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商業界オンライン 小島健輔からの直言
『深刻化するブランド難民問題』 (2018年04月27日付)
小島健輔 (株)小島ファッションマーケティング代表取締役

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 インバウンドが盛り返して好調な銀座の百貨店は別格として、大半の都内店舗が水面の攻防に終始する中、東京駅大丸はなぜ安定して好調なのだろうか。そこに“ローカルインバウンド”というもう一つの潮流を見出すことができる。“ローカルインバウンド”とは、地方や郊外の百貨店の閉店やブランド撤退で買い場を失った“ブランド難民”たちの買い出し需要を指して使ってみた。

減り続ける百貨店と売場面積

 斜陽と言われながらも都心の百貨店はインバウンドや株価高騰など、その時々の棚ぼたに助けられて勢いを保っているが、地方店、郊外店の凋落は止まらず、閉店が相次いでいる。

 日本百貨店協会加盟店舗数のピークは1999年の311店舗だったが、相次ぐ閉店や破綻で2017年末には226店舗に減少。200店舗を割り込むのも時間の問題だと言われている。2010年以降に閉店した百貨店のうち都心店は10年8月閉店の阪急四条河原町店、10年12月閉店の西武有楽町店、11年5月に開業して15年4月に閉店したJR大阪三越伊勢丹だけで(18年6月末で閉店する名古屋栄の丸栄も一応、都心店)、他は地方店、郊外店ばかりだ。

 閉店まで行かなくても、自営では採算が取れなくなって家電量販店や大型衣料店などに賃貸して部分的に商業ビル化するケースも広がっている。百貨店商売では一般的な「売場貸し」(売上仕入れ契約のコンセッショナリー)と違って賃貸契約になると、日本百貨店協会統計の「売場面積」からは外れる。景気が暗転した08年末から17年末まで百貨店の総売場面積は83掛けに減少しているが、賃貸転用された売場も少なくないと推測される。

買取ブランドから消えていく

 売上げの低迷が続くと一番に採算が取れなくなるのは、百貨店商売では例外的な「買取仕入れ」のブランドだ。消化率が落ちると返品もできず残品が積み上がり、採算割れになって取引終了に追い込まれる。国内ブランドでは今時、極めて例外的な「買取仕入れ」もインポーター扱いの欧米ファクトリーブランドやデザイナーブランドでは主流で、2シーズンも販売不振が続けば売場からブランドが消えてしまう。

 外資ジャパン社が運営するような著名ブランドや大手アパレルのブランドは「売上仕入れ」のコンセだから、ブランド側が同ブランド店舗間で在庫を移動して消化できる間は踏ん張れるが、百貨店が買い取るブランドは「個店帳合い」ゆえ同じ百貨店の他店舗と在庫を融通できず、その店で売り切れなければ不振在庫になってしまう。セントラルバイイングで直買い付けする欧米のデパートチェーンは品番単位でエクスクルーシブ(「東部13州」など販売地域を規定して独占買取する)し、地域内店舗間で在庫を移動して消化するが、わが国百貨店は大手といえどもセントラルバイイングと多店舗間在庫移動消化(ディストリビューション)の体制がなく、店舗単位の「個店帳合い」に留まる。ゆえに新宿では一番店の伊勢丹でも大阪梅田では人気ブランドが手に入らず、JR大阪三越伊勢丹を短期で撤退する羽目になった。

 それは地方店や郊外店とて同様で、都心店の販売力でブランド商品を仕入れ、売れ残れば都心店に移動してでも消化するセントラルバイイング体制を欠くゆえ、人気ブランドがそろわず、個々の店舗で消化できないとブランドが売場から消えてしまうのだ。

「売上仕入れ」のコンセブランドとて、在庫を消化できなくなれば撤退せざるを得ない。日配商品で移動の効かない食品など、消化が滞ればチェーン店でも売場を維持できなくなる。鮮魚や生菓子のコンセが勢いを失えば、前者では焼き魚や干物、後者ではクッキーなど乾き物が増えてくるから撤退の近いことが推察される。

 支店体制で地域内移動消化を図る大手アパレルとて、地域の消費が衰退して消化を引き受ける有力百貨店が減れば下位店舗を支えきれなくなる。00年頃までは全国で自店消化ができる百貨店が百店以上あったとされるが、今や60店もないかも知れない。ゆえに販売不振の百貨店からは買取ブランドのみならずコンセの有力ブランドも次々に消えていくのだ。

ECシフトが閉店を加速する

 地方店や郊外店から撤退したブランドは置き去りにした顧客をカバーすべくECの拡大に走る。もとより百貨店の消化取引は手数料率(歩率)の高さに加えて派遣販売員の人件費もかさみ、売れなくなれば値引きロスも肥大して容易に赤字転落してしまう。その点、自社ECなら運営コストが格段に低く(人気ECモールの手数料率は有力百貨店と大差ない)、在庫も分散しないから値引きロスも圧縮できる。自社EC比率は先行する大手平均でもまだ過半に届かないが、売上げのシェアを守るには利益にこだわってはいられない。

 無店舗地域をカバーするのはもちろん収益性や在庫効率からもECシフトが進むのは必然で、大手から中小までアパレル各社はEC拡大に突っ走っている。大手アパレル4社(ワールド、オンワード、TSI、三陽商会)の直近決算の合計EC売上げは全売上げの10%を超え、ECに積極的な有力アパレル平均では13%台に乗ったと見られる。それでも20%に迫る米国、過半を超えたと見られる英国に比べればまだまだ拡大の余地は大きく、アパレル販売のECシフトは加速するばかりだ。

 ECの拡大が続けば地方店や郊外店の売上げがさらに減るのは必定で、ブランドの撤退や閉店が加速することになる。その分、ブランド難民が増えるわけで、それがまたEC依存を広げるという悪循環に陥っている。

彷徨うブランド難民

 地方ではライバル店の閉店で無くなったブランドの顧客が残存ライバル百貨店に流れるというチキンレースがしばしば見られる。旭川の丸井今井閉店で西武百貨店が息を吹き返し、その西武百貨店の閉店で丸井今井跡を再生したフィール旭川が潤うというブランド難民彷徨劇は笑えず、百貨店が皆無になった道北住民は札幌まで買い出しに行かざるを得ない。

 そんな彷徨劇はローカルだけと思ってはいけない。伊勢丹が閉店した松戸市民、西武が閉店したつくば市民や小田原市民は都内や横浜までブランド商品を買い出しに行く羽目になる。西武が閉店した船橋市民、三越が閉店した千葉市民とて、前者は東武船橋店、後者はそごう千葉店が残っているが、愛顧するブランドが無くなれば都内まで買い出しに行くしかない。16年9月のそごう柏店から18年3月の伊勢丹松戸店まで、わずか1年半で4店も閉店して7店あった千葉県内の百貨店が3店になったのだから、千葉県人まるごとブランド難民化しかねない。

 そんな千葉県民にとって最もアクセスしやすい、しかも自分たちが馴染みだったブランドがそろっているのは、やはり東京駅の大丸なのだろう。今春の西武船橋店と伊勢丹松戸店の閉店でさらに売上げを伸ばすのではないか。中京地区ではJR東海高島屋、京阪神地区では阪急梅田本店や高島屋大阪店がそんなブランド難民の受け皿になっていると推察される。

誰がブランド難民を救うのか

 一部の都心百貨店が受け皿を担うとしても、大多数のブランド難民を引き受けるのはECとならざるを得ない。とは言え、ECは既知の商品はカバーできても、全くの新商品を手に取って、あるいは試着して体感できるわけではない。そこをカバーするのがECのプラットフォームに載せてサンプルだけで販売するショールームストアだ。

 在庫を持たないから偏在による機会ロスや処分ロスもなく、スペースをゆったり取って接客できるから顧客にとっても快適で、買上げ率も客単価も高まる。ブランドの直営ショールームやECモールのショールーム、ローカルを定期巡回するポップアップストアまで、ブランド難民の受け皿を担うと期待される。地方や郊外の百貨店や商業施設とて、在庫に縛られて効率の低い在来型売場より顧客商売で売上げの取れるショールーム売場や週替わりで顧客を集めるポップアップストアの方が身入りがよく賑わいも期待できるのではないか。

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