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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『やっぱりアパレルはローカルなものだった!』 (2018年07月13日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

開店当時のH&M銀座店

開店当時のH&M銀座店

 フォーエバー21に続いてH&Mまで日本進出1号店を閉店する。フォーエバー21は2009年4月開店の原宿店を17年10月15日に閉店したが、H&Mも08年9月13日に開店してファッストファッションの震源地となった銀座店を7月16日で閉店する。 

 一時は日本市場で破竹の勢いだった外資アパレルチェーンが17年春以降、急速に勢いを失って店舗整理や撤退が続出。秋冬にはH&Mに続いてZARAまで失速し、18年春夏では両者とも既存店売上げが2桁減に落ち込んだと推計される。

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 それは中国に進出した日本のアパレルチェーンとて同様で、ハニーズは9月末をめどに全店舗を閉鎖すると発表。ストライプインターナショナルもアダストリアも中国市場では大苦戦で、店舗整理せざるを得ない状況だ。うまくいってるのはベーシックで万人受けするユニクロと生活雑貨中心の無印良品ぐらいで、多少なりともファッション性を訴求するレディスアパレルは総崩れの感がある。

エスニックマーケティングは小売りの常識

 日本市場での外資アパレルチェーンの失速も中国市場での日本アパレルチェーンの挫折も、背景は共通している。それは各国市場の時代の社会状況やライフスタイル、各民族に通底する衣装文化の多様性を軽視した一方通行の押し付けに限界があるからだ。

 人種が交錯する欧米ではネグロイドやモンゴロイドはもちろんコーカソイドもアングロサクソン、ラテン、アラブに分けてマーケティングし商品企画や品揃えを組まないと期待する売上げが得られない。カソリックやプロテスタント、イスラムなど宗教でも生活慣習や消費行動は大きく異なり、地域によって52週の品揃えも売上指数も少なからず左右される。そんな「エスニックマーケティング」が小売りの常識として定着している。

 それはモンゴロイド市場の中国や韓国とて同様で、すらっと背の高い華北系とぽちゃっと小柄な華南系、それぞれの対応が欠かせない。日本にも進出している韓国の人気アパレルEC「Dholic」など、全ての商品を両方のモデルに着せて着こなしやフィットの違いを見せている。

 華南系モンゴロイドが大半を占める日本市場においては、外国人対応を除けば人種的体型対応より地域の生活文化や時代のライフスタイルへの対応が問われる。関東圏を例にとれば、トラッドマインドが強い城南〜湘南市場と×××マインドの強い北関東〜東関東市場では衣料品の嗜好や着こなしは人種が違うのかと思うほど異なる(×××はご想像いただきたい)。関西圏の阪神間と阪南の違いも似たようなものかもしれない。

アパレルはもとよりローカルなものなのだ

 そんな現実を直視して外資アパレルチェーンがローカル対応をしているかというと、せいぜい企画のセレクトとサイズバランス、販売指数の擦り合わせぐらいだ。ジャパンフィットに対応しているのはギャップなどごく一部に限られるし、H&Mの安室奈美恵とのコラボ企画などイベント的な対応を除けば日本市場向け企画は例外的だ。中国に進出している日本のアパレルチェーンとて同様だが、ローカルスタッフに権限があれば華北系と華南系のバランスは考慮しているかもしれない。

 どちらもせいぜいその程度で、『欧米企画は日本市場でうける』『日本ブランドは中国市場で憧れられている』と思い込んで押し付けているのが現実だ。そんな殿様商売が続くわけもない。

 日本に定着して顧客が広がった欧米ブランドはローカル対応に徹して“日本ブランド”に変質しているケースが多い。かつてのカネボウの「ディオール」、インパクト21の「ラルフローレン」、三陽商会の「バーバリー」など、その最たるものだった。それゆえ本国のブランド政策と擦れ違って契約終了や本国による事業買収という結末となったが、ローカル化したからこそ大きなマーケットを獲得できたことは疑う余地もない。アパレルはもとよりローカルなものなのだ。

ローカルどころかテロワールなSMIが必要

 国内アパレルチェーンとて、地域特性に応じたローカル対応ができているとは言い難い。ほとんどのチェーンは本部が一律の品揃えを販売予算とPOSデータに応じてアレンジするCMIで、店舗側のローカルマーケティングが反映される度合いは限られる。故に湘南でも北関東でも大差ない品揃えをしてローカル顧客と擦れ違っているのが現実だ。

 華南系モンゴロイドばかりの日本市場にはローカル対応のエスニックマーケティングは不要だと決めつける認識は明らかに間違っている。地域ごとどころかストリートごとに客層が異なるのが現実で、セレクトショップなどテロワール(同じ村の中の畑違い、同じ街の中の通り違い)対応さえ求められる。一律なCMIを脱して店舗のローカル対応を引き出すSMIこそ、消化低迷で壁に当たったアパレルチェーンを活性化する早道ではないか。

※CMIはCentral Managed Inventoryの略で、本部が品揃えと在庫のコントロールを担う体制。SMIはStore Managed Inventoryの略で、店舗が部分的にせよ品揃えと在庫のコントロールを担う体制。

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