小島健輔の最新論文

マネー現代
『コンビニ業界、「駅前でも客が来ない店」と「裏通りでも売れまくる店」の決定的な差』
(2021年01月09日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

ABC分析による売れ筋集中の弊害

小売店の品揃えを組み立てる基本となるのがABC分析という手法で、上位20%の品目が80%の売上を作るという「パレートの法則」に基づいて売れ筋に絞り込む。

リアル店舗は陳列スペースに限りがあるから購買頻度の高い品目に絞って効率的に売上を稼ごうとするが、陳列スペースに限りのないECは滅多に売れない品目まで揃える「ロングテール」な品揃えで多くのニーズに応えることができる。「検索」で自在に並べ替えて探せるECの特性も「ロングテール」に向いており、リアル店舗で下手に詰め込むと目に止まらず死に筋になる商品もでてくる。

売れ筋に絞り込むのは一見、効率的なようだが、品揃えが限定されて先々の広がりがなくなり、「縮小均衡の罠」に陥るリスクが大きい。

「売れ筋」は結果的なもの、流動的なもの、季節的なものであり、現在の売れ筋がいつまでも続くわけではないから、次の売れ筋を育てるべく新たな品目を投入していく必要があるし、購買頻度は低くても「ロングテール」に売れる商品を切り捨てては顧客も切り捨てることになる。

売る側の効率など顧客には関係なく、品揃えが豊富で欠品が無くワンストップで済ませられることが最優先なのに、売る側は何かと理屈を付けて品揃えを絞り込もうとするが、顧客の利便を損なったツケは必ず回ってくる

90年代初めまでイトーヨーカ堂の稼ぎ頭だった衣料部門がPOSによる売れ筋への絞り込みで次の売れ筋が育たなくなり、縮小均衡に陥って年々売上が落ち込み赤字転落したのは典型的な事例だ。

「圧縮陳列」と「ディスカウントストア」

陳列スペースに限りがあるリアル店舗で品揃えを充実させる方法が「ドン・キホーテ」に見られる“圧縮陳列”で、品目あたりの陳列量を抑えて大量の品目を詰め込む。

隣町の商店街のコンビニでも実践されていたが店舗が小さい故の必然で、「ドン・キホーテ」のような大型店では連続ラックの圧縮陳列で品揃えを広げる一方、ラック列のエンドには価格訴求の目玉品目を山と積み上げる。世界最大の小売業「ウォルマート」でも、ズラリと並ぶ連続ラックには多数の品目を適正陳列量で漏れなく揃える一方、ラック列のエンドや島のワゴンには目玉商品を山と積んで価格訴求している

ディスカウントストアというと放出された流通在庫を叩き売ると言うイメージがあるが、数百数千の大型店舗をチェーン展開するには継続したサプライが不可欠で、大半はベンダーやメーカーと協業したVMI、目玉商品だけが放出品調達というのが現実だ。

大手ディスカントストアの本質は「VMIの多品目棚割陳列+スポット調達の品目限定山積み陳列」と理解してほしい。

※店舗数…「ドン・キホーテ」の店舗数は345店、PPIH全社で581店(20年11月末)。ウォルマートの店舗数は米国内5,355店舗(サムズ・クラブ599店を含む)、海外店舗6,148店舗(20年1月期末)。
※VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた陳列棚割と販売計画に基づいてベンダーに在庫管理と補給を委任する取引形態。

陳列量と補充頻度の相克

陳列スペースに限りがあるリアル店舗で品揃えを拡充しようとすれば、品目毎の陳列量と補充(フェイシング管理)頻度の相克になる。

限られた陳列スペースに多数の品目を押し込めば品目毎の陳列量が少なくなって欠品が生じがちになるが、それを避けようと補充頻度を高めると人手が嵩んで人件費が経営を圧迫する。

コンビニでは購買頻度の低い化粧品や日用品などは週に一度か二度ぐらいだが、非生鮮の加工食品は日に一度、頻度が高い弁当や惣菜などは日に二度、三度、フェイシング管理して補充する必要がある。

販売効率が低い店舗では人件費を抑制すべく品目毎の陳列量を積んで補充頻度を抑えるから、売れ筋に絞った品揃えになり売上が伸び悩みがちだが、販売効率が高い店舗では人件費が嵩んでも補充頻度を高めるから、多数の品目を詰め込んで品揃えを充実させ、さらに売上が伸びる。コンビニ業界でセブン・イレブンとライバル他社の格差が縮まらない要因の一つと思われる。

行きつけの駅前コンビニは好立地店舗で販売効率もAクラスだから多頻度に補充する人件費負担力があり、立地柄なのかびっくりするほど優秀なバイトスタッフ(日韓印)も揃うから、売場を拡張した以上に品目数も増やして品揃えを充実させるべきだが、担当スーパーバイザーの手抜きなのかオーナーの熱意不足なのか、逆行した品揃えと棚割になっている。

真っ当なスキルで高密度な品揃えに転換すれば最低でも2割は日販を伸ばせるのに、もったいないことだと行く度に思う。

「先入れ先出し」と「前出し」

その駅前コンビニでも励行されているのが「先入れ先出し」で、同じ品目でも新たに入荷した商品は陳列棚の奥に入れ、以前から陳列されていた商品は棚の前部(通路面)に押し出す、というコンビニやスーパーのバイト君やパートさんなら誰でも知っているフェイシング管理の基本だ。

「後入れ前出し」と言ったほうがわかり易いと思うが、業界では「先入れ先出し」と言っている。

セブン・イレブンはスライド棚を導入しているから逐一、ひっくり返さなくても補充できるが、スライドしない棚だと手前の商品を一旦どけて新入荷商品を奥に押し込む必要があり、手間もかかるし今時は衛生上も問題がある。

補充が切れて棚が空けば少なくなった商品を「前出す」と言う作業も必要になるが、傾斜を付けた棚なら自然に前進してくれる。「先入れ先出し」と「前出し」を自動化するのが缶飲料などで普及している後方傾斜補充方式だが、後方スペースを要して売場が狭くなるためコンビニでは導入が進まず、大型スーパーの一部にとどまっている。

賞味期限管理のいたちごっこ

「先入れ先出し」を励行するのは「賞味期限切れ」を起こさないよう古い商品から先に売りたいからで、「先入れ先出し」を徹底しないとフェイシング管理のもう一つの重要目的である「賞味/消費期限切れ」商品のチェックと品引き(後方に引いて返品する)の作業がとんでもなく手間取ることになる。

加工食品には数カ月から数年の「賞味期限」、日配食品には5日以内の「消費期限」が生産段階で印字されており、期限切れの商品を販売しては始末書ものだからフェイシング管理時に点検が必須となる。

「先入れ先出し」が不徹底だと陳列商品全ての「賞味/消費期限」印字をチェックする必要が生じて途方もなく手間取るし、作業中は顧客の購入ピッキングを妨害してしまう。

コンビニの未来

加工食品は業界慣習の「三分の一ルール」によって賞味期限の三分の一を切ったらベンダーやメーカーに返品できるが、そのチェックと品引き作業も半端なく手間取る。

賞味期限管理の膨大な手間を考えれば、コンビニやスーパーにICタグが定着するのは時間の問題だろう(一括自動読み取りやレーダー探索で飛躍的に効率化できる)。

お客の側とてバイトやパートの経験があるなど業界の内情を知っている人は「先入れ先出し」などお見通しで、スライド棚を引き出したり棚の奥に手を突っ込んで新しい商品をピッキングしていくから、どこまで効果があるのか疑問に思わないでもない。

一部のコンビニで導入が始まった賞味/消費期限が迫った商品のポイント付与や値引きのほうが廃棄ロス削減には効果的ではないか。

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