率を高める方が良い結果をもたらす。
 商圏拡大路線ではファッションやエンターテイメントを強化する一方、足元占拠率向上路線では食品や生活雑貨、化粧品やドラッグ、日常サービスを強化する。食品や化粧品の販売効率は衣料品より格段に高いから、商圏が縮小しても売上は大きく伸ばす事が出来る。SSMに加えて生産者市場や自然食品店、デパ地下的な名店街を揃えれば足元占拠率は格段に上がる。ポイントはドラッグストアから均一価格眼鏡店まで必要な業種を絶対に欠かさない事で、レヴェルはともかく揃え切る必要がある。近年のアリオはグループ専門店を優先配置して業種バラエティを著しく欠くケースが見られるが、予算未達の大きな要因と思われる。
 商圏拡大路線では世代×業種×テイストのマトリックスを正確に組んで戦略的にポジションを設定しアパレル店や服飾店、コスメ店などを欠落無く揃えなければならないが、やはり目玉となるのはスケール感のある外資SPA業態で、導入にこだわって一等地に過大な面積を割けば全体のバラエティや導線を損なうリスクが指摘される。サブアンカー的ポジションには外資SPAを配しても、後はきめ細かく客層別に業種とテイストを揃える根気が欠かせないのではないか。
4)捨て身の特化作戦
 強大なライバルSCに圧され気味の二番手三番手SCが生き残るには、足元が肥沃なら足元占拠率向上路線が使えるが、足元が希薄で広域確保が不可欠なら捨て身の特化路線に走るしかない。ターゲットに特化するかカテゴリーに特化するかだが、地域商圏で一定の需要が見込める切り口でないと成立しない。
 新興サバブならファミリー特化やキッズ特化、成熟サバブならシニア/アダルト特化や成熟母娘特化、ターミナルならOL特化やメンズ特化が考えられるが、それもライバルに抑えられているのならカテゴリー特化を極める手がある。パリには靴屋街があるし大阪には家具屋街、東京には台所用品街があるのだから、靴とレッグウエア、バッグとランジェリーに特化しても良いし、インテリア雑貨や家庭用品に特化しても良いはずだ。実際、郊外ターミナル駅裏の行き詰まった量販店跡を靴/バッグ/レッグウエアのアウトレットとして再生しようという企画もあった。

リニューアルに絡む課題

 方向性を定めてリニューアルを進めるにしても、実行には様々な課題が立ちはだかる。その注意点を二つだけ挙げておこう。 1)普通借家契約から定期借家契約への切り替え
 00年3月に導入された定期借家契約によって商業施設のテナント入れ替えが容易になり、テナント側も普通借家契約時代の十分の一ほどの敷金で身軽に出店出来るようになったが、普通借家契約で出店したテナントを定期借家契約に切り替えるのは極めてハードルが高い。
 かつて基本家賃の百ヶ月近い保証金を差し入れて営業権を確保したテナントを普通借家契約に切り替えるにはテナントの同意を得て旧契約を解消して保証金を返却し、新たに身軽な敷金で定期借家契約を結ぶ事になるが、保証金を一括返却する資金がないと話が進まないし、資金があってもテナントが了解するとは限らない。強引なやり方では拗れて裁判沙汰になりかねないから、泥縄ではリニューアルに間に合わない。12年も前に導入されたものだから既に解決済みであるべきだが、未解決ならリニューアル後の区画を用意して定期借家契約への切り替えを果たすのが賢明であろう。
2)建築基準法/消防法等への対応
 リニューアルに際して増床や大規模なレイアウトの変更を行うなら建築基準法や消防法への対応が求められる。過去の災害などを契機に規制が厳しくなっており、「既存遡及」※が問われれば古い施設では膨大な費用が発生する事もある。費用もともかく営業面積が削減されたり改修期間が長引く事もあるから、ゼネコンなど建築の専門家と慎重に詰める必要がある。
 そのようなリスクはあるものの、新築商業施設では00年6月に導入された性能的基準に基づく防煙区画/垂れ壁のない「加圧防排煙システム」が普及しており、大規模リニューアル時には可能な限り導入すべきであろう。Wi−Fi導入はもはや常識だし、立て替えや大規模増床時には車と歩行者、来店車と物流トラックの導線分離はもちろん、来店客と物流台車の館内導線分離も図りたい。

※「既存遡及」・・・・建築時には適法であっても、その後の法令改正や都市計画変更などによって現行法では不適格となる部分が生じた場合、改装/増床時に既存部分まで遡及が求められる。

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